勇気を出した人魚姫   作:フユキ 

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[x]にあらざれば、その心を知らず。

「たまには中庭でランチもいいね」

「少し寒かったな。悪い」

「全然。天気はいいからちょうどいいよ。それより成ちゃんが誘ってくるなんて珍しい」

 

 午前の授業が終わった昼休み。俺と小林は中庭で2人、ベンチに並んで座っていた。11月に入って少しずつ空気が冬に近づいている。昼間でも屋外では寒さを感じるようになり、日差しに当たっていても風が吹くと身を縮こまらせるようにしてしまう。

 

「それで、なんか話でもあるの? 内緒話にしては人が多いけど」

「ああいや、話したいことはあるけど別に内緒話ってわけじゃないんだ。むしろこれくらいのほうがちょうどいい」

 

 寒いとはいえ日当たりの良い中庭には昼飯を食べようとしている生徒がそれなりにいて、話し声でやや騒がしい。内緒話というわけではないので人がいることは気にならないが、あまり静かな場所でも嫌だったので昼休みの中庭に小林を誘った。小林は突然誘ったのに快くついてきてくれた。いい友人を持ったと思う。

 小林は「そっか」と返事をすると、購買で買ったパンを食べながらじっと俺が話すのを待ってくれていた。あまり待たせるわけにもいかないので、覚悟を決めて話を切り出すことにした。

 

「その、小林って将来の夢はあるか?」

「夢? ああ、この間進路調査あったから?」

「うん、まあそれもあって」

 

 それだけでもないのだが、それはまあ置いておこう。

 

「夢ねえ……正直別にちゃんとしたのはないかな。進路もまだ決めてないし、特別にこれやりたいってのはないよ。なに、成ちゃんはなんかやりたいこと出来たの?」

 

 俺の質問に苦笑しながら答えた小林は、そのまま逆に質問をしてきた。長い付き合いだからわかるのだろうか。俺の悩みをわかっているかのようにからかうような笑顔をしていた。

 

「出来たってほどじゃないんだけど……まあ、身近に目標に向かって頑張ってるやつがいたり、文化祭でやりたいこと全力で頑張ってる人たちのこと見てたりしたら、俺もそういうこと頑張ってもいいのかなって思ったというか」

「そっか。でも俺から見たら成ちゃんもVIP推薦目指して頑張ってると思うけど?」

「まあそれはそうなんだけどさ」

 

 まだおぼろげではあるけど俺が目指してみたいと思っている教師は、特別VIP推薦で行ける大学ではなることが出来ない。だから今の俺にとってそれを目指す努力は直接夢と結びついているわけではなくなってしまったので、夢のために頑張っているという気にはなれなかった。もっともうちの家計を考えると軽々しく特別VIP推薦を諦めるともいえない。そんな家庭の事情を小林に話すわけにもいかないので、曖昧に返事をしてごまかした。

 

「まあ、今の成ちゃんがどう思ってるのかわからないけど、一つだけ。自分だけで考え込むんじゃなくて家族とも話しあってみてもいいんじゃないかな」

 

 小林は見守るような笑顔でそう言うと、食べかけのパンを口にした。詳しい事情は何も言っていないけれど、小林はうちの経済状況もそれなりにわかっているだろうからもしかしたら俺の考えていることをなんとなく察しているのかもしれない。話しづらいことには踏み込まない小林のスタンスが、今の悩んでいる俺にはありがたかった。

 

「にしても成ちゃんはちゃんと将来のこと考えてるんだね。俺はそれと比べたら全然だよ」

「考えてるって言えるのかこれ」

「考えてるほうなんじゃないかなあ。例えば俺と比べたら考えてると思うし。まあ、俺も誰か好きな人が出来たらその人と穏やかに暮らせればとかほんと夢みたいなのはあるけど」

 

 小林は少し固くなった雰囲気を和ませるように冗談めかした口調で言った。好きな人と穏やかに暮らす。憧れないといえば嘘になる。だから、小林のセリフを聞いたときに思い浮かべた相手がひとりいた。

