ハッピーバースデーを歌って欲しい人堂々の一位である華扇さん。の右腕、茨木童子
「あー、だる」
「なぜそうも怠けていられるのですか?」
「店を潰すため?」
ふざけて返事をすると、何か逆鱗に触れたのか。華扇さんが怒り出す。華扇さんとこの店の元経営者である俺の父は面識があった。父は頑固で、尚且つ曲がったことが嫌いな正確。そんな父が先日くたばり、晴れて一族経営のこの店が俺に受け継がれた。
「だいたい、俺は妖怪が嫌いなんです。ほとんど妖怪しか来ない店は潰さないと、俺が潰れちゃうんで」
「何故そんなにも父君とは反対なのですか」
「俺からしたら親父の方がわからん。まあそもそも、あんまり関わったこともありませんが」
「…反抗期?」
「違います」
子供の頃から知っているからと言って、流石に。華扇さんにまで反抗期になるような間柄ではないし、そもそも反抗期は過ぎ去っている。だからといって熱く意見しても、それはそれで反抗期と見做されるので。違いますの一言で留めておく。というか、あなたは妖怪なのでは?
「そういえば、華扇さんは妖怪じゃないんですか?」
「私は仙人です。ですので、人外の類にはなりますが、妖怪の類ではありません」
「へぇ」
翌日。人外を妖怪と呼ぶのでは?と思っても無視して店に立つ。ちなみにウチは団子屋。大した味もせず、何を胸張って親父は売ってたのか迷う、団子屋だ。甘味処に安価で大量の出荷をするが、個人の客も集めている。華扇さんはよく食べる方らしく、大量に買っていくのだが。
「今日は来ないか」
「あら、ここの団子お安いのね」
「ん、あ、客さんで?」
「ええ。私のお友達から、安くて早く出してくれる団子屋って聞いたから来たのよ」
なんか全身青そうな人に言われ、とりあえず何個か聞く。20本と来たので、流石に予約なしでは少し時間がかかかることを伝えて作る。そばに居た何だか顔色の悪そうな子供のために何かおまけを、と思い一本追加。これだけあって、やはり友達とやらと食べるのか。それとも、1日何本ずつと食べるのか。
「はい、どうぞ」
「ありがとうね。…あら?一本多くないかしら」
「いやぁ、3本ずつ入れる箱だから、2本は収まりが悪くて。お代はいらんよ」
「…まあ、素敵。華扇様が気にいる訳ですね」
何やら華扇さんを知っていたらしい。去り際に、今日は華扇さんが来ないと伝えられ、見送る。だからと言って俺も店を閉じようとはしないが。個人のために経営する店は嫌だ。それからも妖怪が多々来つつ、今更断れない現状を悟って嘆く。どうしようもないのか、と。
「…ん?」
ふと。目の前を変な女が通る。どこか華扇さんに似ていて、どこか似ていない。角が生え、その角が可笑しくも鬼であることを主張している。そして、決定的に違うことが。片腕に包帯を巻いていない。いつもと違う彼女の姿にどきり、なんて本を読んだのはいつだったか。
「ん、ここね」
「…」
「団子、20本」
「あ、はい」
どこか、引っかかる。
「どうぞ」
「…気付かないのか?」
「何がです?」
「私は、お前のよく知る」
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
横から地面と水平な華扇さんが飛んできた。何か、焦った様子だった。華扇さんは華扇さんによく似た鬼を蹴飛ばした後、その鬼を連れてどこかへ行った。なんだろうか。全体的に青い人が言っていたことは外れたが、やはりあの人も何か知っていたのか。
「…はぁ」
その翌日。店は定休日なので、店の前で呆けていると。先日の華扇さんによく似た人が来た。
「ふん」
「なんです?」
「…その、あれ、だ。ごめんなさい」
「…?」
「その、えっと」
「何も壊れてないんで、良いっすよ。むしろ潰してくれた方が嬉しかったんですが」
「あ、そう?」
「…で、貴女は誰なんですか?」
「私か?私は…なんて言えば良いのか。茨木童子。その片腕だな」
「つーことは妖怪か」
少し離れる。片腕からそうなるのは、随分と力がある妖怪なのだろう。華扇さんによく似た顔であることの説明も求めたかったのだが、それは置いておき。全体的に青い人に面識はあるかどうかを聞いた。答えとしては、曖昧なもので。会ったことはあるが、私は会ってない、と。なんとも、変な話だ。何か関わりはあるけど…な、感じか。
「見つけたわよ」
「げっ!」
「逃げないの!」
「いやー!ちょっと、助けて店主サマ!」
「はぁ!?って、な、何してるんですかはしたない!」
