ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


03

 

 

 

 オーシア連邦とアルザーノ帝国。

 

 かつて帝国領だった連邦と連邦の宗主国だった帝国。

 

 独立戦争以後、敵対していた両国であったが、近年両国の関係は急速に改善されていっている。

 

 背景としては、アルザーノ帝国は北セルフォード大陸を巡って覇権を争っているレザリア王国と、オーシア連邦は北オーシア大陸3分の1と南オーシア大陸に移住したレザリア系の反連邦派と親レザリア派が中心になって結成された南オーシア連邦と南北オーシア大陸の覇権を巡って冷戦に突入していたことである。

 

 武力で独立するなど、決して”円満離婚”ではなかった連邦と帝国であったが、レザリア王国と南オーシア連邦が利害を一致して対連邦・帝国同盟を組んだことにより、連邦と帝国も否応なく接近。両国の安全保障面の交渉が始まったのは、四十年前のアルザーノ帝国とレザリア王国との戦争――奉神戦争後のことである。

 

 当時、圧勝できると踏んだレザリア王国が、アルザーノ帝国に宣戦布告、帝国を併合せんと帝国領になだれこんだ。

 

 当時、既に同盟を組んでいた南オーシア連邦も帝国に宣戦布告。アルザーノ帝国は世界有数の二大国を相手にせざるを得ないという苦境に陥ることになる。

 

 世界中の誰もが、帝国は敗けると思っていたこの戦争は果たして、ある国が帝国側にたって参戦したことにより、痛み分け……といえば聞こえはいいが、実質はレザリア・南オーシア連邦側の敗戦という衝撃の結果に終わる。

 

 その帝国側についたのが、帝国から独立し、関係が冷えていたオーシア連邦であった。オーシア連邦が南オーシア連邦領に電撃的に侵攻したことにより、南オーシア連邦は北セルフォード大陸への派兵を中止。

 

 これにより帝国は対レザリア王国戦に専念できるようになり、王国側は予想以上の帝国の激しい抵抗を受けることになり、そして何一つ戦争目的を果たすことができなかった。

 

 戦後、帝国と連邦はレザリア陣営に対抗するために安全保障関連をメインにした外交を展開するが、奉神戦争から四十年経った現在、ようやく小規模ながらの連邦軍受け入れ合意と帝国・連邦間の国防をメインにした留学協定が結ばれたのである。

 

 なぜ、ここまで時間がかかったのかというと、それは帝国側の連邦に対する不信感が大きかったからである。

 

 そもそも、四十年前の奉神戦争は、ぶっちゃけオーシアの一人勝ちであった。そのため、アルザーノ帝国側からすると、自分達はオーシアに踏み台にされたともいうし、レザリア王国側からすれば自分の思い描いていたシナリオを無茶苦茶にされたし、南オーシア連邦側からすれば、突然、国境からオーシア軍が攻めてきて一部の領土を奪われた。

 

 こんな状態だったから、帝国政府は連邦と組んだとしてまたしても奉神戦争のように踏み台にされるのではと思う者が少なからずいたため、慎重に事を進めていたのである。

 

 そして、もう一つは奉神戦争後のオーシアの帝国に対する態度であった。

 

 特に、オーシアの魔術師に対する印象はあんまり良くないことで有名であった。

 

 だから、今回のアルザーノ帝国魔術学院に連邦の留学生を受け入れに反対していた者達も少なからずいた。

 

 そんな中、ジョセフ達は着々と編入の手続きを進めていく。

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院。アルザーノ帝国の人間でその名を知らぬ者はいないだろう。今からおよそ四百年前、時の女王アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立した国営の魔術師育成専門学校だ。今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、現在、帝国で高名な魔術師のほとんどがこの学院の卒業生である確固たる事実が存在し、それゆえに学院は帝国で魔術を志す全ての者達の憧れの聖地となっている。その必定の流れとして、学院の生徒や講師達は自分が学院の輩であることを皆等しく誇りに思っており、その誇りを胸に日々魔術の研鑽に励んでいる。彼らに迷いはない。そのひたむきなる研鑽が、将来、帝国を支える礎になることを、自らに確固たる地位と栄光を約束してくれることを理解してくれているからだ。

