ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員 remake   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


09

 

 

 グレンがセリカと連絡を取り合っていた一方で、ジョセフはというと……

 

(なんで、ルミアとう子は連れ去られたのかね?)

 

 システィーナから聞いた一部始終で、天の智慧研究会がなぜルミアという子を連れ去ったのかを考えていた。

 

(そもそも、ルミアって……もしかして彼女の側にいた、あの金髪の子のことだよな?)

 

 グレンがシスティーナに吹き飛ばされて、噴水地に池ポチャした後、ジョセフとアリッサに振り向いて頭を下げた時のことを思い出す。

 

 そして、カフェにいた時にジョセフのことを話していたのも彼女だ。

 

(ふーむ……)

 

 これは、システィーナからルミアについて聞き取りをした方がいいと判断したジョセフはシスティーナに声かける。

 

「なぁ。さっきの話でルミアという子について聞きたいんだが、えーと、ミス……」

 

「システィーナです。システィーナ=フィーベル」

 

 まぁ、知っているし、会っているのだが、流石にここで正体をバラすわけにはいかないから、ジョセフは知らないふりでシスティーナに接する。

 

「OK、フィーベル。それで、連れ去られた女子生徒……ルミアという子についてなんだが、彼女はどんな子なんだ?」

 

「えーと、ルミアは私の親友です」

 

 だろうと思った。交差点でも一緒に登校していたし、カフェでも一緒にいたから。

 

「彼女とは同じクラスで?連れて行かれたらしいが、特段、何かに秀でているものとかはある?」

 

「えっと……あの子は座学は優秀なのと、白魔術が得意なんですけど……あのテロリストが欲しがるようなものは何も……」

 

「彼女の出自は?大貴族か政治家、有力な財界などの上流階級の令嬢とか?」

 

「いえ、上流階級の令嬢かどうかはわからなくて……というのも、あの子は三年前にお父様とお母様が身寄りのない子として私達の家に迎え入れられたんです。だから、ルミアの本当の出自はわからなくて……」

 

「そうか……」

 

 やっぱりわからない。

 

 上流階級の令嬢でもなければ、特段、成績がずば抜けているわけではない。

 

 そんな、女子生徒にここまで大掛かりな仕掛けをしてまで連れ去る?明らかに過剰だ。

 

 天の智慧研究会の狙いが、ルミア個人を狙った襲撃であることは明らかである。このチンピラ男がシスティーナを犯そうとしたのを除けばだが。

 

「……こんな所で死んでたまるか」

 

 ジョセフがこのわけのわからない敵の行動に考えを巡らしていると、グレンは通信魔術を解除し、宝石をポケットに押し込んだ。

 

「……ん?どうした?」

 

 視線に気づいてグレンはシスティーナに声をかける。

 

「いえ……その……意外で……」

 

「はぁ?」

 

「先生ってその……もっと冷めた人なんだなって思ってたから……」

 

 どうやらこのグレンという男、普段は冷めた人らしい。当の本人はどうでもいい、とばかりに目を背けたが。

 

「あの……今の……相手はアルフォネア教授、ですよね?」

 

「ああ」

 

「助けは呼べそうなんですか?」

 

「呼べそうだ、と今の話聞いて思ったか?」

 

 それを聞いて、システィーナは消沈したように肩を落としてうつむいた。

 

「アルフォネア教授……あのセリカ=アルフォネアのことか」

 

 セリカ=アルフォネア。北セルフォード大陸最高峰である第七階梯に至っている、最強の魔術師。

 

 彼女の名は連邦でも知れ渡っており、連邦軍上層部は彼女に対抗するために様々な研究を行っている。実はジョセフの母親――エヴァが帝国から連邦に鞍替えした背景にも、この件が少なからず関係している。

 

「それで……彼女はなんと?」

 

「俺とシスティーナはどこかに隠れて、お前らに対応させろ、だとよ。対応はなるべく急ぐらしいが……」

 

「そう……まぁ、それが最善でしょうね」

 

 グレンとジョセフがそう言っていると、システィーナは何かを決心したかのように顔を上げ、部屋を出て行こうと踵を返した。

 

