やはり俺がデビルハンターなのはまちがっている。   作:推し鋸

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ワンナイト人狼大好き!


第9話 据え膳・サムライ・バトル

 

 「ねえ、ちゅー、しよ?」

 

 酔っぱらったユイ先輩は、まるで男の妄想をそのまま具現化したような姿だった。 いつもより潤んだ瞳に紅潮した頬。乱れたシャツの胸元からは嘘みたいに白い肌がのぞいている。……こんなの勘違いするよな。しかしすべてはアルコールの所業である。酒は百薬の長。百個の薬の中には媚薬も含まれてると思うわ。お酒ダメゼッタイ。

 これが噂のワンチャンリーチツモリャーピンってやつか……。麻雀やったことないけど。

 

「ごくり」

 

 生唾を飲む音が暗い室内に響く。発生源は俺の喉だ。なんだよ持ち主の許可なく鳴るんじゃねえ。喉から音が鳴るほど欲しいってか。やかましいわ。

 

「ヒッキーくん……」

 

 固まっている俺に、ユイ先輩は我慢できないとでもいうようににじり寄ってくる。

 場所はアパートの一室。時刻は夜。酔いの回った女と思春期の健康な男の二人きり。

 何も起きないはずがなく……。

 俺は覚悟を決めた。

 

 

 ちゅんちゅんという鳥の声で目を覚ます。

 目を開けると見知らぬ天井。前もこんなことがあったな。

 

「あ、ヒッキーくん起きた?」

「……うす」

「おはよう!」

 

 ユイ先輩は昨夜のことなど何もなかったかのようにさっぱりとしていた。

 昨日の夜、俺たちの間には……特に何も起きなかった!

 迫ってくるユイ先輩に俺は「ごめん俺、ゾンビなんだ」とおそらく人類史上初になる 断り文句を口にすることになったのだった。以下回想。

 

「見た目ではわからんかもしれないが、体の半分がゾンビでして……。だからもしかしたら、なんだかんだでゾンビを移しちまうかもしれないんだ」

 

 俺は誰にも言ったことのない秘密を打ち明けたのだった。

 

「そっか……。ヒッキーくんは優しいね」

 

 ユイ先輩は俺の告白を信じてくれたのかどうなのか。とにかく矛を収めてくれたのだった。

 せめて眠るまでそばにいてほしいというので、俺は距離をとって居座ることになった。

 

「ヒッキーくん恋人はいらないって言ってたけど、好きな人いるでしょ」

 

 俺に背を向けるように布団にくるまりながらユイ先輩は言った。

 

「そうっすね……います」

 

 俺は正直に答えた。その場の雰囲気に酔っていたのかもしれない。いつになく饒舌にいらんことまで喋ってしまった気がする。

 

「そっかー。その人もいま、遠い所にいるの?」

「たぶん……いや、どうでしょう」

「はっきりしないんだ?」

「距離なんて主観ですからね」

 

 心持ち次第では地球の裏側だってご近所さんだ。

 

「会おうと思えば会いに行ける場所のことを遠いとは言いたくないっすね」

「そか……ヒッキーくんらしいや」

 

 その会話を最後にユイ先輩は眠ったようだ。

 そしてどうやら俺も寝落ちしてしまったらしい。

 回想終わり。

 

「朝ごはん出来てるよ。食べる……よね?」

「じゃあすんません。いただきます」

 

 なんとなく気まずい気分で朝食を共にする。いや気まずいのは俺だけだろうか。ユイ先輩は何も覚えていない可能性まである。アルコールってずるいっすね。酔ってたって自己申告されたらたしかめる方法ないもんな。

 朝食はみそ汁に焼き魚白ごはんとザ・日本の朝食で、めちゃくちゃ美味かった。ほんとに料理上手なんだな。毎朝みそ汁を作ってほしいぜ。なんて現代では男尊女卑発言で叩かれそう。逆に毎朝みそ汁作るから結婚してほしいというならともかくな。いやみそ汁自体時代錯誤か? イマドキ女子は何食ってるんだろ。スムージー? それならもはやミキサーと結婚した方がいい。