 

 ちなみにこの学院、毎年一定の人数の卒業生が帝国から連邦に国籍を変え、連邦の魔術師として在籍して活躍しているし、独立当初、この学院の卒業生が少なからずいたから連邦軍での魔導士育成にもその影響が残っているなど、オーシア連邦にも間接的に魔導技術の発展に貢献している。

 

 そんな学院で今、時の人となっている人物がいるのだが、ジョセフはその悪い意味で有名になっている人物が担当しているクラスに編入されることはこの時、知らなかった。

 

 そして、学院の編入を機に様々な事件・騒動に巻き込まれることも、この時は想像だにしなかった。

 

 

 

 

 フェジテに到着してから約一週間。

 

 領事館で邦人の安全の確保のための手続き等、その他諸々の手続きや雑用が一段落したジョセフは、現在フェジテ北地区のカフェで一服していた。

 

 学生通りに面している紅い屋根が特徴的なこのカフェの店内は、木の香りが燻り、店内に漂う仄かな甘さが香る紅茶の芳香が、微かに鼻をくすぐる。

 

 そんなカフェ店内のカウンター席に、ジョセフは紅茶を飲みながら、右斜め後ろの大きめのテーブル席に陣取っている女子生徒の集団の話に聞き耳を立てていた。

 

 その席では銀髪の少女が机をバンバン叩きながら何やら不満を爆発させている最中であった。

 

「――それなのに約束を反故にして!一体、なんなのよ、あの男!」

 

(一体、なにがあったん?あの子……)

 

 まるで火山が噴火したかのようにヒートアップしている少女に、頬を引きつらせるジョセフ。

 

 一週間前、交差点で発生した漫才じみた展開の後、ジョセフはシスティーナという少女が落とした手帳をどう渡そうかと考えながら預かっていた。

 

 一応、彼女については調べていたから家はわかるのだが、仕事に忙殺されて中々訪れることが出来なかった。

 

 そして、やっと落ち着いたから、再度訪問する前にカフェで一息ついていたら、システィーナと金髪の少女――システィーナは彼女のことをルミアと呼んでいた少女とその他を連れて店内に入ってきたのだ。

 

 せっかく来たから、手帳渡すかと思った矢先に――

 

「ていうか、講師として仕事しろッッ!」

 

 と、このように不満が爆発していたから、渡せずじまいになって現在に至るのである。

 

 ルミアは絶賛爆発中のシスティーナの様子に苦笑いし、ツインテールの少女と紫色の髪のモデル少女はシスティーナの不満に共感し、ポニーテールの小柄な小動物的な少女はおろおろしている。

 

「ふざけんな――ッ!ていうか、講師辞めちまえぇええええ――ッ!!」

 

 システィーナの魂の雄叫びに、ジョセフは耳を塞ぐ。当然、ルミア達も耳を塞ぐ。

 

 その雄叫びで全てを吐き出したのか、システィーナは肩で息しながら紅茶をぐいっと飲み干した。

 

 システィーナの不満の内容を纏めると――

 

 ・その講師は初日に盛大に遅刻し、しかも授業放棄した。

 

 ・錬金術の授業前に、更衣室で着替えていたら、堂々と入ってきたこと。

 

 ・極めつけは魔術師の誇りをかけて決闘し、システィーナが圧勝したから、約束として真面目に授業するように要求したものの、反故にされたこと。

 

 以上、新参の非常勤講師が起こした武勇伝である。

 

 特に最後は、魔術師として最低の行為であり、魔術そのものの侮辱であることは、ジョセフも理解できた。

 

 これでその男の評価は地に落ちたのだが、その男はそんなこと知ったことではないと言わんばかしに態度を改善する気配がない。あのシスティーナっていう少女は、そんな講師に心底苛立っているのだろう。

 

 その少女だけじゃなく、他の生徒――あのツインテールのお嬢様もモデル体型の少女もその一人なのかもしれない。

 

(まぁ、なんというか……災難だねぇ)

 

