東方純愛小話   作:覚め

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殺される前に殺したい。


ナズーリンの矛先

「誰だ、君は」

 

そう言われて初めて、ここが家でないことに気がつく。仄暗く、何やら地面のゴツゴツから洞窟であることがわかる。いや、洞窟なのだろうか。見えないものはない程度には明るいが、見辛い程度には暗い。光が差し込んでいるからであって、やはり洞窟なのかと確認する。

 

「…さあ。とりあえず、出るの手伝ってもらえると助かる」

 

「は?」

 

洞窟の入り口と思わしき場所は、俺が出るには小さい。目の前の小柄な少女ならば出入りは容易だろう。だが、俺はそうも行かない。つっかえる。押し通るには力が足りないのだ。

 

「すまない、助かった」

 

「まったくだ。それで?君は、どこの、誰なんだ?」

 

「ちょっと待ってくれ。」

 

少し悩む。思い出せない。見事に、俺の頭から名前が抜けている。先程家を思い出せたのだから、思い出すと思ったのに。

 

「どうやら、覚えてなさそうだね」

 

「…ああ。君は?その洞穴は秘密基地?」

 

「あっはは。この尻尾を見て、それでもそう言うか。君は外来人かな?」

 

「なんだ、その…ガイライジンって」

 

渡来人かとも思うが、何か違うのか。目の前の、全体的に鼠色で、尻尾が生え、棒2本を構えた少女はしゃがみ込み、尻餅をついている俺と目線を合わせながら説明してくれた。

 

「幻想郷…妖怪…」

 

「ああ、そうだとも。だから私は、君よりも歳上。バランスを保つために管理人が食料を入れることはある」

 

「ということは、なんだ。俺がその食料と」

 

「そう捉えたいが、偶然ここに辿り着く者も居る。そう言った場合は、元の世界に帰す決まりだ」

 

「…なるほど?」

 

「勿論君がそれを嫌だと一蹴すればそれまでだが。どうしたい?」

 

「記憶がないからなぁ」

 

答えは先延ばし。それだったら、と言われながら目の前の少女─ナズーリンと言うらしい。ナズーリンに手を引かれつつ辿り着いたのは寺。事前に知らされていたのだが、門番から僧まで、人間は一人もいないと言う。元人間はいるらしい。違いが全くわからないが、まあそれはそれだ。

 

「…こんにちは」

 

「こんにちは!!」

 

「耳が…」

 

「ほら、聖に紹介するんだ。邪魔しない」

 

「その聖と言う…妖怪?妖怪はなんだ?」

 

「魔法使いだ。少々人間に対して懐疑的なところはあるが、住職をしている」

 

「住職」

 

聖と言うのは苗字らしい。下の名を白蓮。何か、昔の名前である。何も考えることがなく、聖という魔法使いに会う。何やらナズーリンと話し合った後で、この寺で住み、考える時間を作ってみてはどうかと提案された。

 

「…いや、良い。すまないが、毛の色が黒か白以外の生物は苦手なんだ」

 

「そうですか」

 

「ならここは厳しいな」

 

実を言えば、先程聞こえて来た虎の声。あれが怖いので断ったのだが。それならば、と。ナズーリンが世話をしつつここの生活に慣れさせれば良いとして話は着いた。

 

「すまない」

 

「なにが?」

 

「…妖怪と暮らすのは、嫌だろう」

 

「そうかな。そうかも。」

 

「ましてや人食いだ。安心して欲しいが、私は君を食ったりはしない。」

 

「だろうな。それなら、俺は出会った時に死んでる」

 

「それもそうか…だが、問題がある。君は妖怪の暮らしか人の暮らし、どちらが好きだ?」

 

「…そうだな。妖怪の暮らしを知りたい」

 

「そうか。ならもっと問題がある」

 

「なんだ」

 

「君のいた洞穴では、君が入れない」

 

「…まさかとは思うが、あそこが?」

 

「私の家だ」

 

それではどうするか。入り口を広くするのは他のネズミに迷惑をかける。と言うことで丁度良い洞穴を探す旅に出ると言う。棒2本を構え、右往左往。聞けば棒は、ダウジングと言うものに使っているらしい。なるほどそんなものも。

 

「…あった。これからここで暮らすことになるが、やはり人の生活の方が良いと思うぞ」

 

「いや、これで良い。こういうのは、多分好きだったはずだ」

 

頼りにならない記憶で、火を起こす。無事に火が着けば、ナズーリンからもらった肉を焼く。さてあとは寝床だな、と二人して頭を悩ましていれば、ナズーリンの側からネズミが出て来た。段々と集まり、その一匹ずつが葉を持っており、だんだんと集まる。

 

「…まさか」

 

「勘違いしないでほしい」

 

「ナズーリン。いくら妖怪でも、人体でここに寝るのは危険だと思うぞ」

 

「そっちか」

 

「何が?」

 

「いや、一つしかないことだと」

 

「何。小さい頃は布団も被らずにアスファルトで寝てた身だ。石の上でも寝れる」

 

「…そう言うんじゃ無いんだよな」

 

石の上は思ったよりも冷たく、日差しが差し込まなければ凍え死ぬな、と確信する。そのまま風呂にも入らずに寝ようとすると、ネズミが集まる。ネズミとも思えぬ力で転がされ、葉の上に。このネズミらも妖怪の一種だと、後で聞かされた。

 

「ネズミはなんて言ってるかわかるのか?」

 

「うーむ…『ナズ様と外来人のカップルキタコレ』、『葉が足りませんか』、『水浴びはしないのですか』…だね」

 

「水浴び?」

 

「あー…洞窟の奥から聞こえてくるだろう?水の流れる音だ」

 

「…ん、本当だ」

 

何やら気になる単語もあったが、それはそれ。これはこれ。さっさと水を浴び、眠りに着く。翌日になると日が差し込み、洞窟の床は中々に暖かくなっていた。ナズーリンは何やら苦しそうにしていた。

 

「大丈夫か」

 

「いや…まずいな。」

 

「どうすればいい」

 

「私を背負って、そのまま私の言う通りに進んで欲しい」

 

言われた通りに背負う。意外と軽い。さてそれはそれとして、何故苦しそうにしていたのか。理由は、寝床が思ったよりも寒くて風邪を引いたから、らしい。あの床は冷たい。葉が敷き詰められても尚、寒くはなる。そのせいだろう、とナズーリンは推測していた。ナズーリンの言われた通りに進み、竹の中を右往左往して、ダウジングを頼りにして、着いた先は病院らしい、古い屋敷?

