廃墟から救助された俺は、気づけば高級そうな外車に乗せられていた。
運転席と助手席に男。
俺とお姉さんは後部座席に並んで座っている。
車に乗るときにさすがに全裸は目立つからと、お姉さんはどこからかスエットの上下を取り出し貸してくれた。お姉さんの私物なんだろうか。……なんかめっちゃいい匂いするんですけど。俺は人体の七不思議のひとつ、なぜかいい匂いする女子について思いを馳せる。
すると、ぐ~~~~っとお腹が鳴った。
車内に気まずい空気が漂う。
「……すんません。俺っす……」
めちゃ恥ずかしい。穴があったら入りたい。むしろ俺自身が穴になりたい。
「私達も朝まだだった。パーキングエリアで適当に食べよっか」
お姉さんが俺を気遣ってか素敵な提案をしてくれる。
「あ、でも、俺カネないんすけど……」
「いいよ。私が出すから。好きなの食べな」
「……ありがとうございます。すいません必ず返します」
財布もスマホも何も持っていない現状、かっこつけている場合じゃない。親切にはありがたく甘えるとしよう。借りは無事家に帰れてからすべて清算すればいい。
しかし、スウェットを貸してくれて飯まで奢ってくれるなんて、なんていい人なんだろう。
雪ノ下家の隠し子かと見紛うくらいの美貌に、雪ノ下家にはないストレートな優しさ。危ない危ない俺じゃなかったら惚れてるところだったぜ。
しばらくして、目的のパーキングエリアに到着した。
随分とレトロな雰囲気のパーキングだな。売店のメニューもどこか懐かしい。
マックスコーヒーは売ってないか……。まあしゃあない。
「キミはなにする」
「あっ、俺うどんと、フランクフルト……いいすか」
「私もうどんにしよう」
注文を済ませていると、たったっと慌しい足音が聞こえてきた。
「助けてくれっ!」
なんだ、何事だ。見ると、頭から血を流した男が店員に駆け寄っていた。
お姉さんが男に話しかける。
「公安のデビルハンターです。何かあったんですか?」
「あ……悪魔が俺の娘をさらって! 俺の娘をっ、娘をっ連れて森の方に!」
指さす方を見ると、たしかに森に続く道をつくるように柵が壊れされていた。
「カレーうどんのお客様~」
売店のおばちゃんの空気を読まない呼びかけが響く。
「あ……私のカレーうどん」
お姉さんは顎に手を当て何やら考えるポーズをする。こんな状況でも美人は絵になるな。雪ノ下もよくやる仕草だった。思わず見惚れてしまう。
「キミの名前は?」
「あ、比企谷っす」
「比企谷くん」
俺の胸に指を当て、顔を寄せてくる。……って近い近い。
「比企谷くん……うどん伸びちゃうから、キミだけで悪魔殺しにいってほしいな」
「え」
何ですと?
あっという間に話は進み、男の人に「今から優秀なデビルハンターがお嬢さんを助けます」なんて言っちゃってる。
まだ引き受けていないんですけど……。
「忘れたの? 施しを受ける気はないって言ったのはキミだよ。スウェットの上下とうどんの分運働してきて」
たしかに言ったけど……運動って、悪魔退治のことだったんすか。聞いてないぞ。
「キミ、返事は「はい」か「ワン」だけだよ。いいえなんて言う子は養いたくないなあ」
「ぐぐぐ」
「働かない主夫なんて、犬と一緒だよね。知り合いから聞いたんだけど、使えない公安の犬は安楽死させられちゃうらしいよ」
安・楽・死。
三文字中二文字はいい漢字なのに、三つ並ぶと激恐ワード。
「さ!うどん伸びちゃうよ。さっさと行きなさい。……返事は?」
「……うす」
俺は走った。
あの人陽乃さんよりとんでもないかもしれない。
優しい人だと思ったのに、あんな恐い女だったなんて。
本気の目をしてたぞ……。
「しょうがないから武器は貸してあげる」と、渡された刀を握る。ちなみにめちゃくちゃかっこいい。刀の鍔のところに銃のリボルバーみたいのがついてる変わったデザインだ。
うん。やっぱり男は刀だな。生まれて初めて握る武器にちょっとテンション上がっていた。銃刀法違反とか大丈夫かしらと不安がよぎる。いちおう公安って国家権力だから大丈夫だよな……たぶん。
森に入ったところで「あははは!」と女の子の笑い声が聞こえた。
声が聞こえた木の方を覗く。
「あ」
「あ」
女の子と目が合う。速攻見つけてしまった。
どうやら女の子は無事そうだ。ちょうどミミズみたいな生き物に花冠をあげているところだった。ミミズは大人の腕暗い太くて、大きな目がついている。
これが、悪魔か……? 思ったよりファンシーな見た目をしている。グッズ化したらコアなファンがつくかもしれない。
さてどうしたものかと動きあぐねていると、女の子が悪魔を庇うように立ちふさがった。
「お願いですこの悪魔さんを許してあげて!」
「ほあ?」
思わず惚ける。……どゆコト?
