やはり俺がデビルハンターなのはまちがっている。   作:推し鋸

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妹キャラ大好き!



第1話 小町・ゾンビ・チェンソー

 妹の小町が熱心に漫画を読んでいる。それを横目に見ながら俺は朝のブラックコーヒーを飲んでいた。

 漫画のタイトルは『チェンソーマン』だった。

 たしか最近話題のジャンプ漫画だったか。

 おいマジかよ集英社大丈夫かよ。一瞬見えたページでは内臓がでろでろと飛び出している。しかも妹は熱心にページめくっちゃってるし。グロ耐性高めでしたっけ。

 しばらくして小町は「ほぅ」と満足げに息を吐いてページを閉じた。どうやら読み終えたらしい。

 

「あ、お兄ちゃん。おはよ!」

「……今気づいたのかよ。おはよう」

 

 よほど集中していたのだろう。

 

「そんな面白いのか、それ」

「もう……最高っ! お兄ちゃんも読めばいいのに」

「興味はあるんだけどな。グロがちょっと」

「そっかー。もったいないねー」

 

 MOTTAINAI! と、どこかの政治家のように嘆く。そんなにおススメなのか。

 

「お兄ちゃんと感想言い合いたかったのにな。――あ、今の小町的にポイント高い!」

「はいはい。兄と推しの漫画を語りたがる妹可愛い可愛い」

 

 朝からハイテンションな妹は適当にあしらうに限る。

 

「もう! お兄ちゃん、そんな態度だと雪乃さんに嫌われちゃうよ」

「なんで、あいつが出てくんだ……」

 

 たしかに出会った頃の雪ノ下だったら「自分の腐った目を棚に上げて何を言っているのかしら。そんな脆弱な精神では毎朝鏡を見ることも叶わなそうね」とか言ってきそうだ。

 なんて勝手に想像して勝手にへこむ。想像の中でもダメ―ジを与えてくるなんて、雪ノ下さんったら恐ろしい子。

 

「女の子がテンション上がってるときには、いっしょに盛り上がらないと滅っ、だよ!」

「……わかったよ。チェンーマン最高! チェンソーマン最高!」

「あれ、ちょっと知ってるじゃん」

「ああ。お前があんまり言うから、ラインスタンプ買って毎日人気投票もしてる」

「外堀だけが埋まってる⁉」

 顔だけの印象で投票するのも悪くない。人の印象は見た目が八割っていうしな。ちなみに推しは銃の悪魔だ。あのデザイン、くやしいけど男心がくすぐられちゃう。

 

「まったく……ごみいちゃんは捻くれてるんだから」

「まあアニメ化したら観るわ」

 

 アニメなら色々規制されるだろうしな。……されるよね? お色気シーンならいいが、グロシーンにも一切モザイク無しは止めてほしい。MAPPAなのはスタジオ名だけ十分だ。

 俺はコーヒーを飲み干して出かける準備を始める。

 

「ありゃ? お兄ちゃん出かけるの?」

「ああ。今日もバイトだ」

 

 えっ、と小町は大げさに驚いてみせる。

 

「あの、お兄ちゃんが……バイト、ですって」

「俺だって必要があれば働くさ」

 

 ふっと格好つけてみせる。世界は誰かの仕事でできているってコーヒーのCMでも言ってたしな。たまには世界を構成する一部になるのも悪くない。そして、やがては世界全てを支配するのだ。全世界ハチマン化計画。……一瞬でとん挫しそう。

 

「あっ、そっか。もうすぐ雪乃さんの誕生日だもんね」

「ぐっ……」

 

 一瞬で看破されていた。まったくこれだから……。勘のいい妹は嫌いだよ。

 

「ま、まあ世話になってるしな。今のうちに投資しておいてあとから倍にして回収するのも悪くないだろ。なにかが巡り巡って俺の専業主夫になる夢につながるかもしれん」

「それって、雪乃さんの好感度稼いで結婚するってこと?」

「バーロ。誰がそんなこと言うか」

 

