ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
魔術師は騎士ではない。
この言葉は、騎士は正々堂々と勝負をすることが一種の美徳であるのだが、魔術師は自分が持っているありとあらゆる知識・魔術・武器を使って、手段を問わずに勝負に勝つ。自分が生きていて、相手が倒れ伏していればそれを是とするのが、魔術師である。
『生存戦』はその言葉を最も顕わしている競技であり、軍用魔術以外ならどんな魔術でも使用可能である。それこそ、持っているなら固有魔術でも使ってもいい。戦い方も殺さなければなにしてもいい。
だから、例年と同様、やりたい放題な競技になるだろうと誰もが思っていた。
そして今年の競技は――例年よりも輪にかけて酷かった。なぜなら、帝国の魔術師よりも手段を問わずに勝ちにくる連邦の魔術師が入っているのだから。
ジョセフとアリッサが駆ける。森中を駆け回る。最初は隅から隅まで駆け回り、他クラスの攻撃を適当にあしらいながら駆け回る。
ジョセフとアリッサの背後にはゴーレムの大群が追いかけてきている。二人はそれに逃げるような形で駆けていた。
観客席では二人の取っている行為に、困惑していた。
この競技、『決闘』と共に、毎年出されているのだが、誰もゴーレム達に手を出そうとは思わなかった。単純に強くて、手を出そうものなら返り討ちにあう可能性が高かったからだ。過去に相手を誘き出そうとして、ゴーレム達のところに向かっていったが、逆に自分が脱落してしまったこともある。
それを知ってか知らずか、ジョセフ達は開始早々真っ先にゴーレム達の元へ行っては他クラスなんてそっちのけで攻撃を開始したのである。それも、一撃加えたらすぐ逃げるなど、とても積極的ではない。
ゴーレム達は視界内に入った者、もしくは攻撃された場合に対象を追跡・攻撃するように設定されている。
そのため、現在、ジョセフ達はゴーレム達に追われる状況になってしまったのである。
一体、あの二人は何がしたいのか?観客席からはそんな困惑が渦巻いていたが、後にジョセフ達の意図を知ることになる。
『八組脱落――ッ!?二組を追いかけていたゴーレム達に巻き込まれる形で脱落した――ッ!?これで、残りは半分の五チームとなりましたッ!そして、二組は再びゴーレムに攻撃を開始して……また逃げた――ッ!?』
あまりの予想外の結果――ほぼ二組の独壇場と化している展開に、観客達はどよめいていた。
競技の性質上、出場している選手は実力も知能もかなり高いレベルの選手達で揃えている。
そんな猛者が集うこの競技に、二組が圧倒しているのである。ゴーレム達を利用して他クラスの選手たちを潰していっている。しかも魔力の消費を最小限にして。
「つ、強い……」
観客席でジョセフ達を見守っていた生徒達の心情を代弁してシスティーナは唖然としていた。
「こ、こんなことが……こんなやり方……」
常に冷めた態度を崩さなず、ジョセフ達を良く見ていなかったギイブルも動揺を隠せないようだった。
そんな二人にグレンは面倒臭そうに言った。
「『生存戦』は、基本なにやってもいい競技だ。相手を殺傷しない限りな。一時的に手を組んでもいいし、途中で背後から撃ってもいい。ある意味、魔術師の本質を具現しているような競技だ。そして、この競技にはジョセフ、アリッサのような連邦の魔術師ほど、向いている奴はいない」
「彼らが……?」
ん、とグレンは頷いた。
「あいつらは、魔術師の体裁っつーか、格式とかにあんま拘りがないんだよ。勝つためには手段は選ばない……例え、魔術師の風上にもおけないやり方だとしても、そんなの関係ないとばかしにな。そういう人種だ。そんな二人に敵う奴はなかなかいやしない」
「た、確かに……」
現に、ほぼ全ての人間がゴーレム達を利用するなんて誰も予想だにしなったのだから。
(しかし、それにしても……)
グレンは、競技場内で暴れまわるジョセフ達を見下ろす。
二人とも、動きがいい。学生にしてはかなり動きがいい。
動きがいいのだが……
グレンが二人の動きに訝しんでいると。
「にしても、二人の動きヤバすぎだろ……一体、何をしたらあんな動きできるんだよ……?」
「そういえばさ……連邦の軍学校について、こんな噂があるらしいんだけどさ」
カッシュが頬を引きつらせる中、カイが噂話を持ち込んだ。
「どういう噂なんだ?」
「去年、連邦と王国が戦争していただろ?その中に何人かの学生が、戦場に出されたっていう噂さ」
「はぁ?あの戦争にか?」
いかにも信じられない噂話だが、興味があるのか周囲の生徒達も耳を傾ける者がいた。
「そうそう。軍学校で特段、優秀な成績を収めた生徒は、有事の際に戦場に出されるっていう決まりが密かにあってさ……何人かの学生が駆り出されたんだけど、その中の一人がヤバいやつだったらしくて」
「どうヤバいんだよ?」
「実は、その学生達、去年の戦争でそいつ以外は戦死しちまったらしくて……」
「マ、マジかよ……それで、生き残ったそいつはどうしたんだよ?」
