【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話   作:虫野律

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拙作を日間総合一位に押し上げてくださり、本当にありがとうございます。
私がランキング一位に関わる日が来るとは思っていなかったので、めちゃくちゃ動揺しました笑。

本エピソードは捻りを加えようとして捻挫しちゃった感じの出来です。湿布をご用意してお読みください。


嘘つきのワルツ [前編]

 ヨークシンにあるミレニアムホテル5階で銀行員の男──トーマス・フローレスが、滞在している部屋で護身用にしてはやや立派なナイフを見つめている。

 

「まさかこんな所にいたとはな……」

 

 トーマスの実質的な上司(・・・・・・)、要するに勤務先の銀行を裏から支配するマフィアが、とある人物に懸賞金を掛けた。その人物はマフィアの違法ビジネスに関する情報を入手し、あろうことか電脳ページを通して世界中に公開してしまったのだ。当然、自身に辿り着かないよう、細心の注意を払っていたが、本気になったマフィア側が一枚上手(うわて)だった。

 その人物の職業はフリーの記者。

「記者はそういう仕事だから仕方がない」などという言い訳がマフィアに通用するはずもなく、記者とマフィアの命掛けの鬼ごっこが始まり、現在に至る。

 記者の男はヨークシンに本拠地を置くマフィアから隠れるために、ヨークシンにある中堅ホテルに引きこもっていた。裏をかくためとはいえ、大した度胸である。

 しかし、残念ながらトーマスに見つかってしまった。

 トーマスはとりわけ金に困っているわけではないが、それなりの野心はある。ここで記者を始末できればマフィアや銀行内での立ち位置も変わってくるだろう、とトーマスはほくそ笑む。

 実際には、実力という名の“マフィアにとっての都合の良さ”が無ければ、血筋もコネも権力も無いトーマスが、大きく出世することはないのだが、暗い欲望により普段の冷静さを失っているトーマスに迷いはなかった。

 

 記者の男──カーソン・クックが自室へと入る瞬間を狙い、強引に部屋に侵入。そして──。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「はぁー」

 

 ミレニアムホテルで働く若い女性従業員──ゾーイ・マルチネスが、フロントで深いため息をつく。

 

 お金が無い。

 

 ゾーイの給料は多くはないが、普通に生活するだけならば問題のない額をしっかりと貰っている。それがいつの間にやら金貸しから多額の借金をしていた。

 

 ギャンブルに嵌まってしまったのだ。当時、付き合っていた男性に連れていかれたカジノが始まりだった。最初のころは自制できていたため、生活に大きな影響はなかったが、今ではこれだ。

 もうどうしたらいいのか。

 いや分かっている。ギャンブル依存を病院なりなんなりに行ってでも改善すればいい。それは分かっているんだけど……、ギャンブルの高揚を手放したくない。

 

 そう思っている自分が確かにいるのだ。

 

 どうしようもないね、私。

 

 もう一度、ため息をつきかけた時にお客さんがやって来た。ため息を引っ込め、微笑みを張り付けて接客する。

 

「いらっしゃいませ。ようこそミレニアムホテルへ。本日はご宿泊でしょうか?」

 

 お客さんは薄めのダウンジャケットを着て、大きめのリュックを背負った中年男性だ。ボトムスはデニム。オフかスーツの要らない仕事だろうか。

 お客さんが肯首する。

 

「ああ、そうだ」

 

 どこか疲れた雰囲気。妙な親近感を覚える。

 

「かしこまりました。お部屋は──」

 

 部屋と料金の説明を粗方終えると、お客さんが質問をしようと口を開いた。

 

「このホテルでは長期の滞在はどのくらい可能だ?」

 

 この人は優良なお客さんかもしれない。「ホテルの売上に貢献したい!」というつもりはさらさらないが、チップは増える可能性がある。そうなればいいな。

 2割くらい魅力がアップした声、とゾーイが思っているそれで答える。ただのちょっと高い声にすぎない気がするが、そんなことはないはず。

 

「当ホテルでは長期滞在の上限はございません。また、一定期間分を前払いしていただく形にはなりますが、お得なパック料金もご用意しております」

 

