【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話   作:虫野律

5 / 22
嘘つきのワルツ [中編]

 611号室を出るも、廊下には誰もいない。

 

 先ほど展開していた円で捉えた人物は、立ち去ったみたいだ。

 

 ふと、前世で読んだミステリーが頭を過り、今しがた出てきた部屋の番号プレートに目を向ける。

 

「……ビンゴか」

 

 俺の独り言にハンナが反応する。

 

「どうしたの?」

 

「プレートを見てくれ」

 

「うん? ……あ」

 

 壁に埋め込まれるタイプ、要するに取り外しできないはずの金属製プレートの数字が変わっている。

 

 610号室。

 

 こんな風に部屋や場所を誤認させるトリックは、ミステリーではテンプレの一つだろう。リアルタイムで体験する機会は滅多にないが、この程度のトリックに嵌まってしまうとはな。油断大敵だ。

 

 方法としてはやはり念か? このタイプのプレートを短時間で不自然さを感じさせないように誤魔化すのは簡単ではない。しかも来る途中に608号室からはプレートを確認している。つまり少なくとも4部屋分のプレートへ手を加えたことになる。

 

 目的は……時間稼ぎ? それも短時間で十分なパターン。

 俺は普通に纏をしているから、仕掛人も俺が念能力者だと把握していたはずだ。つまりすぐに部屋から出てきても問題はなかった。そして、この場合、稼げる時間よりも短時間でプレートへの仕掛が可能な能力を持っているはずだ。コスト超過じゃ無意味だからな。

 

 じゃあその時間稼ぎの目的は……例えば遺体へ何かをしたいが、邪魔が入ったら嫌だから、611号室へ来た人間が一旦は隣の部屋に注目するようにしておいた、とかかな。

 しかし確実性に欠けるよな。そもそも部屋に入らないで廊下に誰かが残るかもしれないし、プレートの不自然さに気づくかもしれない。

 

 合理性のある理由じゃないのか……? ……分からん。いずれにしろ、本当の現場を確認してからだな。

 

 隣の部屋番号を見……って、すでにハンナが中に入ってた。つい考え込んでしまったみたいだ。

 遅れて俺も中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 611号室では、ベネットの言った通り、男が血溜まりの上に倒れていた。しかしこれは……。

 

「ベネットさん、最初に発見した時から遺体はこの状態(・・・・)でしたか?」

 

「い、いえ。指はちゃんとあったはずです」

 

 遺体は半ば乾燥した大きな血溜まりに倒れているが、切断された右手人差し指だけは今現在も血を流している。

 やはりベネットの言うように今しがた切断されたはずだ。

 

 目的はこれか。

 

 おそらくは生体認証用、つまりは指紋が必要だったのだろう。無い話ではない。

 

 胸糞は悪いけど、切り替えてお仕事だ。

 

「ハンナ」

 

「ん?」

 

「体温計はある?」

 

 人は死亡すると体温が低下していく。犯罪捜査では直腸で遺体の体温を測り、そこから逆算して死亡推定時刻を考える。勿論、他の要素も考慮して、だ。

 

「ごめん。今は無いんだ」

 

「そっか。なら仕方ない。他の特徴から割りだそう」

 

「それはもうやったよ」

 

 おー、流石、行動が早い。

 

「死斑、瞳のくもり、死後硬直から判断して、死後6~9時間くらいだと思う」

 

 オッケー、十分。死亡推定時刻は遺体発見が遅れれば遅れるほど曖昧になってくる。「大体この日」というようにざっくりと日単位でしか分からないこともザラだ。3時間程度のブレで済んだのは幸運と言うべきだろう。

 

 ちなみにだが、管轄外の都市でハンナがこんなに好き勝手できるのには勿論理由がある。ぶっちゃけるとハンナの一族に警察上層部の人間がそこそこいる。それでわりと融通()が利くんだ。

 結構駄目なことだとは思うが、俺もそのおこぼれに(あずか)っているので非難はできない。

 でも、ハンナの行動理由って犯人逮捕だから完全な悪ではない。だから周りも渋々許してくれてるんだろう。結果も出してるしな。

 

 閑話休題。

 

 死亡推定時刻が分かったなら、次はアリバイチェックだ。それに、円に引っ掛かった人物にも手を打たないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1階フロントに戻ると、ベネットの通報を受けて駆けつけた警察官がいた。

 

「あなた方は……」

 

「お疲れ様です。ゼノンサ中央警察署のハンナ・レイエスです」

 

「ハンナ・レイエス……あ」

 

 若い男性警官は何かに気づいたようだ。何か()に。

 ハンナが俺に視線を向ける。挨拶しろってことだろう。わかってるよ。

 

「私立探偵のエヴァン・ベーカーです。ミレニアムホテルからのご依頼により、事件解決に協力させていただいております」

 

「エヴァン・ベーカー……あ」

 

 え? 俺にもその反応なの?

