ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


第1章
02


 

 

 

 オーシア連邦。

 

 北オーシア大陸の3分の2と南大陸の一部の諸島と西海岸から先の諸島を国土に持つ連邦制国家である。

 

 旧世界――北セルフォード大陸北西端にあるアルザーノ帝国から見れば、大洋を挟んで西側に位置する新興国家。

 

 一つの連邦直轄区、十六の州、八つの準州、六つの海外領土から成り、北部は亜寒帯、東部から中央部は亜寒帯湿潤気候、南東部から南部は温暖湿潤気候、西部は砂漠気候、西海岸は西岸海洋性気候などに属し、国教に定めている宗教はない。

 

 国家の体裁としては、外交、軍事、海外領土や本国の全体的な内政は連邦政府が、州内の統治は州・準州政府などの高度な自治からなる連邦共和制を取っているという世界でも稀な政治体制である。

 

 大洋を挟んで隣り合っているアルザーノ帝国からの移民はもちろん、レザリア王国など他国の移民と先住民から構成されている多民族国家であるため、文化はもちろん、宗教も旧教、新教、その他の宗教が広く分布されている。

 

 そんな連邦の主要都市が集中する東海岸。

 

 その東海岸中央部、ガロンヌ川から内陸部に少しばかし入り込んでいるところに首都、レグザゴーヌ。

 

 その中央には連邦国会議事堂などの連邦政府省庁が集中しており、その一角に、中央軍ならびに連邦軍中央最高司令部・国防総省がある。

 

 その連邦軍中央最高司令部では、連邦軍と政府高官合わせて十五名が集っていた。

 

「お会いできて光栄です。大統領」

 

 連邦軍の一人――佐官級の将校が、上座に座る大統領に向かって敬礼した。

 

「大佐。先の戦争での、貴殿の部隊の活躍は聞いている。どんな困難な任務であろうとも、必ず任務を果たし、レザリアとの戦争で我が国を勝利に貢献したその活躍。まさに最強の特殊部隊と言っても過言ではなく、そのような戦力を保有している我々は非常に誇りに思う」

 

 すると、大統領は数か月前に集結したレザリア王国との戦争での活躍を讃えた。

 

「いえいえ、我々は己の務めを果たしただけに過ぎません。就任して早々、戦争が勃発したにもかかわらず、常に冷静に連邦を導いた大統領がいたからこその勝利です」

 

「それでも、貴殿らの活躍がなければ、戦争は今でも続いていただろう。教皇庁の有力な強硬派達を排除してくれたお陰で、これ以上の犠牲を払わずに済んだのだ」

 

「……ですが、あと一人、表に出てこず、ついぞ排除に失敗した人物もいましたが」

 

「確かに。その男を排除しない限り、レザリアとの真の平和的関係は築けないであろうと確信している」

 

 不意に声のトーンが変わった将校に、大統領が静かに頷く。

 

「アーチボルト枢機卿……強硬派の最右翼にて、今やもっとも力を持っている傑物。強硬派きっての切れ者。そして、彼に味方する者は非常に多い」

 

「……本格的な脅威になる前に排除しますか?」

 

「いや、今、行動に移るのは危険すぎる。さっきも言ったが味方多い今、暗殺すると強硬派が暴発しかねない」

 

「まぁ、それに教皇が穏健派を贔屓にしている以上、下手に刺激する行動はする必要はないでしょうな」

 

「それに……南オーシア連邦との国境紛争が激化している現状、レザリアとは本格的に事を構えたくない」

 

「では、我々を呼んだのは、サン・パヴロ行きで?」

 

「いや、君達はアルザーノ帝国に向かってもらう」

 

 すると、大統領は後ろに控えている秘書を手招きし、秘書は大佐に極秘と書かれた書類を差し出した。

 

「帝国にですか?」

 

「先日、帝国政府との間で、特殊部隊など小規模ではあるものの、帝国内での受け入れに合意に達した」

 

「帝国が連邦軍の受け入れに合意したのですか?あれほどまでに難渋していたのに、これはまたどういう風の吹き回しで……」

 

 帝国の突然の態度軟化に訝しむ大佐が極秘資料に目を通すと。

 

 とある一文が目に入ると同時に、大佐は目を細め、今回の理由について納得したような表情で大統領を見た。

 

「……そういうことですか?」

 

「大佐の思っている通りだ。中央情報局が密かに調査を入れたところ……ほぼ100%クロと言ってもいいだろう」

 

「……いつ殺しましょうか?」

 

「奴が姿を現したら、大佐の判断で実行してもいい。手段は問わない。可能ならば捕縛して法の下に裁きたいところだが……捕縛か殺害かは大佐の一存に任せる」

 