「生き残ったそいつは、その後、片っ端からレザリアのお偉いさん――教皇庁の枢機卿などを片っ端から殺して回したらしくてよ」
「ヤバすぎだろ……本当にいんのかよ、そんな化け物」
「さぁな。で、枢機卿の連中はそいつのことをこう呼んだんだってよ……『枢機卿殺し』って……」
「……マジかよ……おっかなすぎるだろ……それ絶対、都市伝説みたいなもんだろ?」
「向こうのお偉いさんが殺されまくったのは本当らしいけど、結局、姿を見た人いないからなぁ……あくまでも噂話だし」
そんなことを口々に言う生徒達の言うことを聞き流しながら、グレンは先月の事件に現れた連邦軍二人組のことを思い出す。
あのダークコートの男――レイク戦の時、グレンが決着を着ける寸前の狙撃……かなり腕が良かった。どこかの元・同僚と匹敵するぐらいに上手かったのだ。
改めて、グレンはジョセフ達を見やる。十チームあったのが、今や二組と一組だけとなっていた。
ジョセフ達はこれまでの他クラスを追いかけ、追い越し、巻き添えする形で脱落させたが、今度はジョセフが遠距離から一組を攻撃した。
攻撃というよりも、一組周辺を乱射しているような感じだった。
一体、何をしたいのだろうかと、グレンが訝しんでいると……
『こ、これはぁ――ッ!?一組に大量のゴーレム達が殺到して――ああっとぉ、一組、ついに攻勢を抑えきれず脱落したぁあああ――ッ!?二組のジョセフ選手が突然乱射した内の一発が、一体のゴーレムに中った結果、一組が巻き添えを喰らう形で脱落――ッ!?ていうか、ジョセフ選手、どこから撃ってるの!?700は軽く行っているでしょ、これ!?』
着弾を活用した狙撃で一組の選手達を脱落させた展開に、観客席は大いに盛り上がっていた。
「……まさか、な。はっ、考えすぎだっつーの」
あまりにもまさかな考えをしたグレンは肩を竦めるのであった。
『さぁ、これで残るは二組のみになりましたが、これで終わりではありません。ここからは、ゴーレム達はジョセフ選手、アリッサ選手に積極的に攻撃することになります。制限時間が切れるまで彼らが生き残らなければ、この競技の勝者はなし。どのクラスにも点数が入りません。逆にここで二組が生き残れば、かなりの点数が入り、一組との差を埋めることができるでしょう』
実況が言う通り、ジョセフ達めがけてゴーレム達が殺到する。
前方から、後方から、左から、右から。
ちょくちょくと数を減らしていたが、それでも群れをなして迫るゴーレム達は十分脅威ともいえた。
そんなゴーレム達の一体の額に、一条の雷閃が正確に射貫く。
その後、二条、三条と雷閃が飛翔し、二体目、三体目のゴーレムの額を射貫いていく。
それでも、ゴーレム達の足は止まらないが、そこにアリッサが突っ込んでいく。
魔力を漲らせたサーベルを両手に持ち、目の前にいるゴーレムの胸部と腹部に突き立てて押し倒す。
引き抜くとすぐさまに、別のゴーレムの左肩に右手のサーベルで斬りつけ、左手のサーベルで首に当て、すっと引く。
アリッサの背後から別のゴーレムが襲い掛かるが、雷閃がそのゴーレムの頭を撃ち抜く。
返す刀で背後にいるゴーレムを斬りつけようとするアリッサの頬に、雷閃がすっ、と掠る。そして、別のゴーレムの頭を撃ち抜く。
今、繰り広げられているのは、一方的な虐殺劇。
並みの生徒なら、ひねり潰されるゴーレムの大群を、ジョセフ達は言葉を交わすことなく冷静に撃つ。斬る。
そんな状態だから、束になってもすぐさま一部隊が殲滅される。
あまりにも予想外の状況に、観客席はざわめく。選手達はもちろん、出場していない生徒達もジョセフとアリッサの実力に恐れをなしているようにも見える。
なにせ、ほとんどの生徒達は侮っていたのだ。連邦の魔術師を下に見ていたのだ。
それが、今や圧倒的な力を見せつけている。自分達じゃできないことを平然とやってのけていのだから。
「……アリッサ。そっちは?」
「こいつで最後、ジョセフの方も片付いたの?」
「まぁ、今さっきね」
二体のゴーレムを滅多刺ししたアリッサがジョセフに振り返ると、欠伸を噛み殺しながらジョセフが答えた。
もう、ゴーレム達が殺到することはない。全部、地面に倒れ伏しているから当然だ。
『こ、これは、誰が予想していたでしょうか!ジョセフ選手、アリッサ選手。あれほどいたゴーレムの大群を……他クラスの生徒達を脱落させていったゴーレムの大群を、文字通り、殲滅してしまった!これにより、この競技の勝者は二組になりました!これで、ハーレイ先生率いる一組との差をある程度埋め、現在二位に位置している五組を射程に捉えることができました!』
そして、『生存戦』の結果は二組の圧勝ということで幕を下ろすのであった。
因みに、その後の『精神防御』の競技も、ルミアの異常なまでの強靭さと昨年優勝した五組のジャイルの一騎打ちが盛り上がったが、最終的にジャイルが仁王立ちで気絶したことでルミアの勝ちとなり、二組は二位に位置することができるのであった。
次辺りのお昼は要注目です(笑)