「うるかは冬休みどっか行くの?」
「んー今のとこ2人と初詣行くくらい。他はなんにも。あ、お正月はお婆ちゃんちには行くかな」
「じゃあ今年のうちに街のほう行くか。どこにする?」
年の瀬の近づく12月。迫る終業式と冬休みに心が逸る。年末年始は部活がないので目一杯遊ぶつもりだ。とりあえず大晦日の夜に海っちと川っちの2人と初詣に行くのは決まってる。夜中に出かけるなんて、オトナになった気がしてワクワクする。
「海原、ちょっといい?」
「小林くん。どうしたの?」
「いや冬休みの予定話してたからさ」
話が途切れたタイミングでこばやんが海っちに話しかけてきた。「冬休みっていうか終業式の日なんだけど」なんて前置きのように言って自然と話を続ける。
「学校終わったら男3人でカラオケ行く予定なんだけど、みんなも一緒に行かない?」
「男3人っていつもの3人?」
「うん。俺と成ちゃんと大森」
こばやんはそう言って成幸たちの方に目をやった。あたしもチラリと横目で成幸を見る。成幸はこちらを見ていなかった。大森っちと楽しそうに会話している。どうやらこばやんはあの2人には言わずにあたしたちを誘いに来たようだ。
「どうかな? 予定まだ入ってなかったら行かない?」
「そうだなー。入ってると言えば入ってるけど」
「まあでも唯我くん来るっていうなら」
そう言って3人があたしに目を向けた。3人とも同じような生暖かい目をしている。どういうつもりかは置いておいて、行くかどうかはあたしに決めろと言外に言っているのだろう。だから少しだけ考えるフリをして、最初から言おうと決めていたセリフを口にした。
「ごめん、こばやん。その日あたしたち水泳部のほうで約束があるんだ」
こばやんの誘いをごめんというジェスチャーをしながら断る。海っち川っちの2人は目を丸くして驚いている。こばやんは一瞬だけ目を見開いて、けれど断られるのを予想していたかのように、すぐに元の表情に戻ると「わかった」と言って成幸たちの方へ戻っていった。
一瞬だけとはいってもこばやんが驚いたような顔をしていたのが気になる。中学からの付き合いだから断られると思っていなかったのか、それとも成幸が来るのに断ると思っていなかったのか。まさかあたしが成幸のことを好きだっていうことを気づいているのだろうか。言ってないし、隠してるし。そんなはずはないと思うけど。
「唯我くんたちのほう行かなくて良かったのうるか?」
「良かったも何も、前から水泳部のほうでクリスマス集まる予定入ってたじゃん」
「まああるけどさ。予定っていっても参加自由じゃん? 実際行かない人も結構いるし」
「んーでも一回行くって言っちゃったし、いきなり3人抜けるのもちょっとどうなんかなって。あ、でも2人が行きたかったんだったらごめん。勝手に断っちった」
「別にそういうわけじゃないけど……うるかこそ最近元気ないこと多いし、唯我くんと遊べば元気でるんじゃない?」
気を取り直した2人があたしのことを問いただす。水泳部で集まるのは本当だけどそんなのはタテマエだ。2人もそうだとわかっているみたいで全然納得していない。してもらえるという期待もあまりしていなかったけれど、それでも思った以上に不審の目で見られている。嘘は苦手な方じゃないと思うのだけどさすがにこの2人には通じないようだ。文化祭の後、たまに落ち込んでいたのも気付かれないようにしていたつもりだったのに気づかれてしまっていた。些細な違いにも気づいてくれていた嬉しさと、心配をかけてしまっていたという申し訳なさを同時に感じる。
「ていうかさ。二学期始めの文化祭のときから全然進展なくない?」
「そ、そうかな。ちゃんと勉強会は続けてるし、お弁当も作ってるし」
「そうだけどさー。2人で遊びに行ったりとかさ。国体終わったら行くと思ってたのに、確か行ってなかったよね?」
「まあ最悪唯我から誘わないのが悪いにしても、今の断っちゃダメだろ」
