ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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 ジョセフ=スペンサーとアリッサ=レノ。

 

 ジョセフは帝国古参の貴族でスペンサー伯爵家の女当主であり、かつて帝国宮廷魔導士団の一員として活動していたエヴァの嫡男として、アリッサはレザリア王国で聖堂騎士団の一員として活動し、代々上級幹部を輩出していたレノ家の嫡女として、生を受けた。

 

 共に魔術と法術を扱う大家として、そして帝国軍と聖堂騎士団の一員として二人は幼い頃から手解きを行われる。二人とも優れた才能を有しており、そしてとても勉強熱心であり、そんな二人をそれぞれの両親は家族として愛していた。

 

 やがて、ジョセフは五年前に連邦に移住してからは連邦陸軍軍学校へ、アリッサはファルネリアにある女学院に通うようになる。この頃から二人の人生は徐々に徐々に狂い始めるようになる。特にアリッサの場合、レノ家が聖堂騎士団内での内部闘争に巻き込まれ始めたのもこの頃だ。

 

 それでも、二人はそれぞれ己を鍛錬していった。ジョセフは訓練に次ぐ訓練で。アリッサは朝早くと放課後に課せられた鍛錬をこなしていった。

 

 やがて、二人は学年でトップクラスの成績に躍り出る。まさに、一族の名に恥じないようにその成績を戦争が起こるまでは保っていた。

 

 だが、聖暦1852年の秋から冬にかけて。

 

 ジョセフは唯一残された母親がシャーロットで起きたテロ事件で行方不明になり、アリッサは両親を失い裏切り者として追われる身となった。

 

 そして。

 

 北セルフォード大陸での勢力圏争いに端を発した、オーシア連邦とレザリア王国と同盟国間で起きた戦争で二人は出会うことになった――

 

 

 

 

 ジョセフは気を失ったグレンを担ぎ、システィーナの案内の元、医務室に運び込んだ。

 

 近いベッドにグレンを仰向けに寝かせ、応急処置を開始する。

 

 グレンの状態はお世辞にも酷いものだった。全身という全身が血まみれであり、傷がないところを探すのが困難なぐらいに傷だらけだった。当然、出血もしている。この状態でも生きているのが不思議なくらいに酷いが、まだ生きている。だが、早く応急処置しないと、今度こそグレンはあの世に旅立つことなる。

 

「包帯を」

 

「あ、はい!これです」

 

 寝かせた後、ジョセフはシスティーナから包帯を受け取り、深手を負った箇所に包帯を巻いていく。すぐに包帯が血で赤く染まるが、今は出血を止めなければならない。

 

 すると、システィーナはベッドのそばの椅子に腰かけ、両の掌をグレンの身体に当てる。そして、治癒魔術である【ライフ・アップ】の温かな光を灯した。

 

「おい、あんま無茶すんな」

 

 ジョセフはシスティーナの顔を見る。少し脂汗と共に顔が青ざめている。マナ欠乏症の前兆が現れつつある。

 

 なにせ、ボーン・ゴーレムからレイク戦までぶっ続けで魔力を行使していたのだ。普通の学生ならばとっくにへばっている。それでも、立っていられるのは驚嘆に値するが、かなり無理しているのは明らかであった。

 

「大丈夫、ですから……このくらい大丈夫ですから」

 

 顔に色濃く疲労を浮かべてもシスティーナは構わず、グレンを治癒する。出血は止まったが、傷はまだ完全に塞がってはいない。

 

 しばらくすると。

 

「う……ぐ……」

 

 グレンが目を覚ます。恐らく気分は最悪で、頭がぐらぐらと揺れて、全身にひびでもはいったかのようにじくじくと痛む。そういう状態ですと言わんばかしの顔をするグレン。

 

「ここは……どこだ……?」

 

 どうやら自分はベッドの上に寝かされていて、消毒液の匂いと白一色でまとめられた天井や壁を見て、ここは医務室だと理解する。

 

「……お目覚めだな」

 

「あ……気づいた……?」

 

 グレンが目を覚ましたことに気づくジョセフとシスティーナ。

 

「……よ、よかった……もう、だめかと……」

 

 じわり、と。システィーナの目尻に涙が浮かぶ。

 

「馬鹿……もう……本当に馬鹿なんだから……あんな無茶するなんて……」

 

「はぁ……あそこまで無茶をする人間、貴方が初めてよ?正気じゃないわ」

 

 アリッサは半ば呆れ気味に言う。それもそうだ。下手したら死んでいたかもしれないのだから。

 

 システィーナの方を見ると、その顔には色濃く疲労が浮かび、脂汗と共に青ざめている。マナ欠乏症の前兆がはっきりと浮かんでいる。

 

「やめろ……もう、いい……大丈夫……だ……」

 

 身を起こそうとするグレンを、システィーナが慌てて押し止めた。

 