 

「ね、あたしたち友達になろっか」

 

 ごちそうさまのタイミングで切り出してきた。

 

「友達っすか」

「うん。たまに今日みたいにご飯食べよ。ユキノンやハルノさんも一緒にさ」

「いいっすね」

「じゃ、今日からは先輩後輩じゃなくて友達で行こう」

 

 こうして一夜を共にして、俺たちは友達になった。友達宣言して友達になるなんて生まれて初めてかもな。

 

「これからはヒッキーって呼ぶね。ヒッキーもユイって呼んで。あ、敬語もなしだよっ」

 

 それは。

 

「前向きに善処する方向で検討するわ……」

「役所の人みたいだ!」

 

 

 次の日。さっそくユキノを交えて三人で中華を食っていた。ユイパイセンは近隣の飲食店に詳しかった。長くデビルハンターをしてパトロールしてると、自然と詳しくなるらしい。美味いラーメン屋の情報はありがたいな。今度俺も飯パトロールしてみよ。

 ラーメンをすすっていると、どこか遠くからパンパンと音が聞こえる。空砲というやつだろうか。どっかで運動会でもやってんのか?

 

「なんだろこの音」

「知らないの? これは太鼓の音よ」

「いや太鼓はもっと低い音だろ」 

 

 太鼓の達人の俺が言うんだから間違いない。

 

「それよちあなたち、ほんとに昨夜は何もしていないのかしら。この男に乱暴されなかった?」

「うんヒッキーは紳士だったよ」

「赤裸々な会話はやめてくれませんかね……」

 

 赤裸々って、ちょっと双子の妖精っぽいよね。ひらがなにすると漫画雑誌味もある。

 

「ここのラーメンよく食えるな……。味ひどくないか?」

 

 唐突に。

 隣のテーブルの男が話しかけてきた。

 いや、単なる独り言か? それにしてはでかい声だ。

 

「幼少期に同じモンしか食べてないと大人になってバカ舌になるらしい。舌がバカだと幸福度が下がる」

 

 明らかにこっちに向けて言ってんな。

 なんだこいつ。どっかで会ったか? いや、こんなもみあげの男は知らねえな。一度会ったら覚えているはずだ。

 

「ほら舌がバカくん呼ばれてるわよ」

「誰がだ」

 

 俺は偏食ではない。特定のものばっか食う趣味もないしな。マッカン? あれは別だ。

 もみあげ男は俺たちのことなど意に介さず、自分べらべらと喋りつづける。いや、爺ちゃんがヤクザとか知らんわ。

 

「……店出るか」

 

 俺は退席を促そうとする。

 

「海の悪魔はてめえの心臓が欲しいんだとよ」

 

 もみあげ男は銃を構えていた。

 

「ユキノ!」

 

 銃声が炸裂する。

 俺はユキノを庇おうとして、肩を撃ち抜かれる。

 続けて響く銃声。

 

「ち、」

 

 俺はなんとかダイアルを回す。

 

「筋肉!」

 

 全身を強化し、一瞬で男の目の前で跳躍。思いっきり殴り飛ばす。

 男は銃を落とし、店の外まで吹っ飛んでいく。

 

「大丈夫か!」

 

 ユキノは無傷だった。しかし、ユイの胸の上には赤い模様が広がっていた。

 

「ユイ!」

 

 くそ。早く病院に連れて行かないと。

 

「比企谷くん! 来るわ」

 

 ユキノの声に店の外に目をやると、そこには異形の人外がいた。

 昔の軍服が学生服のような装いに、両手と頭の刃が特徴的。ホラーゲームの強キャラのようなデザイン。

 俺は……そいつを知っていた。

 

「サムライソード……」

 

 人気投票で、最後まで銃の悪魔と悩んだキャラだ。

 

