ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
昨日は色々あり、翌日の放課後のこと。
アルザーノ帝国魔術学院では、魔術競技祭開催前の一週間は、競技祭に向けての練習期間となっている。
具体的にはその期間の全ての授業が三コマ――午前の一、二限目と午後の三限目――で切り上げられ、放課後は担当講師の監督の下、魔術の練習をしてよいことになっている。
「結局、全員出場になるんだよね……」
放課後。針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院中庭にて。ベンチに腰かけたジョセフは自分のクラスメイト達が競技祭に向けて魔術の練習を行っているさまを、遠目で眺めていた。
あれだけ難航していた全種目の振り分けは、グレン=レーダス超カリスマ大先生様が現れたことであっさりと解決してしまった。
本気で勝ちにいくと、やたらやる気満々だったグレンは、全員の得意分野、もしくはそれを応用した分野を埋めていくように割り当てていった。
生徒達は本気で勝ちにいくということは、この学院恒例の成績上位者のみの出場でいくと思っていたばかりに、この采配に最初は困惑していた。
特にこのクラスでは三番手(これを聞いたジョセフは嘘だろという顔で彼女を見てしまったが)であるウェンディがなぜか決闘を外されてしまい、抗議するが、グレンはその抗議に対して一定の納得いく説明をした。
まぁ、要約すると魔力容量と使える呪文は確かに多いが、突発的な出来事に弱いし、たまに呪文噛むなど要所要所でドジを発揮してしまうということであった。それならば、使える呪文は少ないが、運動力が豊富なカッシュの方をグレンは選んだのである。
その代わり、【リード・ランゲージ】では彼女の右に出る者はいないから、『暗号早解き』ならお前の独壇場になると言われた。
グレンはウェンディ以外にも、手を挙げた生徒一人一人に納得のいく説明をしていた。
例えば、『飛行競争』に出るカイには、【レビデート・フライ】も【グラビィティ・コントロール】も結局は同じ重力操作系の黒魔術だから、運動とエネルギーを操る術ということで根底は同じと答える。
例えば、テレサのには、【サイ・テレキネシス】などの念動系の白魔術、特に遠隔操作系の術式と相性がいいと答える。
例えば、『グランツィア』に出場するアルフ、ヒッグス、シーザーには、個々の能力よりもチームワークが重要だからお前らが一番適任だと答える。
このように、グレンは普段は目立たなくとも実は尖っている長所を最大限生かした編成で臨むつもりであった。
これにギイブルはあくまでも全種目を成績上位陣で固めるべきだ、と。どんだけお前、アピールしたいの?といわんばかしに固執していたが、システィーナが生徒達を巻き込んで猛反論したことで決着はついた(この時、グレンは良からぬことを考えていたような気がするのだが、システィーナが生徒達を焚きつけてしまったため、流されるように肯定するしかなかったのだが)。
因みに、ジョセフとアリッサは一組で『生存戦』でルミアが出る『精神防御』の前の種目で出ることになった。ルールは簡単。最後まで生き残れ、らしい。
とまぁ、そんなことがあって現在に至るのだが。
「案の定、他のクラスは優秀で有名な生徒を、複数の競技に何度も繰り返し出してくるし……最初から上位に食い込まなきゃ勝てないな」
それでも、地力の差はあるだろうから、正直怪しい。
だが、周囲を見渡してみると、皆、熱心に練習している。なんやかんや言っても、出たかったのだろう。
そういうジョセフも、今はシスティーナとルミア、アリッサ達で呪文書を広げて、羊皮紙に何かを書き連ねていた。
何をしているのかというと、競技用の魔術式の調整をしていた。
「ジョセフ。ここの術式なんだけど、貴方はどう思う?」
「そこ?そうだねぇ……ここをこうすれば、精度は上がる。けど、マナ・バイオリズムが大きく揺れるから、近距離で攻撃するよりかは狙撃向けにはなるね。逆にするとマナ・バイオリズムの揺れは小さくなって手数が増えるけど、距離が開けば開くほど威力は落ちる。近距離で瞬時に相手を圧倒したいならこれでもいいと思う」
システィーナが見せた魔術式のある部分を別の羊皮紙に書き写し、解説していく。
片や、この学院でのトップクラスの成績優秀者と片や、連邦最高峰の学府である軍学校のトップクラスの成績優秀者がお互いに意見を出し合いながら魔術式の調整をしていく。
「にしても、なんでこの学院は祭りなのに成績上位者だけで出そうとするんだい?」
調整しながらふと、ジョセフは昨日思った素朴な疑問をシスティーナに問う。
「さぁ、私にもよくわからないわ。もう大分前からそんなお決まりができていたらしいけど。でも、本当に面白くなかったのよ。お父様から聞かされていた話とずいぶん違っていたし」
「ああ、そういえば昔は全員参加して、盛り上がったお祭りだったって母さんから聞いてたしな。なんか廃れてしまったらしいけど」
果たしてどうしてそうなってしまったのやら。名誉を独り占めしたい生徒がおっぱじめたのが切欠なのか、もしくは講師自身が名誉を高めるためにそうしたのか、はたまた金なのか。
まぁ、どちらにろ、それは上の層がかなーーーり厚くない限りはお勧めできないし、やるにしても二つぐらいだろう。
「でも、昨日は助かったわ。修羅場になりかけていたけど……」
「別に?俺はそっちの方が勝率は上がると思ったから、そう言っただけ。システィーナ二百人分いないと無理だわ」
「うーん、それは大袈裟な気が……」
苦笑いするルミア。一方でジョセフは手を止め、何かを考えこむ。
「ジョセフ君?」
すると、ジョセフはシスティーナを見る。
「な、何……?」
「なぁ、アリッサ。グレン先生の周囲にシスティーナを百人増殖させたらどうなると思う?」
「……はい?」
突然、意味不明なことを言い始めたジョセフに、目を点にして硬直するシスティーナ。
「うるさくなるに決まってるでしょ?騒音レベルになるわ」
「それだけだと思う?」
「先生が発狂するわね」
「してして?」
「大量に子供が……「待て待て待て待て待て待て待て――ッ!?」」
アリッサから飛び出した物騒な言葉を遮るようにシスティーナが叫ぶ。
「いや……まぁ、有り得なくはないけど」
「あり得ないわよ!なんで私がアイツと――ッ!?」
「もしくはハリケーンが発生するとか?」
「ハリケーン・システィーナて命名されそうだな、そりゃ」
「私は自然災害が何かかッ!?」
「私は増えるんだにゃ☆みたいな感じで増えるんでしょ?」
「増えないわよ!?」
突然、始まったボケに律儀に突っ込むシスティーナ。
「ていうか、ウェンディだけじゃなく私にも被害が及び始めているんだけど!?」
「被害者が増えるんだぜ☆」
「増やすな!」
「私も増えるんだぜ☆」
「お前は増えなくていいんだぜ☆」
「わけわかんないこと言ってないで、ちゃんとして!」
「もう出来てるんだぜ☆」
「なんでこんなに上手くできているのよ!?性質悪すぎるでしょ!?」
((((……なにこれ?))))