成幸が好きだということを知られていて、今までやってきたことも悩みもよく相談している2人。軽い口調だけど表情は真剣そのものだった。だから今日のことはきっかけだっただけで、ずっと気にかけていてくれていたんだと気づいた。ちゃんと心配してくれているのに隠し続けるのも良心が痛む。
「……じゃあ帰りにファミレス寄ろ。ここじゃちょっと言いづらいしそこで言うから」
行かないことはもう決めているけど、行かない理由も打ち明けようと思い直して声を潜めてそう告げる。言いながらまた成幸の方へ視線を向ける。ここで話して万が一成幸に聞かれたらと思うと怖かった。2人はあたしの目線でそれを察してくれたのか、今度はわかったとうなずいてくれた。
◆◆◆
「えーっと……川っちさっきガッコーで成幸が誘わないのが悪いって言ってたけど、実は文化祭の後、成幸には何回か遊びに行かないかって誘われてんだよね。……全部それとなく理由つけて断ってるんだけど」
「は? なんで?」
通学路から少し離れたファミレスでドリンクバーのジュースを飲みながら、開口一番さっきのことを訂正すると強めの口調で詰問された。気持ちはわかるけどちょっと手加減してほしい。
「ま、まあそのいくつか理由あって……とりあえず1つ目なんだけど成幸悩んでるっぽいんだよね」
「そうなの? なんか相談されたとか?」
「ううん。そういうわけじゃないけど勉強会のときの様子とか見てるとそうなんかなって」
文化祭の後も成幸との図書室での勉強会は変わらず続けている。あたしが部活の後に図書室に行くと、成幸が教師になる方法とか教師の仕事とはみたいな本を読んでいるのを見かけることが何度かあった。文化祭が終わるまではなかったことだ。
もしかしたらあたしが成幸に教える才能があるんじゃないかと言ったことが影響しているのかもしれない。成幸が先生になることを真剣に考えてくれて嬉しいけれど、あたしの気軽に言った言葉のせいで悩ませてしまっているのだと思うと罪悪感もある。
「まああたしのソーゾーだし、何で悩んでると思うとか言えるわけじゃないんだけどさ」
「うん。別に私らもそこまでは聞かないから」
「聞きたいのそこじゃないしね。でも悩んでるのってうるかが誘い断るのとなんか関係あるの?」
「あたしに時間使って欲しくないっていうか」
「でも誘ってんの唯我くんなんでしょ?」
「それはまあそうなんだけど」
あたしのせいで悩ませてしまっているのに、それ以上の時間をあたしに使わせるのは悪いというのが理由の一つだ。詳しく言えないからあたしのせいだからなんて言えないし、そもそももう一つの理由に比べればずっと軽い。だからあんまり深堀りはせず、次の理由に話題を変えた。
「……まあ、そんで2つ目の理由があるんだけどさ……その、自分で言うのもなんなんだけど、中学から比べたら、あたしケッコー成幸に意識してもらおうって頑張ってたと思うんだよね。中学のときなんて――」
ストロー音を立ててジュースを飲み込みながら愚痴を吐き出す。一度言ってしまえば後はスルスルと言葉が出て来た。海っちと川っちの2人も最初は真剣に聞いてくれていたけど、時間が経つに連れ若干呆れたような顔になってきている気がする。でも聞いたのはそっちなんだから付き合ってほしい。
「――みたいな感じだったし。だから高校では2人で勉強会して欲しいって頼んだり、成幸にお弁当作ったり、夏休みも2人で会えるように約束したし、文化祭でも一緒に回ったりして思いつくことはやったつもりなんだけどさ」
高校に入ってからの日々を振り返る。我ながらよくやったと思う。成幸の優しさに甘えていることも多いけど、中学校の3年間と比べれば雲泥の差だ。たったの1年だけど中学の3年間よりよっぽど成幸の近くにいたはずだ。成幸の家族を除けば自分が一番成幸のそばにいたと胸を張って言える。
「これだけやったんだから少しは成幸が意識してくれるかなって期待してたんだけど……文化祭のジンクスの花火が上がったとき、手をつないでた成幸から謝られちゃって」
「謝る?」