「ユキノ、ユイを頼む」

「わかったわ」

 

 こいつはやばい。最初から全力でいく。

 ダイアル4。

 

「無限!」

 

 新しく手にいれた力、無限の悪魔。

 範囲固定のループを強制する妨害系の技だ。

 無限の空間をサムライソードの周りに展開する。これでやつはその空間から出られない。

 俺はさらに筋肉と血の力を使う。

 久々発動。全力の血ー刃だ。

 

「おうら!」

 

 俺の刃はサムライソードを横なぎに、真っ二つに切り裂いた。

 

「……はあはあ」

 

 俺は口から垂れた血を拭う。

 サムライソードはぴくりとも動かない。

 どうに初見殺しが成功したみたいだな。

 

「早く病院に連れてった方がいいわね」

 

 ユキノはユイの傷を押えている。氷の力で止血しているようだ。

 

「そうだな……救急車か、いや運んだ方が早いか」

 

 俺はユイを抱えるため近いていく。

 

「悪魔の力を封じ込めた刀……。ダイアルを回すといろんな悪魔の力が使える感じ?」

 

 いったい、いつからそこにいたのか。

 現れたのは背の低い女だった。

 

「アンタいい動きだったね」

「お前こいつの仲間か?」

 

 どっから来やがった。まったく気づかなかったぞ。

 女はサムライソードのすぐそばにかがむ。

 次の瞬間には、サムライソードは立ち上がっていた。

 

「なっ……」

 

 胴体と脚もつながってやがる。何のトリックだ。

 

「どうして負けた?」

「油断した……マジじで油断した」

「じゃさっさと殺して」

 

 サムライソードは居合のような姿勢をとる。

 俺は攻撃に備える。

 サムライソードの姿が消えた。

 

「あが」

 

 バサッとはためく音が背後から聞こえた。

 自分の胸から血が噴き出してからやっと、切られたのだと気付いた。

 

「くそ」

 

 俺は膝をついた。

 

「まだ生きてるぞ。デビルハンターのスーツは頑丈だからな」

 

 女の冷たい声が聞こえる。

 

「トドメをさして」

 

 くそ、動け体……。このままだとマジでやられる。

 

「……あたしはいいからヒッキーを助けて」

「無理よ……。動きがまったく見えなかったもの」

 

 ユイとユキノ声が聞こえる。

 頼むから逃げてくれ。

 

「ゴースト……!」

 

 ごほっとせき込む音。

 

「あたしの全部をあげるから……ゴーストの全部使わせて……」

 

 幽霊の悪魔は不気味さと優しさが入り混じった容貌をしていた。

 人間の女の顔。ただし目と口は縫い付けられていて、一見すると慈愛の表情に見える。胴体は花に覆われていて、大の人間くらい太い腕が何本も生えて体を支えていた。

 無数の手がサムライソードを襲い体を貫く。決着は一瞬だった。

 

「ヴォ……オイ! 助けろ!!」

 

 ゴーストの顔がサムライソードに迫る。

 女が手をかざす。

 ユイの腕が消失する。

 そこからの光景はまるで映画のスローモーションみたいだ。

 

「ヒッキーは死なないでね……」

 

 ユイの表情。

 

「好きな人とさ……幸せになってほしいから」

「ヘビ丸呑み」

 

 女の声。

 幽霊の悪魔の首が飛ぶ。

 巨大なミミズみたいな悪魔。

 

「帰れ」

 

 ふっ、と悪魔の姿が消える。

 

 ――そうして、由比ガ浜ユイはこの世界から完全に消失した。 

 

 

 

 





ヒロインというと女主人公だったり攻略対象だったりと表現されますが、
個人的には物語あるいは主人公に強い影響を与えた女キャラがヒロインだと思っています。
タツキ先生の作品には魅力的なヒロインがたくさんです。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
ユイパイの死をきっかけにこの物語はチェンソーマンのレールを外れていきます。
どうぞ引き続きお楽しみください。

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