奇しくも華茨木童子を膝枕にしている状況。後なんか、すごい顔を押し付けられてる。股に。変な人だな本当に。くすぐったいから無理矢理離したいが、全然離れない。どうなってんだ。力を入れ直し、華扇さんと息を合わせる。無理。角を掴んでみるか、と思い掴むと、今度は妖怪が痙攣し始めた。
「うわっ!?」
「ちょ、本当にはしたないからやめて!」
「全く…仕方ない。今日はこの程度で許してやるか…あ、店主!明日も買いにくるからな」
「わかりました」
こうして、定休日が過ぎていくんだなあ、とか思ってたら。そうはならなかった。途中で引き返したのか、茨木童子が抱きついて来た。ストレートな好意は受け止めた覚えがないため、少し戸惑う。すると、俺の腕の中でだんだんと小さくなって行き、そのまま片腕になった。…本当に片腕だったんだ
「…!!」
「華扇さん、どうしましょう」
「〜…貴方がその腕、管理してくださいね」
「えっ」
それからと言うもの、寝る場所に置くこととした。するとどうか。推定茨木童子の腕を置いたその晩から枕元に誰か立っている気が。どう見ても腕なのだが。
「そう言うことがあるので、どうにかなりませんか?」
「…そうねぇ。それ、元々神社に置いてたから…神社に起きに行きましょう。」
「はい」
「じゃあ、団子50本」
「はーい」
「間伸びしない!」
作り、包み、出す。その時に華扇さんに尋ねた。全体的に青い人のことを。何かが頭の中でつながったかのような顔をしてから、御礼を言って袋を持ってどこかへ行った。何かあったのかな。それ以降の人はぼちぼち。妖怪も同様。まあウチは甘味処に出荷してるから潰れることはないけど。どこか思い詰めたような顔をして消えた華扇さんを思い出す。
「…これじゃまるで、恋だな」
あり得ない。俺からすれば、親のような人に恋愛。本当に、あり得ないこと。
「へぇ。私が聞いてやるよ」
「うわっ」
「何でそんな驚くんだ。傷つくぞ」
「鬼がそんなので傷つくんですかね」
「そんなことだからこそ良いの。それで?恋ってのは?」
「…いやぁ、最近、気が付けば華扇さんの顔の変化を見つめてる気がするんで」
「おお、順調だな。いやぁ、良いなぁ」
「…どういうことです?」
聞いたことをまとめれば。華扇さんは人が好きらしい。人が好き…?とも思ったが、まあそれは置いておき。華扇さんはその中でも我が家を気に入っているらしく、そう言った意味では良いことだと。随分と利己的である。
「はー」
「な、面白いだろ?」
「面白いっすねぇ」
「…ま、私も華扇も同じような物だから、私からしてもお前は気に入ってるんだぞ」
「あ、はい」
「何だその反応は!乙女のお気に入りだぞ!」
「あだだっ、よ、妖怪に乙女って何ですか!」
「それもそうだけど!…だけど!!」
何もわからないまま時間が過ぎ、華扇さんは全く茨木童子を取りに来ず。やはり枕元に誰かが立つと言うことは心に悪いのか、神社の帰り道に妖怪に襲われてしまった。その所為で
、神社に納めようとしていた茨木童子がどこかに行った。もしかしなくてもまずい?その場は巫女さんに助けてもらったが、あの腕がないのはやはりまずいのでは。団子屋やりながら思う。
「ちゃんと私を抱きかかえてくれよ」
「うわっ」
「実体化できるんだから、別に気に病む必要はない。それだけ大事に思ってた証拠だものな?」
「うへぇ」
「いやしかし、こうやって共に団子屋の中にいたら、恋仲と言われたりするんじゃないか」
「…そんな馬鹿な」
「私は別に良いぞ。多分華扇も。」
「いいえ。私が断固否定するのでそうはなりません」
「鈍い奴だ」
「…何店の中でイチャイチャしてるんですか?」
「華扇さんがそう見るのは無しでしょ」
「あはは!」
「とにかく。今日は茨木童子の回収に来たのですから、大人しくしてください」
「は?」
「ようやくですか」
連れ帰る時、茨木童子はこちらを見つめていた。若干怖かったが、まあ良いでしょ。これでようやく平穏が戻る気がする。子供の姿をした妖怪が来たり、人が来たり。まあ、茨木童子の件を報告する点で神社にもう一回寄るのだが。
「うーす」
「あら。あの腕は華扇が回収したの?」
「はい。そのことを報告に」
「別に良いわよ。賽銭さえ入れてくれれば。」
「…」
「何黙ってんの、賽銭箱はあっちよ」
「えー…」
「ま、それはそれ。こんだけ暗い中でよく来れたわね」
その帰り道。華扇さんと偶然にも出会った。しかしまあこの華扇さんも、何やら変で。頭についてたまん丸のやつから、かなり大きい角が。爪が大きく伸びてて、華扇さんらしくない。華扇さんの見た目をしたらしくない人は、どちらかといえば茨木童子に近く。
