ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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「――って、敵多すぎぃ――ッ!?」

 

 逃げるグレン達を援護しながら、ジョセフはそう叫んだ。

 

 西館の廊下では、グレンが右ストレートを一閃し、立ちはだかるボーン・ゴーレムの頭蓋を粉砕する。  

 

 システィーナは【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱え、突風がボーン・ゴーレム達を吹き飛ばす。

 

 廊下の端に到達し、続く階段を駆け上がる。

 

 ボーン・ゴーレムの群れがしつこく二人の後を追う。

 

「多すぎるんだよ!どう考えても弾足りねえぞ!?」

 

 一体一体、ボーン・ゴーレムの頭部を撃ち抜くが、敵の数が多すぎる。おそらく魔術強化しているであろうグレンの拳闘で対応するにしても数が多すぎる。システィーナの知る魔術では時間稼ぎにはなるが決定打は与えられない。

 

 それゆえに、あの二人はどうしても逃げるしかない。

 

 システィーナの魔力も無限じゃない。先ほどから間断なく魔術を行使し続けている。気丈にも表情には出さないが相当消耗しているはずだ。あの様子から推測するに、生まれながら魔力容量は特段優れているらしいが、連続行使は辛いだろう。

 

「ジョセフ。やっぱり私が彼らの元に行った方が……」

 

 ジョセフの傍らで観測手を務めるアリッサが言った。

 

「あのままだと、ジリ貧よ?」

 

「いや、ダメだ」

 

 ジョセフは即答した。

 

「まだ術者が姿を現していないし、どこにいるのかがわからん。あんなイカれてることをやっているんだ、術者は相当ヤバい奴だろうよ。ここで全員、あいつらを相手して消耗するわけにはいかない。俺達だけでも温存しとかないと」

 

 ジョセフは未だ姿を見せない術者との一戦に備えて魔力を温存する方針をアリッサに伝えた。

 

 だが、このままではグレン達は袋小路に追い詰められてしまうことも予想できた。

 

 【ディスペル・フォース】という魔術を行使する手段があるが、連中をディスペルしたところで竜の牙……素材に戻るだけだ。再び術者が魔力を吹き込めばゴーレムとなってグレン達に再び襲いかかる。要するに魔力の無駄遣いだ。

 

 おまけに【ディスペル・フォース】に必要な魔力量は対象物に潜在する魔力量に比例する。半自律行動のために魔力増幅回路が組み込まれているあの連中を、いちいちディスペルしようとすれば、一気に枯渇すること間違いない。それだったら、今のやり方が最善なのである。

 

 やがて、グレン達は階段を上り始める。その先は最上階だ。

 

「場所を変えるか」

 

「ええ、そうね」

 

 ここからじゃ、十分な援護が出来ないため、ジョセフ達は東館の階段を上っていく――

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 二人は階段を上りきり、再び廊下に復帰する。

 

「先生!?この先は――」

 

「あぁ、行き止まりだな」

 

 システィーナが察した通り、ここから先に延々と一直線に続く廊下の先は袋小路だ。

 

「ど、どうするの!?」

 

「俺がここで食い止める。お前は先に奥まで行って……即興で呪文を改変しろ」

 

「え!?」

 

「改変する魔術はお前の得意な【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として、広範囲に、そして持続時間を長くなるように改変しろ。節構成はなるべく三節以内だ。完成したら俺に合図しろ。後は俺がなんとかしてやる」

 

「で、でも……」

 

 不安げにシスティーナが隣を走るグレンの横顔を見上げる。

 

「わ、私にそんな高度なことができるかどうか……」

 

「大丈夫だ」

 

 帰って来るグレンの言葉はどこか自信に満ちたものだった。

 

「お前は生意気だが、確かに優秀だ。生意気だがな」

 

「生意気を強調しないでください!」

 

「俺がここ最近で教えたことを理解しているなら、それくらいできるはずだ。てか、できれ。できないなら単位落としてやる」

 

「り、理不尽だ……」

 

 だが、こんな状況でもいつもと変わらない調子のグレンに、システィーナの緊張は、幾ばくか解れた。それをグレンが狙ってやっているのか本気なのかは、甚だ不明だが。

 

「……わかりました。やってみます」

 

