【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話 作:虫野律
──prrrrrrrr。
サヘルタ合衆国の中規模都市にある「ベーカー探偵事務所」──要するに俺の職場にて、電話が鳴り響く。
「なんだろ……」
自慢じゃないが、うちの事務所はそんなに依頼があるわけじゃない。だから電話が来るのはそこそこ珍しい。
受話器を取る。
「ベーカー探偵事務──」
「事件だよ! すぐに来てほしい!」
俺が出るや否や、そう言ってきたのは、この町を所管する警察署で強行犯係の刑事をしているハンナだ。
何やらただ事ではないように聞こえるが、ハンナはいつもこんな感じだから、そんな大した事件じゃない可能性もある。
「りょーかいです。依頼料は──」
「場所はK駅近くの株式会社フェイク本社ビルだから。早く来てね!」
──ツー、ツー……。
切れた。
相変わらずマイペースを極めている。こんなんで聞き込みとかできるのだろうか。
ま、いいや。ちょっと電脳ページ(ウェブサイト)で会社のことを調べてから行きますか。楽しいミステリーだといいな。
さて、突然だが、俺は
で、元々は日本でミステリー小説を読むのが趣味の普通の奴だったんだけど、気がついたらハンターハンターの世界で赤ちゃんをやっていた。こっちでの名前はエヴァン・ベーカーね。
控えめに言って焦ったよ。漫画は一通り読んだことはあるけど、細かいとこは覚えてないうえに、何より、人がグロい感じにポンポン死んでいくってイメージが強かったから。
当時0歳児だった俺は、ベビーベッドで知らない天井を眺めながら色々考えた。今後の人生設計ってやつを。
悩みすぎて朝と昼と夜しか寝れなかった俺は、ふと気づいたんだ。
あれ? サイコパスなノリで人がポンポン死ぬのってミステリー小説の世界みたいじゃね?
天啓かと思った。よくよく考えると俺の好きなミステリー小説でもバラバラ殺人、毒殺、爆殺、連続殺人などなどヤバイ人死にがデフォだった。
この世界でならミステリー小説でしか見られないような面白い事件が見られるんじゃないか。
そう思った時、俺の人生は決まった(生後数ヶ月)。
そんで、なんやかんやあって、おぼろげな原作知識を頼りに念を修得しつつ、探偵になった。やっぱりミステリーの花形は名探偵だからね。
俺も今年で26歳。立派なアラサーである。
株式会社フェイクとやらのビルに到着した。結構大きな電子機器メーカーらしい。最近ではIT分野にも進出しているみたいだ。
駐車場にはパトカーが何台か停まっている。だから多分ここで合ってると思う。
ビルの正面玄関口に近づくと、黒髪ストレートのアメリカン(?)な女性と目が合う。ハンナだ。
「や! 待ってたよ」
アルト調の声で快活に告げられた。少年のような声にも聞こえる。
「久しぶり、ハンナ。調子はどう?」
見るからに元気そうだけど、テンプレ挨拶は大切……かは分からないので単なるノリである。
「元気元気。エヴァンもいつも通りオラついてるようで何より」
「いや、オラついてないってば」
「?」
「……」
多分だけど、ハンナは非念能力者のわりにはオーラに対して敏感なんだと思う。だから俺が
だって俺の見た目って野暮ったい痩せた男だぜ。話し方も暗い方だし、ヤンキーってより明らかにナード側だ。それをオラついてるって言うのは、見た目以外で判断してるからでしょ。だから俺は“ハンナ念に敏感説”を信じてる。
オラついてないって言っても信じてもらえないのは、いつもことだから、さっさと本題に入る。
「それで、今回はどんな事件なんだ?」
なんだかんだで俺もワクワクしてるしね。
ハンナが神妙な顔で頷く。
「現場に向かいながら話そう」
「りょーかい」
ハンナが歩きだしたので、ケツを追いかける。
ケt……ハンナが話し出した。
「……ここの代表取締役──ローガン・コリンズさんが殺されたんだ」
「あらら」
電脳ページによると、この会社は典型的な同族経営らしい。つまり役員やお偉いさんは、コリンズ家の人間で占められてるってことだ。
で、代表取締役、簡単に言うと社長さんはコリンズ家の現当主だ……いや、「だった」か。
……うん。ものすごくキナ臭い。
権力争い、お家騒動、怨恨、金銭目的。動機はいくらでも想定できそうだ。
エレベーターを待ちながらハンナが続ける。
「場所は地下駐車場なんだけど……」
歯切れが悪い。珍しいな。どうしたんだ?
