【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話   作:虫野律

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クロロと本と海賊 [後編]

 暫く探索した後にクロロが結論を出した。

 

「おそらくここは『チャーリー時々大海賊』に登場した赤虫島(あかむしじま)、もしくはそこの類似の島だ」

 

 ほー。なるほどー。

 クロロが理由を続ける。

 

「樹木、昆虫の種類、山の形状が作中の描写と完全に一致している」

 

「……帰る手段はあるんですか?」

 

「現時点では無いな」

 

「そうですか……」

 

 クロロがストックしてる能力に何か都合のいいやつないんか。でも嘘発見器(笑)は反応してないしなぁ。

 

「だが、収穫はあるかもしれない」

 

 クロロが静かな猛禽類を思わせる声音で言った。

 収穫ねー?

 

「海賊の宝でもあるんですか?」

 

「小説にはそう記述されていた。ここにもあるかもしれないと思わないか?」

 

「まぁ、確かにそうですね」

 

 いかんな。なんだか敬語が崩れてきた。一応、初対面の依頼人だから気をつけないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小説に従い、宝の在りかとかいう洞窟にやって来た。

 ホントに小説の通りだ。ファンタジーっすね。ハンターハンターも現代(ダーク)ファンタジー風バトル漫画と言えなくもないから、おかしくはないか。少年漫画だしな。

 

 クロロが無言で洞窟に入っていく。

 一緒に居て、しみじみと感じたけど、クロロは基本的に無口だ。そしてパクノダも。で、俺もそんなに喋るほうじゃないから、この即席パーティーは静かなものだ。俺は嫌じゃないが、人によっては空気が悪いと感じるかもしれない。

 

 クロロがペンライトを持っていたみたいだ。それだけの光があれば俺たちには十分。凝を怠らず、警戒しつつ洞窟を進むとすぐに行き止まりまで到達した。

 分かりやすく宝箱が一つある。いかにも、だ。怪しいと感じる俺はマトモだと思う。

 

「罠、でしょうか?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

 流石に分からんか。

 

「だが仮に罠だとしても、ここまで来て手ぶらで帰りたくはない」

 

「それは同感です」

 

 俺も成果が欲しい気持ちはある。

 クロロが徐に宝箱に近づくが、それにパクノダが待ったを掛ける。

 

「待って。私が開けるわ」

 

 クロロが止まり、頷く。しかし今度は俺がパクノダを止める。

 

「いや、私が行きましょう。拡大解釈すればこういうリスクを負うのも依頼に含まれています。まぁ、サービスですね」

 

 2人が面白いものを見る顔に……なっている気がする。

 マジでポーカーフェイスすぎて分かりにくい。カジノに行くか、ピッチャーやったほうがいいんじゃない?

 

「そうか。では頼む」

 

「はい」

 

 ……とかなんとか真面目な探偵(笑)を装ってるけど、宝箱に対して嘘発見器(笑)が反応しないことから多少の勝算はある。宝箱が本物かつ罠である可能性もあるけど、本物である事実が一定のリターンを約束してくれてるからね。それなら2人からポイントを稼いで依頼料に反映させたい。

 

 特に鍵は掛けられていないようだ。宝箱を開けると、中にはシンプルな短剣が一つ。ただしオーラがヤバい。なんか魔界の剣ですって言われても納得するレベル。正直ちょっと触りたくない。呪われそう。

 でも威勢のいいこと言っちゃったし、やらないわけにはいかない。できるだけ手にオーラを集めて取り出す。

 

 手にした短剣から赤黒いオーラが滴っている。

 

「おー、強そう」

 

 あ、つい素が出ちゃった。

 

「ほう……」

 

 と、クロロが感嘆し。

 

「……っ」

 

 パクノダが息を呑む。

 

 一応、持ったからといって何か俺に悪影響があるわけではないみたいだ。勝ったな。

 

「どうします? 今、お渡ししますか? それとも帰るまで私が持ってますか?」

 

「帰還まではエヴァンが使ってくれ」

 