「よし、じゃあ、先に行け!」

 

「はい!」

 

 グレンは足を止めて踵を返し、向かってくるボーン・ゴーレムの群れに向き直る。

 

 システィーナはそのままグレンを置いて先行する。

 

「おおおお――ッ!」

 

 グレンの放った拳が先頭のボーン・ゴーレムを粉砕した。

 

 ボーン・ゴーレム達が怒涛の勢いでグレンに襲いかかって来る。

 

(行ける。あのチンピラ男を先に襲ったことから予想してたが、こいつらは自分に近い奴を優先的に襲う単純な命令しか受けてない。なら、俺がここで生きて踏ん張る限り白猫娘を襲おうとはしない。壁は俺一人で十分だ)

 

 ゴーレム達の無数の剣を、グレンは少しずつ後退しながら体さばきでいなしていく。

 

 迫り来る攻撃の間隙盗んで拳を叩き込み、ゴーレム達を破壊していく。

 

 そして、先ほどから途絶えていた連邦軍の援護射撃が東館から再開される。そのため、多少はやりやすくなっている。

 

 だが、多勢に無勢。倒しきれないボーン・ゴーレム達の、さばききれなかった刃がグレンの身体を少しずつ刻んでいく。

 

(ち……さばきは致命傷や行動不能に陥らない最小限……なるべく長く踏みとどまって時間を稼ぐ……頼むぜ、白猫)

 

 

 

 

 東館の最上階に上がり、再び援護射撃を開始するジョセフ。

 

 銃弾を薬室に送り、頭蓋に狙いを定め、引き金を引く。一体一体、正確に撃ち抜く。

 

 途中、グレンがシスティーナに何か言い、踵を返してボーン・ゴーレムを迎え撃つ。そんなグレンに大勢で襲いかかるボーン・ゴーレムの群れ。

 

 一方のシスティーナはグレンから離れて廊下の最奥に向かうのを目撃する。

 

 これは、なにか考えがあるなと、ジョセフはそう考え、構わず為すべきことを為す。

 

 だが、いかんせん数が多すぎる。

 

 システィーナが呪文の改変に取り掛かり、ジョセフが援護するが、グレンは少しずつ、刻まれていた。ぱっと朱が宙を舞う。攻撃をさばき損ねてバランスを崩しかけるところを見ると、そう長くはもちそうにない。

 

 やはり、アリッサを向かわせた方が良かったか?

 

 そう思うジョセフだが、いまさらそうしても遅いとその考えを捨て、ひたすら敵を狙撃していく。

 

 銃弾が少なくなっていく中、スコープ越しでグレンが突然、踵を返し、システィーナの方に向かって駆け出していた。

 

 当然、ボーン・ゴーレムの群れがその後を追って来る。

 

 ジョセフは引き金を引いたら、素早くボルトを引いて銃弾を装填し、ボルトを閉めると同時に次の敵を狙い、すぐさま引き金を引く。

 

 グレンが駆ける。駆ける。

 

 ゴーレム達が迫る。迫る。

 

 ジョセフはアリッサの観測の元、ひたすら援護射撃をする。

 

 グレンとシスティーナの距離が詰まる、詰まる。

 

 彼我の距離、十足――五足――三足――

 

 そして、グレンが跳躍する。システィーナのかたわらを転がりながら通り過ぎる。

 

 その瞬間、システィーナの両手から爆発的な風が生まれた。

 

 それは【ゲイル・ブロウ】のような局所に集中する突風ではない。廊下全体を埋め尽くすような、広範囲にわたって吹き抜ける指向性の嵐だった。

 

 命名するならば、黒魔改【ストーム・ウォール】。システィーナから遥か廊下の彼方に向かって駆け流れる風の壁は迫り来るゴーレム達の進行速度を劇的に落とした。

 

「即興改変?え?学生なのに、それをやってのける?」

 

「……彼女、後々化けるわよ?あの子」

 

 ジョセフとアリッサはそう驚愕する、が――

 

「ただ、完全には足止めできていない」

 

 即興ゆえ威力が足りなかったのか。ゴーレム達は気流に逆らって少しずつにじり寄ってくる。連中がここまで辿り着くのは時間の問題だ。

 

