ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
第一章ラストです。どうぞ。
アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。
一人の非常勤講師の活躍により、最悪な結末の憂き目を逃れたこの事件は、関わった敵組織のこともあり、社会的不安に対する影響を考慮されて内密に処理された。学院に刻まれた数々の破壊の痕跡も、魔術の実験の暴発ということで公式に発表された。
帝国宮廷魔導士が総力を上げて徹底的な情報統制を敷いた結果、学院内でこの事件の顛末を知る者はごく一部の講師・教授陣と当事者たる生徒達しかいない。
無論、全てが完全に闇へと葬られたわけではない。
かつて女王陛下の懐刀として帝国各地で密かに暗躍していた伝説の魔術師殺しや、世界を滅ぼす悪魔の生まれ変わりとして密かに存在を抹消されたはずの廃嫡王女、死んだはずの講師の亡霊が事件の裏に関わっていた、なぜか連邦軍が学院内に侵入していた……そのような出所不明な様々な噂が真しやかに囁かれた。だが、人は飽きる生き物、一ヶ月も経てば誰の話題にも上がらなくなった。
事件に巻き込まれた生徒の一人であるルミア=ティンジェルがなぜかしばらくの間、休学していたが、やがて普通に復学した。朝早く起きれば、今日も銀髪の少女と一緒に元気に学院に通うルミアの姿が見られるだろう。
学院には以前となんら変わらない、平和で退屈な日常が戻って来たのだ。
そして――
「にしても、まぁ、あのルミアって子が三年前に病死したはずの、あの第二王女だったなんてね……」
ある晴れた日の朝。
学院正門を潜ったジョセフは、ふと一ヶ月前の事件を振り返っていた。
隣にはアリッサがいる。二人ともアルザーノ帝国魔術学院の制服――ジョセフはネクタイを着けず、ボタン二つ開けていて、シャツを出しているなど、かなり着崩していた――に身を包んでいた。
あの事件の後、帝都にいるデルタの面々はルミア=ティンジェルの素性を密かに調べていた。異能者だったルミアが様々な政治的事情によって、帝国王室から放逐されたということ。帝国の未来のために、ルミアの素性は国家機密になっていたこと。そして、グレンとシスティーナは事件の功労者として帝国上層部に密かに呼び出され、ルミアの素性を知り、今後はルミアの秘密を守るために協力を要請されていたことも知ることができた。
因みに、この事件は表向きは連邦軍は存在しないことになっていた。
「あの子が元・王女なら連中が今回狙った動機もある程度はわかるかもね」
「あれだけの戦力を送ったんだ、今でも機会を狙っているだろうよ」
「それにしても、あの講師が担当しているクラスでしょ?私達は」
「そうそう……まぁ、顔は知らないだろうから初めて会ったように装わなきゃ」
そう言ってため息を吐くジョセフ。
結局あの後は、グレンがゴーレムの群れの間をすり抜けて転送塔に入り込み、ルミアが転送される前に解除して救出することができた。そして、最後に残っていた敵もジョセフの予想通り、グレンの前任者であったヒューイという元・講師だった。
「あの後、非常勤ではなく正式な講師になったから、これから付き合いが長くなるだろうなぁ……まぁ、あの『愚者』だから、いざという時になんとかなるだろうけど」
「それも、そうね。それにしても、ジョセフ。この制服なんだけど」
アリッサはジョセフの袖を掴む。顔には困惑とこれでこの学院に通うの?と言わんばかしの顔になっている。
「これ、軽装過ぎるっていうか、絶対これをデザインした人の趣味が入ってるでしょ?」
「あー、それな。俺達の同年齢ぐらいの魔力は未発達段階……成長期でね。それで内界マナを活性化させ、成長を促進させるには、外気に肌を晒して、なるべく外界マナに触れ続けなければいけないらしいよ?」
「連邦ではこういう服装じゃなかったわよね?」
「で、男性より優れた魔力容量を持ってて、生来、外界マナと親和性の高い女性こそ率先して行うべきことで、高い効果が期待されるらしいよ?」
「……なんで女性が率先してやらないといけないのよ?」
「知らん。趣味なんじゃない?」
まぁ、突っ込みどころはかなりあるのだが、と。ジョセフは思いながら、チラッとアリッサを見る。
