【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話   作:虫野律

9 / 22
お久しぶりです。9話~13話まで連続投稿です。

アンケートにご協力していただき、ありがとうございます。勉強になります。
また、誤字脱字のご報告も助かっています。ありがとうございます。
これに関し皆さんにお願いがあります。
私は執筆に際し、基本的には公用文、新聞、テレビ等で採用されるような漢字、語句、言い回しを参考に平易で読みやすい文章を目指しています。しかし演出したい雰囲気や語感等により専門用語、業界用語、常用漢字外のものや癖の強い言い回しを使用することもあります。
したがいまして、上記の理由から皆さんがしてくださった誤字脱字のご報告を反映しないこともあるという点を許していただきたいのです。よろしくお願いいたします。


本エピソードはオリジナル解釈・設定が特に多いので気になる方はご注意を。


いかあおいあお! いかあおいあお! [壱]

 11月もそろそろ終わりに近づき、街に流れる風がかなりの冷たさを運んでくる今日この頃、俺の事務所に1組の夫婦が訪れた。

 

「はじめまして。予約していたワイアット・ミルズです。こちらは妻のセレニティです」

 

 旦那さんが挨拶。次いで奥さんが無言のまま頭を下げる。

 暗い表情のせいで少し分かりにくいけど、2人とも50歳くらいかな。

 

「私立探偵のエヴァン・ベーカーです。本日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます。早速ですが、ご依頼についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「はい。実は娘がいなくなってしまいまして……」

 

 答えたのは旦那さん。とりあえずは旦那さんが依頼交渉を担当するみたいだ。

 

「警察に捜索願いは出されましたか?」

 

「勿論です。しかし捜索願いを出してから2週間は経ちますが、未だ何の進展もないらしいのです」

 

「なるほど。失踪を認識したのも2週間前でしょうか?」

 

「そうです。門限を過ぎても帰ってこず、連絡も取れなかったので翌日には警察に行きました」

 

「娘さんのご年齢は?」

 

「今年で16歳になります。まだ10thグレードなのにこんなことになるなんて……」

 

 10thグレードは日本の高校1年生に相当する。

 

「なるほど。心当たりはありますか?」

 

 あったとしたら、すでに警察に教えたり自ら調べたりしてるんだろうけど、一応ね。

 

「いえ……私たちには全く」

 

 旦那さんが俯き、悲痛を漏らす。が、何やら引っ掛かる。俺の視線から逃げたのは偶然だろうか? ……流石に現時点では判断できないな。少しつついてみるか。

 

「そうですね。例えば学校生活や男性関係で悩みを抱えていた可能性はないでしょうか?」

 

「ないとおも──」

 

「あり得ません。ベラがそのような些事に煩わされるはずがありません」

 

 奥さんがキッパリと断言。

 発言を中断させられた旦那さんが何か言いたげな顔を見せるが、それも一瞬のこと、すぐに頷き、奥さんに追従(ついじゅう)する。

 ……ふむ。

 

「ベラは学業の成績も優秀で、チアリーディング部でも大会メンバーに選ばれています。学校生活に問題があったとは思えません」

 

 強い語気。奥さんは不機嫌を隠す気がないようだ。

 

「念のための確認です。失礼しました」

 

「娘のイザベラです」と旦那さんが取り出した写真には、それなりに可愛らしい容姿の少女が写っている。奥さんの話が真実ならば、クイーン・ビー──スクールカーストで最上位の女子生徒のことだ──の取り巻き程度にはなってそうだな。

 だが、どこか影のある笑顔を見るにもう少し下の位置かもしれない。

 

 如何にもいろいろありそうな案件ってのは分かった。すごくいいと思う。

 ……おっと、ニヤけないようにしないと。危ない危ない。

 

「お話は概ね分かりました。ご依頼はご息女(そくじょ)の捜索及び保護ということでよろしいでしょうか?」

 

「はい。お受けしていただけますか?」

 

「勿論です。全力で当たらせていただきます」

 

 旦那さんが安堵の息を吐く。

 

「ありがとうございます」

 

「それではご契約の詳細を──」

 

 

 

 

 

 

 

 契約詳細の確認が終わり、娘さん──イザベラ・ミルズ(15)の情報も可能な限り受け取った。

 今は事務所の入り口でミルズ夫妻を見送る段階だ。

 