「了解しました」

 

 見た目で俺が一番弱そうだから装備で強化しとくか、とか考えたのかな(笑)。正解だよ。基本的にパクノダとどっこいどっこい。むしろ若干負けてるまである。戦闘向きではないからね、うん。

 つーか、特質オンリーのパーティーってめちゃくちゃバランス悪いな。補助型魔法使いのみの編成的な。なお、約一名は何でもできる模様。

 

 さて、洞窟を引き返しますか。

 

 

 

 

 

 

 

「よう。短剣(そいつ)は気に入ったかい?」

 

 洞窟を出ると、1人の男が軽い調子で話し掛けてきた。

 

「!?」

 

 俺たちの警戒レベルが急上昇する。気がつけばクロロは本を、パクノダはリボルバーを手にしている。

 男は、フロックコート、あるいはキャプテンコートと呼ばれるものを着こなしている。顔には十字の傷。とっても海賊っぽい。明らかに堅気じゃねぇや。

 そして、一目で超一流の念能力者だと分かる濃密で洗練された堅。……そう、“堅”だ。いきなりそんな臨戦態勢で来られたら警戒もするというもの。

 

 緊張感が場を圧迫していく、が──。

 

「はっ。何をビビってんだ。あんたらもかなりヤるくせによ」

 

 コートの男はどこまでも軽妙な口調だ。

 それはいいんだけど、俺をこの2人と同じと思わないでくれ(格下的な意味で)。

 

「……何者だ」

 

 クロロが問う。純粋な質問というより単なる確認だろう。

 

「あんたらが考えてる通りさ」

 

「……」

 

 男が笑う。

 

「チャーリー・テイラー。退屈してるただの男だよ。つーわけでちょっと戦お(あそぼ)うぜ?」

 

 チャーリーのオーラが爆発的に増加する。

 嫌な汗が背を伝った。

 堅だと思っていたのは単なる纏だったということか。なんて奴だ。オーラ量の次元が違う。

 

「!?」

 

 すぐ横から強烈な音。

 パクノダが殴られた音だ。肉体同士の衝突した音とは思えない。

 パクノダが吹っ飛ばされる。

 

 クロロが放つ圧が増す。しかしチャーリーは何の脅威も感じていないのか、飄々とした顔のまま。

 

「……仕方ないか」

 

 クロロでも確実に勝てるか分からない雰囲気だし、そもそも俺に矛先が向いたら終わりだ。その前に1枚カードを切る。

 

──『嘘は真実(リバース)・身体能力』発動。

 

 能力発動により攻撃的なオーラが溢れ、肉体が戦闘用に作り替えられていく。

 

 この能力は「ぼくのかんがえたさいきょうのしんたいのうりょく」という「嘘」を3分間だけ真実に変えるものだ。3分が過ぎると一定時間、絶になる超短期決戦用の発。

 

「っ! おいおいおいおい、こいつはすげぇな」

 

 チャーリーが驚きと悦びが混じった声で言う。少しくらいビビってくれてもいいのに、全然そんな素振りはない。やだやだ。

 

 ……あーあ、戦いたくないなぁ。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 雲、あるいは蜃気楼だろうか。

 

 エヴァンを見て、クロロが最初に思ったのはそういった感想だった。

 立ち振舞いからある程度は動けそうだし、纏もそつなくこなしている。悪くはない。しかし何か特筆すべき点は具体的には分からなかった。

 それでも不可思議な魅力を感じたのは、掴み所のない何とも言えない雰囲気があったからだろう。

 

 クロロはとりあえずは自身を納得させ、僅かな期待と大きな気まぐれでもって、本の謎に関する依頼を出してみた。

 

 結果、エヴァンが見せたパフォーマンスはクロロに興味を持たせるに十分すぎるものだった。

 

 面白い。

 

 蒐集家(しゅうしゅうか)の前に獲物が現れたのだ。気分も良くなる。

 

 エヴァンのこれは十中八九、発によるもの。系統は? 効果と制約の詳細は?