 歴史ある中堅ホテル気取りだが、実態は小綺麗なビジネスホテルといった方が正確だろう。

 しかしお客さんはゾーイの言葉にホッと息を吐く。

 

「そうか。では、とりあえず3日ほど滞在したい」

 

「かしこまりました」

 

 お客さんはカーソン・クックというようだ。名前を書いた時、何かミスをしたかのように「あ……」と漏らしていた。なぜかは分からない。

 

 定型的な注意説明が終わり、鍵を受け取ったカーソンがエレベーターへ向かう。その背をぼぅっと眺めながらゾーイが思ったのは……。

 

 あの腕時計って相当するやつだったはず……。いいなぁ、お金持ちなのかなぁ。ホテル暮らしの可能性もあるし、そうだよね。

 

 お金のことである。でもしょうがない。お金があれば大きく賭けられる。それは大きく勝てるということだ。これはゾーイの中では真理である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからカーソンは1ヶ月ほど滞在している。特に問題を起こすこともなく、ホテルにとっては非常にありがたい存在だ。

 

 しかしゾーイには少しだけ気になることがある。カーソンがほとんど外出しないことだ。

 ミレニアムホテルではコインランドリーも複数台置かれているし、何なら別料金でクリーニングも請け負っている。さらに、ホテル内で生活雑貨もある程度は販売しており、外出しなくても生活はできる。

 とは言っても、1ヶ月も外出しないでストレスは溜まらないのだろうか。

 

「別にいいんだけどさ」

 

 少し不思議ではあるが、それでゾーイが困ることはない。

 

 カーソンが滞在する611号室をノックする。

 

「お食事をお持ちしました」

 

 所謂ルームサービスというやつだ。カーソンは基本的に部屋で食事を摂る。ミレニアムホテルは高級ホテルほどお高いわけではないけれど、ここまで回数を重ねるとそれなりの金額になる。

 

 本当にお金持ちなんだ……。

 

 ゾーイからすれば非常に羨ましい。

 ガチャガチャとロックを外す音。ドアが開けられ、バスローブ姿のカーソンが出てきた。

 

「ありがとう。食器はいつも通りでいいか」

 

「いつも通り」とは廊下のワゴンに載せて置くやり方だ。頃合いを見計らい、従業員が回収する。

 

「はい。よろしくお願いいたします」

 

 努めて期待を顔に出さないようにしつつ、答える。ゾーイの期待を察したのかは定かではないが、カーソンは懐から紙幣を取り出した。

 

「いつもありがとう」

 

 そう言ってチップを渡される。カーソンのチップ払いはいい方だ。チップ程度でゾーイの借金が無くなることはないが、やはり嬉しい。

 

 いいお客さん。

 

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 

 礼を言って、ドアを閉める。あぁ、ルーレットがしたい。

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

「ヨークシンは相変わらずだな……」

 

 ヨークシンシティ。

 

 ハンターハンターを知る人間からすれば、なかなかに恐ろしいイメージか逆に華やかなイメージを持っていると思う。俺も最初はそうだった。

 でもぶっちゃけ一昔前のニューヨークみたいな感じなんだよなぁ。「ニュー」→「new」→「(シン)」からの「ニュー(シン)ヨーク」→「ヨークシン(ニュー)」だよね、きっと。

 

 人混み、高層ビル、残念な治安、人種の坩堝(るつぼ)

 

 確かに華やかではあるけど、住みたくはないし、好き好んで訪れたくもない。今回は仕事で必要だったから来ただけだ。

 けどそれも終わったから、後は一泊して明日の朝に電車で帰る予定だ。……ハンナと。

 

「あっれぇー? 多分ここら辺なんだけど……」

 

 今回の仕事を伴にしたハンナが首を傾げる。予約したホテルに案内してくれるはずだったんだけど、迷子になったようだ。

 

「ねぇ、エヴァン。ミレニアムホテルって名前どっかになかった?」

 

「……無いなぁ」

 

 目的地はミレニアムホテルというらしい。「看板なりを見なかったか」と訊かれても、今の今までハンナを信頼してたから、周りは単なる景色として処理してきた。全く記憶にない。

