咲夜さん多め
「…っ」
ぶるり、身震い。咲夜さんから心配されるも、大丈夫と返す。この地下に続く道は、いつもそうだ。 何処からか視線を感じる。本当に視線ならまだしも、この館はいつ祟られてもおかしくない場所だからもっとタチが悪い。俺は幽霊の類が苦手だと言うのに。
「寝るなら早く寝なさいよ」
「はーい」
「…ちょっと」
「はい?」
「…貴方最近ぼーっとしてるから。辛かったら病院に行くのよ?」
「あ、はぁ…」
どうにも顔に出るらしい。地下へと続く道を歩き始めたのは数ヶ月前から。お嬢様直々に命令された。未だ怖くて、咲夜さんと共に行っているが。でもそろそろ病院なのかもしれない。ありもしない視線に怯えるのは、どうかとも思うし。咲夜さん言う通り、と言うよりも咲夜さんが知ってる病院か。そこに行くのかなぁ。
「っ」
また、身震い。
「…っ…、怖っ」
人の視線を感じるような場所では眠れない。寝たくない。だから、急いで最低限のものを持って咲夜さんの部屋を訪ねる。明日病院に行くべきなのかもしれない、とも話す。あり得ない視線が、部屋でも感じるようになったのだから。何処か、見定められているのかわからない。長い間見てるのかもわからない。
「そう…今から私が送るわよ」
返事をする前に連れて行かれた。そこのお医者さんに検査してもらう。相当に腕が良いらしく。検査もすぐに終わり、そのまま結果も言われた。確かに若干の疑いがあった。だが、その影響はあっても軽い幻聴幻覚で、本人を追い詰めるような幻覚や幻聴はないらしい。館に帰って、咲夜さんと同じ布団で眠る。翌日、感じていた視線は消えていた。
「よかったぁ」
「そうねぇ」
「…でも、病気じゃないってことは本当にあった視線よね?」
「こわいこわいやめてください」
「吸血鬼のいる館で働くには、臆病すぎると思うけど」
さらにその翌日。お嬢様が自身の妹について話してくれた。お嬢様が妹について話すのは、大体喧嘩した時か外に連れ出した時か外で迷惑をかけた時くらい…つまり愚痴と自慢半々だ。だと言うのに、説明のような話をされた。その後、地下室へと連れて行かれて、扉を初めて開ける。
「こんにちは…」
「あ!」
初めて見た、金髪の幼子が僕めがけて走り寄ってくる。この子が例の、妹。ここで長い間幽閉されてて、それで『ここで良いかな』とかなんとかで、新しい部屋に行かない人。いや吸血鬼か。
「お姉様もいるの?」
「貴女ねぇ…初対面の人に抱きつかないの。というか抱きつくなら私」
全くだ。そのまま妹様に手を引かれ、ベッドの上に。妹様は足まで乗せたけど、僕は腰だけ。何を言われても良いように。そのまま他愛のない話が続いた。異変とか、異変とか。御友人様のこととかも。全部初耳だなぁ。
「ね。」
「はい?」
「咲夜とは、どんな関係?」
「…」
上司と部下の関係と言うには、距離が近いのか。対等な関係と言うには仕事の立場が邪魔か。友人…だろうか。休日が重なればどこかに行くし。いや、もしかしたら世話係と手のかかる坊ちゃん?…ないな。うん。
「そんなことを妹様から聞かれました」
「そんなことが…あ、地下室に行く途中、視線は?」
「えーと…あった、かな」
「いつもなら感じてるのに、不思議」
「お嬢様が打ち払ったとか」
「お嬢様に恐れたか」
「…そこら辺ですよね、多分」
「でしょうね」
翌日。今度は一人で行くようにと命じられ、一人で行く。するとやはり、どこかで身震いする。誰かに見られてるのは分かるのに、それが病気じゃない。やっぱり昨日はお嬢様を恐れたか、お嬢様が打ち払ったかのどちらか。足早に地下室へと入り込む。お嬢様を恐れるなら、妹様でも恐れるはずだ。
「こんにちはー」
「こんにちは!今日は何するの?」
やっぱり。視線は感じない。
「昨日はさ。咲夜との関係、誤魔化されたけど。今日は絶対に答えてもらうから!」
「…うーん、なんて言うのかなぁ。上司兼お友達…とか、そう言う感じですよ」
「えー!嘘だ!私見てたもん!昨日の夜、咲夜の部屋に行ってたでしょ!」
「それは…そうなんですが。一緒に寝るのを許されている仲とも言えますし」
「えー!絶対嘘だ、ゼーったい嘘!」
妹様は思ったよりも子供っぽい。恋愛話が好きなようだ。僕と咲夜さんが特別な間柄であると信じているらしい。変な話だ。まあそんなことは置いておき。僕も咲夜さんからの評価は気になるので後で聞こう。これで間抜けとか言われたら傷つくなぁ
「…」
