ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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連投です。それでは、どうぞ。


07

 

 

 

 

 次の日。

 

 樹木と鉄柵で囲まれる魔術学院敷地の正門前に今、軍服を着た男女の二人組がいた。

 

 ジョセフとアリッサだ。

 

 二人は、正門のすぐそこに倒れ伏している男を見下ろしている。服装を見る限り、彼はこの学院の守衛なのだろう。左胸から血を流しており、もうとっくの昔に死んでいる。

 

「これは……軍用魔術だな。至近距離で撃たれて死んでいる」

 

「その後、二人組の男は学院の中に入っていったらしいね」

 

 アリッサが、一見、何も阻む物がないアーチ型の正門に張られている、見えない壁のような物を叩いていた。これは学院側から登録されていない者や、立ち入り許可を受けていない者の進入を阻む結界だった。

 

「絶対ロクでもない連中だろ……試しにドローンを飛ばした時に、学院周辺の様子がおかしくて、その中にあぶなっかしい二人組を見つけたからここに来たものの……」

 

「これ、私達じゃ中に入れないわね」

 

「確か、事前に学院側から登録されていただろう?それでも駄目なん?」

 

「ええ、入れないわ」

 

 こりゃ、連中、結界を弄ったな、と。ジョセフはため息を吐いて。懐から小型の通信機を取り出し耳に装着する。

 

「アリッサ。携帯型の魔導演算器を門の前に置いて。ホッチに魔力回線を通して解析してみる」

 

「了解」

 

 アリッサが圧縮した携帯型の魔導演算器を取り出し、正門前に置く。サイコロサイズに圧縮された魔導演算器は小さい箱サイズまで大きくなった。

 

「ああ、ホッチ?今、魔術学院の正門にいるんだけどさ、魔導演算器置いてあるから、そこから魔術学院の結界の中身を解析してほしいんだけど?」

 

『了解。お前らは登録されているはずだが、入れないのかい?』

 

「アリッサが試してみたが全然駄目。多分、弄られている」

 

『アルザーノ帝国魔術学院は公的機関だろ?そのセキュリティが掌握されている、というのかい?だとしたら、掌握した人物は天才だぞ』

 

「そうそう、そこで天才には天才をって感じで、連邦の魔術師で空間系魔術で天才な貴方の出番でわけですよ」

 

『……つまり、解析できたら、入れるように細工しろと?わかった、やってみる』

 

「ありがとうございます。じゃ、切りますよ」

 

 ホッチが作業に取り掛かるのと同時に、ジョセフは通信を切った。

 

 ホッチが解析している間、ジョセフはスコープ付きのライフルを、アリッサは近接戦闘用にサブマシンガンを取り出し装備する。

 

 ボルトを開け、金属薬莢を一発ずつ押し込み五発装填するジョセフ。五発目を入れ、ボルトを閉める。五発目の銃弾は薬室に装填される。

 

 アリッサはドラムマガジンをスライドするように銃の下部に装着し、ボルトを引く。これにより、最初の銃弾は薬室に装填され、いつでも引き金を引くことができる。

 

 そうしていると、ガラスが何かが割れる音が辺りに響き渡った。

 

「お?解除しましたか」

 

 すると、通信機から音が鳴り、ジョセフがそれを耳に当てた。

 

『ったく、この結界を弄った連中はとんでもない奴だよ。中身を解析したが、完全に解除するのは時間がかなりかかる。なんとか。抜け穴を使って無理やり解除したけど、一分したら元に戻るから、早く入った方がいい』

 

「一分もあれば充分さ。もう入ったし」

 

 そう言いながら、ジョセフとアリッサは正門を潜って学院敷地内に入った。

 

『全部解析したけど、一度入ったら出られないからな』

 

「え、マジですか?」

 

『マジだ。だから、帝国軍がこの結界を解除して入ってきたら……見つからないようにしとけよ?』

 

「へーい、了解ですよ」

 

 ため息を吐き、通信をきるジョセフ。

 

「さて、確認しただけで二人。多分、あと一人、二人はいるかも」

 

 二人は正面を見上げる。

 

 左右に翼を広げるように別館が立ち並ぶ、魔術学院校舎本館がそこにあった。

 

「じゃ、西館から行きますかね」

 

「了解。はぁ、長い一日になりそう」

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 システィーナは懐中時計を握りしめる手をぷるぷる震わせながら唸っていた。

 

 現在十時五十五分。本日の授業開始予定時間は十時三十分。すでに二十五分が経過している。

 