「だ、大丈夫なわけないじゃない!?出血はなんとか止まったけど、まだ全然、傷が塞がってないのよ!?」

 

「ただでさえ……【ディスペル・フォース】で大量の魔力を使わせたんだ……お前、これ以上無茶したら死ぬぞ……」

 

「その前に貴方が死んじゃうわよ!お願いだから大人しくしててよ!」

 

「だ……が……」

 

「はぁ……もう、私はまだ大丈夫よ。このペンダントの魔晶石に普段から少しずつ蓄えてあった予備魔力がまだ残っているから」

 

 そう言って、システィーナは手に握っていた結晶のペンダントをグレンに見せる。

 

「それよりも今は貴方よ。まだ敵は一人以上残ってるんだから……貴方を一刻も早く動けるようにしないと……」

 

 理はシスティーナにあると悟ったらしい。グレンはすねたように目を背ける。

 

「悪い……回復頼むわ……すまん……」

 

「はぁ……普段もこのくらい殊勝だと良いんだけど……」

 

 ため息をつきながら、システィーナは【ライフ・アップ】の施術を続行する。

 

 その様子を見たジョセフとアリッサはシスティーナが本当に無茶しない限り、大丈夫だと判断。医務室を出る。

 

 二人の敵を撃破したが、少なくとも一人、敵が残っている。レイクのようにこちらに来る可能性が高い以上、こちらが索敵し、グレン達に到達する前に撃破することにした。

 

「にしても、お前……本当に人遣い荒すぎるだろ……」

 

「あの銀髪の子のこと?学生であれだけ風を使いこなせるなら大丈夫だろうと判断したまでよ?」

 

 疲弊していたグレン達を巻き込むことを思いついたジョセフも十分人遣いが荒いが、二人はそんなことを気にしない。重傷者一人出てしまったが、敵二人、撃破できたのだから。

 

「でも、あの二人もあの二人よ。私の意図がわかっていたようだし、七、八割ダメかもと思ってたわ」

 

「それと、あそこで剣一本出してくれたのはナイスだったわ。掠めただけだったけど」

 

「どっかの誰かさんが、跳弾は避けにくいって何回もおっしゃっていましたからそれを実行したまでよ」

 

「角度も絶妙だったし」

 

「あら、そこまで褒めてくれるなんて……お礼に私を――」

 

「あ、結構です」

 

「……そこは即答なのね」

 

 それから二人は二手に別れる。

 

 なにせ、この学院は敷地が広大だ。校舎だけじゃなく学生会館、競技場などが広く散在しているが校舎だけでもかなりの広さがある。

 

 敵がレイクのように襲撃するということを前提にし、ジョセフは西館を、アリッサは東館を中心に索敵するのであった。

 

 

 

 

 あれから、五時間ぐらい経った。

 

「……おかしい」

 

 西館四階にいたジョセフは、訝しむ。

 

 なにせあれから五時間経っているのに、敵の気配がないのだ。

 

 レイクの時はあれだけ素早かったのに、ここにきて敵の対応が遅い。遅すぎる。

 

 敵がこちらを見つけていないというのも考えられるが、今まで校舎内で戦いが繰り広げられたのだ。ジョセフなら校舎を最初に目をつけて探す。五時間もかかることなく、見つけることができるはずだ。

 

「もしかして、ルミアがいるからか?それで動けないというわけか?」

 

 あまりにもおかしい敵の行動にジョセフが頭を痛めていると。

 

『ジョセフ、正門に動きがあったわ』

 

 通信機からアリッサの声が聞こえてきた。

 

「正門?敵?」

 

『いえ……外側から結界の解除らしいことしてるから、恐らく敵じゃないわ。帝国軍だと思うわ』

 

「やっと動いたか……助かるといえばいいのか、それとも面倒だと思えばいいのやら」

 

『彼ら、けっこう手間取っているわね。まだ時間がかかりそうだわ』

 

「まぁ、ホッチでもすぐに解除できたとしても制限時間付きだったからな……完全に解除するには時間がかかるだろうよ」

 

 それにしても、どう対処すればいいのやら。敵の目的は不明だし、残りの敵の正体もわからない。捜すにしてもこの学院は広い。しらみつぶしに捜していたら日が暮れるどころか、日をまだくかもしれない。

 

 そもそもだ。

 

「……敵は目的を果たした後、どうするつもりだったんだ?」

 

『そういえば、そうよね。ホッチは入ったら最後、外部から完全に解除するまで出られないって言ってたし』

 

「普通、外に出られるようにするはずなんだけど……どうやって外に出るつもりだったんだ?」

 

 まったくもって理解不能だと思ったその時、不意にジョセフの脳裏に浮かんだ一つの可能性。

 

「そういえば、昨日テレサが言っていたな。”明日は講師・教授陣は魔術学会に出席する”って」

 