「私のパパ……嫌なコトがあると私を殴るの。今日も駐車場で殴られてたら……この悪魔さんが助けてくれて……!」
女の子は泣きながら言う。
「だからお願い! 殺さないで……」
むむむ。これはいったいどうしたものか。
悪魔ってそんな悪い奴らばかりじゃない……のか?
しかしなあ。「使えない公安の犬は安楽死させられる」というお姉さんの言葉を思い出す。このまま何もせず帰ったら俺の身がやばい。
うーん。どうしようか……。
俺は考えた末、折衷案を思いつく。
「なぁ……みんなで逃げちゃわね?」
「……え?」
「俺、気づいたらとんでもない状況でさ、成り行きで悪魔退治することになったんだけど……本当はしたくないんだ。でも、その悪魔見逃したら俺が殺されちゃうんだよね」
折衷案でもなんでもなくただの逃避だった。三六計逃げるにしかずって言うしな。昔の人の知恵はありがたく参考にしよう。
「でさ、持ってたら電話とか借りたいんだけど。あと交番の場所わかるか」
「あはっ……いいの・・・?」
「ん、ああ、いいだろいいだろ」
女の子はがしっと俺の手を握ってくる。そんなに喜んでくれるとは。よっぽど大変だったんだな……。
「あははは!」
「ははは」
「あははははははははは!」
いや、それにしても笑いすぎじゃないっすかね。
ちょっと狂気的だぞ……。お兄さん心配になっちゃう。
「あはハはハハハはハ!!!」
「はは……はあ?」
違和感を覚えて、上を見る。
そこには……。
「はい!オレの勝ち確~~!」
「んじゃこりゃ!?」
全身筋肉丸出しの巨大なヘビ、みたいな生物がいた。
こいつ、さっきの悪魔か!? さっきまでとぜんぜん違うじゃねえか。キモ可愛いからキモ怖にグレードアップしてやがる
「オマエ死ぬ前にいいモンみせてやるよ。オレは筋肉の悪魔だから……」
「んぎゃあああ!」
「触れている筋肉は自由自在ってワケ!」
悪魔に捕まれている左腕が不自然に膨張する。めちゃくちゃ痛てぇ……。肉離れの激痛バージョン。肉離れしたことないから想像だけど。とにかくめちゃ痛。
「これからこのメスガキと楽しいことすっからさ。大人しくしてな」
やっぱり、悪魔は悪魔か。女の子の話も、全部嘘だったってわけだな。よかったねハチマンかわいそうな女の子はいなかったんだ!
こんなクソ野郎なら心は痛まないぜ。
俺は右手で刀を握る。
お姉さんがしてくれた説明を思い出す。
「この刀にはダイヤルごとに違う悪魔の力が入ってるの」
「悪魔の力?」
「うん。これは悪魔の力を封じ込める特殊な武器なんだ」
「へえ……」
「とりあえずダイヤル1で戦って、相手が弱ったらダイヤル2で心臓を刺して」
「心臓……」
「それじゃ、行ってらっしゃい」
俺は言われた通りダイヤル1にして、刀を抜く。
「なんだ、その刀は……」
抜いた刀身は血のように赤かった。
やばい……こんな状況なのにテンション上がるな。
めちゃかっこいい。
「……おりゃ!」
俺は右手を振るい、悪魔の腕を狙う。
ザッと音が鳴り、嘘みたいに綺麗に切り落とせた。
すげぇ切れ味だ。
悪魔から解放された左手を右手に重ねる。
刀の使い方なんて教わったことないが、ひとつだけ知っていることがある。
「……剣ってのは両手で振った方が強いんだって、よ!」
俺の想いに応えるように赤い刀身がチェンソーのように振動する。
俺は全体重を込めて、刀を振るった。
パーキングエリアに戻るとお姉さんは呑気にアメリカンドックを食べていた。
こいつめ……。いい根性してるじゃん。
「使える犬だね」
「まあ一度受けた依頼はこなすタイプなんで」
女の子はお父さんに付き添われ救急車で搬送されていった。気を失っていたが外傷はなかったし大丈夫だろう。あのお父さんの慌てようを見るに、普通の愛ある家庭っぽいしな。悪魔に騙されるところだったわ。危ない危ない。
あ、そうだった。
「あの、これ」
俺は刀をお姉さんに返そうとして、ふらっと立ち眩みに襲われる。
「おっと」
ぽすっと胸にとび込んでしまう。なんというトラボウ。わざとじゃないんですよ、ほんとに。