「何か引っ掛かるのか?」
「うん。監視カメラの死角で殺されてて」
「なるほど」
つっても、結構大きい会社だからカメラは色んな所にあるはず。
「でも、殺害そのものは撮影されてなくても、現場近くの通路とかのカメラには怪しい奴が映ってるんじゃないのか?」
「そうなんだけど、死亡推定時刻に付近のカメラに映ってた3人のうち、2人は否認、1人は見つかってすらいないんだよね」
「見つかっていない……か。外部の人間ってことか?」
「どうかなぁ。従業員は誰も見ていないみたいでさ。この規模のビルでそれができるってのは、如何にも怪しいと思わない?」
確かに。可能性としては内部の構造に詳しい人間、つまり……。
「ビルの関係者が変装しているのかもな」
「私もそう見てる! けど誰かは分からなくて……」
人目を避けて変装し、さらにカメラを可能な限り回避し、社長を殺害。その後に変装を解いて何食わぬ顔で業務等に戻る。無くはないと思う。
「動機の面はどうなんだ? 結構いそうだが」
エレベーターを降り、地下駐車場内を歩く。警官が10人ほどいる。お疲れ様です。
「勿論、調べてる。一応、カメラに映ってる人物以外で1人、動機がありそうな人はいたよ」
「お、じゃあ、そいつが変装してた可能性もあるじゃん」
「それはないよ。その人、完璧なアリバイがあるから」
「……ふぅむ。そうか」
現場に到着した。
ハンナが警官に挨拶する。俺も会釈しとく。
地下駐車場の雰囲気は、前世の日本で言うとデパートの屋内駐車場の感じかな。
そこの地面に人型に白いテープが貼られている。遺体はすでに運び出されているね。そして血痕が地面にある。
「死因は?」
「……撲殺、だと思う」
ホント、らしくないな。いつもはもっとハキハキしてんのに。
「通常の遺体ではないのか?」
「損傷の度合いが一般的な撲殺の域を越えてるんだよね。異常に硬い鈍器と異常に強い
「……」
念能力者か? いや、この世界のごく一部の超人連中なら念なんて使わなくても可能か。
逆に容疑者を絞りやすくもあるな。そんな超人、滅多にいないし。
「カメラに映っていた奴やアリバイと動機のある奴は、何らかの武術の心得とかあったりは……」
「ないね。彼らは皆、絵に描いたようなホワイトカラーだよ」
うーん。ゾルディックとかに依頼したパターンもあるかもだけど、ゾルディックならわざわざ変装なんてするかなぁ。むしろ、営業の一環とか言ってカメラに敢えて映りそうだ。あ、イルミがいるか。でもなぁ。それならミルキにカメラを潰させた方が確実だろう。
ま、ゾルディックはいいや。別方面を見てみよう。
「カメラに映ってた2人と、動機とアリバイのある1人ってのは?」
「カメラに映ってたのは、2人とも社長の秘書だよ。ただ、この2人には動機がないんだよね。それで、動機のある人だけど、ここ、本社の経理部長をしているリリー・コリンズ。年齢は31歳」
ん、コリンズ?
