ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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第二章です、どうぞ。


第2章
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 放課後のアルザーノ帝国魔術学院、東館二階。

 

 その時、魔術学士二年次生二組の教室は、びっくりするほど盛り下がっていた。

 

「はーい、『飛行競争』の種目に出たい人、いませんかー?」

 

 壇上に立ったシスティーナがクラス中に呼びかけるが、誰も応じない。

 

 クラスメイト達は皆、一様にうつむいたまま、教室は葬式のように静まり返っている。

 

「「…………」」

 

 あまりの盛り下がりっぷりに、ジョセフとアリッサは黙らざるを得ない。少なくともボケかませる状況じゃない。

 

「……じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」

 

 やはり、無反応。教室は静まり返ったままだった。

 

「「……………」」

 

 そんなにヤバいイベントなのだろうか?とジョセフ達は思う。

 

「はぁ、困ったなぁ……来週には競技祭だっていうのに全然、決まらないなぁ……」

 

 システィーナは頭を掻きながら、黒板の前で書記を務めるルミアに目配せする。

 

 今、何が行われているのかというと、来週に開催される魔術競技祭に向けての種目決めが今、行われていた。

 

 魔術競技祭。学年次ごとに年に三回、行われる大会で、学院生同士による魔術の技の競い合いである。各クラスの選手達が様々な魔術競技で技比べを行い、総合的に最も優秀な成績を収めたクラスの担当講師には、恒例として特別賞与が出ることになる。

 

 そして、生徒達も来賓として来る、政府機関に自分をアピールするには絶好の機会でもあった。

 

 だから、他のクラスだと盛り上がっており、もうすでに競技祭に向けて練習しているのだが……このクラスはなぜか盛り下がっていた。

 

「ねぇ、皆。せっかくグレン先生が今回の競技祭は『お前達の好きにしろ』って言ってくれたんだし、思い切って皆で頑張ってみない?ほら、去年、競技祭に参加できなかった人には絶好の機会だよ?」

 

 ルミアが一つ頷き、穏やかながら意外によく通る声でクラスの生徒達に呼びかけるが、それでも、誰も何も言わない。皆、気まずそうに視線を合わせようとしない。

 

 たが、ジョセフはルミアのある一言が引っかかっていた。

 

(競技祭に参加できなかった人?)

 

 こういうのは全員で出場するのが普通ではないのか?

 

 と、ジョセフが訝しんでいると。

 

「……無駄だよ、二人とも」

 

 その時、この膠着状態にうんざりした眼鏡の少年が席を立った。

 

 少年の名はギイブル。このクラスではシスティーナに次ぐ優等生だ。

 

 因みに、彼、ジョセフとアリッサに対しては快く思っていない。

 

「皆、気後れしてるんだよ。そりゃそうさ。他のクラスは例年通り、クラスの成績上位陣が出場してくるに決まってるんだ。最初から負けるとわかっている戦いは誰だってしたくない……そうだろ?」

 

「……でも、せっかくの機会なんだし」

 

 むっとしながら反論しようとするシスティーナ。

 

(……あー、上位成績者でこの種目をこなすんだね、って、この全種目を!?)

 

 一瞬、納得しかけるジョセフは黒板に書かれている全種目を見る。

 

 これを、一部の人で回すとするなら……

 

「ちょいちょいセシルさん、このクラスの中で他のクラスと渡り合える人ってどれぐらいいるの?」

 

 ジョセフは隣にいる女顔の少年――セシルに聞く。

 

「えーと、まずこのクラスだとシスティーナが一番で次にギイブルで、三番手がウェンディなんだけど……強いて強いのはこの三人だけかな」

 

「三人!?たった三人なん!?」

 

 もっといると思っていたジョセフはぎょっとする。

 

 そして、再び黒板に目を向ける。どこをどう見ても三人で回せるものではない。

 

 無論、三人だけではなくあと数人は出すだろうが、勝ちを狙うには無謀すぎる。

 

 そんなジョセフの心情なぞ露知らず、ギイブルは続ける。

 

「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭には、あの女王陛下が賓客として御尊来になるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないのさ」

 

 嫌味な物言いだが、ギイブルの言はクラスに蔓延する心情を的確に突いていた。

 

(まぁ、それなら、多少躊躇っても仕方ないといえば仕方ないか)

 

 ジョセフもその一点だけは理解できた。

 

「それより、システィーナ。そろそろ、真面目に決めないかい?」

 

「……私は今でも真面目に決めようとしているんだけど?」

 

「ははっ、冗談上手いね。足手まとい達にお情けで出番を与えようとしてるのに?」

 

 ギイブルは皮肉げな薄笑いを口の端に浮かべ、クラスの生徒達を一瞥する。

 

