やはり俺がデビルハンターなのはまちがっている。   作:推し鋸

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アマガミ大好き!


第6話 同棲・命令・お願い

 目が覚めると見知らぬ天井で、俺は一瞬別の世界に迷い込んだのかと錯覚した。

 そして、枕元にいるハルノさんを見て、そういえばとっくのとうに迷い込んでいたことを思い出した。いうならばシン・ハチマン。この世界に来てから痛い思いばっかしてる気がする。物語の序破急がハード過ぎません? 脚本仕事しろ。

 

「あ、起きた?」

 

 ハルノさんは器用にリンゴでうさぎさんを作っている。

 

「キミの腕拾っておいたよ。輸血したらくっついた」

「……あざっす」

 

 やはり悪魔から助けてくれたのはハルノさんだったのか。

 

「悪魔と契約してたんすか?」

 

 あのとき悪魔をぺしゃんこに潰したのは間違いなく悪魔の力だろう。

 

「うん。あれはパンダの悪魔だよ。ほんとは頭を使いたいんだけど、男の人しか使えないからね。仕方なく腕を使ってるんだ」

「へえ」

「それにしても一日に悪魔を二体も倒すなんて比企谷くんはすごいね」

「……いやあどうでしょう」

 

 一体はハルノさんの手柄だしな。

 

「ユキノとカマクラ……猫は無事ですか」

「うん。入院する必要もないくらい。キミの方がよっぽど重症だよ」

「あいつのせいで弱い悪魔が寄ってこないんすよね。だからめちゃ強い悪魔と連戦することになりました。最初の村でボス級とエンカウントするもんですよ。おかげで死にかけました」

「悪魔は常に人の死を望むの。魔人もそう。……どうかな、ユキノちゃんとは仲良く出来そう?」

 

 その質問がカマをかけてきてるのかと思ってしまうのは、疑心暗鬼が過ぎるだろうか。

 ……おそらくユキノの裏切りが公安に知られたら、あいつは始末されてしまうだろう。

 どう答えたものか。

 

「……あいつとはまだ会ったばかりですからね。初対面の相手に点数をつけれるほど俺は見る目ありません」

 

 結局ごまかすことにした。

 

「そっか」

 

 ハルノさんはじっと俺の目を見ていた。

 見透かされただろうか。

 

「じゃあ、深く知り合ってもらおうかな」

 

 

 いったい何がどうしてどうしてこうなったのだろう。

 

「狭い家ね。家主の交友関係の広さと比例しているのかしら」

「暗に俺がぼっちだとディスんな」

 

 退院後、バディなんだから一緒に住めばいいよというハルノさんの鶴の一声で、俺とユキノは一つ屋根の下生活することになった。もともと与えられていたアパートの一室は一人暮らしには広すぎるくらいだったから、問題ないといえばないんだが。……いややっぱり問題大ありだろ。

 

「一緒に暮らすにあたってのルールを決めましょうか。あなたはトイレ、ワタシがそれ以外自由に使えるというのはどうかしら」

「それだとお前トイレできないぞ」

 

 俺をクソ扱いした件はスルーで。

 

「とりあえず鍵付きの部屋をそれぞれ一室。風呂トイレキッチンは共同だが……まあ、使う時間をずらせばいいだろ」

「そうね仕方がないわ。生活時間をずらして接点を無くし、清掃を徹底して本当に相手が存在するのかわからないくらい痕跡を消し合いましょう」

 

 なんつー嫌な生活だ。ため息が出るぜ。

 

 

 夜。そろそろ寝るかと思っていたところでノックの音がした。扉の外から「いいかしら」とユキノの声。

 

「どうした」

 

 扉を開けて迎える。ユキノも就寝前なのかざっくりと肩の出た青いレース生地の部屋着を着ていた。昼間接点を減らすと言っていたくせに自分から接触してくるとは。

 

「……入っていいかしら」

「ん。ああ」

 

 流れで部屋に女の子を招き入れてしまった。

 女の子といっても魔人だけどな。しかし魔人でも美人であることに変わりはない。どうにも落ち着かない気分になる。落ち着くためにこいつは虚言癖の氷の魔人だと自分に言い聞かせる。

 ユキノは俺のベッドに腰かけた。俺は微妙な距離をとって立つ。

 

「改めてお礼を言おうと思って。ありがとう。カマクラのこと。そしてハルノからも庇ってくれて」

「……別に」

 