俺の疑問を察したのかは分からないが、ハンナが付け加えてくれた。
「被害者の娘さんだよ。どうやら父親と色々と合わなかったみたいでさ」
「なるほどなぁ」
一般家庭の親子以上の確執が形成されやすそうだもんな。金持ちも大変だ。
「アリバイってのは?」
「死亡推定時刻、というか死亡した日にはずっとヨークシンのホテルにいたらしい。ホテル従業員の証言もあるし、外出記録やホテルのカメラ映像からも間違いない」
おおぅふ。そりゃ完璧だ。隙がない。
……普通ならな。
確かめたい。アリバイの映像は観られるといいが。
「リリーが映ってるホテルのカメラ映像を今、観ることはできるか?」
「できるよ」
ハンナが鞄からノートパソコンを取り出し、サクサクと操作する。そして、すぐに画面を俺に向けた。
動画が再生されている。
画面には髪の短い女が映っている。この女がリリーか。
……俺には、リリーが纏をしているように見える。
つい、にやけてしまう。ビンゴだろう。
──『
俺の発──ざっくり言うと嘘に関して色々できる能力だ──により、この女の嘘が教えられる。
存在自体が嘘らしい。
ってことは分身か別人か、だ。分身とするなら具現化系の発になる……のか? 系統複合型だろうから系統を定義しづらいな。
別人が変装している可能性はどうだろ。訊いてみよう。
「警察はこの映像の女をリリー本人と見ているのか?」
「そうだね。鑑識の人たちは『95%以上の確率で本人だ』と言ってるよ」
ふむ。まだ断定はできないが、分身能力者である可能性の方が高いか。
ま、いずれにしろ、リリー本人に会えば分かることだ。
「ハンナ」
「うん?」
「リリーに話を訊きたい」
「お!」
「では、貴女はローガン・コリンズ氏が亡くなった10月12日には、ヨークシンシティにあるグリーンホテルの506号室に滞在していた、と」
本社ビル内の応接室にて、リリーとお話し中だ。
俺たちの向かいに座るリリーが肯首する。
「ええ。その通りですわ」
パッと見、リリーは痩せ型の高身長。きれい系のルックスと
「なるほど。当日、506号室では何をなさっていたのですか?」
「読書です。たまに日常から離れてゆっくり読書をするのが趣味ですの」
淀みのない返答。
まるで用意されていたかのようだ……なんてな。能力が発動しないところを見るに、この発言自体に積極的な嘘はないんだろう。俺の能力は曖昧で消極的な嘘は見逃す傾向にあるからな。
「そうですか。良い趣味ですね」
じゃあ、今度はより限定的に確認してみよう。
「そうしますと、貴女は『ローガン氏を殺害していない』ということですね?」
少し不自然な問いになるが、俺の能力──対象の発言等に嘘があるかを見破る──を有効活用するには、必要な言い回しだ。
不審に思ったのか、リリーがパチパチと瞬きをする。が、すぐに肯定を口にした。
「勿論です」
──嘘つき! 嘘つき!
俺の脳内に電子音じみた声が響く。『
先ほどの「貴女は事件時にホテルにいたのか?」の問いに「そうだ」と答えたのが真実で、それでいて殺害したとなると、分身能力と考えるのが妥当じゃないかな。「『貴女』の範囲には『貴女の分身』も含まれている」と俺の能力は判断したから、嘘との判定は出なかったのだろう。
一方、カメラ映像で嘘と判定したのはアリバイ性の虚偽に重点を置いた判定だったからかな。俺の能力も完全無欠じゃないからなぁ。
閑話休題。
以上から事件の真相を推理すると、リリーが遠く離れたヨークシンのホテルに分身を送り、アリバイ工作をする。そして本体は本社にて変装し、カメラを可能な限り避けつつ、犯行に至った。おそらくは殺害時にオーラを使い、といったところか。これは本社内の構造に詳しいとした犯人像とも矛盾しない。
……よし。やるか。
「ところで、リリーさんはご結婚はしているのですか?」
「……え、いえ、独身ですわ」
突然の話題転換に驚いている。すまん、質問内容に意味はないんだ。これはハンナに対する合図だからね。
俺の隣に座るハンナが口を開く。
「申し訳ありません。所用がありますので、私は席をはずさせていただきます」
「……あら、そうですか。分かりましたわ」
ハンナが応接室を後にする。
ハンナには「リリーと2人だけで話す必要があるかもしれない。その時はリリーに『リリーさんはご結婚はしているのですか?』と質問する」とあらかじめ伝えてある。
これでも俺はハンナから信用されているから、こんな我が儘も聞いてもらえる。実際、似たようなパターンで事件解決ってことが何度かあったからね。
さて、応接室には俺とリリーだけだ。ぶっちゃけていこう。
──練。
リリーの顔色が変わる。垂れ流しを偽装していたオーラが乱れ出した。
「あんたも使えるんだろ?」
「……なんのことでしょうか」
──嘘つき! 嘘つき!
惚けちゃって。
「分身能力に向いてる得意系統ってなんなんだ? バランスを考えると操作か特質かな。なぁ、どう思う?」
「……意味がよく分かりませんわ」
──嘘つき! 嘘つき!