「妹様…」
「ふーんだ」
「アイスありますよ」
「本当!?」
「魔法のお勉強とやらは?」
「意外と順調!見てて…わ、熱っ」
炎を出す魔法を見せだと思えば一瞬で爆発したような炎を見せ、妹様が熱いと消してしまった。…吸血鬼にも熱いとかあるんだ。不思議…
「咲夜さーん」
「何?また怖いから一緒に寝るの?」
「いえ…僕って、咲夜さんにどう思われてるのかなって」
「新手の告白?…でも、そうね。んー…気の置けない人、ね。あとは、小動物?」
「えー…」
「そうね、それを纏めると…可愛い弟かしら」
つまりは咲夜さんからすれば家族の一員という訳だ。まあ、それならそう言う間柄なのだろうね。妹様に報告して、出て行く。地下室から出ていく時から、咲夜さんの部屋に逃げ込むまで。僕はずっと視線を感じる。でも今日は感じない。清々しい気分で自室に戻る。
「おやすみぃ」
朝。朝である。視線を感じないことで何も感じずに眠れたのか、ぐっすりだった。ベッドから降りて着替え、ご飯を食べ、仕事を済ませ。休憩時間。次は妹様の部屋に行かなきゃなぁ。なんて思って周りを見渡していると。
「隣、良い?」
「いつも聞かずに座るのに?」
「それもそうだけど」
「…」
「何黙ってるの」
「いやぁ、昨日、視線を感じなかったんですよ」
「へぇ…じゃあ、移されたのかしら」
「え?」
「私も昨日、視線を感じたのよ。だから貴方の部屋を訪ねたら、グッスリで…仕方なく一人寂しく怯えながら寝てたのよ」
「それは、ごめんなさい」
「良いのよ。でもその時に見た夢が…妹様にジッと見られる夢ね。悪夢だわ…」
「そーなんですね」
「…やけに冷静ね。私が参ってるのを見て喜ばしいの?」
「いや…うーん」
夢とかってのを僕は大事にする人間だと自負している。というのも、お医者さんに言われてから見た夢を気にしているだけだけど。咲夜さんの夢と、僕が妹様から聞いた話で疑問に思うことがあったから聞いてみようと思う。
「妹様〜」
「ねえ、貴方と咲夜って本当に何もないのよね?」
「…前も言った通り、弟と思われてます」
「ふーん…」
「妹様、少し聞きたいことが」
「何?」
「…あの、地下室の前を見張ってたりしますか?」
「…あ、バレちゃった?」
「やっぱり…」
「理由も話したほうがいい?」
「はい、出来れば。」
「…そうねぇ。初めは、一目惚れ。それで、お姉さまに頼んで毎日来てもらうようにしたの。咲夜はいらなかったけど」
「そんなぁ」
「それでね、咲夜が毎回ついてくるから、どんな関係なのかって、見てたんだけど…まさか、部屋の中となると。咲夜は扉をきちんと閉めるから、入れないの」
「僕も閉めてたと思うんですけど」
「いいえ?」
「…それはそれとして。何故僕を見続けるんですか?」
「それで。そろそろ咲夜が邪魔になってきたの。だから、昨日。咲夜を辞めさせないと暴れるぞってお嬢様に言ったのよ」
「えっ」
それは、いけない。その話を聞いて、お昼の咲夜さんを思い出す。参ってるふうに見えたのは、どうやらそれが原因か。扉を開ける、開けれない。体当たりをしてみても、無駄。
「…っ」
「開けたいの?咲夜の場所に行きたいの?じゃあ、開けてあげる」
震える。震えるのを抑えて、走る。妹様は追ってこない。どうやら咲夜さんは自分が原因であんなに参っていたらしい。なら、お昼は、僕が恨めしくて、でも仲が良くて、そんな微妙な感覚で僕に隣に座れるか聞いたのか。
「咲夜さんっ」
「あら…妹様から聞いた?でも、そうね。貴方が謝ることじゃないわ。…こんなでも、参るのね。嫌になるわ…」
「咲夜さん、僕、は」
「なんでも良いけど、私はこれでさよならなの。それじゃ、さよなら。」
なんだか、無気力。お嬢様からは、気にかけたような言葉は来ても。美鈴さんがメイド長としての仕事をこなしている現状でなんだか。まあ、それは良いや。
「…なんで。僕が?」
「あ、その質問答えてなかった?ごめんなさいね。私のこの羽根。私はこれを綺麗だと思ってるの。私の宝物。」
「…」
「私の宝物は、二つ。この七色の羽根と、貴方だけ。宝物を傷つけるようなものは、排除するのが常でしょ?」
咲夜さん…クビ。本当に弟くらいにしか思ってなかった。支え合う姉と弟みたいな。
主人公…見習い執事。結構頑張ってた。
フラン…羽根大好き!貴方大好き!一目惚れしたのは働き始めて1ヶ月目くらいの時。
的な。
正直言って、今回の咲夜さんみたいな距離感は好きです。