 周りを見渡すと、食べ終えて移動したのか最初の頃よりだいぶ人が減っていた。俺たちの座っているベンチの周りには人がいない。今なら誰にも聞かれない。

 ……せっかくだし、小林以外に相談できるような相手もいないし。勢いに任せて聞いてしまおうと腹を決めた。

 

「……そういえば小林って女子と付き合ったことあったよな」

「え? うん。まあ少しはあるけど」

「その、勉強に影響とか出なかったか?」

 

 特別VIP推薦を目指すにしろ目指さないにしろ、これだけは聞いておきたかった。決していきなり切り込みづらかったというだけではない。

 

「勉強? ごめん、中3のときには付き合ってなかったし、普段はそんなに真面目にやってなかったからちょっとわかんないや」

「そっか……それと話変わるんだけどさ」

「うん」

「……その、武元って男子から人気あるんだな」

 

 軽く深呼吸をひとつして、少し詰まりながらも口にした。武元のことを好きなんだと意識するようになってから、周りの男子が武元のことを噂する声に気づくようになった。曰くいつも笑顔で話しかけてくれる、表情豊かで見ていて楽しい、単純にかわいい、彼女にしたい等々。全て同意できるがいつの間に武元はこんな人気になったのかと気が気でなかった。

 俺のセリフを聞いた小林は呆気にとられたような顔をして瞬きを繰り返していた。小林の返事を待つあいだ、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。思えば特定の女子の名前を出してこんなことを聞くのは初めてだ。そこまで驚かせるようなことだっただろうかとか、小林はそう思っていないのだろうかとかそんなことを考えていると、小林は脱力したように肩を下ろしながら大きくため息をついて。

 

「……話変わってるそれ?」

「……」

 

 呆れた声で返事をした。一応遠回りに聞こうとしたつもりだったのだけど、この反応を見る限り全く意味がないどころかむしろ余計なことをしてしまった気がする。今更ながら恥ずかしくなってきた。体温が上がって嫌な汗が出てくる。

 

「顔真っ赤にしないでよ。こっちが恥ずかしい。まあでも今さら聞く?」

「今さら?」

「いやだって男女関係なくあの調子で話しかけるし、水泳で凄い成績残してるのに結構抜けたところあって隙が多いし、そもそも可愛いしでそりゃ人気あるよ」

 

 小林の言葉に今度はこっちが目を丸くして驚いた。俺が鈍いせいで気づいていなかったというのは仕方ないのだが、それより小林から見ても武元がそう見えるのだとは思わなかった。……もしかして、小林も武元が好きだったりするのだろうか。だとすれば悪い相談をしてしまった。

 

「そ、そうだったんだな。前から人気だったのか。き、気づかなかった」

「まあ成ちゃんにあえてそういう話振るやついないだろうけど、にしても鈍すぎ。あ、一応言っとくけど俺は別に武元が好きとかないからね? 友達としては好きだけど」

「う、そ、そうか」

 

 考えていたことを見透かされたようで恥ずかしい。動揺を隠せていない自分が悪いのだけど。そんな焦っている俺の様子を見て小林はクスクスと笑っている。見ている側として楽しいのはわかるが余計に顔が熱くなっていく。

 

「うん。中学の頃とかは一回くらい考えたことあるけど話してるうちに恋人って感じじゃないなって思ったし、あとはまあ色々」

 

 小林は綺麗な笑顔でそう言った。最後濁しているのが気になったけれど、この顔はそれを聞かれているのを待っている顔に見える。また余計な恥をかいてしまいそうでそれを掘り下げる気にはなれなかった。

 

「ちなみに武元のころが気になり始めた成ちゃんは、もう武元とデートしたの?」

「で、デートって!?」

「2人で遊びに行ったりとかさ。夏休みには行ってたみたいだけど、多分文化祭のジンクスのときに好きになったんでしょ? そのあとはどうなの?」

 