 なのに、まだグレンは教室に姿を見せない。つまりは、遅刻だ。

 

「あいつったら……最近は凄く良い授業をしてくれるから、少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

 

 システィーナは苛立ち交じりにぼやいた。

 

「でも、珍しいよね?最近、グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 

 その隣に座るルミアも不思議そうに首をかしげている。

 

「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

 

「そんな……流石にグレン先生でもそんなことは…………ない、よね?」 

 

 グレンを全面的に信頼しているルミアも、流石にすんなりと完全否定はできなかった。

 

「あーあ、やっぱりダメな奴はダメなんだわ……よし、今日こそ一言言ってやるわ」

 

「あはは。今日こそ、じゃなくて、今日も、じゃないかな?システィ」

 

「細かいことはいいの!」

 

 不機嫌そうに頬杖をついてシスティーナは周囲を見渡した。

 

 元々、この教室には座席に余裕があったはずだ。だと言うのに今では満席御礼。立ち見で参加すす生徒も教室の後方に多くいる。

 

「あいつ……最近、ホント人気出てきたわね」

 

「だって、先生の授業、凄くわかりやすいから。私達みたいな学士生レベルの内容はもちろん、修士生レベルの高度な内容も平易に説明してくれるし、普通の講師なら当然と割り切って流してた箇所もちゃんと理論的に説明してくれるし」

 

「はぁ……確かにあいつの説明聞いていると基本的なことでも理解が深まるから良いんだけど……なんか面白くないわね」

 

「ふふっ」

 

 見れば、ルミアが何やら訳知り顔でシスティーナを見て微笑んでいた。

 

「……何よ?ルミアったら」

 

「システィって、グレン先生がどんどん皆の人気者になっていくから寂しいんだよね?」

 

「な……何、言ってるのよ!?」

 

「だって、最初の頃、お小言とはいえ先生に話しかけていた人ってシスティだけだったでしょ?それが今では皆も先生に気軽に話しかけるようになったもの。なんだか先生が遠くに行っちゃったような気がするんだよね?」

 

「べ、別にあんな奴がどんな女の子に話しかけられようが私の知ったことじゃないわ!ルミア、貴女ってばなんか勘違いしてない!?」

 

「あれ?私、別に女の子に、なんて言ってないよ?」

 

「ぐ――」

 

 一本取られたらしい。苦虫を噛みつぶしたような渋面になるシスティーナだった。

 

 別にグレンをそういう対象として見ていたわけではないが、確かにこのクラスでグレンに構っていたのは自分だけだったわけで、そんなヤツが皆にも慕われるようになるのは、なんか面白くない。それが自分と同性ならばなおさらである。乙女の複雑な心境だった。

 

「あ、貴女はどうなのよ……?」

 

「私?」

 

「そうよ。貴女、最初からやけにグレン先生のこと、気に入ってたじゃない?貴女こそ面白くないんじゃないの?この状況」

 

「私は……嬉しい、かな?」

 

「……は?」

 

「グレン先生が本当は凄い人なんだって、皆がわかってくれて……凄く嬉しいの」

 

 そこには表裏など欠片もない。本当に自分のことのように、周囲がグレンを理解してくれることを喜んでいるルミアの姿があった。

 

「……なんか格の違いを見せつけられたような気がする……女として」

 

「……?」

 

 掌で顔を押さえて嘆息するシスティーナと、不思議そうに首をかしげるルミア。

 

 教室の扉が無造作に開かれ、新たな人の気配が現れたのは、その時だった。

 

「あ、先生ったら、何考えてるんですか!?また遅刻ですよ!?もう……え?」

 

 早速、説教をくれてやろうと待ち構えていたシスティーナは、教室に入ってきた人物を見て言葉を失った。

 

 グレンの代わりに、見覚えのないチンピラ風の男とダークコートの男がいたのだ。

 

「あー、ここかー。いや、皆、勉強熱心ゴクローサマ!頑張れ若人!」

 

 突然、現れた謎の二人組に教室全体がざわめき始めた。

 

 

 

 

 魔術学院校舎西館にて。

 

 設定が変更された結界を突破したジョセフとアリッサは、西館を一階からしらみつぶしに探し回っていた。

 

「敵の気配がない……こりゃ、東館から入っていったか?」

 

 一つ一つ扉があるところを開けていくジョセフ。

 

 あれから、まったく敵と遭遇していない。

 

 敵が確認しただけでも二人、多少人数をプラスにしても少人数であることは間違いない。

 