 

 まぁ、そんなこんなで普通に(?)捜査に加わることになった。なんかすまん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘発見器(笑)」を用いて従業員へ、とある質問をした。それは「あなたはカーソン・クック氏の殺害に関与していますか?」というものだ。通常の捜査ではここまで直接的な質問はあまり見ないが、俺の能力を活かそうとするとこうなる。

 

 で、肝心の結果は従業員全員が「殺害に関与していない」という趣旨の回答をした。この際、嘘発見器(笑)が反応することはなかった。つまり全員が白……と、なりそうだが、1人だけ気になる人物がいた。

 

 確かに念能力は反応しなかった(嘘はついていなかった)。でもその人物は回答の時に、2つほど怪しい仕草をした。

 1つは前髪をいじったこと。

 人は嘘をつく際に鼻を触るなど顔を隠すような仕草をする傾向があると言われている。感情を読まれたくないという心理が働いているからだろう。

 もう1つは僅かに視線を外してきたこと。

 これも嘘をつく時の特徴とされている。勿論、絶対ではないが、脳科学分野では一定の支持を得ている考え方だ。

 気のせい、あるいは考えすぎなのかもしれない。しかし探偵による捜査は刑事裁判とは違い、「疑わしきは罰せず」ではない。「疑わしきは徹底的に調べろ!」だ。

 それに、俺は嘘に関してはそれなりに造詣が深いと自負している。全くの見当違いではない……はず。

 

 その怪しい人物の名はゾーイ・マルチネス。

 

 チェックイン時に対応してくれた女性だ。病んでる、という印象を与えるのは、顔色の悪さをメイクで誤魔化しているからだろう。

 

 これからゾーイとお話だ。さてさて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 営業を終えたホテル内の喫茶店にて、ゾーイと向かい合う。時刻は22時に差し掛かっている。

 ガラス張り越しに感じるヨークシンの喧騒と店内の静寂が、日常と非日常を象徴しているかのようだ。

 

「お疲れのところ、わざわざすみません」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 声量は小さい。

 

「それでは早速質問させてください。少々変わった、あるいは不躾な質問をするかもしれませんが、マニュアル的なものですのでご容赦ください」

 

「……分かりました」

 

 まずはアリバイの確認から。

 

「今日の12時~15時ころには何をしていましたか?」

 

 死亡推定時刻は12時~15時ころだ。

 

「控室でご飯を食べてからフロントで仕事をしてました」

 

「……なるほど」

 

 嘘発見器(笑)は静かなまま。嘘はない。

 仮にクック殺害に関与していたとしても、実行犯はあり得ないということか。そう、実行犯は。

 

「では、貴女は他の誰かと共謀し、クック氏を殺害しましたか?」

 

 共犯者がいるなら一定の筋書きが浮かび上がる。しかし──。

 

「いえ、そんなことはしていません」

 

 静寂。これも嘘ではない……が、まただ。ゾーイはまた前髪をいじった。これは何かありそうだ。

 しかし真相は判然としないな。共犯者がいるならマスターキーをこっそり実行役に渡すなどすれば、密室殺人が完成する。そのパターンだと思ったんだけど……あっ。

 

 ここで別のパターンに思い至る。

 

 何も必ずしも「共犯=共謀」というわけではない。ミステリー界隈では「共謀なき共犯者」とでも称すべきトリックないしネタが存在する。共謀を伴わないままに、其々が自分の都合で行動した結果、まるで共謀共同正犯が実行されたかのような外形を備えるパターンだ。

 これが決まってしまうと、怪しい人物にアリバイがあったり、証拠が無くなってしまったりと探偵役を悩ませることになる。

 だが俺なら突破できる。念能力者をナメるなよ。

 

「それでは別の質問です」

 

 ゾーイの揺れる瞳を見つめ、言葉のナイフを突き立てた。

 

「本日、カーソン・クック氏が殺害された後に611号室の鍵を閉めましたか?」

 