 旦那さんは酷く不安な顔をしている。垂れ流しの微量なオーラからも不安であることが理解できる。……そして、やや複雑な感情を抱えていることも。

 

「それでは、どうかよろしくお願いいたします」

 

「……よろしくお願いします」

 

 ニ拍遅れて奥さんが旦那さんに倣う。

 俺への疑わしげな視線から理由は察せられるね。……うん、まぁ、俺が胡散臭いのは否定しないよ。むしろ、いい勘してると褒めたいくらいだ。

 

「ご期待に沿えるよう尽力いたします」

 

 2人と視線を交わす。

 

「……失礼します」

 

 覇気のない口調で告げた旦那さんが、奥さんと共に寒空の街を歩き出した。

 日本のガチ接客業ではないから、しばらくお辞儀してるなんてことはしない。だからわりとすぐに事務所のドアを開け、中に入ろうとし──なんとなく気になって夫妻を見やると、こちらを振り返った奥さんと目が合う。理由は分からない。意味があるのか、ないのか。

 彼女はすぐに前を向き、歩みを再開した。

 

「……」

 

 (さむ)

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、イザベラの通っているハイスクールへ訪れた。聞き込み調査のためだ。

 

「……」

 

 かなり浮いている気はするが、仕方ないね。アラサーだもの。

 さてと、教師のオフィスは……。訊いた方が早いな。

 

「すみません。ジェイコブ先生のオフィスはどちらでしょうか?」

 

 近くにいた、赤髪ベリーショートにフリフリのゴスロリドレスの女子生徒に訊ねる。学校でゴスロリドレスは珍しいね。

 

「ん~? お兄さん、変なカッコだね」

 

「……そうですかね」

 

 革靴にダークグレーのスーツ。これにいつものインバネスコート──ホームズが着てるアレだ──を羽織っている。

 ……変ではない。全くもって失礼な娘さんである。でも、お兄さん呼びしてくれたから許してあげよう。

 

「で、何? ナンパ? ロリコン?」

 

「違います。ジェイコブ先生のオフィスを教えてほしいんです」

 

「ふーん。じゃあ一緒に行く? 私も今から行くとこなんだ」

 

 助かる。普通にいい子だったわ。

 

「お願いしていいですか?」

 

「いいよん」

 

 

 

 

 

 

 

 あらかじめ学校には電話で話を通してある。その時に対応してくれたのがジェイコブ・ウッド先生だ。

 こっそりと学校の周りで生徒に接触する方法もないではないが、今回はある程度事情を話しても問題ないので、おおっぴらに学校に協力を求めることにした。

 それで職員に挨拶をしてから仕事に取り掛かろうってわけだ。

 

「着いたよ。じゃ、私は行くから。バイバイ」

 

「ありがとうございました」

 

 なかなか凄そうな子だな。

 

 

 

 

 

 

 

 ジェイコブへの挨拶を終え、チアリーディング部の部室へやって来た。

 チアリーディング部はイザベラが所属してるとこだ。ここの部員なら何か知ってるかもしれない。

 早速ノック。しかしレスポンスはない。

 

「……あれ」

 

 中から人の気配を感じるんだけどな……。居留守? 単に警戒してる? よく分からん。

 もう一回。

 

──コン、コン、コン、コン。

 

 ガチャリ、とおそらくは解錠の音。

 次いでドアが開けられた。

 

「誰だよ、うっせぇな」

 

 意外にも現れたのは筋肉質な男子生徒だった。ここは女子チアリーディング部の部室なんだけどなぁ。

 

「私は、私立探偵のエヴァン・ベーカーと言います。少s」

 

「探偵~? 何でそんなのが来るんだよ」

 

「イザベラ・ミルズさんの件でお伺いしました」

 

「あー」

 

「ご理解いただけましたか。では少しお話を──」

 

「だりぃ。帰れ」

 

 バン、とドアを閉ざされてしまった。あらら。

 うーん、オーラで威圧したり、発で暗示掛けたりと、外道な手段もやろうと思えばできるけど、流石に重要参考人に満たない非念能力者の子ども相手にはあまりやりたくない。

 ぽりぽりと頭を掻く。

 とりあえず他を当たるか。

 

 

 

 

 

 

 

 門前払いを喰らった後、生徒や職員に話を聞いて回った。しかし成果は(かんば)しくない。いや、逆説的に分かったこともあるっちゃあるからダメダメではないと思いたい。

 彼ら彼女らは皆「イザベラは優秀な少女で、エリアナ(クイーン・ビーの美少女)とも仲が良かった」といった趣旨のことを語ったんだけど……なーんか、言わされてる感。というか嘘発見器(笑)に引っ掛かる子もいたから、少なくとも確信に足る真実ではないっぽいね。

 

 つーか、エリアナが怪しくない?

