〜Elysion〜   作:楽園

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青葉モカ:タピオカミルクティー

 

 

 

 いつからだろうか、目を開けているのにその先に未来が見えなくなってしまったのは。

 

 いつからだろうか、こんなに自分の弱さに憎しみを抱くようになったのは。

 

 この想いが、この恋が叶わないなんてことは最初から分かっていたことなのに、どうして今更こんなにも胸が苦しくなってしまうのだろうか。

 

 どうして今更……分かっていたはずなのに。

 

 どうして今更……こんなにも泣きたくなるんだろう。

 

 

「モカ、来てくれてありがと」 

「ううん。蘭おめでと〜。二人はとってもお似合いだよ〜」

 

 学生の頃に一度諦めた恋が、忘れかけていた淡い恋心がチクチクと棘のように刺さり鈍い痛みとなって私の身体を蝕んでいく。

 

 こんな想いを伝える資格も抱くこともわがままで身勝手だと分かってはいるけど、本当はどこにも行ってほしくなかった。

 

 あの夏、私と蘭とで一緒に飲んだタピオカミルクティーの味を思い出す。

 

 初めて飲んだ蘭は、美味しいけどコレって変な味ってあまり好んではいなかった。

 タピオカは単体だと無味で変な食感で私も好きじゃなかったけど、ミルクティーとか一緒に混ざり合うと新しい味、食感になるから好きだった。

 

 私一人だと何の取り柄もなくて価値がなくて、無味で変な私だけど、ほんのり甘くてどこか爽やかでカッコいい、ミルクティーの様な蘭と一緒ならお互いがお互いで居られる気がしたから。

 

 私はタピオカで蘭はミルクティー。

 

 そんな事を思いながら一人ひっそりとずっと過ごしてきた。

 いつかはこの気持ちを伝えたいと思っていたけど、それでも引き留めることができなかったのは、蘭が私に親友と言ったからだった。

 

 蘭からしてみれば、きっと私はただの幼馴染、あるいは親友だったりバンドメンバーって感覚なんだと思う。

 

 私自身も臆病だったし、この気持ちを伝える勇気もなかったし、それ以上に蘭の傍に居られるだけで幸せだと思えたから。

 

「ありがとね、モカ……! 今度はモカが女の幸せをつかむ番だよ」

「うん、任せてよ〜。来月には良い報告が出来るよう頑張るよ〜」

 

 なんて強がりを言ってみても、やっぱり諦めるなんてできない。

 

 だって、8年間の片思いだったから。

 

 高校二年生の頃に私はこの想いを自覚してから、諦めたくても諦めきれない日々を続けてきた。

 

 高三の冬に蘭と今の旦那が付き合いだしたっけ。彼は蘭のバイト先に新人として新しく入ってきた男の子だった。

 親しみ易さと、からかい易さで彼は蘭とすぐに仲良くなれていた。

 

 私、本当はあの時からいつも泣きそうだったんだよ。蘭は気づいてないと思うけどね。

 

 蘭が付き合いだしたときも、思わず強がって『よかったね、おめでとう』なんて無理して笑ったりもしてね。

 

 高校生の付き合いなんか秋の空模様みたいに目まぐるしく変わると思っていたし、きっとすぐにダメになるんだろうなって根拠のない逃避をしていた。

 

 それでも、本当はすごく辛くて苦しかった。

 

 もし、ふたりが付き合う前に私が蘭に好きだと伝えていたら、何か変わっていただろうか? 

 

 そんなことあるわけないって分かってるのに、たらればの話をしてしまうのはやっぱり私の心が弱い証拠だった。

 

 私と蘭は親友同士だし、なにがあっても付き合うことなんてなかっただろうな。

 

 あぁ、なんか……また泣きそうだな〜。

 蘭には幸せになってほしいのに……蘭のためなら自分の幸せなんて捨てられるのに。

 

 だけど、あれ? 胸に何かが突っかかったまま、楽にしてくれない。

 

「……モカ」

「ごめん、もうお祝いもしたし、私帰るね〜。蘭は旦那さんと幸せになってね〜」

 

  それを隠すように、無理に笑って外へ飛び出した。

 

 本当はまだ心のどこかで、結婚なんて取りやめにしてくれるんじゃないかとか、私の気持ちに気付いてくれるんじゃないかとか、あわよくばそれに応えてくれるんじゃないかとか、そんなことばかり期待している。

 

 ありえないことなのにな……私にとっての『恋心』は蘭にとっての『異常』だから……だから、諦めなくちゃいけない。

 

 どうか、このことを蘭は一生気づかないでいてほしい。

 

 私の気持ちなんて知らないまま、生きていてほしい。

 

 彼と……幸せになってほしいのに……あぁ、もう、まただ、涙が邪魔して、認めさせてくれない。

 

 蘭が結婚するなんて、今でも認めたくなかったんだよ。

 

 嘘だといってほしかったけど、どうして私を置いて蘭は……

 

 蘭のこと、愛してるんだよ。

 

 抱きしめたいけど、だけどできないんだよ……どう想ったってどう願ったって私達は、悲しいくらいに幼馴染の親友なんだから。

 

 大好きだったの、本当に。

 

 なんで蘭だったのかなんて、少し考えれば案外すぐに答えは出せた。

 

 蘭が私に向ける笑顔が眩しすぎたからで、孤独だった私の心に響くのは、蘭の言葉と笑顔だけだったから。

 

 ……それが私のたったひとつの、癒しだったから。

 

 ねぇ蘭、私は今でも蘭のことが好きだよ。

 

 その瞳に、私はどれだけ映っていられたかな? 蘭の記憶に、私はどれだけ残っているのかな。

 

 学生生活、蘭のそばに私はどれだけいられたのかな。

 

 分からない……もう、何もかも。

 

 分かりたくもない……そう、知りたくなかっただけなんだよ、結局はね。

 

「じゃあね、私が唯一好きになった人……」

 

 そう言いながら、河川敷で一人コンビニで買ったタピオカミルクティーを飲んでいた。これが最後だと決めて、この甘さが身に染みて苦しくなる。

 

 ミルクティーは飲み終わり、中にタピオカだけが取り残されてしまった。

 

 そして私はまた一人ぼっちになって、何の味もしない、一人じゃなんの役にもたたないタピオカに戻ってしまった。

 

 もう、蘭とは会うことはないと思うし、この先私に好きな人なんてできないと思う……蘭のような、ミルクティーのような甘くて爽やかでカッコいい人なんて……

 

 だけど、だけどね……

 

「蘭の幸せは、誰よりも願っているから……」

 

 伝えられないこの想いは……タピオカと共に……

 

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