今日の世界は、何色?   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

さて、今回は月代視点の回となります。盲目の女神は何を思うのか、盲目である彼女にとって、日々の生活はどう感じるのか、是非読んで、楽しんでいって下さい。

そして、お気に入り登録:@atさん、碧藤さん、酔生夢死陽炎さん、ミラアルマさん、マクレーンさん、ハルナ@霧の提督さん、ENDLICHERIさん、daisuke0903さん、皐月ニシさん、ペルナさん、雪の進軍さん、まっちゃんのポテトMサイズさん、アテナ難民さん、ありがとうございます。前作から引き続き登録して下さっている方もいて、感謝です。

では、物語へご案内しましょう。



2.見えぬ貴女の今

[今井家 月代の部屋]

 

 

「ぅん……はぁ」

 

 

先程家を出て散歩をしてきた。今日は体調が良い方だったので出来た事なのだけれど、そこそこ久しぶりだった気がする。…私こと月代は、訳あって盲目かつ足もほとんど動かない。それだけならまだしも、体が変になったのか、体全体の(さっきの箇所とは関係ない)ドコカの体調が悪くなったりする。これが中々曲者で、こうして散歩したいと思ったり母や妹のリサの手伝いをしたりしたい時も、体調のせいで却下される事もしばしば。

 

 

「…どうしましょう、これと言ってする事もないのよね……」

 

 

学校は?等という疑問が投げられそうな気がするから先に言っておくと、私は盲目になってから元々通っていた学校を退学して(しざるを得なかった、の方が正しいかしら?)、オンライン制の学校を探して、そこに通っている。一応対面での授業も可能ではあるけれど、希望とそれ相応の理由を申請すれば、晴れてオンライン制度に縋れる、というカラクリ。その学校は今の日本には珍しい小中高大一貫の学校である為、卒業後に新しい学校を探すという手間が省ける。

 

そして今日は日曜日であるので、講義はないのだ。…あ、因みに私は大学2年生。レポートの提出が結構鬼畜だったりする。どうにかならないものかな?

 

 

「今頃、リサはバンド練習かしらね?…私もリサの練習してる所に行ってみたいけれど……」

 

 

行けるものなら行きたい。ただ、不安しかないのも事実。基本的に体調が悪くなる事の典型例は吐き気や頭痛が多い。バンド練習となると大音量での演奏になる為、それによる体調悪化も考えられる。ただ、音関連での体調悪化は一度もなかった。それでも、周りを心配させる訳にもいかないので、その気持ちをグッとこらえて今の今まで一度も行った事はない。

 

リサ曰く、本気で頂点を目指しているバンドとの事なので、私がその場で体調不良を起こしてバンド練習の妨げになりたくない。…ホントはバンドの皆と話をしてみたいんだけれどね。確か、お隣さんの友希那ちゃんと、いつかの買い物の時に偶然会った燐子ちゃんは知ってるはず。その他は……分からない。

 

 

「話だけでもしたいわね……はぁ」

 

 

ふと、無意識に溜め息が漏れる。一応この体になっても、今の生活に物凄い不満がある訳ではない。ただ、勝手が悪いのが、こうした時に玉に瑕となるのには、その都度考えさせられる。やりたいのに出来ない、出来ても体調に気遣わないといけない。正直、その点はかなり不便ではある。

 

 

「…流石に電話するのも、迷惑よね?」

 

 

ただ、この体(もとい目)について、こんなものが無ければと考えた事は、今の今まで一度も無い(足は自分でそう選択したから、元よりどうこう言えたものでもないけれど)。

 

理由は至って単純、リサを守った証だから。元々あの時、私が受けた衝撃はたまたま目におよそ集中したから全身大怪我という事態にまで発展しなかった(結果論ではあるけれど)。それを、あの時の私より小さかったリサが受けていたら、果たして五体満足…とまではいかないにしろ、およそ無事であったかを想像すると、これで良かったと、毎日実感する。…少し言い方は気持ち悪いかもしれないけれど、私の目を代償に、リサの未来を救えた事を、私は今でも誇りに思っている。

 

たまに「大変だね」等といった言葉をかけられるけれど、そう思えているからこそ、大変だという気持ちは薄れるから、問題はないと、声を大にしていつも言っている。(確かに大変ではあるけれどね?)

