ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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 男の背後には五本の剣が浮いていた。あれは恐らく、ダークコートの男の魔導器なのだろう。すでに起動されて展開している。

 

「うわぁ……おい、アリッサ。お前と似たような戦い方しそうなんだけど……あれって絶対、術者の意思で自由に動かせるとか、手練れの剣士の技を記憶していて自動で動くとか、そんなんだよな?」

 

「全部同じではないけど……まぁ、そうでしょうね」

 

「連邦軍……結界を改変して誰にも入れないようにしていたのだが……それを破られ、一人やられるとは思わなかった。誤算だな」

 

「はぁ?あの男はあんたが完全に殺したんでしょ?うちは人道的に寛容な態度で扱おうとしたのに、殺しちゃって」

 

「命令違反だ。任務を放棄し、勝手なことをした報いだ。聞き分けのない犬に慈悲をかけてやるほど、私は聖人じゃない」

 

「さいで……」

 

 ジョセフはアリッサに耳打ちする。

 

「アリッサ。向こうの二人の状態は?」

 

 アリッサはちらりと西館を流し見る。

 

「……彼女の方は比較的動けるかも」

 

「OK……じゃ、なにするかはわかるな?」

 

「ええ、もちろん」

 

 アリッサは突然、窓を開けて飛び降りた。

 

 全身を包む無重力と共に、アリッサが四階もの高さから落下していった。

 

 そして、ジョセフを置いて姿を消したアリッサ。

 

「ふん。いいのか?」

 

「まぁね。この場合だとこれが最善だからね~」

 

「戯け。貴様は遠距離での狙撃が得意なのだろう?」

 

「あら……よくわかったもんで」

 

 どこで見ていた?などと野暮なことは聞かない。遠見の魔術、使い魔との視覚同調、残留思念の読み取り……魔術師にとって情報を収集する手段など、いくらでもある。

 

「貴様のことを私が知らないと思っていたか?『ファルネリアの枢機卿殺し』。近距離戦では無類の強さを誇る貴様の相棒がいなくなった今、距離を失った貴様など問題ない……行くぞ」

 

 男――レイクが指を打ち鳴らすと、背後に浮かぶ剣が一斉にジョセフへ切っ先を向けた。

 

 そして、ジョセフを目掛けて飛来し、真っ直ぐ躍りかかる――

 

「まぁ……まともに戦わないことに限るんだけど――ッ!」

 

 迫り来る切っ先を、剣の動きを読んで体術でかわしていった。

 

 

 

 

「よっと……」

 

 落とされた先――校舎中庭に降り立ったアリッサ。

 

 落下中に剣を召喚し、壁に突き立てて落下速度の減速を行ったため、感覚的には階段を五、六つほど飛び降りた程度であった。

 

「さてと、彼女の元へ行かないと……」

 

 為すべきことを為すべく、西館に急ぐように向かう。

 

 なにせ、ジョセフとあの男は相性が悪い。

 

 ジョセフは中遠距離での戦いがメインであり、ダークコートの男は見た限り近距離戦がめっぽう強いと見受けられる。ジョセフも近距離戦では弱くはないのだが、いかんせん分が悪い。

 

 大量のボーン・ゴーレムの多重起動に、召喚術の超高等技法である遠隔連続召喚、そしてあの剣の魔導器――間違いない、彼は超一流の魔術師だ。

 

 ゆえに素早く動かないといけない。あれはあくまで時間稼ぎ、本命はこっち。

 

 あの男のような相手は似たような戦い方をする自分が相手した方が勝率は上がる。

 

 だが、あいては超一流の魔術師。一対一で戦うには危険な存在である。そして、ここにはあの二人がいる。片や手負いで、肩や学生――しかも、消耗しているが、メインはあくまで自分。彼らはサブに回れば問題ない。

 

 今は、猫の手を借りたいぐらい人手が欲しい。

 

 西館に入ったアリッサは、そのままグレン達の所へ向かう。本当は剣を使って壁登りすればあっという間なのだが、交戦している敵に気づかれるのは都合が悪い。

 

「……協力させてもらうわよ。生き残るために、手段は問わないわ」

 

 東館から、何かと何かが激突する音が響き渡った。戦いが始まったらしい。

 

「……予定通り」

 

 アリッサはそうほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 左から、右から、正面から、刃が迫る、迫る、迫る。

 

 空気を切り裂いて、真空を切り裂いて、刃の切っ先が迫る――

 

 ジョセフはそれを拳銃で二本撃ち落とし、残りを体さばきでかわす。

 