 

「あら、珍しい」

 

「風邪薬…といっても、妖怪に風邪薬なんてあるのか?」

 

「あるわよ。と言っても妖怪は精神に依存してるようなものだから、貴方から見れば精神安定剤に見えるかもね」

 

「へぇ」

 

そして、妖怪と長くいないようにと注意を受ける。ナズーリンはすっかり良くなった。あの医者の腕が立つのか。良くなったナズーリンは、どこか変わったように見えた。ナズーリンにそれを伝え、水面に反射する顔を見せれば、何か驚いたようにこちらを見て、そこから少しの間こちらを見なかった。

 

「…本当に、すまない。」

 

「風邪か?ま、仕方ない。生きてれば患う」

 

「いや、そっちでは…そうか、君は知らないのか」

 

「?何がだ」

 

「別に。知らないならそれで良い。と言うよりも知られたく無い」

 

何か含みのあることを言われ、黙る。何か、変わったように見えたことが理由か。先ほどの医者に聞いてみるのも良いかもしれない。だが、先程までいた竹林でどうやって俺は迷わずにあの病院まで辿り着けるだろうか。

 

そうして、数ヶ月が経った。

 

「…ナズーリン」

 

「なんだい」

 

「ここの生活については、良く知った。そろそろ、帰るか何かしようと思う。このままでは、ナズーリンにずっと世話になるばかりだからな」

 

「…へぇ」

 

「助けてもらった恩はある。ナズーリンも風邪を何回か患っているし、どうだろうか。ここら辺で元の住処に戻るのは」

 

「つまり君は、私を心配して、私の手の元から逃げていくと」

 

「…そういう言い方では正確かはわからないが、多分そうだ」

 

「そうか。そうか。」

 

何やら俯いて、何も喋らない。人里という場所に赴き、まずは寝床。それにしなくても、命蓮寺の方にも顔を出したい。ここでの生活に慣れたとは言いづらい。もしかしたら、また世話になるかも知れない。

 

「…ナズーリン?」

 

こちらを振り返ったナズーリンの顔は、どこか変だった。危機が間近に迫ったような、目の怯え方がそれを示している。ナズーリンが風邪をひく度に何処か違和感を感じていたことを踏まえ、やはり何かおかしいと思う。

 

「なあ、君」

 

「…なんだ、それは」

 

ナズーリンが口を開けると、口は不自然までに開く。もはや、何処かタチの悪い偽物を見ているような気分で。ナズーリンが近付く。ナズーリンが、何かを言う。

 

「押し倒してみたまえよ。そうすれば、私が風邪をひく度に覚えた違和感の正体がわかる」

 

言われて、衝動的に押し倒す。ナズーリンの頭が水中の岩にあたり、返ってくる水飛沫と音でハッとする。手を引いて、謝罪をせねば。そう思った途端に、感じた違和感の正体が分かった。ナズーリンの顔と、水面に写る俺の顔。瓜二つ。

 

「よく言うだろう。『憧れの人になりたい』、『あの人になってみたい』。私の場合は、『好きな人を知るために好きな人になりたい』、だが」

 

「…は?」

 

「私も乙女だったと言う訳だ。」

 

「どう言うことだ」

 

「妖怪は精神に依存した生物。精神に異常があれば、すぐに風邪をひく程。なら、精神に引っ張られて身体を変えてもおかしく無いだろう?」

 

「だから、なんだ?」

 

「心から望んだんだ。『君を理解するために君になりたい』とね。でもそれとは別に、『私は私、君は君』と言う心もあった。だから、こうやって顔のパーツだけが変わった」

 

察したくない。いや、察した。つまりこのナズーリンは、俺に対して好意を持っていた。妖怪は精神に依存する。だからこそ、精神に影響を及ぼすほどの関係を持つ相手が居れば、相手に似通って当然と言うのか。その度に風邪を?あり得ない、何故だ。どう言った理屈で。いつの間にか押し倒されていた頭で、何かを考える。

 

「そして、精神が崩壊した妖怪は存在が保てなくなり、消える。今の私から君が消えれば、私は消えるんだ」

 

「…は。」

 

「そんな状態の私が君を逃すと思うのかい?いや、思ってほしく無いね。」

 

視界の周りにネズミが集まる。

 

「君をここから出す気は無い。私が生きていくためにも、私の恋心のためにも。」

 

鼠が視界を塞ぎ、身動き一つできない。

 

「ああ、ご飯は私が作る。寿命も、どうにかできる方法がある。君はただそこに居て、私と共に生きる選択ができた時に教えてくれれば良い」

 

そう言って彼女は出ていく。俺に、鼠の体温と洞窟の冷たい岩の感覚だけを残して、どこかへ行く。

 

「君にとって最悪の地獄だろうが、私にとっては最高の暮らしだ」




ナズーリン:恋心はある日突然自覚するもの!!妖怪は好きな人に似るか、好きな人の好みに似る!
主人公:外来人。ただそれだけ。

楽しい
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