 小林はニヤニヤとした笑みを浮かべて、半分は好奇心から、もう半分は恋愛経験のない俺を心配するような様子で問いかける。からかっているようにしか見えない表情なのに、長年の付き合いのせいでこっちを気遣う様子まで察せてしまって、無下に突き放すのもはばかられた。これ以上話すのはだいぶ恥ずかしいのだけど、ここまでくれば全部同じだと半ばヤケになって正直に言うことにした。

 

「……してない」

「え? 誘ってないの?」

「何回か誘ったけど、部活が忙しいとか用事があるとかって言われて断られた」

「え、ほんとに!? 成ちゃんが直接誘って?」

「そうだよ」

 

 小林が驚いた顔で聞き返して来たので改めて肯定する。少し返事が刺々しくなってしまったが不可抗力だと思ってほしい。平静を装って言っているが、武元に断られたときは結構ショックだったのだ。今まで何度か2人で遊んだこともあったのに、文化祭以来急に断られるようになったのだから明らかにジンクスのせいだ。元々男女を意識しないでいたから遊んでくれていたんじゃないかと思わざるを得ない。まあ小林も驚いているから俺だけが勘違いしていたというわけじゃないと思うのでそこは救われた。

 武元に1回や2回断られたときはまた誘おうと立ち直れたが、3回断られてからはさすがに誘えなかった。また断られたらと思うとどうしても怖い。そもそも好きな相手がすでにいるのだから断られて当然なのは頭ではわかっているのだけど、それでいて学校や勉強会で普通に話す分には前とあまり変わらないから余計に怖かった。

 

「避けられてんのかなあ……」

「いや武元だし本当に行けないんだと思うけど……」

「でもこういうのってだいたい遠回しに断るために言うセリフじゃないか?」

「……まあ普通はそうだと思うけど、武元だから」

 

 腑に落ちないような顔をしながら小林が首を捻る。武元に対する信頼が厚い。俺から見ても武元は裏表ない性格だし、小林から見てもそうなのだろう。普段あんなに親しく話しているのに避けられているというのは小林からするとイマイチしっくり来ないのだと思う。武元には好きな人がいるというのはさすがに伝えていなかった。

 

「クラスじゃ全然変わった感じしなかったけど、勉強会だと違ったりするの?」

「うん? 勉強会っていうかクラスでもだけど、前より少し元気ない感じしないか?」

「え、そう? 成ちゃんと話してるとき?」

「いや、俺と話してないときもだと思うけど……」

 

 不思議そうに首を傾げる小林を見ていると、自分の気のせいだったんじゃないかと思えてくる。間違いないとは思うのだけど。

 

「まあでも成ちゃんと話してるときだけじゃないなら多分関係ないか。他になんか心当たりある?」

「……なんかっていうか、そもそも好きでもない相手とジンクスが成立しちゃったから勘違いさせないように断ってるんじゃないかと思ってるんだが……」

 

 いかん。自分で言って落ち込んできた。そうだろうとは思いつつあえて目を背けていたけれど、改めて向き合おうとすると想像以上にダメージが大きい。胸のあたりがズキズキと痛んで、視界はグラグラと揺れている。たまらず頭を手で抑えた。

 

「……いやあ、まあ、なんていうか……それはないよ。うん」

 

 小林には珍しく目を泳がせながら言い淀んで、けれど最後ははっきりと断言とした。俺の様子を見て励まそうとしてくれたのだと思う。持つべきものは友達だ。

 

「そ、それより成ちゃんが武元になんかしたとかないの? そっちが原因かもしれないし」

「…………まあ、一応そっちも心当たりはあるんだ」

「え、あるの!?」

 

 小林が今日一番の大声を上げた。形だけ聞いてはみたものの、本当に何かあったとは思わなかったのだろう。目を白黒させて俺のことを見ている。信頼されていた相手に言うのも気が重いけれど、ここまで言って黙っているわけにもいかない。小林が落ち着くのを待って説明をすることにした。

 