「見なよ。君の突拍子もない提案のおかげで、元々、競技祭に出場する資格があった優秀な連中も気まずくなっちゃって委縮している……もういいだろう?」

 

「わ、私はそんなつもりじゃ!?それに皆のことを足手まといだなんて……ッ!」

 

 眉を吊り上げ、声を荒げるシスティーナ。

 

 ギイブルはそれをさらりと受け流し、さらに歯に衣着せぬ言葉でたたみかける。

 

「綺麗事はいいよ。そんなことより、さっさと全競技を僕や君のようなクラスの成績上位陣で固めるべきだ。そうしなければ他のクラスに……特にハーレイ先生が率いる一組に勝てるわけがない」

 

「勝つことが競技祭の目的じゃないでしょう?それに、それ去年もやったけど……なんか凄くつまらなかったし……」

 

「勝つことだけが目的じゃない?つまらない?何を言ってるんだ、君は。魔術競技祭はつまるつまらない問題じゃないだろう?」

 

 ギイブルはシスティーナの言い分を鼻で笑った。

 

「めったなことじゃ魔術の技比べができないこの学院において、誰が本当に一番優れた魔術師の技を持っているのか――それを明白にできる数少ない機会が魔術競技祭じゃないか」

 

 一連の話を聞いて、ジョセフはため息を吐いた。

 

「これだったら、全員出した方がいいんじゃない?」

 

 そして、話を遮るように言った。

 

「……ええ、そうね。これだったら全員出した方がまだ勝ちがあるんじゃない?」

 

 これに同調するアリッサ。

 

「……連邦から来た君達には理解できないのかな?この競技祭――」

 

「いや、だってよ。そもそも、このクラスの全体のレベルから見ても、勝ち見えんじゃん」

 

 ギイブルの話を遮り、話を続ける。

 

「だいたい、こんな数の競技をたった数人の成績上位者で回すなんて、正気か?一つ二つかけ持つならわかるけど、これじゃ一体、いくつかけ持つんだよ?死ぬわ。俺だったら即、断るわ」

 

 ジョセフは黒板に指差す。もし一部だけで回すなら、魔力を温存しながら試合に出なきゃいけないことになる。

 

 それだったら、全員出場した方がいい。地力の差はあれ、得意分野ごとに出場させれば、その試合にだけ魔力を行使すればいい。勝率はいくらか上がるだろう。

 

「だからって、お情けで足手まといに参加させるべきだと言うのかい?」

 

 だが、この少年はそんなこともわからないらしい。ジョセフの言い分にも鼻で笑う。

 

「君には関係ないだろうけど、この競技祭には学院の卒業者……魔導省に勤める官僚や、帝国宮廷魔導士団の団員の方々も数多く来賓としていらっしゃるんだ。魔術競技祭は将来それらを目指す生徒達にとって、絶好のアピールの場でもある。僕ら成績優秀者にその機会がより多く与えられるのは当然と思わないかい?」

 

「いや、イミフなんだけど」

 

 お前何言ってんの?と、ジョセフは呆れる。

 

「絶好のアピールの場なのはまぁ、それとして……それがなんで成績優秀者だけなん?ていうか、そこまで成績優秀者なら一度の出番だけで十分じゃない?優等生さんよ?」

 

 嫌味も露わにジョセフが横目で流し見る。

 

 嫌味を言われたが我慢ならなかったのか、ギイブルはジョセフを睨みつける。

 

「今回の優勝クラスには、女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉が与えられるんだ。これにどれほどの価値があるのか、元・貴族である君にもわかるだろう?裏切り者。だから、大人しく出場メンバーを成績上位陣に固めるべきだ。そこに連邦の人間はいらない」

 

「……テメェみたいな勘違い野郎がいる限り、その栄誉も夢のまた夢だろうよ。ていうか、少し遠回しすぎたから、わかりやすく簡潔に言うか。……黙ってろつってんだ、能無し野郎」

 

 そう言って、ギイブルを睨みつけるジョセフ。

 

「ちょ、ちょっと、ジョセフ。貴方――」

 

「ちょっと……貴方達、いい加減に――」

 

 すでに最悪の雰囲気になっているが、この一色触発の空気にウェンディとシスティーナが声を上げようとした、その時だった。

 

 ドタタタタ――と、外の廊下から駆け足の音が迫ってきたかと思えば……次の瞬間、ばぁんっ!と、派手に音を立てて教室前方の扉が開かれた。

 

「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな――ッ!」

 

 両袖に腕を通さず羽織ったローブが、無意味にバサリと翻る。

 

 開け放たれた扉の向こうには、人差し指を前に突き出し、不自然なほど胸を反らして、全身をねじり、流し目で見得を切る、という謎のポーズを決めたグレンがいたのであった。

 

 

 

 

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