 自分も後にその講師が担当するクラスに編入されるとは、露にも思わず紅茶を飲んでいると。

 

「あ、そうそう。話変わるけど、来月辺りに連邦から留学生が来るでしょ?」

 

 このままだとヒートアップが日が変わっても終わらないと思ったのか、ルミアが話を変えるように連邦の留学生について話題を移す。

 

「……そうね、知ってるわ」

 

 いかにも興味なさげに……ていうか、明らかに嫌そうに応じるシスティーナ。

 

「私、連邦の魔術師て苦手なのよ。まぁ、魔術の崇高さを半分くらい理解できたらそれでいいわ。もっとも、魔術を何の尊敬もなく玩具のように使う彼らにはそんなこと理解できるはずがないでしょうけど」

 

 鼻で笑い、明らかに連邦の魔術師を見下しながら刺々しい物言いでばっさりとシスティーナは連邦の魔術師を評した。

 

「…………」

 

 ジョセフはその言葉を聞いた瞬間、この少女のことを”全く使い物にならない有能”と評価した。さっきの言葉を連邦の魔術師が聞いたらそれこそ鼻で笑い、目で嘲笑することだろう。そして、陰でこう言うだろう。

 

 あんなやつ、卒業しても使い物にならなくて、さっさとくたばっちまうだろうよ、と。

 

この程度か(ア・セ・シュジェ)……」

 

 世界でもその名が知れ渡っているあるざーの帝国魔術学院。連邦の魔術にも影響を未だに与えてているこの魔術学院の生徒の一人の発言――それも話を聞いた感じ、学年でもトップクラスの成績を誇る彼女の口から、そのような言葉が出てくるなんて……と、あまりの期待外れに、ジョセフはため息を吐く。

 

 そして、もうこの人達に興味がなくなったジョセフは、店員を呼び、この手帳をあの銀髪の少女に渡してくれと頼み、会計を済まして店を出る。

 

 これだと将来、帝国は連邦に追い抜かれるだろうなと、ジョセフがそう考えながら席を立とうとした……その時。

 

「あの人だよ。うん、先週くらいにグレン先生の足下に【ショック・ボルト】を撃った人ってあの人だと思う」

 

 ふと、金髪の少女――ルミアって呼ばれていた少女が、自分に指差しいるのが視界に入った。

 

 彼女の指に釣られるように、残りの女子生徒達もジョセフに視線を向ける。

 

「……あ」

 

 席を外すときに丁度女子生徒達と目をが合うジョセフ。

 

 途端に、気まずい雰囲気になる。

 

 無理もない。今のシスティーナの発言は、連邦の魔術師を見下した発言であるし、もしこの少年がルミアの言う通り連邦からの留学生ならば、さっきの発言は耳に入ってしまっているはずだからだ。つまり、システィーナは図らずもジョセフという連邦の留学生(本当はオーシア連邦軍軍人なのだが)の前で不適切な発言を堂々としてしまったことになる。

 

 気まずい空気の中、ジョセフは頭を掻き、カウンターに置いていたシスティーナの手帳を見る。

 

 そして、それを手に取り、システィーナ達が陣取るテーブル席に向かう。

 

 やや吊り気味な翠玉色の瞳が特徴的な、誇り高く勝ち気そうなシスティーナを、ジョセフは冷ややかに見下すように一瞥し、テーブルの上にポンと置く。

 

「これ、あんたのやろ?ここに置いとくわ」

 

 そして、お礼の返事を待たずにジョセフは店を出る。

 

「それじゃ、魔術の偉大さの欠片も理解できない”連邦”の魔術師の卵はここから去りましょうかね。”帝国”の偉大な魔術師の卵さん?」

 

 ありったけの嫌味を込めて、ジョセフは店を出ていく。

 

 背後からシスティーナが何か言っていたような気がしたが、ジョセフは無視して店を出た。

 

 魔術が偉大だなんてジョセフはこれっぽちも思っていない。ていうか、連邦の魔術師の間では魔術が偉大なんてクソみたいな考えというのが共通事項だ。

 

