ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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 システィーナ=フィーベルは、今の状況を飲み込めていなかった。

 

 負けるものか。屈するものか。私は誇り高きフィーベルの娘だ。魔術師にとって肉体などしょせん、ただの消耗品ではないか。そう言い聞かせていたのだが……

 

 そんなシスティーナの理性とは裏腹に、これからこの男に我が身を汚されてしまうのだという悲嘆に、初めては本当に好きになった人に捧げたかったという密かな夢の理不尽な終焉が目の前に迫ってきているという現実を前に、涙をぼろぼろとあふれさせ、身体を震わせていた。

 

 そして、男の手が必死に身じろぎするシスティーナの肌に伸びて行った、その時。

 

「サ・ルーッ!」

 

 実験室の扉から、そんな声が聞こえた直後、扉は蹴破られた。

 

 その後は、目まぐるしく状況が変わった。気がついたら、女がシスティーナを見下ろしていた。

 

 見慣れない服装だった。気絶した男の服装とは違うが、魔術学院の関係者でもない。

 

 ただ確かなのは、この人達は敵ではない。

 

 顔はよく見えない。二人ともベレー帽を被っており、口元はマスクで覆われている。

 

「A。彼女の様子は?」

 

「彼女は大丈夫だわ。服が破られているけど」

 

 未だに状況が見えてこないシスティーナを他所に、二人はそう言うと、女はロングコートを脱ぎ、システィーナの肩にかけた。

 

「あ、あの……」

 

「じっとして」

 

 何か言わないと口を開こうとしたシスティーナを遮り、女は何かを呟く。すると、システィーナを縛めていた【マジック・ロープ】と【スペル・シール】が解呪された。

 

 女は黒魔【ディスペル・フォース】で解呪していた。

 

 腕が自由になったシスティーナは女のロングコートに腕を通し、ボタンを留める。

 

 女は腕を組んでシスティーナを見る。腕を組んでるせいか、システィーナが望んでも手に入りそうにないものがはっきりと形に顕れる。

 

「えと……あの、助けてくれて、ありがとうございます」

 

 微妙な沈黙に耐えられず、システィーナは二人に声をかける。

 

「助けていただいたのはありがたいのですが、貴方達は何者なのですか?見たところ、あの二人組とは違うみたですが、この学院の関係者じゃないし、警備官でもないですよね?」

 

 今日もいつも通りの日常になるはずだったのに、やれテロリスト達が堂々と侵入してきて、ルミアを連れ去って自分は最悪の結末を迎えようとしたら、今度はこの二人組が現れたりと……

 

 正直、わけがわからないこの事態に、システィーナはこの二人に僅かに警戒感を抱く。

 

「そうだね~、この場合はなんて言ったほうが納得いくかね~」

 

 システィーナの問いに、気絶した男に【マジック・ロープ】、【スペル・シール】、【スリープ・サウンド】などで完全に無力化した男がなんていうか考えていると。

 

「えーと?」

 

 蹴破られた扉の向こうに新たな男が棒立ちしていた。

 

 グレンだった。

 

 

 

 

 男女二人組――ジョセフとアリッサはグレンを見て、この男が噴水でシスティーナに吹き飛ばされた男がこの魔術学院の関係者だったことに内心驚いていた。

 

(……マジで?)

 

 システィーナとグレン。

 

 先日、街の噴水で吹き飛ばし、吹き飛ばされた二人組に再び会うなんてこれっぽちも思っていなかった。なんとも不思議な縁である。

 

「この男は?」

 

「一応、この学院で講師やってる者です。ていうか、誰だよ、扉を蹴破ったのは?一応、先生として忠告するが、お前達、こういうの器物損壊罪で一応、犯罪だぞ?いくら急いでいたからといってもな、一応……」

 

 グレンは何かズレたことを言っていた。まるで不良生徒に説教するような接し方だ。

 