 三方向からジョセフに襲いかかる三本の剣は、達人の技量に匹敵する速さと鋭さでジョセフを切り刻まんとする。

 

 だが、その動きは単調で無機的。それゆえに対処も可能なのだが――

 

 不意に、ジョセフの頭上と背後から二本の剣が襲いかかる。

 

 それはジョセフの動作の隙を狙った、実に有機的な剣撃だった。

 

 とっさに身をひねって一本を辛うじてかわし、最中に指を打ち鳴らすと、最適の機会でおそいかかった二本目の剣の目の前に雷閃が出現し、撃ち落とした。

 

「危な――ッ!?」

 

 予唱していた黒魔【ライトニング・ピアス2】――連邦軍で採用されている【ライトニング・ピアス】の威力向上型を時間差起動していたため、ダメージは負ってないが、それがなかったら背中を刻まれていたことだろう。

 

 ジョセフは跳び下がり、壁を背後に身構える。

 

 ゆらゆらと、剣がジョセフに切っ先を向けてジョセフを取り囲んでいる。

 

「……両方って、んなのアリ?」

 

 そう。男――レイクの操る五本の剣は、術者の自由意志で自在に動かせる二本の剣と、手練れの剣士の技が記録され自動で敵を仕留める三本の剣で成り立っている。

 

「ご名答だ。しょせん手練れの剣士の技を模した所で自動化された剣技は死んでいる。五本揃えた所で真の達人には通用せん。かと言って五本全てを私が操作すれば、しょせん私は魔術師、やはり真の達人には通用せん。私はこれまで何十人もの騎士や魔術師を暗殺し、三本の自動剣と二本の手動剣の組み合わせが最も強い、と結論した」

 

「あ、そう。なるほどね……」

 

 事実、ジョセフは押され気味である。戦況は有利とはいえない。

 

 確かに五本とも自動化された剣ならば、五本とも術者の自由意志で動かす剣ならば、対処はもっと楽だった。自動剣と手動剣が互いの短所を補いあっているがゆえに隙がまったく見当たらない。

 

「それにしてもまぁ、魔術師らしくないこって」

 

 この手動剣の動きは素人の物ではない。超、とまではいかないだろうが一流の剣技だ。遠隔操作でこの動きができるということは、この男自身も相当の剣の使い手のはずだ。この男に剣を持たせれば、並みの剣士ならば瞬殺されるだろう。

 

 魔術師――特に帝国の魔術師は肉体修練で練り上げる技術をとにかく軽んじる。精神修練で培う魔術の下に置きたがる。ゆえに、ジョセフもそうなのだが、この男はジョセフとは違った方向性で魔術師から外れた男だった。

 

「まぁ、こういう敵は近い方向性を持った魔術師をぶつけるに限るわけで……」

 

 そんな魔術師らしくもなく、相性が最悪に近いレイクを前に、ジョセフはにやりと笑った、その時。

 

 突然、窓が割れ、レイクめがけて一本の短剣が襲いかかってきた。

 

「何――ッ!?」

 

 完全に不意打ちを食らったレイクが反応する前に、短剣はレイクの左腕に巻き付く。よく見れば柄頭からワイヤー状のものが西館から伸びている。

 

 短剣が巻き付いた直後、ワイヤー状が巻き戻され、レイクは東館から西館へと引きずり込まれる。

 

「――ッ!?」

 

「はっ!だーれがお前なんかとまともに相手するか」

 

 西館へと引きずり込まれていくレイクに向けて、ジョセフは中指を立てるのであった。

 

 

 

 

 一方、アリッサは階段を上り、廊下に復帰しようとすると。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

 

「これが大丈夫に見えたら病院に行け……」

 

 慌ててグレンの元へ駆け寄ったシスティーナと、致命傷はないが、全身、傷だらけの血まみれ姿で倒れていたグレンがいた。

 

 先のグレンの減らず口にもキレがない。

 

「≪慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を≫」

 

 システィーナは、怪我を治す白魔【ライフ・アップ】の呪文でグレンの傷を癒そうとする。しかし、システィーナは運動とエネルギーを扱う黒魔術や、物資と元素を扱う錬金術は得意だが、【ライフ・アップ】のような肉体と精神を扱う白魔術はそれほどでもない。

 

 これだけの傷を癒すのにどれだけの時間と魔力が必要になるのか見当もつかない。

 

「馬鹿、やってる場合か……」

 

 グレンが口元を伝う血を拭って無理やり立ち上がる。その膝は笑っていた。

 

「今すぐ、ここを離れるぞ……早くどこかに身を隠……」

 

 言いかけて、グレンは苦い顔をした。

 