「となると、帝国軍と連携しながらの任務になるということですな?」

 

「その通り。帝国軍に共同で件の組織を壊滅してほしいと帝国政府からの要望だ」

 

 なるほど、だから連邦軍を受け入れたのかと大佐以外の面々も納得した。

 

「これは大統領命令ではあるが、一連邦国民である私個人の願いでもある。帝国に巣食う最悪のテロリスト共を殲滅、そして、去年の秋に我々に災厄をもたらしたこの男に正義の鉄槌を下してくれ。諸君らの幸運と成功を祈っている」

 

 大統領からの命令を受けた大佐一同は、中央最高司令部を後にするのであった。

 

 

 

 

 アルザーノ帝国。北セルフォード大陸は北西端、冬は湿潤し夏は乾燥する海洋性温帯気候下の地域に国土を構える帝政国家。

 

 その帝国の南部、ヨクシャー地方にはフェジテと呼ばれる都市がある。

 

 フェジテの最大の特徴はアルザーノ帝国魔術学院が設置された、北セルフォード大陸でも有数の学究都市だという一点に尽きるだろう。魔術学院の設立と共に生まれ、魔術学院と共に発展した町、フェジテ。立ち並ぶ建物の造りは鋭角の屋根が特徴的な古式建築様式でまとめられ、重厚で趣深い町並みを演出している。その一方で、魔術的な素材や物品に対する、魔術学院の莫大な需要を受けて他所との交易も盛んに行われ、人の出入りも活発であるため、必定、常に国内流行の最先端を行く――新古の息吹に満ちた町だ。

 

 微かに朝もや立ち込める、そんな町の一角にて。早朝ゆえに閑散とし、花崗岩で綺麗に舗装された表通りを年の頃十五、六のくらいの二人の男女は並んで歩いていた。

 

 茶髪の金目銀目のオッドアイ。少女は誰もが振り向いてしまうほど綺麗な金髪で緩いウェーブをかけた髪を背中と腰の中間辺りまで伸ばしている。特段上品な歩き方をしていない少年に対し、少女のゆったりとした歩き方は上品で気品の高さを放ち、さぞ高貴な家のお嬢様なのであろうと想像してしまう。

 

 ある程度整った顔立ちの少年と、空色の瞳を持ち、端正な顔立ちからは大人っぽい雰囲気を醸し出している美少女は他人から見たら落ち着いた恋人にも見えなくはない。

 

 少なくとも、軍人とは見られないというのは確かである。

 

 少年の名はジョセフ=スペンサー。少女の名はアリッサ=レノ。

 

 連邦から約二週間の長旅を終え、世界有数の学究都市に今朝着いた二人はひとまず連邦の領事館に向かうべく、表通りを歩いていた。

 

 二人がフェジテに来た理由はというと――

 

「いやぁ、学生なんていつぶりだろうか?」

 

「まだ一年経ってないわね。でも、本当に久しぶり」

 

「まさか、同じ時期に連邦、帝国間での留学に関する協定を結んでいたなんてね」

 

 二人は、アルザーノ帝国魔術学院に連邦からの留学生として約一か月後に編入されることになっていた。

 

 編入される前に諸々の手続きがあったのと、ついでに観光も少し兼ねてということでフェジテに来ていたのである。因みに、二人以外にも大佐をはじめとする残りの仲間も帝国に着いている。

 

 昨今の国際情勢の緊迫が増しているため、連邦と帝国の安全保障強化を兼ねてのこの協定は、普通ならば学生として生活しているはずの二人にとっては、これ以上にない隠れ蓑であった。

 

「本来は俺たちも学生として青春を謳歌しているはずだから、まぁ丁度いい隠れ蓑になるわな」

 

「ええ、でも、なんか複雑ね」

 

 二人はそれぞれの事情により、この年齢で軍人として生きていかなくてはならなくなっていた。本来はこれが普通でジョセフ達のが異常なのだが、確かにアリッサの言う通り複雑な気分がしないわけでもなかった。

 

「この生活に慣れてきているからだと思うけど……確かに不思議な気はしないね」

 

「ねぇ、ジョセフは帝国出身なんでしょ?どう?久々の帰省は?」

 

「帰省って言ってもなぁ……生まれも育ちもフェジテじゃないし、それに、故郷はもうないだろうしね」

 

「そう思うと、私達って似た者同士よね?」

 

 懐かしむように言うジョセフの肩に、身を預けるアリッサ。

 

「……おい?」

 

「ねぇ?そう思わない?ジョセフ」

 

