ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake 作:藤氏
お待たせしました。仕事が忙しくて、投稿に間が開いてしまいました。
それでは、どうぞ。
魔術競技祭は午前の部と午後の部に分かれており、その間に小一時間ほどの昼休みが入る。競技場に集まっていた生徒達は学院内の学食に行く者、学院外の外食店に赴く者、あるいは弁当を用意してきた者と分かれて、ぞろぞろと移動し始めていた。
グレンのクラスの生徒達もいったん解散し、昼食のために各自分かれて移動し始めている。
そんな中、ジョセフは一人で誰かを探しながら歩いていた。その時、アリッサとウェンディから半ば逃れるような感じで競技場を立ち去ったのだが……
「……あいつら、誘い方が強引過ぎるんだって。もうあれ、強制連行みたいになってたし。ほんと……」
もうなんというか、ツインテールのお嬢様は左腕を掴んで圧をかけてくるし、金髪のお嬢は話を聞かずに首根っこを掴んで連れ去ろうとするし……なんとか、テレサのおかげもあり、用事があると言って逃げ出すことができた。
実際、用事があるのは事実で、『生存戦』後である生徒の顔を見た時に思いついたことなのだが。
「……見つけた」
そして、ジョセフはその生徒の姿を見つける。
ジョセフの目の前にいるのは、どこか小動物的な雰囲気を持つ小柄な少女が誰かを探していた。
「誰かを探しているのかい?」
「……ひゃっ!?」
かなり集中して探していたらしく、少女はびくりと飛び上がり、ジョセフに振り向く。ジョセフと同じクラスメイトでウェンディとテレサの親友でもあるリンだ。
「……ごめん、リン。驚かすつもりはなかったんだけど」
「あ……ジョセフ君……」
振り向いたリンの顔は、なぜか少し泣きそうな顔をしていた。ジョセフは『生存戦』の後、リンが泣きそうな顔で不安げにしていたから少し気になり、二人のお嬢の手から逃れてリンを探していたのである。
「なんか、今日はえらい不安そうな顔でいたから、ちょっと気になって……誰かを探しているのなら、一緒に探そうか?」
「え、えと……そう、なんだけど、その……ジョセフ君でもいいから……その……」
よっぽど不安なのだろう。リンの泣きそうな顔にはとにかく誰かに自分の話を聞いてほしいという感じであった。
「……OK。場所を変える?」
「え?その、うん……できれば、あまり人のいない場所で……」
「……わかった。じゃ、こっち」
そうして、ジョセフはリンを伴って競技場を後にし、学院中庭の方へやってきた。
青々と広がる芝生、庭師によってよく手入れの施された植樹達、端の方で色とりどりの花を咲かせる花壇、おなじみの光景がそこにはある。
普段は昼になるとこの場所は弁当を開く生徒で賑わうが、今日は競技場が開放されているため、そのまま競技場内で弁当を開く生徒が多い。それゆえに中庭は閑散としていた。
「もしかして、不安?競技のことで」
「う、うん、その……」
だろうな、とジョセフが思っている中、リンがおどおどしながら、少しずつ心の中をまとめるように呟いていく。
「あ、あのね、私、『変身』の競技を任せられているんだけど……その、自信がなくて」
「…………」
「変身の魔術は一生懸命練習してきたんだけど……今日になったら緊張してきて……全然、上手くいかなくなっちゃって……それで、私を他の誰かに代えてくれないかと、先生を探していて……」
「あぁ、誰かを探してたのは先生だったのね」
「せ、せっかくクラスの皆が一丸になって一生懸命、優勝のために頑張っているのに……私が足を引っ張っちゃったら、皆に申し訳なくて……その……だから……私を、他の誰かに代えて……ほしくて……ッ!」
片を震わせ、目尻に少し涙を浮かべてリンが心情を吐露する。
ジョセフはため息を吐いた。
「……本当は出場したいんじゃないの?」
「そ、それは……」
「まず、そこをはっきりしよう。でないと、なんとも言えない」
しばらくの間、リンは自分の心の内をさらうように押し黙って、そして――
「本当は……私も出たい……でも、皆に迷惑かかるから……」
「そう。じゃ、出たらいいさ。何の問題もないらしいし」
あっさりと、ジョセフはそう言った。
「え!?で、でも!私が出たら、皆に迷惑が――」
「魔術競技祭。お祭りだよ?戦争じゃあるまいし、お祭りに足を引っ張るも迷惑もないよ」
「で、でも、皆で優勝目指すって盛り上がってて……先生もそう言って……」
「……あー、それが原因であんなに不安げになっていたのね……」
確かに、クラスは盛り上がってたから気持ちはわからなくもない。
(別に、先生が何かよからぬことをたくらんでいるからってのもあるし……そこまで深刻に考えなくてもなぁ……)
といっても、この子は見た通り真面目だし、だからこそ悩んでいるのだろう。
(ていうか、あいつと仲が良いのは予想外だったな。あいつったら、”わたくしと親友になれるのは名が知られている御方のみですわ”っていうくらいのカチコチの前時代的貴族主義者なのにな……)
現に、スペンサー家とレイディ家はそれなりに家名が知られているが、ティティスという家名は知られていないのだから。
まぁ、根は優しいから誰かの圧に負けてしまったのもあるのだろうけど、っと。物思うジョセフ。
「先生のノリで始まったみたいなもんだから、目一杯楽しめばいいよ。その上で優勝できればいいよね、てう程度だから、気にしなくてもいいと思う」
「……そう……なの?」
「そうそう。だから、優勝のことなどはあんま考えずに楽しめばいいと思うよ。君って、変身の魔術、好きなんでしょ?」