 

 

「…やっぱり、電話しちゃおうかしら」

 

 

そうして、私はリサの声聞きたさに負け、リサの携帯の電話番号を打ち込む。目は見えないけれど、盲目になったその日から色々特訓して、指の動きでどうにか決まった数字なり文字列ならば(たまにミスするけれど)つつがなく打てるようにまでなった。ガラケーみたいなボタン式なら、もう幾分か楽なんだろうけれど。

 

そんな私の小言は何処へ、私は携帯を手に、いつもの番号を打ち込んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE]

 

 

「…そろそろ二回目の休憩時間じゃない?友希那」

 

 

「あら、そうそんな時間かしら?」

 

 

気持ち驚いた顔で、友希那は部屋にかかっている時計へと目をやる。そして時間を確認した友希那は、再び驚きながらアタシ達に休憩を言い渡した。…皆さっきとほとんど変わらない休憩の過ごし方をするあたり、他にやる事はないのかとも聞いてみたくなるのは、ここだけの話。聞いてみたいのはあるけど、アタシが首を突っ込む事でもないしね。

 

等と考え事をしていると、復習をしていたはずの紗夜が、アタシに声をかけていた。…あれ?アタシ、ボーっとしてたのかな?

 

 

「今井さん!聞こえてますか!?」

 

 

「あぁゴメン!少し考え事してた!で、何々?」

 

 

「全く……今井さんの携帯が振動してましたよ。結構長い時間振動してたので、電話とかではないかと思ったので」

 

 

…電話?こんな時間に?……一瞬、嫌な予感が過る。違ってくれと願いながら、アタシは手早く履歴を確認する。電話をかけてきた相手は……お姉ちゃん?お母さんとかではない辺り、病院に搬送されたとかの類いの可能性は低いかな?そう思っただけで、アタシは安堵の息を漏らした。

 

…っとと、そんな事言ってる場合じゃなかった。アタシはすぐにお姉ちゃんの携帯の番号を打ち、電話をかける。繋がるまでに少し時間がかかるのは、お姉ちゃんだから仕方ない。そして、5コール目辺りで、ようやく繋がった。

 

 

〔あ、リサ?忙しかったかしら?ごめんなさいね〕

 

 

「お姉ちゃん!どうしたの?何かあった?」

 

 

〔いえ、緊急の連絡とかではないわよ〕

 

 

一番に聞きたかった事を聞いて、予想が外れた事に安堵する。その証拠に、アタシは大きく息を漏らした。そんなアタシを心配したお姉ちゃんが「大丈夫?」と言ってくれたけど、特に問題もないから、アタシは何もないよ、とだけ返す。

 

そしてアタシは、もう1つ聞きたかった事について、訊ねてみる事にした。

 

 

「そういえば、どうして電話?何か用があったり?」

 

 

〔いえ。……ただ、リサの声を聞きたかったの〕

 

 

……我が姉ながら、可愛い。声が聞きたいが為に電話をしてくるなんて、恋愛漫画だけの事だと思っていたけど、実際にあるんだね、そんな事。それに、少し間を開けて言った辺り、画面の奥で照れた表情をしているのが、何となく想像できる。

 

 

「お姉ちゃんったら可愛いなぁ~、このこのぉ~」

 

 

〔…からかうのは止めて頂戴。……もぅ、だから言いたくなかったのに

 

 

あぁもう、うちの姉は可愛いなぁ。アタシに聞こえないように小さい声で言ってるんだろうけど、しっかり聞こえてるのに、お姉ちゃんは気付かないのかな?…正直、このやり取りが出来ただけでも、残りの練習は乗り切れるかな。

 

そんなやり取りをしていると、皆がアタシの所まで近づいてくる。…もしかして、そんなに声大きかったかな。反省反省っと。

 

 

「ねぇねぇリサ姉!もしかして、リサ姉のお姉さんと電話してるの!?」

 

 

「宇田川さん!電話中ですよ!?もし重要な事を話していたら、どうするんですか!」

 

 

「…そう言う紗夜も、声が大きくなっているわよ?」

 

 

アタシが心の中にしまっておこうと考えていた事を、バッサリと言い切ってしまう友希那。その一言に、口を両手で覆う紗夜。……もう遅くない?