 なぜか小学生探偵みたいになってしまった。しかし、あの作品は作中時間がぜんぜん進まないな。もう小学生の体が普通に高校生になるくらいは時間たってるだろあれ。町全体が精神と時の部屋なのだろうか。それならあのねーちゃんの強さも納得できる。髪もツンと立ってるしな。あとは金髪にしたら完璧。

 

「もうテンパっちゃって。お兄ちゃんわかりやす過ぎ」

 

 あのお兄ちゃんが変わったねえと優しいおばあちゃんのような慈愛のこもった目で見てくる。ひとがプレゼントのためにバイトしてるというだけで、目で愛でるてくるな。まったくおめでたくないぞ。愛でるなら俺は戸塚を愛でたい。もはやメーデー。毎日が戸塚記念日でもいいまである。

 

「誕生日当日は陽乃さんの手配したクルーズでパーティだっけ」

「……ああ、そう言ってたな」

 

 あの人はあの人で気合入り過ぎである。関係性が改善されてから初めての誕生日とはいえ……。妹のこと好きすぎだろ。

 

「楽しみだなー。船上パーティなんて、小町はじめてだよ!」

「俺もだ」

 

 というか普通に生きていたら体験する機会ないだろう。船上パーティーについて持っている知識なんて映画のタイタニックくらいだ。あれ、それじゃあ最後には沈没しちゃうじゃん。泳ぎの練習をしておいた方がいいかもしれない。

 なんてな。あの人の計画だ。完璧過ぎるくらいに完璧に決まっている。

 俺も祝いの片すみの、ほんの一部くらいにはなれるように、精々労働に励むとしますかね。

 

「じゃあ、行ってくる」

「はーい。行ってらっしゃい。お土産よろしくね~」

「はいよ」

 

 可愛い妹のためだ。交通量調査の結果、何色の車が多いかのデータでも持ち帰ってやるか。

 そうして、俺は自宅のドアを開いた。

 

 

 記憶はここで途切れる。

 

    × × × 

 

 どこか遠くで、波の音が聞こえる。

 暗い暗い。ここは、どこだろう。

 暗くて狭い。薄暗い闇の中。

 揺れる。揺れる。漂うように揺れている。

 死後の世界? それとも生まれる前のお腹の中?

 どこからか、声が聞こえる。

 

「……これは契約だよ」

 

「わたしの心臓をあげる。かわりに……■■ちゃんの夢を見せてね」

 

 急速に意識が覚醒していく。

 

「小町!」

 

 俺は、跳び起きた。

 

「あれ……」

 

 辺りを見渡す。

 

「ここ、どこだ」

 

 そこは、暗い廃墟だった。

 それに、どういうわけか俺は大きな箱型のゴミ箱に入っていたようだ。たまに小町にごみいちゃんと呼ばれることはあるが、ゴミ箱に入れられるのはさすがに心外だぞ。

 

「つーかマジでどこだここ」

 

 とりあえず光をと思ってスマホを探そうとして気づく。スマホどころか全裸だった。……どういうこった。知らないうちに追剥にあって身ぐるみ剥がされたか。それでゴミ箱にポイ? しかし、特に体に傷などは見当たらない。痛みもない。むしろ、調子がいいまである。よく眠ったおかげだろうか。ゴミ箱の中で熟睡なんて、さすがハチマン。いい夢も見た気がするしな。憶えていないが。

 

「くそ、落ち着け俺」

 

 思考がまとまらない。

 とにかく、だ。パニックになった終りだ。

 落ち着いて現状を確認しよう。

 まずは、俺(全裸)。外傷は無し。極めて健康。

 次に環境。暗くてよく見えん。ゴミのせいか、ちょっと臭い。

 

「ていうか、いつまでゴミ箱の中にいるんだ俺は」

 

 一歩を踏み出す。

 ぐにゃり、と。何かを踏んだ。

 

「うぇっ、なんだこれ」

 

 不快な感覚に思わず足を上げる。

 しかし、ぐにゃり、と。再び下ろした足は再び何かを踏んでしまう。

 なにか腐ったトマトのような。最悪だ。

 少し時間が経って目が慣れてきたからか、辺りの様子がぼんやりと掴めてくる。

 どうやら廃墟の床にはたくさんのものが散らばっているようだ。

 俺が踏んづけたのもそれだろう。

 