「こんどはこっちが質問するぞ?……そこの二人、服装や武器から見て……オーシア連邦軍の人間だな?なんで、連邦軍がこんなことろにいるんだ?」

 

「オーシア連邦軍ですって……ッ!?」

 

 二人の正体がわかったシスティーナは驚愕の顔をして二人組を見る。

 

 オーシア連邦軍。

 

 オーシア連邦が保有している軍事組織で、連邦政府の指揮下にある軍事組織のことである。

 

 陸軍、海軍、空軍、海兵隊、戦略軍からなる常備軍と、平時は海上警備を主とした法執行機関である沿岸警備隊を含めた六つの軍種からなる連邦軍は独立戦争以来、負けを知らず、アルザーノ帝国、レザリア王国、南オーシア連邦という三大国に勝利したことある常勝軍団。

 

 豊富な実戦経験、最大規模の志願兵で構成されるその圧倒的な戦力、国内に存在する豊富な資源をバックにした圧倒的な継戦能力など、他のいかなる時代のいかなる国家・集団においても保持したことがない能力から人類史上最強の軍隊と評される軍隊……それがオーシア連邦軍である。

 

「……言っとくが、別にアンタ達に危害を加えるために来たのではない、というのはわかるよな?たまたま男二人組がこの学院の守衛を殺していたところを目撃したから来ただけだ」

 

「ほう?たまたま目撃して、この学院の結界……しかも、敵に掌握された結界を破って、一人の女子生徒を助けたってか?」

 

「そういうことになるね」

 

 グレンは何かを手に持ち、ジョセフは敵意がないことを示すために、銃を壁にかける。

 

「貴女、これを持ってて」

 

「え?これって……きゃっ!?お、重い……ッ!?」

 

 アリッサはサブマシンガンをシスティーナに渡す。因みに、システィーナが誤って引き金を引いても大丈夫なように、セーフティはしっかりかけてある。

 

 両者はしばらく対峙する。

 

 すると……

 

「……まぁ、いい。そういうことにするか。とにかくだ。状況を教えろ、白猫。一体、何が起こったんだ?」

 

「あ……はい……」

 

 システィーナは一連の出来事を説明した。いきなりテロリストを名乗る二人の魔術師が教室にやって来たこと、教室の生徒達が拘束されて閉じ込められていること、グレンはまだ生徒達に犠牲者が出ていないことに、とりあえず安堵したようだ。ジョセフも、ウェンディとテレサが無事なことに内心安堵する。しかし――

 

「ルミアが連れて行かれた?」

 

「……はい」

 

 システィーナが悔しそうに、哀しそうに目を伏せる。

 

「なんでアイツが?」

 

「わかりません」

 

「そうか……しかし、となるとやっぱり早まったか?」

 

「先生?」

 

「あー、いや、すまん。独り言だ。連邦軍がいるんだ。判断が正しかったとしよう」

 

 と、その時だった。

 

 辺りに金属を打ち鳴らしたような甲高い共鳴音が響き渡る。

 

 何事かとシスティーナが身を固くしていると、眉間にしわを寄せたグレンがポケットから半割りの宝石を取り出して耳に当てた。

 

「てめぇ、セリカ!?遅ぇぞ!一体、何やってたんだ、この馬鹿!」

 

『すまんな。ちょうど講演中だったんだ。着信は切ってたんだよ』

 

 宝石から、今はフェジテから遥か遠き帝都にいるはずのセリカの声が聞こえてくる。

 

「こっちはそれどころじゃねーぞ!?」

 

『……何かあったのか?』

 

 宝石から聞こえてくる声が硬くなった。

 

「ああ、実はな……」

 

 …………。

 

 ……。

 

『それ、本当か?』

 

「冗談でこんなコト言うか?面白くねーぞ」

 

 グレンは頭をかきながら、まくし立てる。

 

