ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
間を挟みます。
唐突であるが、アルザーノ帝国には、各地に無数の古代遺跡が存在する。
事実、街道を歩けば、古代の石碑や碑文が結構な頻度で見当たるし、新たに家を建てようとしたり、耕作地を開墾しようと地面を掘れば、新たな遺跡が出てくることもザラだ。
前人未踏の辺境へ調査に向かった軍の調査隊が、新しい古代遺跡を発見して帰ってくることなども、日常茶飯事である。
魔術学院の地下には広大な迷宮遺跡が広がっているし、フェジテの空に浮かぶ幻の『メルガリウスの天空城』だって、広い意味で捉えれば古代遺跡のようなものだろう。
アルザーノ帝国が存在するこの北セルフォード大陸の北西端には、聖歴前にまで遡る遥か太古、超魔術文明と呼ばれた古代文明が存在した――学説ではそう言われている。
そして、魔術学院内にあるこの場所も、帝国に存在するそんな無数の古代遺跡の一つ。
メルガリウスの都跡。
魔術学院の広大な敷地の一角にあるこの遺跡は、かつてこの地に存在したと言われている古代文明都市『メルガリウスの都』のほんの一部が、地殻変動の関係で一部、地表に姿を現したものだとされている。
とはいえ、この遺跡にかつての超魔術文明を彷彿させるような魔術的価値は皆無だ。
今は、風化して崩れかかった建築物の碁盤目状に並ぶ基礎や、城壁跡などが僅かに地表に残るのみである。敷地もちょっと広めの公園程度のものだ。
学院側は、こんな人工的な遺跡の風合いを生かしつつ、木や花壇などで飾り立て、庭道を作り、今ではこの遺跡は散策用の庭園として生徒達に広く開放されている。
さんさんと降り注ぐ温かな陽光。
穏やかに吹き流れる風が木々の梢を耳心地よく鳴らし、小鳥が囀っている。
そんな庭園を、ジョセフとウェンディの二人は並んで歩いていた。
他愛もない昔話に花を咲かせながら、ゆっくりと歩いて行く。
「それで……どう?上手くやれてる?」
どのくらい歩き、どのくらい話したところか……ふと、そんな話題に話が移る。
「ええ、まぁ、なんとか……騒がしい二人がいますけど」
「ああ、もしかして、あの二人ですか?」
騒がしい二人が誰のことなのか、ジョセフは察する。
現に、来て早々、その二人の低レベルな言い合いを見たのだから。
「そういう貴方は、どうですの?向こうでは上手くやっていけてますか?」
「まぁ、それなりに、ね」
実際は、それなりに大変なのだが、っと。振り返るジョセフ。
「それにしても……こうして、二人きりなのは久しぶりじゃない?」
「そうですわね……テレサと知り合ってからは特に……」
言われるまでもない。今のウェンディの胸に去来するのは、スペンサー家が伯爵だった頃の遠く幼い頃の記憶。
これまでの歴史や仕事柄、両家とも非常に親密な関係だったため、遠路はるばるナーブレス公爵領にスペンサー一家が来ていたあの頃。
初めてジョセフが両親に引き連れられて遊びに来たのが二人の出会い。
五年前なんて、男女の違いもわからず、恋愛の『れ』の字も知らず、ただ両親のような紳士と淑女の大人びた関係に憧れ、ジョセフにそれを求めてしまった、おしゃまで幼かった頃の自分。
自分自身をよくわかっていなかったくせに、紳士とはこうだ、淑女とはこうだとジョセフに高説したり、背伸びして着飾ってジョセフと共に社交場に参加しては、エスコートがなってないとか、自分のことは棚上げでダンスが下手とか……今改めて思い返してみれば、散々に振り回していたことを心苦しく思う。
だが、そんな自分を、ジョセフはなんやかんや言いながら我儘に付き合っていた。
互いに幼いなりに……仲はとても良かったと思う。振り回しまくっていたが。
