その立ち絵のね。おっきーなのね。あの、ゆったり腰掛けてるあのお腹の部分にね。頭を沈めて、おっきーなの体温を感じつつ、遊び疲れた子供のように眠りたい。ただ、眠っても眠らなくても、そこにある体温と、生物としての形を維持している限り聞こえて来る腸の音とおっきーなの体の中を心地よく響かせて来る心音に任せて、疲れた体を癒したい。おっきーなが背中を摩る安心感で、おっきーなを感じたい。
俺は隠岐奈様の従者、拾われた身である。名前は特にく、従者として先輩のお二人からは『ナナ』と呼ばれているからか、隠岐奈様からも『ナナ』と呼ばれるようになった。嬉しいのやら、寂しいのやら。従者であることを何度も伝えたが、結局俺は今隠岐奈様の膝上で座っている。
「隠岐奈様」
「こら、今はそんな呼び方ではなくお母さんと呼ぶんだ」
「…お母さん」
「どうしたんだナナ」
「今日は、従者として踊りを教えてもらえるはずでは?」
「うーん、そうだな。ナナは私の大事な従者だからな。踊らせるより私の膝に置いた方が私のやる気が出る」
…嬉しい、のだが。背中を隠岐奈様に預けると、とすん、と少しの音を出して隠岐奈様の胸とお腹の間あたりに頭を置く。やる気を出してくれるのは従者として嬉しい。でも、少し恥ずかしいのが事実。布団が欲しい。ほら、目の前にいる二人の先輩がすごいニヤニヤしながらこっち見てる。
「…ぅ」
「どうした?恥ずかしいのか?」
「お師匠様はほんとわかってないよね〜」
「ナナは恥ずかしがってるのにねぇ〜」
「そ、そうなのか?」
「…はい」
「可愛いなあ、ナナは本当に可愛い」
そうだ、今日は俺の能力を授ける日だと言っていた。ならば、踊りを意地でも身につけなければならないはず。…少なくとも、だか。隠岐奈様の膝上というポジションが恥ずかしいからという気持ちはある。先輩からの目線が恥ずかしい。隠岐奈様のお腹にもっと密着する。
「ナナ。そろそろ寝ようか。風呂は入れるな?」
「はい」
「じゃあ僕たちも」
「ああ、休んで良いぞ」
「…あの」
「とうした、ナナ」
「僕の…能力…」
「あ、あぁ。ごめんな、忘れてたな。う〜ん…身長を操る能力を授けよう。明日には備わっているはずだ、明日に備えて早く寝るんだぞ」
「はい!」
嬉しい。能力をもらうというのは、すなわち隠岐奈様に認められたということだ。これでようやく、隠岐奈様の力になれるはず。明日が楽しみだ。あ、痛い。鼻に水入っちゃった。これは寝るまで苦しい時間が続くかなぁ。うん、それは別として。寝る時は隠岐奈様とは別の部屋。従者の中で唯一の一人部屋。明日からは従者として先輩と同じ部屋で寝るのかな?
「んぁ…」
「ナナ。朝だ。起きなさい」
「あ、はい!」
「ははは。随分と大きくなったな」
「は…わ!?」
「もう少し小さくないと私の膝下に収まらないんだが」
「わかりました」
身長を小さくしていく。なんだろう、小さくなるというより、身体だけが幼くなるような感覚。隠岐奈様の膝に丁度良い目線で止めて、いつも通り隠岐奈様の膝に乗って、待機。隠岐奈様が小さな布団を持って俺にかける。恥ずかしさを軽減する為なのかな。嬉しいけども、恥ずかしい。先輩達二人は俺が起きるよりも前からずっと仕事をしていた。面目ない
「さあ、ナナはこのままで、始めようか」
「はい!」
「ナナは?」
「この膝掛けの中だ。可愛らしい頭身になってくれてよかったよ」
「えぇ!?お、お師匠様…!?僕にも見せてください!」
「わ、私も!」
「ああ、良いとも。ほら、顔が真っ赤だ」
…なぜ、こうも恥ずかしいことをされるのか。隠岐奈様に縋るように背中を押しつける。すると、柔らかい感触が返って来る。小さくなると体重も軽くなって押す力が弱くなるみたいだ。うん、気持ち良いかな。
「…っ♪」
「お師匠様、機嫌良いね」
「ナナが膝下にいればね」
こうしてその日の仕事は進んだ。けど、俺はそのまま。隠岐奈様にこの能力を与えられたから、と言って先輩と同じ部屋に行こうとすると、隠岐奈様に体を抱えられる。一体何なのか。抱えられる瞬間まで不思議そうな顔をしていたお二人も、抱えられた瞬間、『だよね!』といった顔をしていた。俺としては、従者の部屋で寝るのは当然だと思ってたんだけども。
「?」
「ナナ、なんであの二人と一緒に寝ようとしたんだ。私と一緒に寝るのが道理だろう?」
「そうなんですか?」
「そうだ。ほら、こっちに身を寄せなさい」
「はい」
隠岐奈様に体を寄せて、抱き合うようにして眠る。これはかなり嬉しい。隠岐奈様の体温が伝わって来て、安心して眠れる。明日は何をするんだろうか。何か面白いことかな、お仕事かな。異変になるとあまり一緒にいられないので異変じゃないと良いな。
「んぁ…?」
そう考えて寝たら、随分早くに起きてしまった。隠岐奈様はまだ寝ている。いつも隠岐奈様の座っているところへ行くと、お二人がすでに仕事をしていた。隠岐奈様の寝坊かな、と思いきや、二人がとんでもなく早起きなだけらしい。お二人はすごいなぁ、とか考えながら椅子に座る。隠岐奈様がいない時はずっとこうしている。
「ナナ、多分お師匠様のところにいたほうがいいよ」
「僕もそう思うかな。ナナはお師匠様に大切にされてるからね」
「?」
「な、ナナ!ナナがいない!!」
「ほら」
「二人とも!ナナは…!」
「こちらに。早起きして暇だったからこっちに来たようです」
「はぁ…はぁぁぁ…私をあんまり不安にさせるんじゃない」
「ご、ごめんなさい」
今度からは早起きしても私のそばにいるように、と言われてしまった。今度からそうします、という間もなく膝に置かれてしまった。入らない力を込めて背中を隠岐奈様に押し付ける。ずっと、こう。目の前で行われる仕事を、隠岐奈様の膝上から眺めて終わる一日。それが僕の役割。眠らないようにするだけの簡単なお仕事。隠岐奈様の温もりを感じてるだけの仕事。
「お母さん、暑いです」
「…もうそんな時期か。二人とも、扇風機は何処にしまったか覚えてるか?」
「覚えてますよ〜」
「もう5回目かな、ナナの要望で扇風機出すのは」
「ごめんな、直ぐに涼しくなるからな」
「はい」
隠岐奈様:あ〜、自我が成立していながらもまだ曖昧な子供を愛でたいなぁ…ちょうど良いのみっけ!私が愛してあげる!(外の世界)
ナナ:捨て子。隠岐奈様に支えてから5年は経ってる。恥ずかしいものの、いつものポジションは好き。
前書きをね。披露したいから、投稿した部分はあります。でもね、僕はね。隠岐奈様のお腹に顔を沈めたい