 なんとなくイザベラって虐められっ子オーラ(・・・)が出てるんだよね。だからエリアナに虐められてたのかなって。

 

「でもなぁ……」

 

 現時点では、エリアナが関与していると断定できるほどの情報はない。

 ただ、仮にカーストトップによる虐めがあったならば、それは自分から失踪する動機になり得る、とは思う。けど、一番肝心な行き先についてはこれだけじゃあ分からない。

 当然、行き先の心当たりも訊いたが、誰も知らないみたいだった。これについては嘘発見器(笑)が反応した人物は皆無。つまり困ってしまったということだ。

 ま、でも、エリアナに話を聞いてからだな、うん。

 

「エリアナはどこに……」

 

「やっぱりロリコン?」

 

「うわっ。びっくりした」

 

 独り言だったんだけど聞かれていたらしい。

 横から“絶”状態で急に話し掛けてきたのは、オフィスへ案内してくれたゴスロリベリーショートの少女──ルビー・ホーキンスだ(そう呼ばれていた)。

 ちょっとチェック。

 す、と人差し指を立てる。

 

「何が()えます?」

 

「? 指? それがなんなの?」

 

 嘘発見器(笑)は口をつぐんだまま。なるほど。

 指の先にはオーラで「あなたは念能力者ですか?」の文字を作っている。嘘発見器(笑)が正常に機能してるなら、ルビーは絶を無意識にやっちゃう系ティーンエイジャーということになる。

 

「いえ、その答えで結構です。ありがとうございます」

 

「お兄さん、ロリコンでカッコも変で頭も変なの? 病院と医者の情報あげようか?」

 

「大丈夫です」

 

「あは、怒っちゃった?」

 

 カラカラと笑う様はなんかヤバい人みたいだ。

 最近の子は分からん、と思ったけど、俺も昔、学校で念の練習してた時に教師から似たようなこと言われてたわ。今は反省しています。

 

「怒ってないですよ。昔を思い出していただけです」

 

「ふーん。昔はやんちゃしてたのね」

 

 言ってない。駄目だ。この子に合わせてたら時間が溶けてしまう。スルースキルを発動するしかあるまい。

 

「私、私立探偵のエヴァ」俺が言おうとするも「私立探偵のエヴァン・ベーカー。ベラちゃんについて嗅ぎ回ってるんでしょ? 知ってるよー」ルビーがおもいっきり被せてきた。

 

「……」

 

 押し黙っていると、ニコッと年相応の笑顔。なんだかこの子苦手っす。

 それはそれとして。

 

「で、何の用なんですか?」

 

 先程は思考に集中してたこともあって絶に惑わされたが、実は聞き込みの最中にチラチラとルビーの気配を察知してたんだよね。何やら俺を観察してるようだったけど、特別、害があるわけじゃないから放置してた。

 多分だけど、用件はルビーの、所謂“半覚醒”状態の念能力についてだろう。

 半覚醒状態とは、一部の念技術を発動してしまうが、コントロールはできない状態のことだ。才能、特殊な環境、あるいは他者の発などの影響で発生する現象……って某牛が言ってた。

 

 すでにルビーの絶は崩れ、開き掛けた精孔からオーラが多めに漏れている。それを(おそらくは無意識に)拙すぎる纏で維持。潜在的な生存本能のなせる業か。

 ……しかしこれでは辛いはずだ。オーラを大分浪費してしまっている。

 

「探偵さんなんでしょ? 推理してみせて」

 

 質問に質問はアカン、なんて細かいマナーをツッコムつもりはない。そもそもこの子の場合は、他人に言いづらい“何か漠然とした不可解な現象”について悩んでいる自覚があるからこその物言いなんだろう。

 正直、気持ちは分からないでもない。俺も念は独学だからな。試行錯誤と能力にふりまわされる日々。あー、灰色の青春が(ちなみに俺のオーラは灰色である)。

 

「それでは失礼して」

 