「好きなやつがいるのに、俺がジンクスの相手になってごめんって」
「それは……」
「しまった、みたいな顔してたんだよね。成幸」
このときの呼吸することすら嫌になるような悲しさと、ああやっぱりという諦めのような気持ちは、今でもはっきりと思い出せる。
花火が上がる直前に一度は手を離されたけど、めげずに押されたフリをして成幸に寄りかかって、なんとか花火が上がった瞬間に成幸と触れ合っていることができた。そうして成幸と手をつなぎながら、花火のジンクスが成立した勢いで好きな人の一番になりたいなんていう夢を伝えて。自分ではほとんど告白するくらいのつもりで勇気を出していた。それなのに。
「自分では色々頑張ってたつもりなんだけど、成幸には他に好きな相手がいるって思われるくらい全然意識されてなかったのかなって思うと怖くなっちって……。だから成幸に誘われてもまたぬか喜びになっちゃうかもしれないから行く気になれないっていうか」
「でも向こうから誘われてるんでしょ? ぬか喜びってことないんじゃない?」
「……誘うって言っても色々あるじゃん?」
「まあ色々あるかもしれないけど、でもジンクスの相手になってごめんって言ってるんだから、そのままのつもりなら余計に誤解される2人で遊びになんて誘わないって。そうじゃなくって、唯我くんがジンクスでうるかのこと意識し始めたから誘ってるんだと思うよ?」
「ああ。絶対そっちだと思うけど」
「……どっちかわかんないから」
「どっちか?」
「成幸が、その、ジンクスであたしのこと意識してくれて、それで誘ってくれてるんならめっちゃ嬉しいけどさ」
そこで言葉を区切る。喉がその先の言葉を発するのを拒むようにすぼまって、キュッと締まるような痛みを感じた。続きの言葉を言うのを躊躇って視線を落とす。言葉にしてしまうと、あたしにとって最悪の想像が本当にありえるんじゃないかと突きつけられるようで怖い。
伏せた顔に視線を感じる。深呼吸をして顔を上げた。2人は真剣に、気遣うような顔であたしのことを見てくれていた。きっとここでやっぱりなしって言ったら何事もなかったかのように接してくれるんだと思う。だからこそこの2人には、ちゃんと今のあたしの気持ちを話しておきたいと思った。
「……もし、もしなんだけど、成幸が誘ってくれてるのが友達のあたしが落ち込んでるから元気づけようとして、だったりしたらって思うとさ。あそこまでやったのに全然意識してくれてないかもって思うと踏み出せないっていうか……。さっき海っちは2人で遊んだら余計にゴカイされるからないって言ってたけどそれまでは2人で遊ぶことあったし、ジンクス関係なくフツーに遊ぶだけなら問題ないって思ってるかも……」
遊びに誘うといっても理由はイロイロ考えられる。あたしのことが気になってそれで誘ってくれるとか。花火のときに傷つけてしまったからお詫びで誘ってくれてるとか。……それに、落ち込んでしまった友人を励ますために誘ってくれてるとか。
文化祭の後、自分でも以前より元気でいられてないなと思うことがある。この2人には気づかれてしまっていたし、もしかしたら成幸も気づいてくれているのかもしれない。でもきっと成幸は、成幸があたしの手を離したからじゃなくて、成幸がジンクスの相手になったから落ち込んでると思っている。
手を離して傷つけてしまったから、お詫びの意味で誘ってくれているのならまだマシだ。それはあたしが成幸を意識している可能性があるのだと成幸が思ってくれているということだから。でももし可能性ですらそんなことを思っていなくて、単に成幸がジンクスの相手になって落ち込んでいるあたしを励ますために誘っているなら。成幸が意識してくれないだけじゃなくて、あたしが成幸を好きだという発想すらもないのなら。中学から高校まで、決して上手じゃなかったし空回りもしていたけれど、それでも必死に振り向かせようと頑張ってきたことが、なんの意味もなかったと突きつけられてしまうようで怖かった。