 なんだよ。やけに素直じゃねえか。

 やめろよな普段とのギャップを演出すんの。

 しかし今日日「萌え」って言葉ギャップ萌えでしか聞かねえな。あんなに界隈を席巻したのに。言葉の流行り廃れは何より早いな。ファッションとかみたいにくり返さないしな。

 

「約束通り、あなたの命令をなんでもきくわ。……そうね、三つ、いや二つかしら」

「その数字はどっからきたんだ」

「さっき言ったでしょう。カマクラを助けてくれたこととハルノから庇ってくれたことよ」

 

 入りかけたもうひとつはなんだったんだか。

 

「つーかそんな約束してたっけな。忘れてたわ」

 

 夜に男の部屋で命令を聞くとか言っちゃダメゼッタイ。おそろしくエロい響き。俺でなきゃ襲われちゃうね。

 もちろんこんなときにエロい命令ができる俺ではない。

 俺は心身ともに紳士である。信心深いわけではなくもちろん興味は津々だけどな。理性の化け物と揶揄されたこともあるのだ。まして雪ノ下の顔をしたやつにどうこうできるわけがない。

 

「別に命令したいから助けたわけじゃねえよ。俺が助けたくて助けたんだ」

「それではワタシの気が済まないわ。借りを作るのは嫌いなの。それに嘘はつかないようにしろと、あなたが言ったのではなかったかしら」

「ぐぬ」

 

 それを言われると弱い。あのときはコウモリの悪魔を倒してちょっとハイになってたんだよな。いろいろらしくないことを言った気がする。速やかに己の記憶から削除したい。

 

「……わかったよ。じゃあ、とりあえずひとつだけ使わせてもらうわ」

 

 このまま言い合っても埒があかないだろう。横断歩道で対面し道を譲り合いフェイントの掛け合いするみたいな無駄はしない主義だ。

 

「これから近い場所で生きていくんだ。俺のことは人間ではなく比企谷と呼べ」

「……そんなことでいいの? 無欲なのね」

「大事な事だ」

 

 人間が嫌いなのはしょうがないから、だがせめて個体として認識してほしい。すべてはそれからだと思う。

 

「もうひとつは?」

「……いまは思いつかん。また適当に言うわ」

「そう……。てっきり胸を揉ませてくれとでも言うと思っていたわ」

「おま、胸とか……」

 

 発想が中学生じゃんか。……お願いしたら揉ませてくれてたんですかねえ……。もちろんユキノの慎ましい胸には興味なんてないけどな。ええないですとも。

 

「これで用は済んだわ」

「そうか」

 

 ユキノはベッドから立ち扉の外へ向かう。

 出る直前にこちらを振り返る。

 

「それじゃ……おやすみ比企谷くん」

「……ああ、おやすみユキノ」

 

 

 数日後、ハルノさんに呼び出された。なにやら書類の処理があるらしい。

 俺は公安の一室でハルノさんに言われるがままハンコを押す。

 

「せっかく悪魔を倒したのになんだか悪いことしたみたいで嫌だね」

「まあ、あんだけ派手にやりましたからね」

「……これは、こことここにハンコ」

「はいはい」

「それで、ユキノちゃんとはどう?」

「……ああ料理も掃除も完璧なのには驚きました。てっきり壊滅的かと思ってました」

「必要だから私が教えたんだ」

「はじめは気になりましたけど、慣れちまえば案外気楽ですね。一人暮らしよりも清潔な環境で生活できてる気がします」

「ふうん、そう」

 

 カマクラとも遊べるしな。俺の知ってるカマクラとマジでクリソツ。あんまりなついてくれないところも含めてな。

 

「それでユキノちゃんと仲良くなれたかな」

「いやあどうでしょう。家ではほとんどしゃべりませんからね」

「そうなんだ。てっきり手くらい握ったと思ってたよ」

「いやまさか」

 

 そんなわけがない。

 

「え」

 

 突然、俺の右手にハルノさんの手が重なる。

 

「あの……?」

「比企谷くん」

 

 そのまま指同士が絡み合う。世にいう恋人つなぎというやつだ。

 

「指の長さはどれくらい……? 手のひらの温度は?」

「いや、だから知らないって……」

「比企谷くん。耳を噛まれたことはある?」

「かまっ。……あるわけが」

「はむ」

 

 ハルノさんが耳を甘噛みしてきた。全身に電撃が走る。敏感な神経が熱くてやわらかな感触に包まれる。体から力が抜ける。

 寄せられた体がやわらかいやら、いい匂いやらでおかしくなりそうだ。急な情報量に脳がショート寸前。

 