 

…そんなテレビの漫才のとうなやり取りに、思わず吹き出しそうになったのは、ここだけの話。

 

 

〔あら?バンドの皆、近くにいるの?私達のやり取り、聞かれてる?〕

 

 

「……多分ね。お姉ちゃんの声は分からないけど」

 

 

〔…恥ずかしいわ〕

 

 

あ、また赤面した(気がした)。お姉ちゃん、少しだけ恥ずかしがり屋だからね~、もっと自信もって良いのに。

 

そんな事を考えていると、後ろからあこがさっきとは違い、少し声を小さくして話しかけてきた。

 

 

「ねぇリサ姉!あこも月代さんとお話したい!」

 

 

「…わ、私も……お話、したいです」

 

 

だろうなぁ、とは思った。…ただ、燐子がそう言ってくるのは結構驚いた。普段からあまり人と話したがらない上に、人一倍人見知りである燐子からさほど関わった事がない人と話がしたいという提案なんて、そりゃ驚くと思わない?…誰に向かって言ってるんだろ、我ながら。

 

 

「ちょっと待ってね~。…らしいけど、お姉ちゃん的にはどう?」

 

 

〔そうね、せっかくそっちからお願いされてるんだし、というより、私も前から話してみたいと思ってたから、寧ろこちらからお願いしたいくらいよ〕

 

 

お姉ちゃんがこう言うのに、何となくではあるが心当たりがあった。アタシがバンドについて話す時、ついメンバーの話をしてしまう事が結構ある。その時のお姉ちゃんの顔が、若干羨ましそうな表情になる事がしばしば。あくまで推測ではあるけど、アタシの話を聞いてるうちに、話をしたかったのかな。確かに、身内が楽しそうな声色で話すのを聞かせれていたら、段々興味も湧くよね、分かる分かる。

 

 

「皆~、お姉ちゃんから許可が下りたよ~」

 

 

「じゃあじゃああこから話したい!」

 

 

こうして、お姉ちゃんとバンドの皆のお話が、結構な時間続いた。意外だったのが、紗夜まで話してみたいと言ってきたのと、全員と話が弾んでいた事だ。ゲームについても話せる事は、アタシも驚いた事ではあった。…目が見えないのに、ゲームも出来たりするのかな……流石にそんなに超人じゃない…よね?

 

あ、因みに、その後は普通にバンド練習を再開して、つつがなく終わった。…だから、誰に話してるのって、私ってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[今井家 月代の部屋]

 

 

「ふぅ…結構長く喋ったわね。電話越しではあるけれど、こうして弾んだ話をするなんて、ご近所さんを除いたら何時ぶりかしら」

 

 

そんなに長く電話をする予定ではなかったけれど、(嬉しい誤算で)長電話になった事に、無意識下で声が少し喜びを帯びている事からして、嬉しんでいる自分がいる事を思い知らされる。やはり、話が弾むって、素敵な事だと、その都度思わされる。

 

 

「バンドの子達、思っていたよりずっと物腰柔らかな感じだったわね。…もっと堅い人ばっかりかとも思っていたけれど」

 

 

目標が目標だから、想像するイメージ像も、お堅い性格のガチガチのバンドマンという想像だったけれど、どうやらそうでもないような印象だった。ただ、1人は真面目そうな子がいた気がする。その子とは、バンド練習中のリサについて聞いたり、その子(紗夜ちゃんだったかな?)からの質問に答えたりした。

 

 

「…あら、そろそろリサが帰ってくる時間かしら?それじゃあ、下に向かいましょうか」

 

 

そうして、私はリサを迎える為に、母を呼び、下へと降りて行った。…あぁ、こんな楽しい生活が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




という事で、2話が終わりました。

今回は盲目の女神こと、今井 月代の視点からお送りしました。どうやら、我々が思っているよりも前向きそうですね。盲目になる経緯は人それぞれではあると思いますが、少なくとも彼女は盲目である事を悔んだり、酷く嘆いている訳ではないみたいですね。

ただ、他の周りの人(現実世界の人)はそうとも限りませんので、接し方には十分配慮しましょう。こうした方にも過ごしやすい世界になる事を、願うばかりです。

そして、活動報告を新規作成しましたので、一度目を通していただけると幸いです。

次回『3.盲目の女神に星は見えぬ』

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