 

「どうしよ。私、もう疲れた」

 

「それは俺も一緒だ。やった仕事は同じなんだから」

 

「えー、エヴァンはまだ元気そうだよ?」

 

「そうでもない」

 

 嘘である。精神的には疲れてるけど、肉体的には未だ余裕だ。腐っても念能力者だからね。

 

 しかし困った。前世のようにスマホの地図アプリで即解決! とはいかない。この世界、まだスマホが無いんだよね。ミルキあたりがさっさと開発してくれないかな……。

 

 ……というかヤバい。いい年した男女がガチ迷子である。

 

「……失礼。もしかしてミレニアムホテルをお探しですかな?」

 

 捨てる神あれば拾う神ありとはこのことか!

 

 俺たちがヨークシンの人混みで右往左往しているのを見かねて、長身の中年男性が話しかけてくれた。

 

「はい。お恥ずかしながら道に迷ってしまいまして」

 

「それはそれは。よろしければご案内いたしますよ。実は私もミレニアムホテルに用がありましてね」

 

「いいのですか?」

 

「ええ。私としてはデメリットもないですし」

 

「ありがとうございます! ではよろしくお願いします」

 

 斯くして迷子の26歳児と27歳児は、無事ホテルに到着できたのである。良かった良かった。

 ちなみに男性はマイルズ・キャロルという名で新聞記者をやっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルに入ると、病んでそうな女性従業員にあんまり上手くない作り笑顔で出迎えられた。このレベルなら嘘発見器(笑)はいらないね、うん。

 

「いらっしゃいませ。ようこそミレニアムホテルへ──」

 

 定型的なやり取りをこなしていく。キャロルさんは喫煙可の部屋を選択するようだ。

 

「キャロルさん、吸う人だったんですね。匂いがしないから分かりませんでした」

 

「そうかい? それは良かった」

 

 俺たちは禁煙ルームを選択。

 チェックイン手続きを済ませ、鍵を受け取る。ギザギザした普通のタイプだ。

 

「どうぞ、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

 

 やっと一息つけるぜ。あー、腹減った。

 お、ホテルの喫茶店が営業中みたいだ。割高だけど、ちょくちょく当たりがあるんだよな。

 

「「なぁ、ハンナ(ねぇ、エヴァン)」」

 

 ハンナと被った。互いになんとも言えない顔で無言になる。

 

「「……」」

 

 どうやら似たようなことを考えていたみたいだ。

 

「ははは、仲がいいですな」

 

 キャロルさんに笑われてしまった。

 

「ところで私はそろそろ……」

 

「あ、はい。付き合わせてしまい、すみません」

 

「いやいや、気にしないでくだされ。それでは良い夜を」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

 何食べようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フロント横の喫茶店でカルボナーラを食べていると、何やら慌てた様子で1人の男性従業員がエレベーターから出てきた。

 ペペロンチーノを食べていたハンナが、手を止めて首を傾げる。

 

「どうしたんだろ?」

 

「なんか嫌な予感がするような……」

 

 某糸使いさんではないが、なんとなく嫌な感じだ。

 

 男性従業員はフロントにある電話でどこかに掛けている。

 

──さつじん……す。はい……ません。……。

 

 んん? 今、殺人って言ったか?

 

「エヴァン、行こう」

 

 ハンナの雰囲気が変わる。仕事モードだ。ということはやっぱり殺人か。

 

「りょーかい」

 

 ふむ。ハンナは1ジェニーも置かずに行ってしまった。ふむふむ……くっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺人ですか」

 

 ハンナが警察であることを告げ、事情を訊くと、慌てていた男性──支配人のベネットが早口で説明してくれた。

 611号室で宿泊客のカーソン・クックが大量の血を流し、倒れていた。ベネットが確認したところ、呼吸もしていなかったため、情況を鑑み、殺人事件の可能性があると判断。それで慌てて警察に連絡した。

 で、今に至る。

 

 当たり前だが、全く動揺していないハンナがハキハキと応じる。

 

「分かりました。まずはホテルから人が出ないようにしてください」

 