リリーのオーラが
「『分身能力でアリバイ工作をし、本体が殺害を実行した』。違うか?」
「……」
リリーは答えない。外面だけなら穏やかなものだ。若干、脂汗が滲んでいるが。
ふっと、練を鎮める。場が少し弛緩する。
「ま、いいや。答えたくないなら無理にとは言わないよ」
「……?」
俺の変化に戸惑ってらっしゃる。
「ただ、もう1つ気になることがあるんだ」
「はぁ、何でしょうか」
ちょっとした疑問ではあるけどね。
「リリーさんはどこで念能力を身に付けたんだ?」
ハンナ曰く、リリーは生粋のホワイトカラー、つまり頭脳労働担当で武術とかには縁のない人物とのことだ。勿論、ハンターでもない。
そんな人間がオーラの垂れ流しを偽装できるレベルで念能力を身に付ける確率はどのくらいだろう。相当低いんじゃないか?
だから
「……申し訳ありません。先ほどから何のことか分かりませんわ」
──嘘つき! 嘘つき!
あくまでもシラを切り通すか。
「リリーさんに念能力を教えた人間がいるんじゃないか? 対価はそうだな……。リリーさんがこの会社の実権を握り、会社単位でその人間に従うこと……とか?」
要はリリーに恩を売り、会社と
「……」
沈黙か。正解。今の訊き方に対する対処法としては悪くない。あくまで俺の能力回避という点に限って言えば、だが。
「ところで、リリーさんにはこれからハンター協会の刑事事件担当部署の捜査が入る。そこでは能力を用いた何でもありの尋問がなされる。はっきり言って、抗うことは不可能だ。変に抵抗するより素直に喋った方がマシだぜ?」
「……」
念能力を使った犯罪の疑いがあれば、ハンター協会が動く。蛇の道は蛇ってね。
「それに、リリーさんと会社を利用しようとした人間がいるなら、失敗したリリーさんが情報を漏らす前にリスクを消そうとするんじゃないか?」
つまりリリーは殺されかねないってことだ。
リリーの表情が崩れた。恐怖と……憎しみだろうか、複雑な顔だ。
「私はどうすれば……」
「ハンター協会に自首するんだ。そうすれば念能力者用の刑務所に行くことになるだろうが、そこならプロハンターが常駐して警備してる。殺される危険は限りなく低くできる」
この国に死刑制度はないから法律により死ぬことはない。
リリーがため息をつく。色々と
「……分かりました。全てお話ししますわ」
リリーの語った内容は俺の推理()と一致していた。
話を聞いた後、リリーはハンター協会に引き渡した。対応してくれたのはミザイストムとかいう牛だ。……冗談は置いといて、知り合いだから電話でお願いしたんだ。持つべきは権力のある知り合いだね。
「それにしても幻影旅団か」
ハンター協会からの帰り道でポツリと呟く。
リリーに念を教え、会社を利用しようとしていたのは、幻影旅団を名乗る童顔の男だったらしい。聞いた限りではシャルナークっぽいが、どうだろうか。
使い勝手のいい、情報分野に強い駒が欲しかったとするなら一応の納得はできる。操作系能力による従属よりも、明確な人格、思考能力を残したままの方がなんだかんだ部下としてはいいからな。
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「うん、うん。そうなんだよ。失敗しちゃったみたいでさ」
株式会社フェイク本社ビルから数キロほどの位置にあるビジネスホテルの一室、童顔と評された男──シャルナークが携帯で話している。
「いけると思ったんだけどなぁ。賭けは……」
賭け。
今回の一件は仲間内での娯楽の側面も多分に含まれていた。シャルナークは成功に賭けていたから負けである。
上手くいくと思ったのになぜ失敗したのか。怪しいのは……。
「あー、うん。ハンター協会にいる
エヴァン・ベーカー。
聞かない名だ。しかし念能力者ではあるらしい。アマチュアハンターだろうか。
「……え、会ってみたい?」
電話越しに幼なじみが「そいつを見てみたい」と言い出した。この幼なじみは、案外、気まぐれなところがあるからシャルナークに驚きはそれほどない。
「探偵事務所に行けば簡単に会えると思うけど……」
その後、幾つか仕事の会話をし、通話を終える。
「ふー、なんか疲れた」
シャルナークはイレギュラーな事態があまり得意ではない。合理的かつ計画通りに物事が進んでくれないと、なんだかモヤっとするからだ。
窓から覗く空は秋晴れ。
どうなることやら。
こういったハンタ2次に需要はあるのだろうか……。