「どっちですか?」
「華扇ですよ。」
巫女さんに別れを告げ、華扇さんと夜道を歩く。華扇さんとのお話は、最近の俺の様子。だが、華扇さんの話を聞いていくうちに、首を傾げる内容が多くなってくる。
「待ってください」
「…なんですか?」
「寝てる時の服装って、どうして知ってるんですか?」
「…はぁ。そうか。華扇になり済ますなら、そうだな」
「…?」
「ま、察しはついてると思うが、私は茨木童子だ」
「あ、はい」
「良いか?よく聞け。今から私は、お前に対して一世一代のことを言う。」
「はぁ。」
「…お前が好きだ。欲しい。私のものになって欲しい。」
…予想外。純粋な好意をやはり受け取ったことのない俺は、どうすれば良いのやら。でも妖怪は嫌いで、それなので断る。
「鬼の四天王、その一人である私のものに」
「嫌です」
「…なんでだ?」
「俺は団子屋してたいので」
「団子屋なら、妖怪の山でも出来る。人里が好きならそこまで毎日私が見送る」
「いやです」
「…そうか…そうか、そうだな。わかった。すまない」
気不味い雰囲気のまま進む。里について、茨木童子に『じゃあ』と言われ、ようやく解放。団子屋に戻り、そのまま眠る。誰かが見てくる気配はなく、久しぶりにストレスフリーな睡眠ができた。
「ってことがありました」
「…へ?」
「いやぁ、妖怪は嫌いなんですよねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってください。私の腕が、貴方に告白?」
「はい」
「…ほぼ私みたいなものなんですけど」
「仕方ないですね。」
「これから私は貴方にどんな顔をして行けば…」
と、その時。華扇さんの右腕の包帯が急に解け出した。華扇さんがそれに気づく様子がなく、もしかしたら、包帯の中には…なことがあり得るので中に入れる。しばらくして包帯が完全に解ける。
「…っ…!」
「ど、どうしました!?」
華扇さんが苦しみだし、胸を抑えながら倒れ込む。巫女か医者か。どちらを呼ぶべきか問えば、巫女と。準備をしている暇などなく、走って向かおうとするも、扉が開かない。商品を受け渡すところから出ようにも、何故か出られない。壁があるようで、ないような。
「華扇さん、出れません!」
「そんなっ…!ぁあ!」
瞬間、華扇さんに右腕がくっつく。いや、くっつくと言うより、どこからか飛んできたかのような。それでもなお苦しむ華扇さんの気が紛れることを祈り、塩を垂らす。すると塩はすぐに黒く染まり、華扇さんの苦しみは止まらない。それどころか激しくなったようだ。確か、神棚に、お酒が。何とかなれと振るうも、効果はない。
「っぁあ!」
「ひっ」
ついには、華扇さんの頭から角が生える。爪が長くなり、歯が伸び、どこか、茨木童子に似てくる。現実味のない空似は、段々とそれが現実であることを主張し、そして華扇さんはついに、茨木童子と瓜二つになった。
「はぁ…やっぱりこの体は良いな」
「茨木童子…」
「ん、そうだとも。お前に告白し、無様にも振られた茨木童子だ」
「なんで、華扇さんが」
「なんでって…私がこの体から抜ければ、華扇。つまり、華扇は鬼だ。お前が嫌う妖怪だ」
「そんな…」
「さて、真実を知ったところでもう一度聞く。私はお前が好きだ。お前が欲しい。どうか、私のものになってくれるか?」
「い、いやです、誰か、巫女様!」
必死に助けを求める。扉を体で押す。叩く。蹴る。びくともしない。鬼の奇怪な術か何かか。せめてここから出なければならない。そうじゃなければ、茨木童子に何をされるか。
「巫女に助けを求めたな。まずは腕をもらう」
腕がくしゃりと音をあげ、呆気なく折られる。痛みで悶えて、転ぶ。
「ぁ、あぁあ、」
「もうこのまま離さないぞ。お前は、私が見つけた、最愛の男だ。」
「離せ、はなっ」
「鬼が離さないと言っているんだ。離すわけがないだろう。後…言っておくがな。華扇としての私も、お前をこのようにしていたいと望んでいたようだ。そっちは機を伺っていたがな」
茨木童子…人間に拒絶されてたけど、受け入れてくれる人間知って大好き!な鬼。
華扇…子供の頃から見てて愛らしい。できれば我が子に来ないものか、と思ってる人
青蛾(全体的に青い人)…茨木童子の封印解いちゃいました♡楽しそうでなにより。
主人公…団子屋。華扇とは子供の頃から知り合っている。