「いてっ」

 

 今度は歯をたてられた。鋭い痛みにとろけそうだった脳が冷静になる。

 ハルノさんの体が離れる。

 

「もし比企谷くんの目が見えなくなっても、これで私のことがわかるね」

「なんすかその怖い想定は……」

 

 いったい何のいたずらだ。モニタリングでもされているのだろうか。さぞかし情けない顔をしていたことだろう。投稿すれば大炎上間違いなしだ。俺でも即バッドマークをつける。まだ観てませんが星ひとつです。

 

「比企谷くんにお願いがあるんだけどいいかな?」

 

 ハルノさんは一転真面目な顔で言った。

 

「ふつうのお願いの仕方はできないんすか……」

 

 耳を噛む工程はいりましたかねえ?

 最初から本題を切り出してくれればいいのに。

 

「……内容次第っすね」

 

 住居の手配などなどハルノさんにはお世話になってるからな。この前は悪魔から助けてもらったし。

 

「俺にできることならやります」

 

 ハルノさんは椅子に座り直した。

 

「海の悪魔を倒してほしいの」

「海の悪魔……?」

「17年前。インド洋に出現して今どこにいるかわからない……。全てのデビルハンターが殺したがっているとっても強い悪魔」

「そんなのがいるんすか」

「比企谷くんなら殺せると思うんだ。キミは特別だから」

「そうっすかねえ」

 

 ついこないだ、ただ心臓が二つあって強い武器を持ってるだけの素人だと思い知ったばかりだけどな。

 

「もしも比企谷くんが海の悪魔を殺せたら、私がキミの願い事なんでもひとつ叶えてあげる」

 

 ハルノさんは大真面目な顔をして俺に告げた。

 

「それは……」

 

 たとえば――もとの世界に戻りたいとかでも?

 

「うん。なんでもだよ」

 

 ハルノさんの顔を見てると、たしかにこの人ならどんな願いも叶えてくれそうだと感じられる。

 

「17年前……環境保護とか地球温暖化が世界中で問題にされていた頃があってね。その時期に異常気象や海面の上昇が頻繁にメディアに取り上げられるようになったの。環境への意識が以前よりも格段に高まったあたりかな……インド洋で大きな海難事故が起こったの」

 

 その日に海の悪魔が現れた。

 

「大きな島ひとつを沈めて120万人弱を殺した後海の悪魔は今日まで姿を消している。その後悪魔そのものに対する恐怖が高まって全ての悪魔が以前よりも力強くなったの」

「なんかよくわからないけど……よくわからないくらい強そうですね」

「比企谷くんなら倒せると思う?」

「情報が少ないんでなんとも言えないっすね」

 

 俺は正直に答えた。

 

「まあ……やれるだけやってみますよ」

 

 どんな悪魔だって能力と相性次第で倒せないことはないだろう。

 悪魔だって命がある限りは、必ず殺すこともできるはずだ。

 

「それならまずは海の悪魔を見つけなきゃだね」

「手掛かりはあるんですか?」

「これ」

 

 ハルノさんは青みがかった結晶を掲げる。

 

「これは私たちが集めた『海の悪魔』の結晶」

 

 二つの結晶を近づけると、くっついてひとつになった。

 

「この結晶がある程度の大きさになれば元の体の場所に再生して戻ろうとするみたい。だからこの結晶をもっと大きくすれば……」

「海の悪魔に辿り着く……か」

 

 わかりやすくていい。やることが決まったら後は実行するだけだ。

 

 

 翌日、公安に悪魔駆除の依頼が入った。

 結晶の反応があるため、結晶を食べた悪魔の可能性が高い。

 海の悪魔の結晶を食べた悪魔はパワーアップするらしい。そのため俺とユキノだけではなく先輩デビルハンターとともに向かうことになった。

 俺とユキノが会議室で待っていると、ノックの音が響いた。

 

「どうぞ」

 

 がらりと扉が開き、来訪者の姿が明らかになる。

 

「やっはろー!」

 

 気の抜けるような頭の悪い挨拶と共に颯爽と登場したのは……。

 

「……由比ヶ浜」

 

 公安の制服に身を包み右目に眼帯をした、由比ヶ浜由衣その人だった。

 




いろいろと初登場の回でした。
これから物語が大きく動き出します。戦闘だけでなくラブコメの割合も増えるかも?

ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければ感想評価お待ちしております!

次回、由比パイ大暴れ。
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