──練ver.よわよわ。

 

「!?」

 

 ルビーが笑顔を引っ込めて素早く後退する。いい感度(センス)だ。

 

「おそらく見えてはいないのでしょうね。しかし明確に感じることはできる。違いますか?」

 

 俺に興味を持った理由がオーラであり、かつオーラの文字が見えないのなら、感じることができるだけの状態だと思われる。俺から他の人間よりも強いオーラを感じたんだろう。纏だけでも垂れ流しよりはかなり濃密だ。

 

 ルビーの頬を汗が伝う。

 しかし、ニコっと先ほどの焼き増しのような笑顔を見せてくれた。

 

「証拠はあるの? 私は無実だよ」

 

──嘘つき! 嘘つき!

 

 ウィットに富んだ(ジョーク)をありがとう。

 もう必要ないので練は解いておく。

 

「最近は以前より疲れやすくなってませんか?」

 

 笑顔は変わらず。

 

「この力は謂わば生命力そのもの。あなたの状態だとそれがかなり非効率に運用されています。結果、疲労困憊で生活しなければならない。当たっていたら証拠ということでお願いします」

 

「……」

 

 今は敷地の端にある公園のようなスペースにいるんだけど、一応、五感と円による周りの確認はすでに終わっている。最低でも俺たちの半径25メートル以内には誰もいない。……円は苦手なんだよ。

 

「ふ」

 

 少女の笑みが困ったようなそれへと変わった。当たりか。

 

「……どうすればいいの? これメチャクチャしんどくてさ」

 

「知り合いのプロハンターにこの現象に詳しい人がいます。その人を紹介しますよ」

 

「えー、なんかないの。早くなんとかしたいんだけど」

 

 あー、うん。俺も困った。そう来るかも、とは思ってたけど、どうしたものか。だって人に教えた経験なんてないんだもん。

 

「私のレベルでは上手く教えられるか分からないんですよ。こういったケースに対応した経験もありませんし」

 

「でもお兄さんはこれ(・・)をコントロールできてるんでしょ? もし教えてくれたらベラちゃんとエルちゃんの情報渡すよ」

 

 情報、ね。

 

「失敗したら最悪死にますよ?」

 

「……これってさ、誰が教えてもリスクはあるんじゃないの? それならお兄さんがいい」

 

 これが精神的に成熟した大人なら本人の自己責任ってことで教えてもいいんだけど、ルビーは微妙だよなぁ。

 つーか、なんか俺に拘る理由があるのか? だって初対面の男にここまで言うか? 言わなくない?

 

「なぜ私なんです?」

 

「それは……見せた方が早いね。えいっ」

 

「……Whaat(まじか)

 

 ルビーの手には1枚のカードがある。具現化したんだ。

 具現化系は発動するレベルになるまでかなり時間が掛かる。それを半覚醒状態でやってしまうとは……。

 

「理屈はわかんないけど、私、人の情報が書かれたカードを出せるんだよね。それでお兄さんの『この不思議な現象』に関する『その他』カテゴリーの情報をゲットしたんだ。はい、読んでみて」

 

 カードを差し出された。凝で視ても不審な点はない。嘘発見器(笑)もスルー。問題はなさそうだ。

 受け取って記された文字を読んでみる。

 

“エヴァン・ベーカー。特質系の念能力者。独学でありながら、20代でプロハンター最上位クラスに到達した天才。彼の発は嘘を見抜き、■■を創造する『■つきは■■の始まり(■■アーハン■ー)』。彼の前では正直者でいることを推奨する”

 

「うわぁ」

 

 ドン引きである。伏せ字(未熟故だろうか?)があるとはいえヤバすぎ。顔面ピクピクピクニックだ。

 

「私さ、ジャーナリストになりたいんだよね。だからお兄さんの『嘘を見抜き』ってとこに興味があるの。それになんか凄い天才なんでしょ? きっといいやり方を思いつくはず」

 

「……ルビーさんの望む結果にはならないかもしれませんよ? それでもいいですか?」

 

 ぱぁ、と笑顔(はな)が咲く。はぁ。

 

「うん! いいよ!」

 

「それから、いつもいつも時間があるわけではないので、教えるのは基本的なことだけです。それ以上は心源流の師範か、プロハンターにでも教わってください。紹介ぐらいはしますから」

 

「ちょっと不満だけど了解です! 師匠?」

 

 もう敬語はいいか。

 

「師匠はやめい。普通に名前で読んでくれ」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 ルビーには、絶を最優先で教えることにした。瞑想でも発の理解でも纏でもない。

 なぜなら絶を意図的にできるようになれば最低限の休息が可能になるからだ。それに、精孔を操作する感覚を理解することができれば本格的な覚醒にも繋がるはず。 

 

「こんな感じ……?」

 

「そうそう」

 

 ルビーはすぐに絶のコツを掴んだようだ。

 意図的ではないとはいえ、できている時もあったからか流石に早い。……いや、それにしたって早くない? こんなもんだっけ?