 離れろと訴えんばかしの視線を送るジョセフを無視し、アリッサはジョセフの左腕を手に取り、自分の腰に回しお腹に手を当てるようにする。

 

「ねぇ、どう思う、ジョセフ?私は――」

 

「はーい、歩きにくいから離れましょうねー」 

 

 甘い雰囲気をぶち壊すかのようにジョセフはアリッサから離れる。

 

「……むぅ」

 

 そんなジョセフに不満の抗議の視線を送るアリッサ。

 

 あらやだ、頬を膨らませているのが可愛い。

 

「ジョセフ。別に私達の年頃でも恋人はいても珍しくないのよ?」

 

「だからって、今のはくっつぎ過ぎじゃありませんかね?」

 

「何言ってるの?今のがちょうどいいに決まってるでしょ?」

 

「ちょっと激しすぎやしませんかね?」

 

「なんだったら、付き合って初日でセッ――」

 

「行くわけないやろ!あと、公衆の面前で堂々と言うな!」

 

 早朝とはいえ、人が行き交っている中で爆弾をかっ飛ばそうとするアリッサの口を押え、ジョセフは突っ

込む。

 

「まったく、男のくせに臆病なのね」

 

「お前が積極的過ぎなんだよ!何、欲求不満なの!?」

 

「女ならこれくらい普通――」

 

「普通なわけあるか!お前だけだよ、お ま え だ け!」

 

「大丈夫よ、ジョセフ。気持ちいいから」

 

「経験者みたいなこと言わないでくださる!?ていうか、お前、嘘でしょ!?」

 

「まだ未経験よ」

 

「経験ないのに、なんでそんな自信満々に言えるの!?って、ちょ、アリッサさんッ!?寄るな!くっつくな!ええい、鬱陶しいッ!自分の身体を大事にしましょう!?ねぇ!?」

 

 二人がぎゃあぎゃあ騒ぎながら、十字路に差しかかった時だ。

 

「うぉおおおおおおお!?遅刻、遅刻ぅうううううううううううッ!?」

 

 目を血走らせ、修羅のような表情で口にパンをくわえた不審極まりない男が、正面の通路から猛然と走って来た。

 

「「…………ッ!?」」

 

 何事かとジョセフとアリッサが声がした方向を見ると、ジョセフ達から見て右側の通路からは、金髪の少女と銀髪の少女の――容姿もそうだが、それ以上に彼女たちが着ている服装が目立つ二人組が差しかかり、男は二人組の少女達に目掛けて猛然と走って来ていた。

 

「……え?」

 

「きゃあっ!?」

 

「な、何ィいいいッ!?ちょ、そこ退けガキ共ぉおおおお――ッ!」

 

 勢いのついた物体は急には止まれない。そんな古典物理法則を正しく踏襲し、男が二人のいたいけな少女を轢き飛ばそうとしていた――その時。

 

「≪止まれ≫ッ!」

 

「お、≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

 ジョセフが黒魔【ショック・ボルト】を、銀髪の少女がとっさに一節詠唱で、黒魔【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱えた。瞬時に紫電が男の足に直撃し、少女の手から巻き起こる猛烈な突風が男の身体を殴りつけるようにかっさらい、そして――

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃ――ッ!?俺、痺れながら空飛んでるよ――ッ!?」

 

 首の角度を上に傾けなければ補足できないほど、男の身体は天高く空を舞い――放物線を描いて――通りの向こうにあった円形の噴水池の中へと落ちた。

  

 遠くで盛大に上がる水柱を、ジョセフとアリッサと二人の少女は遠巻きに呆然と眺めるしかなかった。

 

「……やっちまった」

 

 まさか、銀髪の少女が魔術を使うとは思っていなかったジョセフは噴水地を注視し――

 

「あの、システィ?……やりすぎじゃない?」

 

「そ、そうね……あはは……つい。どうしよう?」

 

 二人の少女の注視を受けながら男は無言で立ち上がり、ばしゃばしゃと水を蹴りながら噴水地から這い出る。そして、つかつかと二人の前まで歩み寄って言った。

 

「ふっ、大丈夫かい?お嬢さん達」

 

「いや、貴方が大丈夫?」

 

 男は爽やかな笑みを浮かべて精一杯い決めているつもりなのだろうが、哀しいくらいに決まっていなかった。

 

 妙な男だった。ジョセフや銀髪の少女――金髪の少女からはシスティと呼ばれていた少女よりも、幾ばくか年上の青年だ。黒髪黒い瞳、長身痩躯。容姿そのものに特筆する所はないが、問題はその出で立ちだ。仕立ての良いホワイトシャツに、クラバット、黒のスラックス。かなり洒落た衣装に身を包んでいる。だが、この男はこの服を着るのがどれほど面倒臭かったのか、徹底的にだらしなく着崩していた。服を選んだ人と、着用する本人が別人であったことが素人目に見ても明らかであった。

 

 と、これはあくまであの少女二人から見た話。

 

 ジョセフとアリッサはというと――

 

「ねぇ、あの人……」

 

「わかる……元・軍人や。それも、実戦経験豊富な方」

 

 外見はだらしないが、ジョセフ達はこの男が数々の死線を掻い潜り生き残った歴戦の軍人の雰囲気を感じ取っていた。

 

 それも、かなりのやり手だということも、容易に想像ができた。

 

 で、その男は何をしていたかというと?