「っ……いえ、閉めてないです」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 ビンゴだ。

 なるほど、このパターンだったか。つまり、ゾーイ以外の誰かがクックを12時~15時ころに殺害。その後に何らかの理由でゾーイが部屋の鍵を閉めた、と。

 そして、この質問にはもう1つ別の意図がある。

 それは「クック氏が殺害された後」との文言を入れることで部屋の中を知っているか否かを確かめるというものだ。俺の能力が発動した以上、ゾーイは質問の内容(前提)を断定的に理解した状態で嘘をついたことになる。よく分かっていないでした発言は、嘘と判定するには事理弁識(じりべんしき)能力という観点からも些か無理があるからだ。

 以上から、ゾーイは611号室の鍵を閉めた時にクックの遺体を見ているということになる。それはゾーイの行動理由が部屋の中で何かをすることにあった可能性を示唆している。

 

「クック氏が殺害された後の611号室で何かをしましたか?」

 

「し、してないで、す」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 これも当たり。

 では目的はなんだ? 犯罪の一般的な動機としては怨恨、金銭目的がある。とりあえずはそれを確かめるか。

 

「クック氏から何かを盗みましたか?」

 

「っ、そんなことしません!」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

「さっきからなんなんですか! まるで私が犯人と決めつけて!」

 

 とうとうゾーイが怒りを顕にする。

 仮に無実ならばかなり失礼な質問をしているが、ゾーイは黒である。この激昂も嘘を誤魔化すための、あるいは動揺を隠すための下手なブラフにすぎない。

 

 さて、ここで嘘つき能力者が、嘘のお手本()を見せてあげよう。

 

──『信じる者は救われない(ラッフィングライアー)』。

 

 ゾーイを見据え、嘘をつく。

 

「実は、クック氏が死亡していたはずの時間に、貴女がクック氏の部屋から出てきてマスターキーで鍵を閉めているところを見た人がいるのです」

 

「っ! そんな……」

 

 まぁ、お手本とかカッコつけたけど、単なる暗示系の発である。効果は、俺の嘘に信憑性を与えるだけだ。洗脳まではいかないから、他の要素(状況、会話など)の補助がないと信じきるレベルにはならない。

 今回は、探偵である俺が真実を分かっているかのような質問をしていたから、目撃者がいたことを違和感無く信じさせることができた。

 

 果たして、ゾーイが重い溜め息をつく。落ちたね。

 

「真実を話してくれますね?」 

 

「……はい」

 

 ポツポツと言葉が零れ──。

 

 

 

 

 

 

 

 ゾーイを地元の警察に引き渡した後、俺は5階を訪れていた。目的はクック殺害の重要参考人──トーマス・フローレスだ。

 ゾーイによると「13時過ぎにトーマスがクックの部屋に入っていくのを見た」らしい。そして「17時ころにクックの部屋を訪れた時には、クックは殺害されていた。流血も止まっていることから、殺害からある程度の時間が経っていると考えた」。そこでゾーイは「13時すぎに見たトーマスが殺害した」と推理。「その時間ならば自分にはアリバイがある。ここで金目の物を盗んでも自分が疑われることはない」といった思考に至った。鍵を閉めたのは捜査を混乱させるため。残念ながらそれは悪手だったわけだが。

 

 と、まぁこんな具合でトーマスにも話を訊く必要があるわけだ。

 

 504号室のドアをノックする。ややあって金属の擦れる音。

 

「はい」

 

 ドアが開けられ、顔を覗かせたのは四角い眼鏡の神経質そうな男。

 この人がトーマス・フローレス?

 

「夜分遅くに申し訳ありません。私、私立探偵のエヴァン・ベーカーと申します。トーマス・フローレスさんで間違いありませんか?」

 

「トーマス・フローレスは私のことですが……」

 

「よかった。少しお話を訊かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「……ええ、構いませんよ。入ってください」

 

 すんなりと承諾してくれた。ふむ。割りと冷静な人物なのかもしれない。

 

 入室すると、ひじ掛けのついたソファを勧められたので素直に応じる。トーマスも向かいに腰を下ろす。

 

「それでお話というのは?」

 

「このホテルで殺人事件があったのは聞いていますね?」

 

 当たり前のことだが、まぁ、枕詞みたいなものだ。

 

「ええ。『警察の許可があるまで滞在していろ』と言われています」

 

「その調査をしておりまして、質問をして回っているのです」

 

「……質問とは?」

 

「はい。まずは1つ目です。『貴方はカーソン・クック氏の殺害に関与していますか?』」

 