 

 やや念能力マニアの気があるクロロは、ポーカーフェイスの裏で目まぐるしく考察を開始する。隣に座るパクノダから呆れたような雰囲気を感じたが、どうでもいいことだ。

 

 そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エヴァンから“覇気”とでも呼称すべき鋭すぎるオーラが溢れ出す。

 

「!」

 

 これは……!

 

 流石のクロロもエヴァンの変化には驚愕を隠せない。

 旅団にいる強化系連中を上回るであろう敵──チャーリーを名乗る男にパクノダがやられた。どう対処するか、何を使うかを思考していたら、どうやらエヴァンが本性を現した(カードを切った)ようだ。

 

 エヴァンがチャーリーから視線を外さないまま、話し掛ける。

 

「クロロさん。私が前衛をやります。できればサポートをお願いします」

 

 なるほど。純粋な戦闘用能力。フィジカルに優れた相手に対して同質の力で当たる選択をしたか。それもいいだろう。……特に俺がいるなら。

 

「わかった。掩護射撃を担当しよう」

 

 承諾し、盗んだ能力を発動させる。空中に水晶が7つ顕現する。

 クロロは準備次第で何でもできるが、系統は特質。純粋なパワーはそこまでではない。立場もある。そうそうリスクの高い前衛をしたくはないから、エヴァンの申し出は正直ありがたい。

 

 準備は整った。

 

「……それがあんたらの本気かい?」

 

 チャーリーの問いにエヴァンが落ち着いた口調で答える。

 

「クロロさんについては分からないけど、私はガチ全力だ、よっ!」

 

 エヴァンが消える。否、そう錯覚するほどの速攻。しかし──。

 

「っつー! いってぇな、っと」

 

──チャーリーには対応可能レベル。

 ガードから返しの殴打。かわしたものの、エヴァンの顔が若干曇る。ガードされるとは思っていなかったのだろう。

 クロロから見ても、エヴァンとチャーリーは超一流強化系クラスの動き、の更に一段上。体術──技術に自信はあるが、ついていくのは少しばかり骨が折れそうである。やはり能力の選択は正解だった。

 

 浮遊する全ての水晶から光線が放たれる。

 

 この能力はシンプルにこれだけだ。だが、シンプル故に強いし、使いやすい。

 

「うぉっ!」

 

 チャーリーは軽い調子で回避するが、そこへエヴァンが間髪入れずに襲い掛かる。

 

 重い衝撃音。攻撃がヒットしたのだ。

 

「ぐっ……」

 

 ようやくダメージが入ったようだ。一気に畳み掛けようと、クロロとエヴァンが苛烈に迫る。

 初対面で連携など本来はできないはずだが、クロロが上手く合わせている。巧みな援護にエヴァンも随分とやりやすそうだ。

 上手い流れを作れた。これならばチャーリーが相手でもなんとか勝利することができるかもしれない。

 

 そして1発、2発とヒットしていき、その時は訪れた。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 俺の拳がチャーリーを弾き飛ばす。確かな手応え。ダメージを期待してもよさそうだ。次いで、水晶からビームが殺到し、ジュクジュクと肉の焼ける匂いが立ち込める。

 静寂。

 ……決まったか。 

 

「ふぅ」

 

 肉体がいつもの状態に戻っていく。そして精孔が閉じられた。

 この制約による絶は……なんというか、雑だ。隠密行動にはお粗末、でも纏には到底及ばない。要するに非常によわよわ影うす君になる。なので早く帰りたいです。死んでしまいます。

 というわけでクロロにお願いしよう。早く帰還方法見つけてくれ。

 

「クロロさ」

 

「! まだだ」

 

「っ!?」

 

 チャーリーからオーラが立ち昇る。

 

「ふー、派手にやられたなぁ。やるねぇ」

 

 ユルい口調は当初から全く変わらず。ニヤニヤしやがって。

 あー、ヤバいな、これ。見た感じ、スタミナの消耗以外のダメージは無い。つまり致命傷から無傷になるクラスの回復手段があるってことだ。

 