だから、そんな自分達の様子を見た、ジョセフとウェンディのそれぞれの両親が冗談交じりに婚姻の話をしていたりしていて、それを聞いたウェンディはジョセフが自分にふさわしい紳士になったらと言っていたりしていて……
無論、酒の席で酔った勢いで出た冗談だ。ウェンディに到っては、婚姻の意味すらよくわかっていない。それはお互いの両親も重々承知だ。
そもそもジョセフとウェンディは一人っ子――両家の重要な跡継ぎだ。おいそれとできるわけがない。
だから、両親は皆、心の底ではわかっていたのだ。
そんなことはただの冗談である、と。
……だが、その頃からだろうか。
後に知り合って仲良くなったジョセフとテレサの仲に嫉妬みたいな感情が芽生えたのは……
「あの頃はお前にまぁ、振り回されまくって……まぁ、それがなんやかんやで楽しかったけど」
「う……あ、あれは、その……申し訳ありませんでしたわ」
やがて、楽しかった子供の時代は、ジョセフ達が連邦に移って行ったことで終わる。
それからは歳を取って、成長して、男女について色々なことを知って……
テレサと学院に通うようになり、ウェンディの性格もあってか自然と色恋沙汰みたいな感じは今のところなく、一人前の貴族になるために魔術の勉強に夢中になっていき……次第にジョセフのことは忘れかけようとしていて……どこかに芽生えていた気持ちも、時が止まっていてままだったし。
その矢先にジョセフと再会した。五年ぶりの再会だったのである。
ウェンディはジョセフをチラッと見る。その時、胸の中で何かが動いて、徐々に大きくなり始めるのだが、この時のウェンディは気付かなかった。
(最近、テレサはジョセフの所に行っていますし……)
ウェンディはテレサがジョセフに抱いている気持ちを知っている。だって、お互いが跡継ぎで結ばれることはないと思っていた自分とは対照的に、テレサはジョセフのことを忘れていなかったから。
「あんなに我儘で振り回しまくっていたお前とおっとりとしていたテレサに再会するなんてね……面影があったのと思い出したからわかったけど」
二人ともスタイルいいし、特にテレサなんてとある部分の成長が凄いし……と思うジョセフ。
「おかげで楽しみが増えたってことですよ」
「……その楽しみとは一体、なんですの?」
ジョセフの一言に、嫌な予感がしたウェンディは問う。
今までの雰囲気がぶち壊されそうな気がする。
「え?そんなの決まってるじゃん。お前を弄れると――」
「なんで、わたくしは貴方に弄られなきゃいけないんですの!?」
「いや、ほら、そういう星の下に生まれたって感じだし」
「生まれてませんわよ!」
「ドジだし」
「うるさいですわね!」
「そんなドジっ娘を弄りたいのは男の性――」
「お黙り!ジョセフ!」
今までの雰囲気は完全に打ち壊されていた。
「どうした?そんなに突っ込んで」
「貴方が変なこと言うからでしょ!?あ な た が!」
「お前からドジを失くしたら、何が残るんだい?」
「わたくしの存在意義それだけ!?」
二人の間を、緩やかで涼しげな風が優しく吹き抜ける中、それを吹き飛ばすような漫才が庭園で繰り広げられる。
「ていうか、これ絶対アレですわよね……小さい頃からの仕返しですわよね?」
「俺がそんな器の小さいことするか?そんな紳士っぽくないことを」
「今までのも紳士っぽくないのですが……」
「ただし、テレサに限る」
「わたくしの目の前でそれ言います!?ていうか、わたくしとテレサのこの扱いの差はなんなんですの!?」
「テレサは優しいから、お前は弄りやすいから。以上」
「むきぃいいいいい――ッ!」
顔を真っ赤にして両腕でジョセフの両肩を掴み、シェイクするウェンディ。
(久しぶりだなぁ、こういうの……)
一方、ジョセフはウェンディにされるがままにされながら懐かしむのであった。
そんな二人の姿を金髪の令嬢はむ~っとした顔で覗き、紫色の髪の少女は放課後に接近しようと考えるのであった。