「無関係です。その方とはそもそも面識がありません」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 あ、ヤバい。これだと「無関係」と「面識がない」のどちらが嘘か分からないな。

 仕方ない。もう一度だ。

 

「つまり貴方はクック氏を殺害していないということですね?」

 

 かなり無理矢理な質問文だ。トーマスも眉をひそめているが、答えてはくれるようだ。

 

「そうです。当然でしょう?」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 はい、オッケー。大分、パズルのピースが揃ってきた。

 

 事件の流れをまとめると……。

 ①13時過ぎにトーマスがクックを殺害。

 ②17時ころにゾーイがクックの私物を盗み、ドアに鍵を閉める。

 ③20時30分ころに支配人のベネットが遺体を発見。

 ④20時30分~21時ころに念能力者がクックの指を切断。

 ⑤21時ころに俺たちが611号室へ。

 

 こんなところか。ふむ。トーマスがホテルをチェックアウトしていないのは、疑いの目を向けられないためかな。死亡推定時刻後に急遽チェックアウトしたら怪しすぎるもんね。

 

 ゾーイの目撃証言があるから逮捕状が下りる可能性は高いけど(緊急逮捕もあり得る)、一応、落としておくか。

 

「クック氏の死亡推定時刻に、貴方がクック氏の部屋に入るところを目撃した人がいます」

 

「……何かの間違いではないでしょうか。身に覚えがありません」

 

 否定されたが、構わず続ける。

 

「遺体の刺殺痕から刃渡り15センチ程度のナイフ等が凶器と見て、警察は捜査しています。情況から判断して、凶器はホテル内にあるのでしょう。見つかるのは時間の問題(・・・・・・・・・・・)です」

 

 最後の「見つかるのは時間の問題」のとこで『信じる者は救われない(ラッフィングライアー)』を発動し、真実味をプラスしておく。

 

「……」

 

 小綺麗な室内に沈黙が揺蕩(たゆた)う。

 

「今ならば自首による恩恵を受けられます」

 

「……私はやってない」

 

 トーマスの声は弱々しく。

 

「刑務所での1年は長いですよ。少しでも短い方がいいでしょう。今が最後のチャンス(・・・・・・・・・)です」

 

「……っ……」

 

 何かを言いかけて止める。もう一押しかな。

 ちなみに「時間の問題」「今が最後のチャンス」などと言って、得られる利益の損失が目前に迫っていることをチラつかせるのは、損失回避の法則を刺激するためだ。通販とかでよくある「今なら半額でご提供します!」ってやつ。あれも心理学に基づいている。

 次は権威性の法則を使う。

 

「刑法第42条第1項『罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる』。確かに必要的減軽事由ではありませんが、今ならば有利に運べる可能性が高いですよ。仮に『捜査機関に発覚する前に』の要件を満たせず『自首』ではなく、『出頭』として処理されたとしても早期に名乗り出た事実は、刑法第66条酌量減軽の対象になり得ます」

 

 要約すると「自分からごめんなさいしたらあんまり怒られないかもよ?」である。法律用語()。

 

 権威性の法則は「権威や専門知識がありそうな存在にはなんとなく従いたくなる性質」を指す。

 この法則を利用するために自分でも鬱陶しいと思う物言いをしたんだ。ぶっちゃけ詐欺師の常套手段なんだけど、全ては自首に同意してもらうため。そっちのが警察の手間が減る。

 ちなみにあまり難解なことを言いすぎると、処理流暢性(分かりやすい=真実とみなす性質)からマイナスになる。バランスとタイミングが大切だ。

 

 さてさて、どうだろうか。

 

 急かさずに待つ。

 秒針の音が煩わしく感じるようになった時、漸くトーマスが伏せ目がちに言葉を吐き出した。

 

「……本当ですか」

 

 掛かった。

 

「勿論です。これでも私は正直者なんですよ」

 

 真っ赤な嘘である。

 

「分かり、まし、た。自首します……」

 

 うん、ありがと。

 

 とりあえず一般人サイドはオッケーだけど、問題は次なんだよなぁ。

 

──prrrrrrrrr.