デザイン性もあるのか、スタイルがはっきりしている。出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
特に上半身のとある部分が……同年代の少女とは思えないぐらい、豊満に育っている。テレサよりも小さいくらいで、それがこの制服ではっきりしている。
(こりゃ、男子にモテるだろうな……顔もいいし)
もっとも、とうの本人は、一人の少年以外の男はアウト・オブ・眼中なのだが。
(ひょっとしたら、これでジョセフを――)
と、この金髪巨乳美少女は思っているのだが。
そんな肉食系女子の視線をジョセフはひしひしと感じ、ジョセフはため息を吐くのであった。
やがて、二人は学院長室に着く。ここで、学院長に挨拶し、その後、あの講師がいるところに行くことになっている。
「なにはともあれ、連中が動いた今……ルミア周辺の動きには目を光らせた方がいいかもな」
「そうね。そう意味では、彼女と一緒のクラスはなにかと都合がいいわ」
口々にそう言いながら――
ジョセフは学院長室の扉をノックし、扉を開けるのであった。
――――。
「皆様は『メルガリウスの魔法使い』という、おとぎ話をご存じでしょうか?」
ふと、女は誰へともなく、そんなことをつぶやいた。
「ええ、そうですね。空に浮かんだ城を舞台に、正義の魔法使いが、悪い魔王をやっつけて、お姫様を救い出す……そんな、子供向けの童話です。この国の人間ならば、誰もが一度は子守歌代わりに耳にしたことがあるのではないでしょうか?」
ぱたん、と女は手にしていた本を閉じる。
タイトルには『メルガリウスの魔法使い』とあった。
「でも、この話、少し奇妙な逸話があるのです。例えば――」
女が眼を向けた先の壁には大きな世界地図がかかっていた。
「お隣の国、レザリア王国。聖エリサレス教会が支配する彼の国では……『メルガリウスの魔法使い』は教会が禁書に指定し、全て焚書されてしまいました。そして、その著者は異端者の烙印を押されて火刑に処された、とも」
女は悼むように息をつく。
「おかしな話ですね……たかが童話一つに国が総力をあげて、ここまでするなんて」
女がそっと、部屋の中からバルコニーへと出る。
「そして、大洋を挟んだ新世界の新興国家、オーシア連邦。独立して数年後、彼の国では逆にこの童話に異常なまでの関心を抱き、この童話を優秀な専門家を総動員してまで調査している。こちらもレザリア王国とは逆の意味で国の総力をあげている。おかしな話です。連邦の中にはかつて超魔法文明を利用し、誰よりも強力な魔法を扱う人種の末裔が『帰還』しているらしいという噂がありますが……それと関係があるのでしょうか?」
…………。
「もう一つ、奇妙なことと言えば……この国では、この童話の舞台モデルとなった、フェジテの空に浮かぶ城の謎を解き明かさんと多くの魔術師が研究を続けているのですが……その多くが、なぜか、ある日突然、不可解な失踪をしたり、奇妙な変死を遂げたりするのです。もちろん、全ての魔術師がそうなるわけではありませんが……ちょっと不自然なくらい多いですね。果たして……これは偶然でしょうか?」
空が近い。穏やかな風が凪いで、女の長い髪を揺らした。
バルコニーから見下ろせる眼下にはアルザーノ帝国、帝都オルランドの豪奢な町並みが一望できて――
そして、遥か空の向こう。
フェジテの方角の空には、件の幻の城が小さく浮かんで見えた。
「さて、フェジテの空に浮かぶあの城は……『メルガリウスの天空城』とは……一体、なんなのでしょうね?」
アルザーノ帝国女王――アリシア七世は、やはり誰へともなく、そんなことをつぶやいた。
件の組織が本格的に動きました。
鍵と接触しました。
世界は動いています。
我々の”希望”も動いてます。
二千年の希望が動いてます。
年の終わりが始まる時、その結果が顕れるでしょう。
その時に、我々の希望は叶うことになる。
自由の民になり安息の地を得られるだろう。
やるべき事は、まだたくさんある。
第一章はこれで終了です。
次は第二章……の前に、顔合わせみたいな感じです。
アリッサがはっちゃけます。ウェンディは弄られまくります。テレサが漁夫ります(笑)