「うん……私……昔から気が弱くて、優柔不断だけど……変身の魔術は、その……なんだか違う私になれるようで……」
「なら、いいじゃない」
だが、それでもリンはどこか不安げそうだ。
「……少しアドバイスするか」
そんな自信なさげなリンに、ジョセフはみかねて、少しお節介することにした。
リンは驚いて、うつむきがちな目をジョセフに向ける。
「……アドバイス?」
「そう。その前におさらいなんだけど、変身の魔術には二種類あったよね?【セルフ・ポリモルフ】と【セルフ・イリュージョン】、この二つだね。その違いはわかる?」
少し考え込むように沈黙してから、リンが答える。
「え、ええと……【セルフ・ポリモルフ】は白魔術で、【セルフ・イリュージョン】は黒魔術だよね?」
「まぁ、合ってはいるけど、そこを詳しく」
「あ、うん……え、えと……【セルフ・ポリモルフ】は……その、肉体の構造そのものを作り変えて変身する魔術で……【セルフ・イリュージョン】は光を操作することで変身したように見せかける幻影の魔術だよ」
慌てて答え直すリン。
「そうそう。だから【セルフ・ポリモルフ】は肉体と精神を操る白魔術、【セルフ・イリュージョン】は運動とエネルギーを操る黒魔術ってわけ」
そう言って言葉を続けるジョセフ。
「【セルフ・ポリモルフ】は術式で決まる。例えば狼に変身するなら狼に変身する【セルフ・ポリモルフ】、竜に変身するなら竜に変身する【セルフ・ポリモルフ】という感じにね。そして、失敗すると最悪元に戻れなくなってしまう危険性はあるけど、変身したものの能力を得ることが可能なんだ。馬に変身すれば馬の速度で走れるし、猫に変身すれば高くジャンプできる。鳥に変身すれば空も飛べる。だけど、【セルフ・イリュージョン】はそういうわけにはいかない。馬に変身しようが猫に変身しようが、それらの能力を得ることはできない。外側しか変わることができないんだ。そうだねぇ、例えば……」
ジョセフがこめかみを指でつつきながら、【セルフ・イリュージョン】の呪文を唱える。
すると、ジョセフの周囲の空間が一瞬、ぐにゃりと揺らいで……ジョセフの姿の焦点があやふやになり……再び焦点が結像した時。
「ウェンディ…ッ!?」
そこにジョセフの姿はなく、すまし顔で立っているウェンディの姿があった。とても幻影には見えない。その質感はウェンディが本当にそこに存在しているかのようだ。
「ま、こんなもんかな」
声もウェンディになっている。どうやら声の波長と周波数を即興で変えたらしい。
「【セルフ・イリュージョン】が劣っているかというとそうでもなくて、呪文と変身が一対一で対応している【セルフ・ポリモルフ】系の魔術とは違い、【セルフ・イリュージョン】にはこの通り、術者のイメージを反映する術式が組み込まれてい。要するに、イメージ次第で何にでもなれる。張りぼてだけど」
ウェンディの姿と声で、仕草と口調はジョセフのまま、淡々と説明が続く。
「結論すると、【セルフ・イリュージョン】による変身が上手くいかなくなったってことは、まだイメージがあやふやだってことになる。逆に言えばイメージさえ固め直せば必ず上手くいく。命を賭けてもいい」
にやりと、ウェンディ(ジョセフ)が不敵に笑う。
「で、だ。リンは【セルフ・イリュージョン】の呪文で『変身』の競技に参加する予定だよね?何に変身するんだい?」
「え、ええと、天使様に変身しようかと……『時の天使』ラ=ティリカ様……」
「うわぉ、元ネタ自体が伝説上の存在とか、また難しいの選んだな……それなら、今から附属図書館に行って、聖画集でも借りることね。競技開始までそれをずっと眺めてみて。それで大分違うはずだから」
「わ、わかった。さっそくやってみる」
そして、最後にウェンディに変身したジョセフは、リンに真っ直ぐ向き直って言った。
「まぁ、ああだこうだ言ったけど、リンなら大丈夫だよ。自分自身が思っている以上に優秀だから。ちょっと自信がないだけ。だから、失敗は気にしなさんな。優勝しろと先生は言っていたけど、どうせ祭りだから、祭り。誰も死にはしないし、文句も言わないよ。もし負けて、それを責めるような輩がいたら、俺とアリッサでそいつをボコボコにすっから。だから気楽にいきなっせ。OK?」
と、そこでリンはとうとうこらえきれなくなったかのように腹を押さえ、くすくすと含むように笑い始めた。
「む?どうして、笑うんだい?」
せっかく真面目にアドバイスしたのに笑われるなんて、ジョセフは心外そうな顔で言った。
「だ、だって、ジョセフ君がウェンディの姿と声で男前なこと言うのが……おかしくて……」
「……確かにそうかも」
確かに一理あるかも、と。ジョセフは術を解いて元の姿に戻る。
「……でも、ありかとう。私……頑張ってみるね」
ようやく不安がなくなったのか、リンはジョセフにお礼を言って、立ち去ろうとする。
「……ほどほどにね」
「うん……ありがとう」
ジョセフは肩を竦めながら、付属図書館に向かうリンを見送った。
「……まぁ、大丈夫っしょ」
そう言うジョセフだが、ふとリンのことで気になることがあった。
「……あの子、俺がウェンディに変身した時、やたら下を凝視していたけど……なんかあったんかな?」
ウェンディで話している最中、リンがまじまじと顔を見て、そして下らへんを凝視していたことを思い出す。
もしかして、失敗していたか?いやでも、変身した直後、一回見たが失敗している箇所は見当たらなかったような気がするのだが。
「……ま、いっか」
考えてもしょうがないと、ジョセフは切り替え、中庭から去るのであった。
ほら、背の低い女性って、アレが強いって言うらしいし(知らんけど)?