「文化祭のことは話したよな?」

「うん。大森が言ってたジンクスを武元としたんでしょ?」

「い、いやまあ、積極的にやろうとしたわけじゃないんだけどな? ……実はあのとき、花火が打ち上がる直前に一回俺から手を離したんだよ。そのときちょっと武元の様子が……」

「それでしょ」

「その後にジンクスのこと知ってるか聞かれて知ってるって言ったんだけど……」

「絶対それでしょ! ジンクスがあるの知ってて離したってことになるじゃん。武元はお前とは恋人になりたくないって言われたように思ってるんじゃないそれ」

「……だよなあ」

 

 小林の容赦ないツッコミにうなだれる。ジンクスが成立したこと自体が嫌だったのが大きいとは思うが、他人が見てこれが原因だというならこれも理由の一つなのだろう。確かに自分でも酷いことをしたとは思っていた。バカなことをしてしまったと今更ながら後悔する。頭を抱えて気を落とす俺に、小林が呆れつつも気遣うような声で続きを促した。

 

「まあ、それなら避けられてるっていうのもわかるよ。なんで離しちゃったの?」

「……そのときはまだ自覚なかったんだけど、多分ジンクスが成立して武元のこと意識するようになったら、今までどおり話せる自信がなかったからだと思う。そうなったら武元に勉強を教えられなくなるかもしれないし、自分が武元といる理由がなくなるとかそんな感じのこと考えてついとっさに……」

 

 自分と武元が中学の頃より親しくなれたのは武元に勉強を教えることを通してだ。それが出来なくなってしまえばまた距離が開いてしまうのではないかと無意識に思ったのだと思う。

 実際、文化祭のあとの勉強会では、なるべく意識しないようにはしているけれど武元に不意に体を寄せられたり見つめられたりすると挙動不審になってしまうことが多い。そのたびに武元に愛想笑いをさせてしまっていて我ながら情けなく感じている。

 

「そんなこと考えてたの?」

「あのときは一瞬だし考えてそうしたわけじゃないけど……。でも後で考えるときっとそうなんだろうって」

「なんていうか考えすぎじゃない? 成ちゃんと武元って別にそれだけじゃないでしょ」

「……まあ、今はわかってるよ。あのときは色々そう思わされるようなことがあって、余計に敏感になってたっていうか」

 

 尻すぼみに声が小さくなっていく。結局のところ自分に自信がないから逃げてしまったのだと今は思う。文化祭から時間が経っている今も武元に避けられてしまっているのは、俺のそういうところが変わっていないことも理由の一つなんじゃないだろうか。

 

「今さらあのときはごめんなんて言いづらいだろうし……なんていうか変なふうにこじれちゃってるね」

「なんかそのあたりのこと言えるタイミングがあればいいんだけどなあ」

 

 苦笑する小林に曖昧に笑って返事をした。決してそれだけではないと思うけど、小林は納得してくれているしこんなことで言い争っても意味がないだろう。原因の一つには違いないのだろうし。

 

「あとその、ちょっと話戻すんだけどいいか?」

「うん、なに?」

 

 答えの出ない問題は一旦置いておいて、武元のことが好きだとバレてしまったことだしもう一度相談してみたいことがあった。

 

「そもそもの話なんだけど、俺は勉強の才能があるわけじゃないから、武元と恋人になって……まあそもそもなれるかもわからないっていうか正直おこがましいんだろうけど」

 

 小林はああ言ってくれているけれど、武元には好きな相手がいるのだから、勘違いさせないようにしているほうが可能性は高いように思えた。困ったような顔をする小林に気づかないフリをして話を続ける。

 

「ともかく恋人が出来て成績が下がったら、きっと特別VIP推薦なんて目指せなくなるから。付き合えたとしても勉強優先になって武元に恋人らしいこと出来ないかもしれないし……だからどのくらい本気で付き合おうとしていいのかわからなくて」

 

 もし特別VIP推薦を目指さなくなるとしても、元々勉強が得意ではない俺が勉強を怠るわけにはいかない。頑張らなくても入試に合格出来るような才能は俺にはないのだ。そして勉強と恋愛の両立なんて器用な真似が自分にできるのかといえば、そんな自信はまったくなかった。