『それがどうかしたの?』

 

「フェジテから帝都までは馬車で三日かかる。明日魔術学会に出席するなら三日前にはフェジテを発たないといけないはずなんだけど」

 

『それはそうだけど……』

 

「なのに、今日発ったってことは……どうやって一日で帝都まで行ったんだ?」

 

『……もしかして、転送法陣?』

 

「それだろうよ」

 

 確かに転送法陣ならば三日かかる帝都でもすぐに着く。学院から脱出するにはこれしかないのだが。

 

『ただ、それだと連中は講師・教授陣がいるところに着いてしまうかもしれないわ。連れて行かれた子と一緒にいるのを目撃される可能性だってある』

 

「当然、そんなのを黙って見過ごすはずがない。ましてやあそこにはセリカ=アルフォネアがいる。敵に回したら死ぬ可能性が高いぞ」

 

 それに、いざ教授陣達が異変を察知されたら、転送法陣を使って学院に戻ってくるはずだから、それを防ぐ意味合いでも破壊しているかもしれない。

 

 となると、脱出手段は正門からの脱出になるはずなのだが……

 

「……もしくは、転送先が変えられている、としたら……?」

 

『それはいくらなんでも無理なんじゃない?あれって確か最初から設定の場所を行き来するために専用に構築されるってホッチが言っていたわ。一度、完全に構築された転送法陣の行き先を変えるなんて――』

 

「この学院を弄った連中ならどうだ?ここまでやると空間系の魔術は天才だ。そいつならどうだ」

 

 ジョセフの問いに、アリッサが一瞬、言葉に詰まる。

 

『まさか、そんな……でも、そんなこと……』

 

「なぜ五時間も経っているのに敵は来ない?もう二人も殺られているし、帝国軍も結界を突破するのは時間の問題だ。にも関わらず敵に動きがないのは?動かないのではなく、()()()()のでは?」

 

 これならば敵が五時間経っても動けない理由も納得がいく。学院の結界も下手人が昨日の夜の内に弄るには時間が十分にあったはず。転送法陣の改変には素材と専用の道具が必要なのだが、これもあのダークコートの男とチンピラに運び込ませたはずだ。やれると思えばやれる状況だったのだ。

 

『下手人の誤算は味方が自分以外全滅してしまったこと。私達がここに来るとは思わなかったこと。しかも改変中だったから、今まで襲ってくることはなかった……』

 

「改変が完了すれば、下手人はルミアを連れて脱出して逃走……ついでに土産として爆晶石かなんかで人質も粉微塵に吹き飛ばす。そうなれば死体の判別が遅れてルミアの追跡が困難になるはず」

 

『……つまり、これは爆破テロに見せかけた、個人を狙った誘拐事件ってこと?』

 

「そうなるだろうよ」

 

『でも、それじゃあ、疑問点が二つあるわ。一つ目はなぜ敵は彼女を狙うのよ?誘拐したいなら、ここではなくても出来たはずよ?足が着くのを警戒してという話はあり得そうだけど、大がかり過ぎるわ。二つ目は、ここまでやるなら、学院内に裏切者がいるという前提条件がいるし、ここにずっと潜んでいないと話にならないわ。いるにしても、今日は魔術学会に全員出席しているはずだから、そこにいないなら学院側が不審に思うわ。けど、学院側は不審に思わなかったし、結果、こんなに後手後手になってしまった』

 

「一つ目のなぜルミアを狙ったのかはわからない。彼女自身になにかがあるのは間違いないが、動機は不明だ。だが、二つ目なら心当たりがある。今の講師の前に二年二組を担当していた奴だ。そもそも、本来休校のはずなのに、ここに彼女が来ることになったのは前任者が突然退職したことが一因で授業に遅れが出た、という話だ。そして、連中はまるでそういう状況であることを知っていたかのように今日来た」

 

 そう、この計画。標的がここに来ることを事前に知っていたからこそ実行できた計画なのだ。

 

「と、なると……転送法陣がある場所に残存している敵と人質がいるわけだから、そこを探せばいい」

 

『だったら……この学院で一番高さがあるあの白い塔……あそこ、怪しくない?』

 

「確認する価値はあるよね。じゃあ、塔の前に合流……」

 

 ふと、中庭を見ると、男が中庭を走破していた。

 

 その男は、医務室でベッドに横たわっていたグレンだった。

 

 方角的に、白亜の塔――転送塔に向かっている。

 

『どうしたの……?』

 

「あの講師……転送塔に向かって走っていている」

 

 …………。

 

 そして。

 

「正気か!?あの男ォ――ッ!?」

 

『正気なの!?あの男――ッ!?』

 

 深手を負っていながらも、敵がいると思われる場所に走っていくグレンを見て、ジョセフとアリッサは慌てて後を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

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