 

「疲れた時はその“絶”の状態で休むと効率的に回復できる。最初の課題は睡眠中もその状態を維持できるようになること」

 

「おっけー、任せて」

 

「ただし! 絶は気配が薄くなって人に認識されにくくなることに加え、纏の状態よりも身体の耐久力や防御力がかなり低くなるから、この2点は忘れないように。特に車には要注意だ」

 

「りょーかいしました!」

 

 結構元気だな。

 ちなみに俺は、絶状態でランニングしてて車にはねられた経験がある。8歳の時の話だ。攻防力0の意味を痛感した出来事だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 念の指導が一段落すると、ルビーが対価の情報について訊いてきた。

 

「何から話せばいい?」

 

「もう教えてくれるのか? まだ指導の効果はそんなに実感してないだろ?」

 

「そんなことないよ。絶の練習をしてるうちにモヤモヤしたものがぼんやり見えるようになってきたの。多分これがオーラだよね」

 

「あ、はい。そうですね」

 

 早! これ、俺が教えなくても覚醒は時間の問題だったんじゃないか?

 

「だからもう教えようかなって」と柔らかい声音。「エヴァンはベラちゃんを探してるんだよね?」

 

「ああ。それでイザベラの生活実態を知ることから始めたんだ」

 

「多分さ、うすうす察してると思うけど、ベラちゃんはエルちゃんたちに虐められてた。でもエルちゃん()はアレだから誰も何も言えないんだよね。分かるでしょ?」

 

 おや。初耳だぞ。

 

「エリアナの家名はなんなんだ?」

 

「あれ、知らなかったんだ」ルビーが少し驚いた顔を見せた。「家名はガルシア。あのガルシアだよ」

 

「あー、なるほどー」

 

 ガルシア家はサヘルタ合衆国のメディアを牛耳る一族だ。はっきり言ってその権力は相当ヤバい。ついでに財力も。コンビニでアイスを買う感覚でゾルディックに依頼を出せるレベルだ。そりゃあ皆ビビる。俺もビビる。当たり前である。

 しかしガルシアの娘に虐められていたのか。かなりのストレスだっただろうな。逃げ出したくなってもおかしくはい。

 ただ、誰かに拐われた、又は何らかの事件に巻き込まれた可能性も現時点では否定できない。

 

「2週間前の、イザベラが行方不明になった時期に何か変わったことはなかったか?」

 

「うーん? 何もなかったと思うけど、私も常にベラちゃんを見てたわけじゃないからね。あんまり自信はないかな」

 

「そっか。まぁ、そうだよな」

 

 ちょっと残念だが仕方ない、と俺が思ったのを察したのか、ルビーがどや顔で「でも大丈夫!」と宣いおった。

 

「じゃじゃーん!」

 

 4枚のカードが具現化された。……ですよね。

 

「カードを使えば分かっちゃうかもなのです」

 

 カードにはそれぞれ「色欲」「財産」「殺傷」「その他」と書かれている。

 

「疲労は大丈夫なのか? それは発と呼ばれる技術でそれなり以上にオーラを消費するはずだぞ」

 

「これくらいならまだ大丈夫。心配ご無用さ」

 

「そうか。それならいいんだが」

 

「ありがと」と挟み、ルビーが能力の説明に入る。

 

「このカードでゲットできるのは特定の個人についての情報で、1人につき1回、選択した1カテゴリーの、指定した事柄に関するものだけなんだよね。だから1番欲しい情報は何かをよく考えないといけないの」

 

 ある程度、制約と誓約も把握してるようだな。優秀っすね。

 

「それはどんな情報でもいいのか?」

 