 

「……まあ俺は成ちゃんじゃないから無責任なことしか言えないけど」

 

 セリフとは裏腹に、突き放すのではなく穏やかな口調で小林が語りかける。じっと俺の目を見て苦笑しながら。

 

「とりあえず、俺なんかより成ちゃんのがずっと詳しいでしょ?」

 

 なんて、当たり前のことを言うかのような調子で答えた。冗談で言っているふうでもないので困惑する。

 

「詳しいって、俺は誰かと付き合ったことなんてないしわからないから聞いて……」

「1学期の中間の後から今まで武元と一緒に勉強してたけど、成績下がったりした?」

 

 なんのことかわからず聞き返す俺を遮るように小林が言葉を重ねた。

 勉強会を続けて来たことを思い出す。あれは武元にとってだけじゃなく、俺にとっても間違いなく必要だった。成績が上がっているのはもちろんだし、それ以上に家計のためにと特別VIP推薦以外の進路を考えていなかった俺が、自分のやりたいことなんてものを考えられるようになったのは、勉強会を通してだ。

 

「いや、下がったりなんかはしてない。むしろちゃんと上がってる」

「恋人になったらいきなり勉強の時間潰しても構ってほしいとか武元は言うかな?」

「……そんなことない、と思う」

「じゃあ大丈夫じゃないかな。俺なんかよりずっと武元と一緒にいる成ちゃんがそう思うんだから」

 

 やっと伝わったと言わんばかりに小林は優しげな笑顔を浮かべる。それを見て胸のつかえが取れたような気がした。誰かとではなく武元と恋人になるのなら、今までの武元とのことを振り返ればいいなんて当たり前のことを見落としていた。

 

「どこかの誰かじゃなくて、武元とどうなるかなら成ちゃんがきっと一番詳しいよ。関係が友達から恋人に変わったからって、急に付き合い方まで変わるわけじゃないんじゃない? 今までと全く一緒ってわけにはいかないだろうし、付き合ったら変わるタイプもいるとは思うけど、武元は成ちゃんの迷惑になるようなことしないと思うよ」

 

 「俺はだけどね」と付け加えるように小林は言った。安心感というか包容力というか、とにかくこいつに相談してよかったなと素直に思わされる。昔から一緒にいるけれどこんなにも懐が深い一面があったなんて知らなかった。

 

「ありがとう。少し気が軽くなったよ」

「よかった。もう大丈夫?」

「ああ。いくつも相談して悪かった」

 

 小林は無言のまま、気にしないでというように微笑んだ。聞き上手な男はモテるというけれど、小林はこういうところも魅力なんだろうなと思った。

 ただ、そんな小林にも言えないことが一つあった。武元に他に好きな人がいるとか、武元に自分がどう思われているかとか、武元と付き合えたらどうなるのかとか、そんなことより手前の問題。そもそも自分は武元にふさわしい人間なのかどうか。こっちのほうが大きな悩みだった。

 こんなこと、いくら小林相手でもさすがに情けなくて聞けない。自分が武元に釣り合っていないと思うなら釣り合うように努力すればいいだけだし、そんなことを相談されたほうも困るだろう。大きな悩みであっても、解決方法はもうわかっているのだ。相手が武元ではどれほどの努力が必要かわからないけれど、武元を付き合った後のことをイメージした今は、自分が武元の恋人なんだと胸を張れるようになりたいと以前より強く思う。

 そして同時に、他に好きな人がいる相手を振り向かせるのだから、せめて自分自身ではやるだけのことはやったと言えるようになるまで、今まで通り勉強会とかを続けていくくらいにしておこうと思った。中途半端な状態で武元を誘っても結果に繋がらないだろうし、そもそも武元に迷惑だろう。

 

「……なんか変なこと考えてない?」

 

 そんなことないぞ。俺がそう返事をすると、小林は無言のまま怪訝な顔をして応えた。

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