「散らかりすぎだろ。専業主夫の血が騒ぐわ」

 

 俺は散らばるそれを踏まないように歩き出す。

 慣れてみれば、かすかに光が漏れているところがあったのだ。おそらくそこが出口だろう。

 ゆっくりゆっくりと慎重に進んでいたところ、突然扉が開いた。

 まぶしい光がさし込んでくる。

 俺は思わず目を覆う。

 入ってきたのは三人の人影だった。

 真ん中が女、後ろに男二人だろうか。廃墟の中に入ってくる。

 

「先を越されたね」

 

 女の声だ。

 

「生きてるのがいますね」

 

 男のひとりが女に耳打ちする。

 

「ふうん……」

 

 すると、女がこちらに近づいてきた。

 あれ、やばくねこの状況。

 俺は全裸であることを思い出す。

 このままじゃ通報されて即拘留コースだ。いや、警察に捕まった方が家に連絡つく分マシか?

 一瞬で頭を巡らすが、幸いなことに女は俺の恰好には興味を示さなかった。

 

「キミ変わった体をしてるね」

 

 もっと何か、奥の、別のものを視ているようだ。

 

「人でも悪魔でもない。いや、どちらでもあるというべきかな」

 

 そこで、はじめてこちらから女の顔が見えた。

 

「キミがこれやったの?」

 

 女の顔は、俺がよく知る雪ノ下によく似ていた。

 

「お前……」

 

 雪ノ下か、と聞きかけてどうにも雰囲気が違うことに気づく。髪は三つ編みというのか後ろで束ねられている。それに服装も見たことのないスーツ姿だ。改めて見ると雪ノ下というよりはむしろ陽乃さんによく似ている。どことはいかないが胸部とかが特に。

 

「ねえ、聞いてる? キミがこれやったのって、聞いたんだけど」

「……へ? ああ、あのやったって何がですかね」

 

 情けないことにどもってしまう。陽乃さん風の初対面の美女に対してこちらは全裸だ。戦力差は絶大である。無条件克服するのが正しい判断だろう。

 

「何って、これだよ」

 

 そういって陽乃風お姉さんはあたりを示す。

 

「え?」

 

 俺は、いまさらになって辺りの様子を正しく認識した。認識してしまった。

 殺人現場、なんでだ、バラバラの死体、じゃあさっき踏んだのは、さっきから臭っているのはゴミではなくて、本物か、映画撮影、こんなグロいのは観られないな、規制仕事しろ、だとか。一瞬で脳裏に情報が溢れて、そのすべてを拒否したくなる。

 こんなんじゃ――吐いちまう。

 ふらっと倒れそうになって、しかし倒れることはなかった。

 ぎゅっと抱き締められたからだ。

 

「大丈夫。落ち着いて」

 

 俺は気づけば、お姉さんの腕の中だった。

 暖かさとやわらかさに、パニックになりかけた思考が落ち着いていく。

 

「悪魔による乗っ取りの可能性は?」

「ないね。乗っ取りは顔見ればわかるもん」

「少し目が変わっていますが……」

「それは単なる身体的特徴でしょ」

 

 お姉さんは俺の耳に口を寄せる。

 

「私はゾンビの悪魔を殺しに来た公安のデビルハンターなんだ」

 

 デビル、ハンター?

 

「キミの選択肢は二つ。悪魔として私に殺されるか、人として私に飼われるか」

 

 殺されるか、飼われるか。

 

「飼うならちゃんと餌はあげるよ」

 

 俺はいまだまとまらない思考で、なんとか返事をする。

 

「餌って、俺は……養われる気はあっても、施しを受ける気はありません」

 

「じゃあ養ってあげるよ。きちんと対価としてキミにもできることをしてもらう」

 

「……労働条件は?」

 

「基本的には自宅待機。必要なときだけちょっとした運動、かな」

 

それは……。

 

「最高じゃあないっすか……」

 

こうして、俺のデビルハンターとしての日々が始まった。




チェンソーマン最高!
俺ガイル最高!

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