『ハロハロー、グレゴール将軍に置かれましてはご機嫌いかが?』
「茶番はいい。本題に入りたまえ」
アルバートの精一杯の気遣いは霧散した。グレゴール貴下の陣営は絶対零度の静寂の中で各自が仕事をこなしている。
『…お酒とかの嗜好品、送っておきますね』
機械の様な動作で書類を捌いていた何人かの耳と肩がピクリと震えた。
「必要ない。それよりも弾と火薬を速やかに送りたまえ」
『無理ッス』
「兵士の給料を送るよりは簡単だろう?」
酷い話である。命懸けで働く兵士の給料より戦争が大事か。
「金などあっても使えない。今は早くに戦争を終わらせるのが得策だと貴様も判っているだろうに…」
グレゴールも含め、三将軍(ドライ・シュテルン)は首都を包囲する形で三つの陣営を築いている。ガリア公国の上層部に圧力をかける意味もあり、目視出来る距離に野営をしているので占領政策も必要なく強烈な戦意を首都に向け続けていた。
儲け話に関しては異常な嗅覚を持つ商売人達も流石に殺気だった軍隊には近寄れないでいる。需要はあっても供給は無い帝国最前線に金は無用の長物にも思えるが、
『カードゲームするにも賭け金は必要だぜ。グレゴール将軍』
「…使う意味の無い金をどうやって本国から引っ張って来ているのか知らんが、余りに度が過ぎれば私から直接本国に報告をせねばならなくなる。マクシミリアン殿下の後押しがあるとは言え、好き勝手が過ぎれば身を滅ぼすぞ」
『ご忠告、肝に命じますよ。一週間後には弾薬が届きますんで、仲良く三人で首都取りをして下さいな』
無線越しで姿も見えないはずのアルバートが肩をすくめる気配を感じながら、グレゴールは無線を切る。
(奴め何を考えている)
本国からマクシミリアンの監視を密命として受けている、グレゴールは本国へ報告書を送らねばならない。
だが、ガリアとの戦争に興味が無いかの様にガリア公国内を巡るマクシミリアンに戦線の維持だけを目的とした様なアルバートの動きには確たる真意を掴みかねていた。
本国から送られるアルバートの動きには不審な点は無い。
むしろ、連邦との小競り合いの中でよくもこれだけの食糧と資金を途切れさせずにガリア戦線へ捻出していると驚く程である。
(有能には違いない。だが、奴等は何のためにこの戦争をしているのだ)
ガリア侵攻は帝国の意思であるが、その主軸たるマクシミリアンとアルバートの意識はガリア公国占領には向いていない様にグレゴールには感じられていた。
(何にせよ、今は情報を集めなければな)
軍帽をキュッと深く被り直してグレゴールは鋭い切れ長の目でガリア首都を睨み付け、それ以上に鋭い目で後方を睨み付ける。
今日も食糧と資金を満載した輸送部隊の列が途絶える事はない。