システィーナを巻き込んで始まった意味不明の漫才に、周囲の生徒達はそう思うのであった。
因みにこの後、後からやってきたハー……ハヒフヘホ先生率いる一組との間で一悶着起きるのだが、この時グレンは何を思ったのか、ハンバーガー先生に給料三か月分の賭けることになるのだが、グレンがやっちまったと思った時にシスティーナが割って入ったことで確定してしまったのは言うまでもない。
魔術競技祭、練習期間の日々が過ぎていく。
なんだかんだで誰もが参加したかった競技祭に(成り行き上)参加させてくれて、(表面上は)生徒達のことを考えてくれている(ように見える)グレンに対する求心力は、思った以上に高かったらしい。
グレンのクラスの生徒達は非常に士気が高く、勝つために一生懸命、魔術の練習と勉強に励んでいた。そこには、もはや他クラスの成績上位陣に対する負い目も気後れも、女王陛下の前で無様に負けるかもしれないことに対する恥も外聞もない。
皆、一生でたった一度の、二年次生の部の魔術競技祭に対して必死だった。
一方で、グレンも生徒達のその熱意によく応えた(なんか日が経つにつれて、やつれているような気がしたが)。どこか鬼気迫るような熱心さで、生徒達の練習と勉強につき合っていた。
そして、ジョセフも。
「『遠隔重量上げ』は、白魔【サイ・テレキネシス】の呪文で、鉛の詰まった袋を触れずに空中へ持ち上げる競技だったよな?」
「はい、より重い袋を浮かせることができた選手に多くの得点が入るルールだわ」
この日、ジョセフはテレサと一緒にいた。
「そうねー、最初はそこまで重くはないけど段々重くなっていくから、その時はいきなり全力でいくんじゃなくて徐々に持ち上げて、維持する時に力を重点的に使ったほうがいいと思う。だから、この一週間でできるだけ感覚を掴まないとね」
ジョセフはテレサにそうアドバイスする。
「そうですよね。わかりました、それを意識しながら持ち上げてみますね?」
「ん」
最近はこうしてテレサの練習に付き合っている日が多い。
ウェンディの方も付き合っているが、ああいう分野はグレンの方が得意らしく、今はグレンの元で『暗号早解きの』対策をしている最中だ。
アリッサは、決闘に参加するシスティーナ、カッシュ、ギイブルに立ち回りの仕方をアドバイスしている。ギイブルは最初は乗り気ではなかったが、今は渋々といった感じでアリッサのアドバイスに耳を傾けている。
……時折、この二人からものすごい圧力がジョセフに向かってくるのだが、気にしたら負けとジョセフは気にしない素振りをしていた。
(にしても、テレサが遠隔とはいえ重量上げとは、ね……)
テレサは商家の娘だからか、抜け目ない所があるが、基本はおっとりとした心優しい少女である。
そのテレサが重量上げに参加すると考えると。
「……一番、怒らせたらあかんような気がする」
「?」
物が凄い勢いで投げてくる光景を想像したジョセフは戦慄を覚え、テレサは小首を傾げる。
「ふふっ、なんか、ジョセフを逆お姫様抱っこできそうですね♪」
「テレサさん、それはやめて。私のプライドに打撃がががが」
「このまま、引き寄せて……」
「もしもし、テレサさん?」
ニコニコ顔で想像するテレサに、ジョセフは頬を引きつらせる。
「なぁ、テレサ」
「なんでしょうか?」
ジョセフはテレサの頭に手を乗せて撫でる。
「……あ」
「お前は自分が思ってる以上に優秀だから大丈夫さ。だから、自信を持ってやればいいさ。負けた時は……そん時はそん時さ」
そう言うジョセフの言葉が耳に入らないテレサ。手の感触が心地良く、胸が甘く高鳴る。
そんな心地良さをもっと味わいたくて……
「……もう少しだけ、撫でてくださいな」
「……はいはい」
ジョセフはテレサの頭を撫で続けるのであった。
「……あのホルスタイン女狐め……」
「……むぅ」
そんな二人の様子を、二人の少女は遠くから見るのであった。
そんなこんなで、瞬く間に一週間が過ぎた。
今日はアルザーノ帝国魔術学院、魔術競技祭、開催当日。
そして、アルザーノ帝国女王アリシア七世を来賓として学院に迎える日である――