「クロロさん。制約上、俺はこの状態(ヘタな絶)でしか動けません」

 

「……なるほど。では下がっていろ」

 

「申し訳ありません」

 

 クロロが前に出て、チャーリーと対峙する。すまん。

 

 クロロならイケるかもしれないが、しかし準備なんてしていない状態で回復持ちのフィジカルエリートに勝てると断言はできないはずだ。

 

 だが頼みの綱は原作最強の一角(クロロ)だけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロロとチャーリーの戦いは終始、チャーリーのペースで進められている。なんせチャーリーは傷を負ってもすぐに回復してしまう。オートリジェネってか。クロロから諦めは伺えないが、しかしマズイことに変わりはない。

 

「……」

 

 少し気になることがある。

 それはチャーリーの年齢だ。あの本は1602年ころのものらしい。それならチャーリーは約400歳ということになる。確かにそれくらい生きる手段はあるだろうが、それほど多くはない。というか、めっちゃ少ない。

 それともう1つ、引っ掛かってることがある。

 

「おらおら、大分辛そうだな? もう終わりかい?」

 

「……」

 

 疲労でクロロの動きが少しずつ悪くなってきている。このままでは……。

 

 もう1つの疑問点は小説を偽装した日記が、一貫して三人称で描写されていたことだ。三人称だけなら別にいいんだけど、問題はチャーリーが居ない場面も描かれていて、かつ俺の嘘発見器(笑)が一切反応しなかった点にある。

 つまり、チャーリーは自分が不在の場面も、真実を正確に認識していたことになる。

 人から聞いたりすればある程度は分かるかもしれないけど、クロロ曰く、チャーリーが不在のシーンはかなりの数で、誰も居ないはずの場面すらあるらしい。真実を描写し続けるのは普通ならば無理があるよな。

 

 俺が思考する間も戦いは進行する。

 

「……っ」

 

 ついにチャーリーの打撃がクロロを捉える。巧く打点をずらしたようだが、一定のダメージはあるはずだ。ポーカーフェイスは相変わらずだが……。

 

「……」

 

 もしかしたら、という推理のような何かに従い上空へ視線を向ける。晴天に……先ほど見た鳥型魔獣が飛んでいる。

 

 このままではじり貧だ。試してみてもいいよな。

 

 そそくさと移動を開始する。別に逃げているわけじゃないよ、ホントダヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いた」

 

 俺が逃げ出し……じゃなくて移動したのはパクノダを探すためだ。

 パクノダは木に背を預けて体力の回復に努めていた。良かった。

 

「あの男は?」

 

「クロロさんが戦っています。しかし……」

 

「厳しいのね」

 

「はい」

 

 パクノダの表情に悲痛なものが混ざる。

 

「ですが『もしかしたら』という手段はあります」

 

「! それは一体……?」

 

「そのためにはパクノダさん、貴女の協力が必要です。お願いできますか?」

 

「ええ、それは勿論」

 

「ありがとうございます」

 

 さて、上手くいくかな。いけばいいなぁ。いってくれないかなぁ。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 強い。

 

 チャーリーに対してクロロは純粋にそう思う。肉弾戦に限れば過去最強の敵と言っても過言ではないだろう。

 

 チャーリーの連打になんとか対処していくが、幾つかは貰ってしまう。クロロも体術に自信はあるが、如何せん肉体スペックに差がありすぎる。それでも渡り合っているのは、クロロの技巧が優れている証左ではある。

 しかし戦況は芳しくない。手持ちの能力では一定の犠牲を払わなければ勝利はあり得ない。だから分の悪いことを承知で体術メインの戦いをしてきたが、現実はこれだ。続けても敗北。ならばやることは1つしかない。

 

 あまりやりたくはないが、やらざるを得ないか。

 

 クロロがデメリットを受け入れる決断をしたその時、空を裂く銃声が鼓膜を震わした。

 