 

 お、電話だ。来たかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は深夜12時を回っている。ミレニアムホテル8階の廊下はとても静かで物寂しい。

 

 先ほど、挑発がてら分かりやすく攻撃的な思いを込めた練をしておいた。

 指を持ち去った犯人に対して「来ないなら、こっちから行く」というメッセージのつもりだ。

 そもそも俺の円に触れた時点で俺が認知したことに気づいているはずだ。それなのに逃げたり、逆に襲撃したりもしていない。強いて言えば、時折、視線を感じるくらいだ。それ以外には何もない。

 

 お相手さんのメインの目的はクックの指だったかもしれないが、どうにも合理的な部分以外、要は感情部分が行動に大きく影響しているように思える。

 その感情がどういったものかは分からないが、死体損壊・遺棄罪に該当する以上、それなりの対応はさせてもらう。

 だからメッセージの内容は対決前提なものにした。

 

 そして数分ほど経って彼が現れた。

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

「こんばんは。キャロルさん」

 

「ええ、こんばんは」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 キャロルは穏やかな口調ではあるが、目だけは嗜虐的な光を帯びている。

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 いや、さっきから嘘発見器(笑)がうるさいな。ちょっとオフにしとく。

 しかしキャロルが発言する前から反応するってことは存在自体が嘘。つまりキャロルに誰かが成り代わっているか、そもそも偽名等を使った架空の人物か、だ。

 

 元々、本当にごく僅かな引っ掛かりはあった。それはキャロルが喫煙者であるわりには、煙草の匂いが全然しなかったことだ。

 もしかしたら喫煙者であるキャロルに、非喫煙者である偽物が成り代わっているんじゃないか?

 始めにこの可能性を考えた時は、仕事熱心すぎて人を疑う癖が手遅れレベルになってしまったかと自嘲したが、案外当たっていたのかもしれない。

 

 廊下の先に佇むキャロルからは、嫌なオーラが漂っている。

 

「わざわざタイマン(・・・・)に乗ってくれてありがとうございます」

 

「なに、構いませんよ」

 

「もしかして、タイマン(・・・・)はお好きだったりします?」

 

「嫌いではないですね」

 

「なるほど、それはよかった」

 

 うん、目的もよく分からないし、ストレートに行くか。嘘発見器(笑)、スイッチオン!

 

「貴方はキャロルさんではないですね?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「……随分素直に認めますね」

 

「もう目的は達成しましたし、バレても構わないのですよ」

 

 キャロル(偽)が流暢な纏を開始する。

 うわぁ、うっま。明らかに格上じゃん。

 

「クック氏の指以外の目的とは?」

 

 何がおかしいのか、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「それは秘密です」

 

「そうですか。では、そろそろ本来の姿を見せていただけませんか?」

 

 キャロル(偽)は「はて、いかが致しますかね」などと漏らしてから、妙案でも思いついたのか、楽しげに口を開いた。

 

「君は名探偵でしたね? 例えば、私の念能力を推理して当てられますかな? その内容次第で本来の姿を見せましょう」

 

 ほー、そう来るか。ふーん。

 ……ぶっちゃけ心当たりはある。けど、ちょっとイメージと違うからそんなに自信はないんだよなぁ。まぁ、ハズレてもそんなにデメリットはない。むしろ当たった場合の方が駄目な気がする。

 でも「推理しろ」と言われて「全く分かりません」なんて言いたくない。その実態が原作知識によるカンニングであったとしても、探偵としての価値を低く見られるのは嫌だ。我ながら子どもっぽいとは思う。けど大事なことだ。

 

 複雑な心境と敬語を引っ込めて、回答する。

 

「ドアを閉めたのは、粘着性と弾性のあるオーラによるもの。凝で観察した内容を踏まえても、十中八九、変化系」

 

 キャロル(偽)のオーラが怪しく揺れる。こっわ。

 

「プレートに細工したのは、絵柄付きのテープか紙のようなものだろう。非念能力者が視認できたことから具現化系。先程の変化系能力との兼ね合いから、操作系による幻覚等が考えにくい点も具現化系である根拠だ」

 

 もはや纏ではない。クロロに匹敵する練。

 

「では、キャロルに成り代わる方法は?」

 

「今、言った2つの併せ技。変化させたオーラは操作次第で人工筋肉のような使い方ができるはずだ。そこに肌の絵柄にした紙を張り付けて念による特殊メイクを完成させる。さらに変化させたオーラを声帯に張り付け、声帯の厚さを微調整することで声質も変えられる」

 

「……ふふ」

 

──パチパチパチ……。

 

 キャロル(偽)の拍手が乾いた音を響かせ、そして、特殊メイクが剥がされた。

 

「正解。クロロが目をつけるだけはあるね♠️」

 

 はい、ヒソカ・モロウの登場です。相対するとヤバさが際立つなぁ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。