ゲーム禁止されててよくわからなかったが、どうやらここはマインクラフトの世界らしい 作:Ganohr C Vtuber
空を見上げる。ジリジリと照りつける太陽、生ぬるい風。淀んだ空気に押し流され、雲は西から東に抜けていく。
「うっ、寒い‥‥」
今日は比較的に温かい予報であったが、ビル風は容赦がなかった。無意識にジャケットの襟を両手ですぼめながら、俺は掲示板まで移動した。
・・・
人だかりの中から、遠方に掲示された番号を探すのは容易ではなかった。眼鏡の度が合わない。周囲には飛び上がったり、喚いたり、右往左往している人達がいる。どうもその中に割って入るのは気が引けた。
俺はスマホのカメラとズーム機能を駆使しながら、かろうじて数字探していった。幸い、俺の番号は探しやすかった。番号の先頭にはアルファベットの1文字がついており、大まかに掲示板が振り分けられている。
「A30022」
それが俺の番号だった。Aの3万番。掲示板は百の位ずつ右端から掲示されている。
「ない‥‥か」
・・・
帰路に向かう。途中母親からの着信はあったが、何を話したか覚えていない。多分、また来年もあるとか、そんな話をしたのだろう。ヘッドホンから流れるHBBの音量を気持ちばかり上げていく。あまりJ-POPは好みじゃない。クラシックは母親に勧められていたせいで、好みではなかった。
途中、誰かから声をかけられた感じはあった。
しかし、普段から人に声をかけられることはあまりないし、それが自分へ向けられている言葉だとは思わなかった。だってそうだろ? ヘッドホン付けてうつむきながら歩いている160cm前後の中肉中背に、誰が好き好んで話しかけると思う?
その声に気づいて後ろを振り向いた俺は、奈落の底へ落ちていった。そう、文字通りの奈落へ。
‥‥それが事の始まりだった。
第一章 暗黒界冒険譚
◎ 赤い世界
――絶命――
ありきたりかもしれないが、そんな言葉が似つかわしい。俺は高所から落ちたようだ。「ようだ」なんて、随分曖昧に聞こえるかもしれないが、そうとしか言いようがない。
俺の記憶では、誰かに声をかけられて振り返った。そこは間違いない。その拍子に足を踏み外して落下したと思う。眼前は明から暗へ、黒から赤に変わった光景を鮮明に思い出せるからだ。
‥‥しかし、やはりそもそもがおかしい。
俺は自分の足を見た。
「やっぱり、怪我なんかしてないよな‥‥」
もしも本当に記憶どおりに、「高所から落ちた」のであれば、たぶん今頃激痛に苛まされているだろう。いや、確実に死んでいる。なぜなら、落下には実に2・3秒もの時間を要したからだ。
ペンと紙を持っているわけではないし、そこまで正確には計算できないが、東京都の重力加速度は「9.793」だ。今年のセンター試験の問題にも出題された。落下までに3秒を要したのであれば、
(1 / 2)・gt2
の自由落下の公式から計算すると、落下距離は44mにも及んでしまうのだ。たとえこれが2秒だったとしても20m程もある。こんな高さから落ちたのなら、無傷でいられるわけがない。
‥‥そもそも。
俺は周りを見回した。
「‥‥赤い」
俺の今いる環境を一言で形容するなら、「赤い」以外にないだろう。もう少し細かく形容していいなら、「薄暗くて赤い世界」だ。ともかく赤い世界が広がっていた。
「‥‥日本?」
ついつい独り言が出てしまう。これは俺の癖で、集中すると独り言が出てしまう。幼い頃からこの癖のせいで散々な目に合ってきた。
‥‥いや、止そう。自己嫌悪に陥っている時間はない。今は異常事態だ。
改めて周囲を見渡す。
「東京都‥‥ではなさそうだ」
東京には様々な地下構造物が広がっている。神田だったら神田下水とか、地下鉄のホームとか。まあ、これらは規模としてあり得なさそうだ。周囲50m~60mもの空間が空いている。
「まあ、地下鉄のホームは数百メートル以上の深さにあるからな」
・・・
ひとまず情報を整理しよう。
・俺は東京の文京区で通行中に落下したはずだ
・落下時間から20m~40mの高さから落ちたはずだ
・落下したはずだが、体に外傷は見当たらない
・目が覚めたら周囲50m~60mの空間にいる
・周りは赤い壁? 山? で覆われている
‥‥わけがわからない。
俺はとりあえず、その場でぼーっとしていることしかできなかった。
――キュイ………ー…ンンン――
俺はハッと我に返った。変な音が聞こえたのだ。周りを見回したが、異変は見当たらない。
‥‥しかし。
俺はその悲鳴にも似た音を聞いて、不安を掻き立てられた。