命蓮寺
「わーたーしーがー」
「来た、かい?」
「うわネズミだ」
ネズミは苦手なんだぁと逃げつつ、ご主人と呼ばれているこの身長の大きい寅丸さんへと避難する。ついでに非難する。ネズミ!衛生観念ぶち壊し野郎!出てくるだけで嫌われるゴキブリと同列!ハリネズミの方が良い!と言っていたらちょっと怖くなっちゃった。
「な、なに」
「ゴキブリよりはマシだろうがっ」ガチンッ
「痛ッ…鉛で殴ることはないでしょ」
「出会って直ぐに罵倒するのもどうかと思うがねぇ!」
「短気!」
「君を叩けるならば短気で構わないさ」
「ちょ、ナズーリン!?待ってください。というか貴方も!ネズミを馬鹿にすると洒落になりませんよ!」
「なんで?」
「ナズーリンのネズミは人肉が大好物です」
「ちょっとそれ早く言ってよもう」
「変わり身には定評があるなぁ、君は」
「…とりあえず、命蓮寺に来た理由なんだけど」
「はい、なんです?」
「親父が死んじゃってさ。葬式を」
「ああ、なるほど。お父様はかなり有名でしたからね」
「まあね」
…いや、酒癖の悪さで有名だったけど。家の商売が幻想郷一酒癖の悪い店主って名前で売り上げが上がって行った時はもう俺も酒癖悪くしようかなって思ったもん。酒売ってる店の店主がなんで酒癖悪いんだろうね。酒弱いし。
三日後
「葬式って一杯やることあるねー」
「しかし、君は父親が死んでも変わらないな」
「四日後に法要?って奴やるからここに来るんだな。理解」
「話を聞け」
「お前の話聞く余裕が無いから無視してんだろ。考えろ」
「なっ…!」
「んじゃ四日後」
四日後
「うーっす」
「先日はすまなかったね。君のことを考えもせずに」
「いや良いよ。店潰したからもう余裕もクソもないし」
「…ん?お店を潰した?」
「親戚が誰もおらんからね。店も潰して俺1人だけで暮らしていくのさ」
「逞しいな」
「それで家も売っちゃってさぁ」
「君は馬鹿か?」
「まあ、なんだね。これも神様のお召しか、釈迦の導きって奴だ」
「仏様と言えば良いものを…そうだ、此処に住むのはどうだ?」
「…此処って?」
「命蓮寺だが?」
「それも良いな」
「見知った顔だけだ。墓参りもしやすいだろう」
翌日
「なんで君は移住初日から一輪車に乗っているのかな」
「そういうところに女性は惹かれると本に書いてあったから」
「…どうやら正しいらしい。一輪や村紗の興味が当てられているよ」
「妖怪はなぁ」
「まぁ…だろうね」
少しだけ言っておくが、多分あの2人の興味は宴会で使えそうな芸としての興味だと思う。惹かれてほしいのは俺の身体とか、そういう恋愛的な意味なんだけどな。それも妖怪ではなく人に。妖怪は怖いからな。仕方ない。
「妖怪は恋愛対象では無いか」
「当たり前だろ」
「君は、本当に人の気持ちを知らないな」
「妖怪の気持ちは知らん!」
翌日
「ナズーリン、なんだか気分が悪そうですね」
「いや、なんでも無いよご主人」
「そうですか!それは良かった!…ところで、宝塔をなくしてしまいまして」
「はぁ!?またかい!?」
「どしたの、そんな大きい声出して」
「どうしたって、信じられるかい!?ご主人が、宝塔…を」
「これのこと?」
「おお!ありがとうございます!いやぁ、感謝です!」
「探し物は得意なんでね」
「迷子にはなるくせに?」
「初日でこのでっかい家の間取り把握しろってのは無理だろ」
「まあ、それもそうか」
「で、だ」
「どうしたナズーリン」
「ご主人は忘れそうだから消去法で君に頼むんだが、このチーズケーキを」
「ふんっ!」ボギィッ
「ど、どうしたんだい!?」
「足の骨折ったので無理です」
骨折してる人に買いに行かせるほどナズーリンも嫌なやつでは無いだろう。多分。多分!!しかしだ。最近、というよりも此処に来てからナズーリンがこっちを睨んでくるような目で見てくる。そんな感じになる関係性では無いと思うだがね。
「そうか仕方ない。私が連れて行こう!」ガシッ
「おぅっ!?」
「行ってらっしゃい〜…あれ、宝塔…」
命蓮寺外
「さてと、だ」
「なんで止まるんだよ。病院ならあっちだぞ」
「まあ君は悲しいことに気が付いてないだろうが、私は君が好きなんだ」
「…聞いてんのか」
「君の話を聞けるほど、今の私は余裕じゃないんだ」
「あっそ」
「何故好きになったのかは思い出せない。多分、本当に些細なことだと思う」
「ほー」
「でもだ。そこで、君は言ったんだ。妖怪は恋愛対象外だと。言い放ったんだ」
「まるで俺が加害者のような」
「それを聞いていなかった私は、法要の時に心理的な効果で恋に落ちやすくなるという本の知識を試してみたくなったんだ」
「そんなことされたか?」
「ああ。そんな考えがよぎった後、自分が嫌いになったよ。そんなことをしても心はモヤモヤするだけだ」
「蜘蛛の糸に縋る奴みたいだな」
はて、法要の時に口説きやすくなる、というのは実は全く違う思い込みである。確か、想い人が死んだ時だった気がする。親父は俺の想い人ではなかったからな。仕方ない。蜘蛛の糸に縋るのを馬鹿だとか思っても縋るのが一番だというのに。まあ無駄だけど。
「だが、種族の差を活かしてできることを思いついたんだ」
「この二日でか。すごいね」
「昨日の夜寝ずに考えたんだ。大人しくしてくれていたまえ」
「…待て、ナズーリン、やめろ」
「言っただろう。私は今、君の言葉を聞けるほどの余裕はないんだ。今から君を食べる背徳感と高揚感で、もっとおかしくなりそうなんだ。好きな人を殺すというのに、にやけるのが止まらない。好きな人を食べるというのに、私のお腹がずっと鳴っているんだ。君を食べる行為だけで、もう私は君の虜なんだ。後悔しても遅い。いや、後悔とは違うな。少なくとも今の私は後悔などしていない。私の体に君の頭を保管する為だけの臓器を作っても良い。そうなると頭は後回しになってしまうが、まあ良いだろう。不思議な感覚だ、私自身今の私についてよくわからないんだ。分かっているのは、君に突き放された結果、こうなっているということだけだ」
「離せ、おいナズーっぁ!」
「骨折したところは触れると痛い。それくらい獣でも知っているさ。さて、先ずはどこから行こうか?やはり、手だろうか?考えれば考えるほどにやけるのが止まらないな。全く、君は本当に私を虜にさせる。さて、それじゃあ先ずは」
「!?」
「やはり、手からだな♪」
ナズーリン…私のことが恋愛対象外…だと…!?(この後知性がごっそり削れて、なけなしの知性と出てくる本能が混ざり合ってぐちゃぐちゃの感情のまま食べちゃう)
主人公…種族の差は愛では超えられない!これは当たり前だ!種族の違うやつに恋愛的感情は持たない!!と思っていた時期が俺にもありました…
的な。
いつぞやの華扇さんみたいな感じになっちゃったけど、あっちは妖怪にさせてますから。こっちは人のまま食ってますから。違いはそこら辺しかないけど、此処が一番違いますからね!