 ……パクノダか? しかし何故……。

 

 パクノダはリボルバーを具現化し、通常の銃として攻撃に使うこともある。戦闘要員ではないので頻度は少ないが、そういう手段も持っているのだ。

 分からないのは、何故このタイミングでそれを使ったのか。

 そして──そして何故チャーリーが膝をついているのか。銃弾がチャーリーに命中したわけでもないのに。

 

「ぐぅっ……!」

 

 チャーリーが苦し気に(うめ)く。

 先ほどまではすぐに回復していたのに、それをする素振りはない。そもそも動くことすらきつそうだ。

 

「クロロさん」

 

 エヴァンが戻ったようだ。

 

「どうやら上手くいったみたいですね」

 

 この現象はエヴァンが意図したものらしい。クロロが肩の力を抜く。しんどー。

 

「どういうことだ? 何故チャーリーは急に瀕死になった?」

 

「あー、それはですね、チャーリーの能力を推理して上手いこと攻略できたからですよ」

 

 チャーリーの能力。回復系能力ではないのか?

 

 エヴァンが若干のどや顔で続ける。

 

「クロロさんは、日記という形式でチャーリー不在のシーンが正確かつ断定的三人称で描写されていることを不思議に思いませんでしたか?」

 

「……少し違和感はあったが」

 

 当初は単なるフィクションだと考えていたから疑問は感じなかったが、日記と聞いてからは確かにおかしいとは思っていた。

 

「そこで私は、最初、チャーリーの能力を『カメラを付けたラジコンヘリ』のように『視点を飛ばすもの』と仮定していました」

 

「しかしそれでは」

 

 これほど高レベルな回復能力との併用は非現実的だ。クロロのような能力ならば可能だが、そういったタイプは極めて稀。可能性は低いだろう。

 

「ええ。回復能力と矛盾……しているように見えます」

 

 含みのある言葉。

 

「……道中、クロロさんが語ったこの島の生物に長寿種の鳥型魔獣はいませんでしたよね。しかし、空にはいないはずの鳥型魔獣がいます。そしてチャーリーの日記が世に出たのは1602年。ということは、この男が通常の寿命を逸脱した存在である可能性が発生してしまいます。本人であればですが」

 

「……」

 

「私も確信があったわけではありません。ですが全否定する気にもなれませんでした」

 

 地面に倒れ、動かなくなったチャーリーを眺めながら、エヴァンが説明を紡ぐ。

 

「私は思ったのです。『チャーリーの能力は、長寿種の鳥型魔獣と命を共有するもの』ではないか、と」

 

「!」

 

 つまり、視界ないし記憶の共有はその副次的効果……!

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 クロロが驚愕するも、エヴァンは平静な口調を崩さずに続ける。

 

「『命のメインは鳥型魔獣にあるのかもしれない』と愚考しました。チャーリーに致命傷を与えてもすぐに回復してピンピンしている点や本来の寿命の比率から、そんな風に希望的観測を持ちました」

 

 エヴァンが「希望的観測」という言葉を用いたのは、違ったパターンも十分にあり得ると考えていたからだ。

 鳥型魔獣メインではなく、持分が半々の共有かもしれないし、チャーリーメインかもしれない。あるいは完全に一心同体の可能性もあった。

 

 ただ、状況が状況なだけに曖昧な可能性に賭けてでも、とりあえず行動するべきだった。エヴァンはそう判断した。

 

「そしてパクノダさんがリボルバーを具現化していたので、それを使用した狙撃を思いついたのです」

 

 通常、リボルバーの有効射程距離は長くても50メートル程だが、パクノダのオーラによる周で強化し、距離の問題は強引に解決させた。

 どちらが撃つかで迷ったが、引き金を引いたのはエヴァンだ。パクノダがダメージから命中精度に自信が持てないと主張したのだ。

 エヴァンも射撃は大得意というわけではないが、それなりにはできる。絶状態とはいえ、一応は超人たる念能力者だ。当てる確率は0ではない。

 果たして、高度100メートルを飛行中であった鳥型魔獣の頭を撃ち抜くという離れ業をやってのけたのである。実力3割、幸運7割といった具合だったが結果が全て、成功は成功だ。