「は、はい。……ゾーイ」

 

 全く冷静さを欠いた様子のベネットは、病んでそうな女性従業員──ゾーイを呼びつけると、幾つかの指示を出した。

 ゾーイは頷くとフロント奥のドアへと消える。多分、他の従業員に知らせに行ったのだろう。

 タイミングを見計らい、ハンナが続ける。

 

「では、私たちも現場を確認させてください」

 

 だよね。ハンナならそうするよね。俺でもそうする。だってミステリーの匂いがするし。

 

「わ、わかりました。ご案内いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 611号室に向かう道すがら、ベネットが追加で興味深い情報を提供してくれた。

 

「鍵が掛かっていた……」

 

 俺の呟きにベネットが律儀に肯首する。

 

「はい。私が訪れた時には確かに」

 

「それでマスターキーを使い、部屋を(あらた)めたのですか?」

 

 ちょっと急すぎではないだろうか。お客さんに用があるとしても、仮に電話に出なかったとしても「少し時間をずらして後でまた来よう」と考えると思うんだけど。

 

 俺の言い方から不審がっているのを察したのか、ベネットが慌てて付け足す。……この人、慌ててばっかだな。

 

「夕食をお持ちした際もお返事がなく、お電話も繋がらなくて……」

 

「なるほど。さらに外出記録もないのですね?」

 

 だから身を案じて力業に出る必要があった。それなら不自然ではないね。

 

「はい」

 

 ふーむ。密室殺人ということになるのか。

 でも、ドアが閉まったら自動で鍵が閉まるタイプの場合、不可能犯罪性が薄いからミステリー定番の密室殺人という感じは弱くなるが……。

 

 ジャケットの内ポケットに入れた鍵を取り出す。

 チェックイン時に貰った鍵は、カードキーなどではなく、古き良きピンシリンダータイプ。自動施錠の線は薄そうだ。

 

「このホテルの鍵は自動で閉まったりします?」

 

「いえ、一般住宅と同様に手動で閉める必要があります。古いホテルですので……」

 

 だよね。さて、となると被害者のクックに貸し出した鍵が何処にあるのかが重要になってくる。

 けど、ベネットの動揺っぷりを見てると、ある考えがチラついてしまう。

 

「……室内に貸し出した鍵があったのですか?」

 

「! え、ええ。その通りです」

 

 ベネットが驚いた顔を見せる。ついでにハンナも。

 ……って、おい。ベネットはともかくハンナがそんなんじゃアカン。

 

「どうして分かったの!?」

 

「ベネットさんの動揺がかなり大きいから、『もしかしてホテル側が疑われる要素があったのかも』と思っただけだよ」

 

 普通に考えると、この情況で鍵を閉められるのはマスターキーを使用できる人間だけだ。それはすなわちホテル側の人間ということになる。

 支配人というベネットの立場を考えると「従業員がお客さんを殺害!」なんて悪夢でしかない。取り乱すのも仕方がないと言える。

 

「申し訳ありません。どうしても色々考えてしまい……」

 

 ベネットの眉尻が下がる。苦々しい心情が表れているね。

 

「気にしなくて大丈夫ですよ。ベネットさんの立場なら誰でもそうなります」

 

 ただし現時点ではベネットも容疑者に含まれている。敢えてそれを告げるのは控えるけどさ。

 

 さて、問題の6階に到着した。エレベーターの扉が開く。行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 611号室の金属製番号プレートが鈍い光を放っている。この中にご遺体がある。

 

 ベネットがドアノブを捻るが──。

 

「ん……? 鍵が掛かっている?」

 

 ドアが開かずに困惑している。

 

 どういうことだ? 鍵を掛けずにフロントに戻っていたにもかかわらず、今現在は鍵が掛かっていたから戸惑っているってことなのか?

 ……なんだそれ。つまりベネットが遺体を発見してから俺たちが訪れるまでの僅かな時間に誰かが鍵を閉めたってことだよな。なぜ、そんなことをした? どんなメリットがある? そもそも方法は?