「んな呑気なことを許してくれるほど、状況はよくないはずないよなぁ……くそ」

 

 かつん、と。

 

 破壊の痕跡が刻まれた廊下に靴音が響いた。

 

「【イクスティンクション・レイ】まで使えるなんて。貴方何者なの?」

 

 廊下の向こう側から姿を現したのは……アリッサだった。

 

「あー、もう、お前がここに来た時点で嫌な予感がするよなぁ……あれって絶対、『状況が変わったから、お前らも手伝え』って、そんなんだぜ?ちくしょう」

 

「あら、なら話は早いわね。死にたくないなら協力なさい」

 

「お前なぁ……今の俺の状態を見てから言ってる?知ってながら、言ってるのか?」

 

「ええ、知ってるわよ。貴方の予想通り、敵がかなりヤバいから。安心なさい、私がメインで貴方達はサブに回ればいいわ」

 

「ああ、そうかい。お前らさ、人遣い荒すぎるとか言われてるだろ?ていうか、どこも安心できる要素がないがな」

 

 アリッサはシスティーナに耳打ちする。

 

「ねぇ、貴女。魔力に余裕は?浮いている剣をディスペルできそう?」

 

 システィーナはアリッサの言うことの意味がわからず、困惑しながら答える。

 

「えーと、余裕があるかといえばまったくないというわけではないですけど……」

 

「例えば、相手は超一流の魔術師で、見ただけで大量の魔力が漲っていて、魔力増幅回路が組み込まれているとしたら?その相手に【ディスペル・フォース】は使える?」

 

「それなら、私が残りの魔力全部使っても多分、少し足りない……と思う。そもそもそんな相手、【ディスペル・フォース】を唱えさせてくれる隙がなさそうな……」

 

「そう。なら、いいわ」

 

 アリッサが何かと呟いた後、左側に剣が召喚されて浮遊する。ふいにアリッサが東館に向けて指差すと、剣は東館に一直線に飛んでいく。

 

 そして、アリッサは突然、システィーナを突き飛ばした。

 

「……え?」

 

 システィーナが突き飛ばされた先は、グレンの【イクスティンクション・レイ】によって右手に空いた空間――校舎の外だ。

 

「わ――きゃあああああああ――ッ!?」

 

 全身を包む無重力と共に、システィーナが四階もの高さから落下していた。

 

 落下中にシスティーナが【ゲイル・ブロウ】を唱えて、落下速度を相殺したのだろう。外から突風が吹き荒れる音が響いてきた。

 

 東館からロープが伸びた剣に巻き付けられたレイクがアリッサの目の前に連れ込まれたのは、同時のタイミングだった。

 

「え?マジで?」

 

 なんか猛烈に嫌な予感がしたグレン。

 

「ふん。貴様が相手か」

 

「まぁね。彼、狙撃は得意だけど、こういう格闘戦の場合は私の方が十倍、上手くて得意なの」

 

 得意げに言うアリッサの周囲には五本の剣が召喚され、浮遊している。レイクの周囲にも五本の剣が浮遊している。

 

「うわぁ……ボク、すげぇ嫌な予感がするんですけど?あれって絶対、術者の意思で自由に動かせるとか、手練れの剣士の技を記憶していて自動で動く剣とか、そんなんだぜ?ちくしょう」

 

 似たような戦闘スタイルを持つ、二人の間に膨張する緊張感に呑み込まれながら、グレンは顔を引きつらせる。

 

「ていうか、貴方、私達と遭遇する前に剣を浮かせていたわね。何でなの?」

 

「そこの三流魔術師――グレン=レーダスが魔術の起動を封殺する、そんな術があるのだろう?貴様らに陣がやられたとはいえ、その男に一方的にやられていたことだろう。加えてボーン・ゴーレム達に対して貴様はその妙な術を使わなかった。つまりは魔術起動のみを封じる特殊な術、ということだ。ならば、最初から術を起動しておけば問題ない……行くぞ」

 

「へぇ?そういう術あったんだ?まぁ、今はそんなの関係ないけどねッ!」

 

 レイクとアリッサが同時に指を打ち鳴らすと、お互いの背後に浮かぶ剣が一斉にレイクとアリッサ、グレン両者にそれぞれ切っ先を向けた。

 

 そして、両者目掛けて飛来し、真っ直ぐ躍りかかる――

 

「だぁああああ――ッ!?俺、絶対いらないだろ、これぇええええ――ッ!?」

 

 迫り来る切っ先を、傷んだ身体に鞭打ってグレンは必死にかわしていった。

 

 

 

 

 

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