「とにかく、下手人は天の智慧研究会だ。結界を掌握され、学院は完全に封鎖された。もう、入ることも出ることもできん。人質に取られた生徒は五十人前後、教室に無力化されて閉じ込められてる。その内一人保護、一人は黒幕の元に連れて行かれたらしい」

 

『天の智慧研究会か……あのロクでなしの人でなし共が出張ってくるとはな……』

 

「それと、セリカ……オーシアが動いている」

 

『オーシア?あのオーシアが……?なぜ……?』

 

「知るかよ。とにかく、二人、連邦軍が今、俺の目の前にいる。服装と練度からして、こいつらは特殊作戦軍……デルタ分遣隊の人間だ」

 

『デルタ分遣隊……常勝軍団である連邦軍の中でも最強格の魔術師を揃えた特殊部隊の連中も出張ってくるとはな……今回の連邦の動き……いや、今は連邦のことを考えている場合じゃないな』

 

「……?とにかくだ、敵戦力は確認できたのが三人、まだ未確認なのが一人以上。確認できた敵の内、二人は俺と連邦軍で無力化。だが、残りが多分、ヤバい。諸状況から察するに先の二人と比較して格下なんてことは恐らくありえない」

 

『お前の固有魔術【愚者の世界】でもダメそうか?』

 

「俺の固有魔術は不意を討ってこそ、だ。流石に何度もやすやすと許すほど、敵も馬鹿じゃないはずだ」

 

『そうだな』

 

「で、最後にこれが重要なんだが……俺もこの学院の魔導セキュリティのレベルの高さは知っている。だが、ここまで鮮やかにセキュリティを掌握されている所から察するに……いるぞ、学院内に裏切者がな」

 

『あぁ、私もそれを考えていた』

 

「なぁ、セリカ。そっちにいるはずの教授や講師達の中で不自然に姿が見えない奴っているか?特に教授格か、それに準ずる能力を持つ講師だ」

 

『わからん。会場では団体行動じゃない。すぐに確認するのは不可能だ』

 

「ち……事情を説明してさっさと確認しろ!それから早く帝国宮廷魔導士団を回すように手配してくれ!」

 

『無理だ。お前も知っているとおり、魔術学院はとにかく各政府機関の面子や縄張り争いがうるさい魔窟なんだ。呼ぶとしても迅速に……というわけにはいかない』

 

「アホか、ふざけんな!?生徒達の命がかかってんだぞ!?お前の権限でなんとかしろよ!?」

 

『今の私は市井の一魔術師に過ぎないんだ。人が過去の役職の権限を振りかざしていいいなら、国が滅茶苦茶になる』

 

「じゃあ、お前が早く帰ってこい!学院内に転送法陣があるだろ!?」

 

『落ち着けよ。そこまで周到に結界を掌握した連中が転送法陣を有効にしたままにしておくか?私なら絶対最初に壊すぞ?ま、試してみるがね。期待はするな』

 

「く……」

 

 確かにそうだ。転送法陣は長距離転送魔術において入り口であり、出口でもある。帝都と学院を繋ぐ転送法陣が生きていたら、帝都から学院内に侵入される。先に拠点の転送法陣を破壊するのは立てこもりテロの定石だ。

 

 グレンはばつが悪そうに頭を押さえてため息をつく。

 

「……悪い。冷静じゃなかった」

 

『人の本質ってやっぱ変わらないな。お前はお前のままだよ。とにかく、こっちは対応を急ぐ。お前は無理をせず、今は連邦軍の連中に任せて、保護した生徒と一緒にどこか安全な場所で隠れていろ。現状、あのテロリストにまともに対抗できるのは、その二人しかいない』

 

「ああ、わかった」

 

『じゃあ、いったん切るぞ。……死ぬなよ?』

 

「……こんな所で死んでたまるか」

 

 通信魔術を解除し、グレンは宝石をポケットに押し込むのであった。

 

 

 

 

 

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