「待ちなさい。どこへ行くつもりなの?」

 

 アリッサはとっさにその腕をつかんで引き止める。

 

「ルミアを助けに行きます」

 

「よしなさい、無駄死にする気?」

 

「だって……だって、ルミアが……ルミアは私を庇って……」

 

「彼女は私達が救出するから、貴女は大人しくなさい。それに、貴女一人で何ができるというの?わかっているでしょ?」

 

「でも……でも……ッ!」

 

「大人しくなさい」

 

 有無を言わさない、突き放すようなアリッサの言葉。

 

「そういうわけで……残りの敵とそのルミアっていう子は任せろ。アンタは彼女が妙な気を起こさないように見張っといてほしい。行くぞ」

 

 残り二人の敵を撃破するべく、ジョセフはグレンに一方的に言い、アリッサと共に実験室を出て行くのであった。

 

 

 

 

 ジョセフ達が去って行った後、次第に肩を小刻みに震えていくシスティーナ。水滴が床を叩く音が、小さく響いた。

 

「でも……私、悔しくて……だって……」

 

「お、おい……白猫……?」

 

「だって……ぅう……ひっく……うわぁあああん……」

 

 今まで色々こらえていた感情が、一時の安堵が引き金となって暴発したのだろう。言葉を失うグレンの前で、システィーナは目を腫らして子供のように泣きじゃくっていた。

 

「先生の言う通りだった!魔術なんて、ロクな物じゃなかった!こんな物が……こんな物があるからルミアが……ルミアが……ひっく……う、うぅ……」

 

「……泣くな、馬鹿」

 

 ぽん、と。グレンはシスティーナの頭に優しく手を乗せた。

 

「先生……?」

 

「魔術が現実に存在する以上、存在しないことを望むのは現実的じゃない。大切なのはどうすればいいのか考えること……なのだそうだ。お前の親友の受け売りだけどな。やーれやれ、俺もずいぶんと長い間、思考停止していたらしい。ヤキが回ったかね?」

 

 そう語るグレンは、いつもの気だるげで皮肉げな顔からは想像つかないほど、穏やかな表情を浮かべていた。その意外過ぎる一面に、システィーナは戸惑うしかない。

 

 しかも、この言葉……先日、連邦の留学生が似たようなことを言っていたことをシスティーナは覚えている。

 

「ルミアの奴はこういう事件が起こらないように将来、魔術を導いていけるような立場になりたいらしい。アホだろ?でも立派だ」

 

「あの子が……そんなことを?」

 

「あぁ、死なせられないよな……死なせてたまるかよ」

 

 グレンは決意を瞳に宿し、そして言った。

 

「連邦軍の二人組は隠れろと言っていたが……俺も動く。敵の残りは二人だと決めつけて暗殺する。もう、それしかない」

 

 暗殺。その時、システィーナはそんなことをあっさりと言ってのけたグレンに背筋が凍えるような恐怖を覚えた。だが、それ以上にやるせなさも感じた。グレンは人殺しを覚悟した冷徹な瞳をしていたが……どこかでとても辛そうだったからだ。

 

 突然、その場に乾いた笑い声が響き渡ったのは、その直後であった。

 

 

 

 

 ジョセフとアリッサは西館から東館に入り、ある場所に向かっていた。

 

 向かっている先は、二年次生二組の教室。このクラスはグレンの前任の講師が突然退職したのと、グレンが最初の頃は職務放棄していたため、他のクラスよりも授業の進行が大幅に遅れていた。そのため、本来ならば五日間は休校で来ないのだが、他のクラスに追いつくようにこのクラスだけは学院に来ていたのである(それと、グレンの授業を聞きたいという何名かの他のクラスも自主的に来ていた)。

 

 そして、そこに運悪く天の智慧研究会が入り込んできて五十名前後の生徒は教室に閉じ込められることになってしまった。

 

 ジョセフが二組の教室に向かっているのは、チンピラの男――ジンという男がシスティーナを連れて婦女暴行を行おうとしたことで、他の敵も他の女子生徒を暴行するのではないのかと危惧していたからである。