「あー……いや、うん。すまん。ないとは言えない」
「た、多分違うと思うよ? でも、まあ、唯我くんそういうことするかしないかって言ったらするよね……。や、それが悪いとかそういうんじゃないんだけど」
「大丈夫。あたしもよくわかってるから」
成幸は凄く優しい。優しいから、そういう理由で誘っている可能性がないなんて言い切れない。本当にそうだったらなんて考えたくもないことが頭から離れなくて、どうしても確かめることができなかった。
なんて言えばいいのかわからないのか2人は黙ってしまった。結局のところあたしに勇気がないのが悪いのだ。成幸に聞いてしまえばそれでおしまい。結果がどうなるかわからないけど、こんなビクビクとした気持ちでいるのは終わらせられる。だけど成幸と友達でもいられなくなってしまうかもしれないと思うとどうしても一歩踏み出せない。2人もあたしのそういうところを知っているから、なんと言えばいいのか迷っているんだと思う。
「でもさ。今のままでいいのか?」
「……うん。今の関係でいられるだけでも幸せだし」
「誰かが唯我のこと好きになって、そいつと唯我が付き合ったりしても?」
「そ、それは……」
成幸があたし以外の誰かと付き合う。考えないようにしていたけれど、あたしと成幸が今のままの関係でいるならそういうことも当然ありえる。
成幸に拒絶されるのと、成幸と誰かが付き合うのを成幸の近くで見ていること。どっちが辛いかなんて想像できない。考えただけでも怖くなる。
「……嫌。嫌だけどさ」
胸に溜まったモヤモヤとした感情を吐き出すように呟く。成幸があたし以外の誰かと付き合って、デートして、キスをして。そんなこと想像するのだって嫌だ。
「成幸のこと、今だってどうしようもないくらい好きなの」
中学校のときからずっと、何年間も抱えている恋心。ゲンメツすることなんて一度もなくて、ずっとずっと膨らみ続けている。破裂してしまわないように今は必死で抑えているけれど。
「だってさ。自分の勉強だって絶対大変なはずなのに、勉強教えてって頼んだら週2回も放課後の時間使って教えてくれてるんだよ。いっくら友達っていってもさ。半年以上ずっととか。夏休みの間だってやってくれてるし意味わかんなくない? それに手作りのノートまで作ってくれてそれがめちゃくちゃわかりやすいし。作るのにどれくらいかかるのかわかんないくらい丁寧なやつ。なんなのなんでそんなにあたしに一生懸命になってくれるの? こんなにしてくれるんだからあたしのこと好きなんだって期待しちゃうじゃん悪いそれ!? なのにジンクスのとき謝るってそんなんある!? そうなりたくない相手とあんなとこ行くわけ無いじゃん!! ……別にはしゃいでほしいとか言わないけどさ。照れ笑いするとかいくらでもあるじゃん。なのにごめんって」
そうだ。あたしは成幸に喜んでほしかった。後夜祭の最初の花火が上がるときに触れ合っていた男女は結ばれる。単なるジンクスだけどそういう未来を想像して、あたしと一緒に喜んでほしかった。わかりやすく喜んでくれなかったとしても、恥ずかしそうに照れ笑いする成幸が見られたらそれだけでも満足だった。だからジンクスが成立したから謝るなんて、それだけはしてほしくなかった。だってあたしとそうなりたいと思っているなら謝ることなんてないはずだから。
「今以上に成幸と深い関係になってったら絶対わけわかんなくなるくらい好きになっちゃうし、そしたら絶対我慢できなくって告白しちゃう。……うまく行けばいいけどさ。もし失敗したら今みたいな関係に戻れなくなっちゃうじゃん。今だって信じられないくらい幸せなのに、それが無くなっちゃったらって思うとどうしようもないくらい怖くて……だから自分のキモチが暴走しないようにふたりっきりで遊ぶのはやめてんの」
最後まで言い終わって、渇いた喉をぬるくなったジュースで潤した。これで全部吐き出した。これから成幸とどうなりたいかなんて全然考えられてないけれど、今の自分の気持ちはこうだ。成幸のことがどうしようもなく大好きで、だからこそ成幸とこれ以上仲良くなるのは怖かった。