「こりゃ、本格的にヤバいかも……」

 

 あんまり痕跡は残したくないのだが……ジョセフがアリッサの方を振り向くと。

 

「あれって……」

 

 アリッサは脂汗を流していた。

 

 ジョセフが何事かとグレン達を見ると、グレンの左拳を中心に、リング状の円法陣が三つ、縦、横、水平に噛み合うように形成され、それぞれが徐々に速度を上げながら回転を始めた。

 

「……は?」

 

 ジョセフはグレンが唱えようとしている呪文の正体に気づいた。

 

「あの術は……」

 

 あっけに取られるジョセフ。

 

 そして、グレンは前方に左掌を開いて突き出す。

 

 左掌を中心に高速回転していたリング状の円法陣が前方に拡大拡散しながら展開。

 

 次の瞬間、その三つ並んだリングの中心を貫くように発生した巨大な光の衝撃波が、前方に突き出されたグレンの左掌から放たれ、廊下の遥か向こうまで一直線に駆け抜けた。

 

 そして――殲滅。その射線上にあった物……ボーン・ゴーレムの群れはおろか、天井や壁まで、光の波動は抉り取るように全てを呑み込み、一瞬で粉みじんに消滅させていた。

 

 無音。静寂。もはや眼前に動く物は何一つない。

 

「……うそでしょ?」

 

 あっけない幕切れにアリッサが忘我する。天井は完全になくなっている。外側の壁も全て消滅し、こちらからは丸見えだ。狙撃手にとっては、最高の環境であること間違いない。まるで長大な円柱を廊下から切り出したかのようなその光景。ただ、その場所だけは吹きさらしになっていた。

 

「【イクスティンクション・レイ】……そうか、だから彼女のことを知っているのか……」

 

 黒魔改【イクスティンクション・レイ】。対象を問答無用で根源素(オリジン)にまで分解消滅させる術である。個人で詠唱する術の中では最高峰の威力を誇る呪文であり――二百年前の『魔導大戦』で、セリカ=アルフォネアが邪心の眷属を殺すために編み出した、限りなく固有魔術に近い神殺しの術だ。

 

 グレンはこの呪文を詠唱する際、何らかの魔術触媒を使っていたのだが……それでも詠唱できるだけで掛け値なしの賞賛と驚愕に値することになる。

 

 詠唱したその直後、グレンが血を吐いて頽れた。

 

 グレンの異変に、システィーナは慌ててグレンの元へ駆け寄る。ジョセフはスコープでグレンの様子を見るが、こちらからでもわかるほど、全身に冷や汗が浮かんでいる。

 

「マナ欠乏症か……」

 

「あんなオーバーキルな術を使ったんですもの。ああなるのも無理はないわね」

 

 マナ欠乏症とは極端に魔力を消耗した時に起こるショック症状だ。魔力の源は肉体に内包するマナ。マナの本質とはすなわち生命力だ。これを急激に消耗すれば当然、命に関わる。魔術とは自らの命と引き換えに振るう諸刃の剣なのである。

 

 ジョセフはグレンの状態をざっと確認する。

 

 マナ欠乏症を差し引いてもグレンの状態はひどい。全身、傷だらけの血まみれだった。致命傷はないらしいが、傷の数がかなり多い。このまま血を流し続けるのは――まずい。

 

「状態があんまり芳しくないな……急いで彼らの元に……」

 

 システィーナが怪我を治す白魔【ライフ・アップ】の呪文でグレンの傷を癒そうとしていたが……あの傷を癒すのにどれだけの時間と魔力が必要になるのか見当もつかない。

 

 その間に敵が来てしまったら、アウト。グレンとシスティーナは肉塊に変えられることだろう。

 

 せっかく知り合ったのに、ここで死なれては目覚めが悪い。そうジョセフは思い、グレン達の下へ向かうが……

 

「……まぁ、そうは問屋が卸さないというね……クソったれ」

 

 かつん、と。

 

 ジョセフ達がいる廊下に靴音が響いた。

 

「まさか、貴様らがここに侵入してくるとはな。かなりの誤算だった」

 

 廊下の向こう側から姿を現したのは、ダークコートの男だった。

 

 

 

 

 

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