 帝国の魔術師は連邦の魔術師のことを、魔術の偉大さなんて理解できていない『魔術使い』と見ているが、連邦の魔術師からしてみれば「お前らはなに頓珍漢なことを言っているんだ?」と帝国の魔術師のことを見ている。

 

 もっと言うならば、帝国の魔術師のことを、”魔導大国”という地位に甘んじてふんぞり返っていて、相手を過少評価していると連邦の魔術師は見下しているのである。帝国の魔術師が連邦の魔術師の態度を傲慢で見下していると言ってはいるが、連邦の魔術師側からすれば、帝国の魔術師が自分達に傲慢に見下して接しているからそうしているだけなのである。

 

 逆に言えば、対等に接してくる人物には対等に接する。魔術師に限らず連邦の人間はそういう性格なのである。

 

 だから、ジョセフもシスティーナに対して傲慢で見下すような態度でありったけの嫌味を込めて吐き捨てていった。だから、別に罪悪感も何も感じない。

 

(しかも、あの奇妙な制服……魔術学院の生徒、だよな?)

 

 うわぁ、できれば遭遇したくねぇ。

 

 編入した後、願わくば一度もシスティーナに遭遇しないように(編入するクラスにシスティーナがいるということを知らずに)心の中で神に祈っていた、その時。

 

「あ、貴方、ちょっとお待ちくださいましッ!」

 

 ふと、背後から少女の声がした。

 

 さっき聞いたシスティーナの声とは違うし、ルミアと呼ばれていた少女の声でもない、別の声。

 

「?」

 

 ジョセフが振り返ると、そこには魔術学院の制服に身を包んだ(腹部をさらけ出しているなど連邦のフェミニストが見たら卒倒するレベルの薄着だが)青い瞳をした、上品でプライドが高い強気のツインテールの女子生徒と紫色の腰辺りまで伸ばした髪の、おっとりとした雰囲気を持つモデル体型の女子生徒がいた。

 

「うげ……」

 

 ちょっとこれは予想外だった。ジョセフはあくまでシスティーナだけに言ったのだが、どうやら向こう側はジョセフが全員に対して言ってしまったと解釈してしまったらしい。それで何か言い返そうとこの二人はジョセフを追いかけてきたのだろう。

 

 それにしても、もろに嫌味を言われたあの銀髪の少女が追ってきていないのが気になるのだが、ジョセフは面倒なことになったと身構えると。

 

「貴方……ジョセフですよね?ジョセフ=スペンサー」

 

「へ……?」

 

 モデル体型の女子生徒の口から出た、これまた予想外の言葉にジョセフは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 

 だって、この二人とは初対面でお互いの名前を知らないはずなのに、自分の名前を迷いなくその口から出てきたのだから、驚かない方が無理がある。

 

 それに、ジョセフは確かにアルザーノ帝国出身ではあるが、ここフェジテでは知っている人はいないはず――

 

「なんで俺の名前知ってるの?さっき、名前教えた覚えなんて……って、ちょっと待て」

 

 いや、いる。フェジテにはいないはずだが、自分の家がそれなりの地位があった領地貴族の頃にいた二人の幼馴染の女の子が。

 

 ジョセフは二人の女性生徒をもう一回見る。そして、昔の記憶をなんとか引っ張り出そうとする。

 

 確かにいた。スペンサー家と親密な関係だった地方の有力貴族の令嬢と貿易商の令嬢が。五年ほど経っていたから一瞬わからなかったが、記憶の中の少女達の特徴と現在の二人の少女達の特徴は見事に一致していた。

 

「お前ら、もしかして……ウェンディ=ナーブレスとテレサ=レイディ?」

 

「そうですわ。となると、やはり、貴方はジョセフなのですね」

 

 ツインテールの少女――ウェンディが目の前にいる少年をジョセフと確信し、ため息を吐いて腕を組む。

 

「え……?は……?」

 

 あまりにも突然の――しかも、あのやり取りの直後の後の思わぬ再会に、ジョセフは硬直し――

 

「はぁああああああああああ――ッ!?マジでぇえええええええええええええええええええええええ――ッ!?」

 

 フェジテの一角からジョセフの叫び声がフェジテ中に木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 







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