僕はクリスタ・レンズという人間をあんまり知らない。出会ってから一年近くしか経っていないのだから全てを知っているわけがない。僕が知っているのはいつも笑顔を浮かべている事と、同姓、異性問わずに人気者であることぐらいだ。その程度のことしか、僕はクリスタ・レンズのことを知らない。
僕はヒストリア・レイスという人間のことを知っている。僕が彼女と出会ったのは僕がまだ幼い頃。あの頃の僕は今の僕と違ってとても活発的な人間だったから…色々なところを回っていた。彼女と出会ったのは僕がそんな風に色々なところを回っている時に…ウォール・シーナ北部のある牧場で彼女に出会った。あの頃の僕は知らなかったけどあの牧場は貴族のレイス卿の土地だったらしい。最初に出会った時に思ったことはとても綺麗な金髪をした少女だと思った。
経った一か月ぐらいだったが…彼女とは同じ時間を刻んだ。最初の頃はあんまり笑顔を浮かべていなかった彼女が一週間後には少しずつ笑顔を浮かべてくれるようになってくれていた。そのことは今でも忘れる事が出来ない。
クリスタ・レンズという女性に会った瞬間に彼女がヒストリア・レイスであることは分かった。僕が知っている頃から比べると成長しているが見間違うはずがない。名前を変えているということは何かそうしなくてはならない理由があったのだろうと思い、聞く事をしなかった。人の家の事情に踏み込むのは感心出来ないからね。
昔の彼女に比べると随分と笑顔が安っぽくなったものだと思ったりもしたが口に出す事はしない。彼女の人生に口を出す権利は僕にはない。
クリスタ…基、ヒストリアが僕と幼い事に会っていることを憶えているかは分からないが……彼女がヒストリアである時のことを忘れたいという意味でクリスタという名前を名乗っているのだとしたら忘れているだろう。
最初はあんまり彼女と関わる気はなかったが…彼女の方から来るようになってしまい、嫌でも一緒にいる機会が増えてしまった。
ボクは自ら彼女に昔のことを言う気はない。彼女がどうあれ昔のことを持ち出すようなことはしたくない。本人から問われた時は答えるけどね。
いつか『ヒストリア・レイス』として彼女と話せる日が来ることを心の底から願っている。
----五話の続き----
食事を食べ終えた僕は自分の部屋に戻ろうと歩いていると後ろから急に服を掴まれた。何だと思って後ろを振り返るとそこにはさっきまで僕の目の前で食事を取っていた金髪の少女こと…クリスタ・レンズがいた。
「どうした?クリスタ」
「一緒に話さない?」
いつもの僕なら絶対にクリスタからの誘いは断っているけど今日は…
「良いよ」
「ヘルマンは私に冷たく……って良いの!!???」
クリスタは断られるのを想像していたのか……僕の返答を聞いて驚いている。
「うん。良いよ」
「やった!!」
その後、僕たちは外に出て話す事にした。
「それで何か僕に話があるの?」
僕は草むらに腰を下ろして隣に腰を下ろしているクリスタに問いかけた。
「…特別なにか話があるんじゃないよ。私はヘルマンの側で話がしたいだけだよ」
誰もがクリスタと二人きりでこんな風な状況に陥ることを望んでいるのだろう。こんなところを誰かに見られたら明日は問い詰められるのは避けられない。
「それを他の奴に言ってあげれば嬉しがるんじゃないのかな」
「女心が分かってないな。私はヘルマンと一緒が良いの!」
クリスタが僕を押し倒そうかという勢いで迫って来た。普通こういうことは男性の方がするものなんじゃないかと思ってしまう。
「…分かったから…離れてくれないかな」
「仕方ないな」
納得言っていなさそうな顔をしながらクリスタは隣に戻って行った。ひとまず、離れてくれないと普通に話も出来なそうだから離れてもらわないと。
「こんな機会でも無ければ聞けないだろうから一つ聞いても良いかい?」
「良いよ!!ヘルマンが私に質問をしてくれるなんて普段はないしね!」
「…クリスタは今の自分のことをどう思っているんだい?」
「それはどういう?」
「クリスタが自分のことをどう思っているのかを聞きたいんだ」
「…私は心のどこかで他人に必要されることを願っている。他人のためだったら死を選ぶことも出来ると思う。誰かに必要とされたいという気持ちが強すぎるために私はこうなってしまったのかな」
人間は誰かに依存しなければ生きていけない.。人は一人では生きていけないというのは誰もが知っていること。
「誰かに必要にされたいという気持ちは誰もが心の奥底にある。だからクリスタが思っている事も決して一般的な考えから逸脱しているわけではないと思うよ。まあ、簡単に言うと君は普通ということだよ。只の綺麗な金髪をした女性というだけだよ」
「……綺麗な金髪をした女性…綺麗な金髪をした女性……綺麗な金髪をした女性」
何故か、クリスタは一部分だけを繰り返し言っている。呪いの書を読んでいるるみたいだ。
「初めて…ヘルマンが私のことを褒めてくれた」
まあ、褒めたことは無かった…だけど、それはクリスタだけじゃない。同期の奴を褒める機会なんて普通はないだろう。クリスタにとって予想以上に嬉しかったのか……暫く声を掛けても返事が返ってこなかった。
その後…三十分近く二人で一緒に話したりしてから宿舎に戻った。
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