「大丈夫?」
「あ、すんません……なんか力抜けちゃって」
「刀を使ったんだもんね仕方ないよ。ひとつ悪魔の力を使うのに内臓の一つは持ってかれてるはずだよ」
「え? なんだって?」
衝撃の事実に思わず難聴系主人公になっちゃう。
なんてもん貸してくれてんだこの女ァ……。
ちなみに空のダイアルに合わせて心臓を刺すと、悪魔の体が刀に吸収された。おそらくこれで筋肉の悪魔の力を得たのだろう。ゲームみたいなコレクション性。
しかし、悪魔の力を使った代償に内臓を失うって、どんな等価交換だ。内臓ってほとんどひとつずつしかない大事なものですよねぇ。
「大丈夫だよ。キミは特別だから」
「いや、特別て……俺の何を知ってるんすか」
「私は特別に目がいいんだ。……キミの中には心臓が二つある」
「なんと」
「そして、一つはゾンビになってる」
「え」
衝撃的事実のオンパレード。なんなの。俺の人生今日で打ち切りなの? 出し惜しみした設定大放出スペシャルなの?
「キミの状態は歴史的に見ても前例がとても少ないよ。名前もまだついてないくらいにね」
「心臓二つで、一つはゾンビって俺の体どうなってるんですか」
「うーん体のほとんどはゾンビになってるね。ほとんど不死身に近い状態だと思うよ。頭を落とされない限り致命傷にはならないだろうね。しかも、キミの体には人間の血も流れているからね。悪魔は血を吸うと傷が治るんだ。だからある程度キミには自動再生機能もあるわけだ」
半不死身に自動回復機能、か。
「そっか、そりゃすげ~よかったとはなりませんよ。なんでそんな面白ボディに?」
「さあ、何か心当たりはないの?」
「さっぱり、すね」
なんだろう何か忘れてるような気がするが……。いや、どんな人生を送っていればゾンビと人間の心臓二つ持つ心当たりがあるんだ。エピソードトーク最強過ぎるだろう。
「とにかくゾンビの悪魔の心臓と人間の心臓が合わさったおかげで、キミは悪魔の力をたくさん使えるってこと」
「あ、そっか」
時間が経てば内臓も再生するということだ。そういえば少しずつ体が楽になっていく気がする。
「心臓二つって便利なもんすね」
「うん。ひとの二倍働けるってことだからね」
「……」
できれば働きたくはないんだけどな。
「ほら、うどん一人で食べれる?」
「あー、はいいただきます」
「ご褒美にアーんしてあげようか?」
「いいっす。養われても施しは受けません」
「そう? でも、その刀はあげるよ。キミ以外にはうまく使えないし」
「……あざっす」
正直めちゃくちゃ気に入っていたから、ありがたい。
それに、悪魔がいる世界なら、自衛のために武器は必要だろう。
「あの、アナタの名前は……?」
俺は気になっていたことを聞いた。
「ハルノ」
お姉さんは答えた。予想外のような予想通りのような。
「もしかして姉妹がいたりします?」
「ううんいないよ。でも、比企谷くんみたいな弟なら欲しいかな」
「そすか……」
しかし、単なる他人の空似とは思えないな。
俺はさっきパーキングエリアで、あるものを見つけていた。
それは何の変哲もない新聞だったが、書いてある内容は問題ありだった。
ここは、俺の知っている世界じゃない。
悪魔が存在する時点で気づくべきだったが。
年代や地名など細かいところが違ってしまっている。
とにかく、この世界のことを調べないといけない。
それまではこの人についていくことにしよう。
俺は偽ノ下、もといハルノさんのことをバレないように見つめる。
……ばっちり目が合ってしまった。
こりゃ一筋縄ではいかなそうだ。
今回は独自設定で八幡専用武器が出てきます。リボルバー刀。
やはり黒髪のキャラには刀が似合う。
八幡の状態は人間と悪魔が重なり合っていて武器人間に近いものですが、彼らのように変身できるわけではない、という感じの設定です。
とりあえずタフで自動回復能力のある人間、くらいに思ってもらえれば幸いです。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ感想お待ちしています。