ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
それでは、どうぞ。
01
昔々、北セルフォード大陸と大洋を挟んだ向かい側に別の大陸のことを北大陸側は新世界と呼んでいました。
その新世界の大陸北部の東海岸に、今から約百年前に新たな国家が建国されました。
大洋に面した地域――オーシアと呼ばれたその地域には、元々この大陸に住んでいた人種、旧世界の各国から一旗あげようと移住したきた人種、はたまた別の大陸から何らかの事情で移住した人種などまるで世界の縮図となっていました。
この地域を支配していた旧世界の魔導大国は、当初は大幅な自治を認めていましたが、やがて、その自治を縮小していきました。当然、これまで自由を謳歌していたオーシアの民達は魔導大国のこの行為に反発しました。
反発しているにも関わらず、なおも圧政を強めていく本国に、オーシアの民の怒りは頂点に達し、百年前、小さな反乱がおきます。
その小さな反乱から拡がるように反乱はあちこちで発生し、やがて反乱は独立戦争にまで発展しました。
本国は圧倒的な軍事力と魔導技術でオーシアを反乱を圧倒しますが、自由を求めて独立するオーシアの民は勇敢に立ち向かいました。
何度も戦いに敗れ、故郷が灰塵に帰されようとも、オーシアは自由を求め、そして遂に圧政者共を新世界から追い出すことに成功しました。オーシアの民は己の力で自由を勝ち取ったのです。
自由を勝ち取ったオーシアは連邦と名乗り、領土を押し広げていきました。
新世界北部の西海岸から、南部の大国の国境まで。
そして、新世界から出て、南大陸、西海岸の先の島々まで。
オーシアは世界中に自身の影響力を広げ、諸国を味方につけ、自身の地位を着々と築いていきました。
やがて、オーシアはかつての宗主国がある北大陸にも影響を広げていきました。
四十年前に勃発した北大陸での戦争を機に、オーシアは北大陸の情勢にも深くかかわり始めることになったのです。
……そして、それはかつての宗主国にもその手を伸ばし始めたのでした。
聖暦1852年グラムの月、24日。
北セルフォード大陸の中央北部に、広大な国土を持つ王政国家レザリア王国の首都、聖都ファルネリア。
この日は聖エリサレス教系の国々の人々にとって、特別な日であった。
グラムの月24日は、聖夜祭と呼ばれる年に一度の祝祭行事の日である。
25日は聖エリサレス教の最高聖人にて神の子、イエル=エリサレスの生誕日であり、その前夜を”神の子が降誕する聖なる夜”として祝う……そんな宗教的背景がある。
本来の宗教的祭典としては、その日の夜は皆で協会に集い、ミサ――聖書朗読や聖歌斉唱などを厳かに行うものなのだが、一般的には――特に新教系の国では、家族や友人達といった自分の親しい人達とパーティーなどで過ごし、に賑やかに祝うことがメジャーだ。
最も、レザリア王国は旧教――聖エリサレス教会教皇庁が権力を掌握しており、聖都ファルネリアではミサが厳かに行われているが、新教のように賑やかにパーティー、みたいなことは行われていない。
ましてや、新世界の新興国と絶賛大戦争中なのだから、尚更そう思うのかもしれない。
その聖都ファルネリアの中央には、世界最大級の教会堂建築にて、教皇庁の総本山たる聖フィリポ大聖堂がある。
今、大聖堂のバルコニーに、教皇庁の枢機卿などの有力者達が集い、広場に群れている人々に演説していた。
演説している内容はもっとも、戦争中の敵国の罵倒が9割ぐらいで残り1割が聖書を片手に何やら喚いているという、聞くにも堪えない演説なのだが。
そんな演説を、広場にいる人々は熱心に聴いている。まぁ、あそこに集まっているのは、狂信者で敵を悪魔の手先で金に魂を売った亡者と本気で信じている連中だから無理もない。
そんな一種の狂気が蔓延している聖フィリポ大聖堂前の広場から1200メトラ離れている、ある塔の中に一人の男が広場を見下ろしていた。
正確には、少年が銃を広場に向けて見下ろしていた。
15になったばかりの、茶髪のミディアムヘアで金目銀目のオッドアイの瞳を持つその少年は、銃に付いてあるスコープを通して、狂気の演説を覗いていた。
「……狂気に満ちているなぁ。宗教は宗教でもここまでくるとカルトじみているわ、マジで」
スコープで距離を調整しながらため息を吐く少年。
「……標的は?」
「……標的はまだ出てきてないわ。バルコニーまでの距離は1200、無風。周囲に敵影なし」
少年がスコープを覗きながら、隣にいる少女に声かけると双眼鏡でバルコニーを覗いている少女は淡々と告げる。
「了解了解」
距離を調整した少年は、あとは標的がバルコニーから姿を現し、演説するまで覗いて待つ。ひたすら待つ。
「ところで、その標的はどんな奴なん?」
狙撃手として長時間待つことには慣れているが、やはり退屈なのか、少年は時間潰しにと少女に問う。
「狂信的で保身で欲にまみれていて、それでいて女好き。以上よ」
「……それはまぁ……典型的な悪人というかなんというか……」
標的をボロカスに言う少女に、少年はため息を吐く。
「しかも女好きといえば、大人だろうが子供だろうが、出るところが出ていたら手出しする最低最悪のクズよ」
「……お前は?大丈夫だったのか?」
「私は大丈夫だった。お父様が守ってくれたから。でも、私の知っている子の中には、あいつに襲われてデキてしまった子が何人か……」
「……クズだな」
「ええ、クズよ」
まだ少女とは知り合ってからまだ間もないが、普段は淡々としていた少女の声は怒りに満ちていた。
「……貴方みたいな男だったら……その……」
「……?なんか言ったか?」
「いえ。それよりも……」
隣でぼそぼそ呟く少女だが、双眼鏡を越しにお目当ての人物が映り込んでいた。
「……出てきたわ。左側からバルコニーに出てきているわ」
少女の言う通り、銃を左側に向けると、少女の言う通り司祭服に身を包んだ小太りした中年男性が姿を現していた。
「……OK。あれで間違いない?」
「ええ。あれで間違いない」
「……風は?」
「秒速2メトラ。東風」
「秒速2メトラ、東風。了解」
風の流れに応じて狙いを調整する。標的の脳幹を射貫くように調整する。
熱狂していた狂信者の歓声を浴びた標的は、それに応えるように手を振る。狂信者はさらに熱狂的になる。
「…………」
演説する標的に狙いを定め、呼吸を安定させる。
標的は身振り手振り激しく演説している。聴衆はそれを熱心に聞き入れている。
銃の引き金に指をかける少年。
風は秒速2メトラ、東風。今なら撃てる。
「……殺るぞ、アリッサ」
「ええ、殺して、ジョセフ」
少女――アリッサと呼ばれた少女がそう言った後、鐘がファルネリア中に鳴り響く。
鐘が鳴り響くのと同じタイミングで、標的の演説が一段落する。
聴衆の反応に満足した標的は、今までの激しい身振りをやめ、見下ろす。
完璧なタイミングだった。
少年――アリッサに呼ばれたジョセフは、引き金を引いた。
鐘の音で銃声は掻き消され、銃弾は標的に吸い込まれるように翔ぶ。
その後、聖フィリポ大聖堂では悲鳴が響き渡りパニック状態になっていた。
そんな状態でも、鐘はファルネリア中に鳴り響くのであった。
というわけで、これからもよろしくお願いします。