 

「……なにゆえ、セクハラしてんの?あの人?」

 

 男は金髪の少女を見つめるなり、頬を突っついたり、頬をむにーっと引っ張ったり。細い方と腰をなで回し、前髪をつまみ上げ、目をのぞき込んでいた。そして、そこに――

 

「アンタ、何やっとるかぁああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 システィと呼ばれた銀髪の少女の怒りの上段回し蹴りが男の延髄を見事に捉え、男を吹き飛ばした。

 

「ズギャァアアアアアアアアアアア――ッ!?」

 

 情けない悲鳴を上げて男が地面を転がっていく。恐らく下ろしたてだったであろう男の衣服はずぶ濡れの上に、擦り切れて汚れて、もはや洒落た原形の見る影もなかった。

 

「……お見事」

 

 銀髪の少女の華麗な回し蹴りを感慨深げに言うアリッサに対し、ジョセフは――

 

「……ナニコレ?」

 

 いきなり始まった知らない人同士の即興の漫才に、頬を引きつらせていた。

 

 その後もなんか情けない光景が二人の前で繰り広げられ、男は一目散に逃げていった。

 

 あの女、時計ズラしやがったなぁ!?と、叫びながら。

 

「「…………」」

 

 連邦ですらも全く見たことがないこの光景に呆然とする二人。

 

「な……なんなの?あの人」

 

「……うん。でも、なんだか面白い人だったね?」

 

「面白いを通り越して、だめ過ぎるわよ、アレは」

 

((その子の言う通り))

 

 金髪の少女の感覚のズレっぷりに、銀髪の少女は嘆息し、ジョセフ達は銀髪の少女の言い分に同意する。

 

「私はああいう手合いにはもう二度と会いたくないわね。見ててイライラするのよ、あんな情けないダメ男は!やっぱり容赦なく警備官に引き渡すべきだったかしら?」

 

「あはは……」

 

 あいまいに笑う金髪の少女を伴い、銀髪の少女は再び歩き始める。その時、金髪の少女がジョセフ達を見ると、振り返ってぺこりと頭を下げた。

 

 二人もぺこりと頭を下げる。銀髪の少女は……多分、ジョセフが【ショック・ボルト】を男の脚に撃ち込んだというのを気付いていなかったのだろう、そのまま歩き去っていく。

 

 金髪の少女と銀髪の少女を見送るジョセフ達だが、二人の少女の姿が見えなくなった時、アリッサが気付いた。

 

「ジョセフ、あれ」

 

 アリッサはジョセフの腕をつんつんとつつき、二人の少女達がいたところを指差す。

 

 そこには一冊の手帳が落ちていた。

 

「ん?これってもしかして、あの二人の……?」

 

「でしょうね。と言っても、姿が見えなくなっちゃたけど」

 

 ジョセフは手帳を拾い、外側を見る。名前は書いていない。

 

「ふーむ……ちょいと失礼」

 

 ジョセフは手帳を開き、最初のページを見る。知らない人の手帳の中身を見るのは趣味じゃないが、名前とかがわからない以上、調べるしかない。もっとも、ジョセフは最初のページと最後のページだけ見るのであって、全部は見ないのだが。

 

 最初のページには何か小説みたいな文章が書いてあったが、名前は書いていなかった。ジョセフは最後のページを開く。

 

 すると、そこにこの手帳の持ち主と思われる名前が書いてあった。

 

 システィーナ=フィーベル。どうやら、この手帳の持ち主の名前らしい。

 

「システィーナ……ふーん、あの銀髪の子のことか。はてさて、どうしたものか……」

 

 名前がわかった手帳をぱたんと閉じ、ジョセフはシスティーナと呼ばれる少女と金髪の少女が歩いた先を見る。

 

 その方向の先には、壮麗な威容を持つ建物、アルザーノ帝国魔術学院があったのであった。

 

 

 

 

 







※リメイク前ではクスコ帝国がありましたが、南オーシア連邦に名前を変えました。
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