 

 ……落ち着け。俺まで混乱したら駄目だ。まずは鍵を開けてもらおう。

 

「ベネットさん。もう一度、マスターキーで開けてください」

 

「そうで……あっ」

 

 ベネットは、内ポケットをまさぐったかと思うと「まずい」といった声を上げた。

 ……えぇ。

 

「申し訳ありません。おそらくフロントに置いてきてしまいました」

 

 あちゃー。あちゃー。

 

 しかし、ここで(破壊)神、登場。

 

「オッケー。じゃあぶち破るけど許してね!」

 

 こういう時、ハンナは迷わない。思い切りがいい奴だからね。

 

「とりゃっ」

 

 若干可愛い感じの掛け声だが、やってることはヤクザキック(柄の悪い前蹴り)である。警察官とはなんだったのか。

 

 バキッ! という音と共に内開きのドアが開く。鍵部分が見事に壊れている。ハンナもやっぱりハンターハンター世界の住民なんだなって。

 

 部屋の中へ入る。

 

「「「……」」」

 

 中には誰も居ないし、遺体も無い。んー?

 

「ベネットさん。部屋番号間違えたりしてません? 遺体があったのは611号室じゃなかった、とか」

 

 動揺っぷりを見るに十分あり得ると思う。

 

「い、いや、そんなはずは……」

 

「しかし見た感じ、遺体どころか、お客さんが来る前みたいな状態ですが」

 

 キレイにベットメイクがなされているし、小物も整えられている。

 バスルームを確認していたハンナが戻る。

 

「バスルームもおかしな所はなかったよ!」

 

「分かった。とりあえずいっt──!?」

 

──バン……。

 

 おいおいおい。

 

 一旦出ましょう、そう提案しようとした時、開けっ放しだった内開きのドアが勝手に閉まったんだ。

 これはヤバいかも。凝をしていなかったのは間違いだったか。

 

 急いで凝をすると、ドアの隙間にうっすらとオーラらしきものが見える。かなりハイレベルな隠だ。“視るための凝”は得意なのにここまで分かりにくいとは……。

 次いで、円を展開する。エレベーターに向かう人物を捕捉するも、すぐに俺の円の範囲外に出てしまった。

 しかし、あの人物は……。

 

「え、え? なにこれ、オバケなの? 違うよね? ね?」

 

「落ち着けって。多分、何らかの念能力(トリック)だ」

 

 殺人犯は大丈夫でも、オバケは駄目な27歳児がハンナである。

 

 先ずはドアを開けたいところだが……。

 

「……開きませんね」

 

 ドアノブを引っ張ってもドアは開かない。

 ……開かないんだけど、完全に固定されているわけではなく、ごく僅かに動くようだ。ただ、ガタつく程度だから人が通れるレベルではない。つまり閉じ込められた形になる。

 

 さて、今度は俺がドアを文字通り(・・・・)ぶち破ればいいんだけど、その前にやらなきゃいけないことがある。

 

「ベネットさん」

 

 魂が抜けたような趣で立ち尽くしていたベネットに声を掛ける。

 

「この事件、(わたし)──私立探偵エヴァン・ベーカーに任せていただけませんか」

 

「私立……探偵……?」

 

「はい。私はこれでも探偵をやっています。こういった不可解な事件も初めてではありません。プロハンターへの伝手もあります」

 

 ベネットが「プロハンター……」と呟く。流石のパワーワード(?)だ。

 

ご依頼という形(・・・・・・・)にしてくださると私もやりやすくなります。どうでしょうか?」

 

「……分かりました。通常の殺人事件と違うのは私にも理解できます。当ホテルを代表して依頼を出させていただきます」

 

「ありがとうございます。必ずや解決してみせます」

 

 いよっし! これで「探偵業の依頼達成に必要な範囲で、全ての発が使用可能(依頼がないと一部しか使用不可)」という制約クリアだ。

 

 さぁ、先ずは景気付けに硬でドアをぶち破る!

 

「ほいっ」

 

──パァァアン!

 

 俺の気の抜けた掛け声と共にドアに大きな穴が開く。ベネットの口もあんぐりと開く。

 

 経費でお願いしますね。

 


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