 

 メインである鳥型魔獣が絶命したことでチャーリーも死に向かわざるを得なくなった。それが突然、チャーリーが瀕死になった、いや、死亡した真相。

 

 エヴァンの話を聞き、クロロの心裏になんとも形容し難い高揚が生まれる。近いのはレアで有用な念能力を見つけた時、あるいは波長の合う本と出会った時か。いずれにしろ悪い感覚ではない。いや、いい感覚だ。

 

「私の推理が当たっていたようで良かったです。私には(・・・)もう打つ手がありませんでしたからね」

 

「ふふふ」

 

 とうとうクロロのポーカーフェイスが崩れる。だがそれもやむ無しだろう。このエヴァンなる私立探偵の口ぶりからは、クロロの手札──発に一定の推理あるいは情報を持っていることが読み取れる。

 

──本の真相を見破る念能力、(厄介な制約があるとはいえ)強力な戦闘力、狙撃能力、推理力、情報収集能力。これほど有能で興味深い人間はなかなかいない。

 

 実際はクロロが考えるよりは優秀でないのだが、少なくともクロロにはそう思えた。

 

──欲しい。この男が欲しい。

 

 盗賊クロロの本質的欲望が暴れ出す。

 

 エヴァンは危機が去って安心した顔をしているが、目の前に新たな危機が生まれてしまった。幸か不幸か本人は気づいていない。

 

 ここでまたしても突然に転移が起こる。チャーリーと鳥型魔獣を倒したことがトリガーだ。

 三人の視界が切り替わった。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 事務所に戻ってきたみたいだ。クロロとパクノダもいる。

 よかったぁー。下手くそ絶状態で無人島(?)とか勘弁だったから助かったよ。

 

「パクノダさん、応急措置は要りますか?」

 

 一応、簡易的な道具はある。ハンターハンター世界だからね、多少は準備している。

 

「ありがとう。でも大丈夫よ」

 

「そうですか、分かりました」

 

 拒否られたので素直に引き下がる。

 

 さて、では戦闘も終わったし、銭闘開始といきますか。

 

「今回の依頼料ですが──」

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 エヴァンの事務所を後にしたクロロたちが、冷たく乾燥した秋の街を歩きながら会話をしている。ちなみに報酬として渡したのは宝箱に入っていた短剣と幾ばくかの金銭だ。

 

「エヴァンの記憶は読めたか」

 

 隙があればエヴァンの記憶を読むようにあらかじめ命じていたのだ。

 パクノダが小さく首を振る。

 

「ごめんなさい、そんな隙はなかったわ」

 

 対象に触れながら質問をするという制約を、初対面の人間に対して自然に実行するのはそこそこの難易度だ。致し方なしといったところか。

 

「……」

 

 パクノダが何か言いたそうな顔をしている。

 なんだろうか。

 

「何か気になることでもあったのか」

 

「……気のせいかもしれないけれど」

 

 そう前置きしてパクノダが爆弾を投下した。

 

「私に触れないようにしていたみたいだったわ」

 

「ほう」

 

「本当に気のせいかもしれないわよ?」

 

「ああ、分かっている」

 

 と言いつつも、クロロはなんとなくパクノダの能力についても一定の情報、推理を持っているのではないか、とエヴァンを疑っていた。そう思わせる何かをエヴァンから感じたのだ。

 

 マチを連れてくれば良かったか。

 

 彼女ならば「勘」のようなもので有益な情報を提供した可能性がある。

 しかし時すでに遅し。……今回は。

 

「エヴァン・ベーカーか……」

 

 クロロの呟きは街のざわめきに溶かされ、パクノダには聞こえなかったようだ。

 

 ふと、カフェの看板が目につく。パクノダを見ると目が合った。

 

 ポーカーフェイスはどこかに行ってしまった。




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