「はぁ……。まあうるかの気持ちもわかるけどさ。もう唯我くんがお前が好きだーって言うまで何もしない気なの?」
心配と呆れと気遣いが入り混じったような顔で海っちが尋ねる。一瞬ムッとしたけど、あたしの言ったことをヨーヤクするとそうなるわけで確かにそう言われても仕方がない。ただまああたしも何もしないというつもりではないのだ。
「別に何もしないってことないってば。勉強会とかお弁当作るのとかは続けてるし、バレンタインにはチョコも渡すし」
特に勉強会では、文化祭より前からだけど、成幸に近づいたり目を見つめたりするようにするくらいのことは意識してやっていた。最近はジンクスの影響なのか、慌てたように体を離したり目を逸らされたりすることが増えていて、そのたびに単なるグーゼンだと笑ってごまかしているけれど。
「そこは渡すんだ?」
「義理って言えばなんとかなるっしょ」
「……なんとかなるも何も、今まで直接渡せたことないくせに渡せるの?」
「そ、それは次こそちゃんとするから!」
本当に渡せるのかと疑いの目で見てくる2人。確かに中学までは直接渡せなくて机に入れただけだったけど、高校生になったのだから今年こそちゃんと渡せるはずだ。というかそれすらできないなら、本当に今までの関係から変われない。
「まあバレンタインは置いといてもさ。とりあえず唯我くんに聞いてみるのはいいんじゃない?」
「聞いてみる?」
「うん。なんで手を離したのかって」
「そ、そんなん聞けるわけないっしょ!?」
これは名案、みたいなノリで言ってくる。確かにあたしを誘い始めた理由を聞くわけじゃないけど、だからってなんでジンクスを成立させないようにしたのかなんて聞くのは告白とほとんど同じようなものだと思う。
「じれったいな。じゃあ冗談っぽく聞くとか」
「冗談?」
「なんかいい感じの雰囲気になったときに、文化祭の花火のときに手を離したしこういうことしたくないでしょー、みたいな感じで言ってみるとかさ」
「……それ成幸に、アハハとかって流されたとき死にたくなりそうなんだけど」
その場面を想像すると胸が苦しくなった。笑ってごまかすなんていうのは、要するにあたしとジンクスを成立させたくなかったということだ。もしもそんな反応をされたらなんて思うとゾクリと背筋が寒くなる。
「でも冗談で流せるから気まずくはならないだろ?」
真面目な顔で川っちが言う。確かに聞いたそのときは苦しくなるけれど、冗談で終われば成幸との関係が変わってしまうわけではない。もしもあたしと恋人になりたくない以外の理由が聞ければ儲けもの。話の流れ次第では文化祭の後にあたしを何度も誘った理由だって自然な流れで聞けるかもしれない。
「……ちょっち考えとく」
考えるほど凄くいい案のように思える。持つべきものは友達だ。水分を補給しようと無意識にグラスを持ってストローを吸うとズズズという音がした。どうやらいつの間にか中身がなくなっていたらしい。
海っちと川っちの2人はあたしを見て呆れたように笑っている。あの一言で周りが見えなくなるくらい考え込んでしまったのは事実だけど、だからって笑わなくてもいいと思う。あたしはそれだけ悩んでいるのだ。
「もー! ドリンクバー取ってくる!」
恥ずかしさをごまかすようにグラスを持って立ち上がって、来る前よりずっと軽くなった足取りでドリンクバーへ向かう。
グラスにジュースを注ぎながら、単に成幸と遊びに行かない理由を話そうとしただけだったのに、2人のおかげでこんなにも気持ちが楽になったんだと気づいた。やるべきことができただけでも全然違う。愚痴をこぼしただけなのに親身になってくれて、迷惑ばっかりかけてるなあと改めて思う。
ジュースを注ぎ終わったグラスを持って席に戻る。笑われたばかりでちゃんとは言いづらかったので、目を合わせないようにしながら「色々ありがと」と呟くと、2人は優しげな微笑みを浮かべた。