「にしても、あの二人の狙いはなんなのかしら?守衛を殺害して学院に入ったけど」

 

「今日は学院の講師・教授陣が全員魔術学会に出ていていない。守りが薄くなった隙に書類かなにか重要なものを奪いに来たっていう説なら説明がつくけど……」

 

「ここには、生徒達が何人かがいるのよね?あの非常勤講師が担当しているクラスが。あの子達に危害を加えるためというのは?」

 

「あり得なくはないけど、それにしては今回の仕掛けは大掛かり過ぎる。ホッチが言っていたけど、結界を徹底的に改変しているんだ。あんな仕掛けをするくらいなら、こんな少人数ではなくもっと人数がいるときにやった方がいい。明らかに過剰過ぎる」

 

 階段を上り、次の階へ目指そうとしていた、その時。

 

「……しっ」

 

 壁に寄りかかり、右手を上げ、拳を握りしめ、止まれとジェスチャーするジョセフ。

 

 アリッサも足を止め、ジョセフと同じように壁に寄りかかる。

 

 ジョセフはゆっくりと、足音を立てないように階段を上り切り、廊下を覗く。

 

 すると、正面からチンピラ風の男が両手を黒魔【マジック・ロープ】で縛られた魔術学院の制服を着た銀髪の女子生徒を脅しながらこっちに向かってきていた。

 

 その銀髪の少女はジョセフも知っていた。

 

(システィーナ=フィーベル……マジかよ……)

 

 そういや、ウェンディとテレサと同じクラスだったよな、と。ジョセフは思い出し、舌を打つ。

 

 あのチンピラ男がシスティーナに何をするのかなんて、ある程度想像できる。絶対ロクでもないことだ。止めないと、システィーナは身体的、精神的に大きなダメージを負うことになる。

 

(二人、こっちに来ている。うち、一人は人質)

 

 ジョセフは右腕を背後に回し、背後にいるアリッサにジェスチャーを送る。

 

 しばらく様子を見るジョセフ。すると、男はシスティーナをある部屋に連れ込み、入っていった。

 

(二名、部屋に入った。ここからおよそ五十メトラ。接近する。音を立てるな)

 

 そうジェスチャーを送ったジョセフは足音を立てずにライフルを構えながら廊下に出る。アリッサも続く。

 

 足音を立てずに男が入ったと思われる部屋の扉に向かう。

 

 そして、二人は扉の前に着く。二人が静かにしていると。

 

「あ、あの……お願いします……それだけは……それだけはやめて……許して……」

 

「ぎゃははははは――ッ!落ちんの早過ぎだろ、お前!ひゃはははははッ!」

 

 泣きじゃくりながら懇願するシスティーナの声と、ひとしきり笑う男の声。

 

 ジョセフは扉の前に立ち、アリッサは懐からフラッシュ・バンを取り出す。

 

「悪いがそりゃできねえ相談だ……ここまで来ちゃ引っ込みつかねーよ」

 

「……やだ……やだぁ……お父様ぁ……お母様ぁ……助けて……誰か助けて……」

 

 ジョセフは三本指を立て、数える。

 

「うけけ、お前、最っ高!てなわけでいただきまーす!」

 

「嫌……嫌ぁああああああああああ――ッ!」

 

 これからシスティーナにとって最悪の展開が始まろうとしたのと同じタイミングで――

 

やっちまえ(サ・ルー)ッ!」

 

 ばぁん!

 

 ジョセフは扉を蹴り飛ばした。

 

「は?」

 

「……え?」

 

 突然、大きな音と共にけ破られた扉の音に、硬直する男とシスティーナ。

 

 その直後、からんからんと、何かが部屋――魔術実験室に転がり込んだ。

 

 転がり込んだ直後、物体から爆発音と共に強烈な光が室内を照らした。

 

「ぎゃぁああああああああ――ッ!?」

 

 光を直接見てしまったため、男は目を抑えてシスティーナから離れる。システィーナも視界が白くなり、何も見えない。

 

「な、なんだこれ!?何も見えねえッ!?ぎゃ――ッ!?」

 

 男は目を抑えながら狼狽えるが、途中何かに殴られる音がして、その直後、沈黙した。

 

 音も視界も正常に戻り、いつもの魔術実験室の風景がシスティーナの視界が広がる……のだが。

 

「……え?」

 

 そこには、見慣れない服装を着た女がシスティーナを見下ろし、同じく見慣れない服装をした男が殴られて気絶した男を制圧していた光景が広がっているのであった。

 

 

 

 


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