「指定した事柄に関する情報がカテゴリー内にあれば、多分なんでもおっけー。でも選んだカテゴリーに関係情報がないと『ハズレ』って書かれてて、もうその人には使えなくなっちゃうんだ」

 

「2つ以上のカテゴリーに同じ情報があるパターンは?」

 

「1回しか使えないから確かめたことはないけど、それはないと思う。だってそれだとカテゴリーが分かれてる意味ないじゃん」

 

「それは、まぁ」

 

 割りと厄介な制約だ。もしかしたらこれ以外にも制約と誓約があるかもしれないし、情報戦で致命傷を与え得るポテンシャルを秘めてはいるが、なかなか難しい。

 やっぱりちゃんとした人に指導を受けた方がいいんじゃなかろうか。

 

 閑話休題。

 

 1番欲しい情報はやはりイザベラの居場所だ。となると「その他」カテゴリーでいいはず。

 例えば、恋人との駆け落ちならば「色欲」カテゴリーになるんだろうが、イザベラに関して男の話は出てこなかったから多分これはない……よな?

 

「イザベラが駆け落ちした可能性ってあると思うか?」

 

「彼氏どうのは聞いたことないよ」

 

 じゃあ「殺傷」と「財産」の可能性はどうだろう。

 殺傷事件を起こしていて、それが行方不明(居場所)と密接に関係しているならカテゴリーは「殺傷」になりそうだが、その可能性は低い気がする。

 ここまで得た情報からイザベラの人物像としてイメージするのは内罰的な意志薄弱者。悪感情を持つことはあっても、実際に他人を傷つけるとは考えにくい。

 過失による他害行動もあり得るが、それにしたって逃げるような気質ではなく、数日悩んだ後に自首しそうな印象を受ける。

 

「財産」は……うーん?

 

「『財産』カテゴリーってお金を盗んだとか、相続で揉めてるとかだよな?」

 

「うん。そんな感じ。でも悪いこと以外にもカジノで大勝した話やボーナスが増えた話とかも入ってるよ」

 

「あ、そっちもか」

 

 例えば、何らかの手段でまとまった金を得て、それが失踪を決意させ、さらに新天地での生活を支えているなら「財産」カテゴリーに居場所が含まれるのかもしれないが……。

 うん、「財産」カテゴリーも確率は低そう。高校生くらいの子がそんな機会に直面する確率ってそんなにないっしょ。

 

 やはり「その他」カテゴリーが最も信頼できそうだ。

 

「『その他』カテゴリーって他3つ以外全部って認識で大丈夫?」

 

「だーいじょーぶ。ただ……」

 

 ん? なんだ?

 

「『その他』カテゴリーは伏せ字が他に比べて多いんだよね。絶対あるわけじゃないんだけど」

 

 確かに俺の情報にも伏せ字が含まれていた。未熟さ由来か、制約と誓約か、あるいは他の原因かは今は確定できない。要は今すぐに改善する方法が分からないってことだ。

 ま、そうは言っても俺の情報を見る限り、ある程度は有益な情報が得られる確率の方が高いとは思う。……ゴーだな。

 

「では『その他』カテゴリーで『イザベラの現在の居場所』についてだ」

 

「おっけー。よーし! 行っくよー」

 

 ルビーが「その他」と丸文字で書かれたカードを掲げ、宣言する。

 

「『その他』カテゴリーにある『イザベラの現在の居場所』に関する情報を教えて!」

 

 すると剣っぽいデザインのペン(?)が宙に現れ、自動でカードに何事かを記し、書き終えるとすぐに消えてしまった。

 

 さてさて、結果は……。

 

 ルビーがあちゃー、と天を仰ぐ。実に感情豊かな子である。

 

「ごめん。伏せ字が来ちゃった」

 

 渡されたカードを読む。

 

“イザベラ・ミルズは現在、宗教法人「Fの会」の所有地にある「F■■」にいる。彼女は熱心かつ優秀な信者である。もし彼女と再会を果たしたいならば急ぐことを推奨する”

 

「ルビー」

 

「はい……」

 

「天才だわ。MVPを進呈します」

 

「ホント?」

 

「マジマジ」

 

「やった! 師匠に褒められた!」

 

「師匠はやめろ、バカ」

 

 ニッコニッコしおってからに。

 

 しかし宗教法人と来たか。そしてカードに記された不穏な文章。かーなりキナ臭い。

 

 へっ。愉しくなってきたぜ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。