 

 このクラスにはジョセフの幼馴染二人がいるのである。スタイルもいいし、美少女である彼女らが暴行を受けていてもおかしくはない。

 

 こういう仕事に私情を挟むべきではないのは、ジョセフも重々承知だったのだが……それでも、この目で無事を確認しないと気が済まなかった。

 

 なにせ、今のジョセフと親密な人が()()しているのは、彼女達だけなのだから。

 

 一刻も早く無事を確認したいと、ジョセフが足早で二組の教室に向かっていた、その時。

 

「ジョセフ。西館の方、私達がさっきいた場所からあの二人が出てきたわ」

 

 アリッサが西館の方を見て指差す。魔術実験室から、グレンとシスティーナが飛び出していた。

 

 隠れていろって言ったのに、なんで?とジョセフが西館に目を向けると……二人が飛び出した理由がわかった。その原因がわらわらと実験室から出てきていたから。

 

「くそ、ボーン・ゴーレムかよ……」

 

「しかも、あれ、素材は竜の牙よ。錬金術で錬成した代物。しかも大量に」

 

 召喚【コール・ファミリア】。本来は、小動物のようなちょっとした使い魔を呼んで使役する召喚魔術の基本術だが、この術者は自己作成したゴーレムを使い魔として、しかも遠隔連続召喚するなどという、アタマオカシイ高度なことをやっている。しかもそのゴーレムは竜の牙製。それゆえに驚異的な膂力、運動能力、頑強さ、三属耐性を持っている。並みの戦士や魔術師では対処できない危険な相手だ。

 

「おいおいおいおいおい……ッ!?なんだこのふざけた量は!?人間業じゃねーだろ!?」

 

 グレンの言う通り、確かにヤバい敵はいた。これをしかけた術者の卓越した技量に驚愕するジョセフ。

 

 だが、それも一瞬のことで、ジョセフはライフルを構え、スコープ越しに一体のゴーレムの頭部に狙いを定め、引き金を引く。

 

 響き渡る銃声と共に放たれた一発の死棘。人間の頭部に当たれば粉々に粉砕され、脳はぐちゃぐちゃになるその銃弾は、ゴーレムの頭部に命中する――が。

 

「ですよねー、ドチクショウッ!」

 

 ぐらりと、のけぞらせたがそれだけだ。大したダメージを受けていない。

 

 竜の牙製のゴーレムに物理的な干渉はほとんど損害にならない。拳打や銃撃のような攻撃はもちろん、攻性呪文の基本三属と呼ばれる、炎熱、冷気、電撃も通用しない。大口径で高初速の高射砲か艦載砲でも撃ち込んで直撃させないかぎり、破壊できない(それすらも保証できるかは定かではないが)。

 

 このゴーレムを打ち倒すならば、もっと直接的な魔力干渉をしなければならない。

 

 舌打ちしたジョセフは、ボルトを引き、新たに取り出した一発の銃弾を薬室に装填する。

 

(【ウェポン・エンチャント】を符呪した銃弾なら、倒せる!)

 

 すかさず、一体のゴーレムに狙いを定め、引き金を引く。

 

 再び発せられる銃声と共に放たれた銃弾がゴーレムの頭蓋に命中し、今度こそ粉砕される。

 

「OK、なんとか援護できる」

 

 ジョセフはボルトを引いて再び銃弾を薬室に装填する。まだ弾倉内にある通常弾を取り出す余裕はない。

 

 グレンとシスティーナの脱出を援護しようと、一体のゴーレムに狙いをつけると……数体、他のゴーレムと違い赤く染まっていた。手に持っていた剣からも赤い液体が床に滴り落ちていた。

 

 つまりは……

 

「命令違反してたんだな、あの男……それで術者に殺されたか」

 

 まぁ、自業自得だ。己を欲を見たそうと任務を放棄したのだから、当然の報いでもある。

 

「助ける義理もないし、死んで当然だ」

 

 ジョセフはジンという男の末路を見て、そう冷淡に吐き捨てるのであった。

 

 

 

 

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