赤い、赤い炎が燃え盛る。
もう二度と見たくない、けど見ないといけない。
最後の、瞬間。
泣きじゃくる私の頭に大好きな姉の
燃えて、真っ黒になって、もう思い出せない暖かさを、力強さを
『ごめんね、スぺ。駄目なお姉ちゃんで。』
「いやだ」
「いやだ」
「まだ終われないんだ」
「まだ速くなれるんだ」
頭にのせられていた手は、ゆっくりと地面に落ち………
「もう無理しなくてもいいんだよ、スぺ。」
「…………え」
地に落ちるはずの手は、私の頭に乗ったまま
火はかき消された。
『一着はシンボリルドルフ! シンボリルドルフです! やっぱり皇帝は強かった! 日本の皇帝が新たなる伝説を作り上げました!』
「ま、負けた……の。」
負けた……、ホントに負けたの……
「ッ! 掲示板!」
そこには嫌なほどに目につく『確定』の字と四番目に並ぶ私の数字。
「……こ、こんなところで……終わりなの……」
こ、こんなところで……、まだ、まだ何もなせてないのに。まだ、まだ……
「お姉ちゃん、ごめんなさい。」
ーーーーーーーー
その後、私は姉を探した。
もしかしたら控室にいるかもしれない、もしかしたら自室にいるかもしれない。
狂ったように走り回った。
だれにも言えなかった。だって知るはずない、見えるはずない。
もしかしたら、私のそばにいるかもしれない。
心の中で呼びかけながら、姉がいそうなところを探し回った。
ジャパンカップのあとのライブは出なかった、それどころじゃなかったから。
一月後の有馬記念も登録はしていたが出なかった、走る意味がなかったから。
見つからなかった。姉が残してくれたものは何も残ってなかった。
私に解るように練習内容を書いてくれていたメモはなくなっていた。
姉が存在していた、それを証明していたはずのものがなくなっていた。
残っているのは、あの時目の前で死なせてしまった時の遺品だけ。
姉と成長してきたはずの、その記録が、証明するものがなくなっていた。
残っているのは私の記憶だけ。
その記憶ですら私が自分を守るために作り上げていた幻だったのかもしれない。
学園には何もなかった。
もう走る意味なんてなかった。
だれにも見つからないように、逃げるように出ていった。
誰かが楽しそうに走っているのを見ると気が狂いそうだった。
もう、何もかも、おしまいだ。
全てがもう、どうでもいい。
スペシャルウィーク
6戦5勝 無敗三冠 ホープフルS
ジュニア級、クラシック級で華々しい成績を収めたウマ娘。シンボリルドルフに続く無敗三冠を成し遂げた。
彼女が最後に出走したジャパンカップは新旧無敗三冠対決、また欧州三冠及び凱旋門連覇のブロワイエも出走しており、夢の三冠対決となったが、4着に終わる。(シンボリルドルフ一着、ブロワイエ二着)この時出走していた同世代のグラスワンダーが三着であったため、クラシック三冠レースでの敗北を返された形になる。
また真偽は確かではないが、彼女のトレーナーからの発表でジャパンカップのライブ、有馬記念をケガで断念することになった。
その後、彼女は『走る意味がなくなった』という理由で自主退学及びトゥインクルシリーズからの引退を発表。正確には学園寮の自室に置手紙という形で置かれていたものを学園側がやむなく発表した。シニア級での活躍が期待されていただけに残念である。
『………!……! …………!』
「また、見てるの?」
「あ、お母ちゃん。……うん、お姉ちゃんのレース。」
帰ってきてからずっとだ。
「さ、ご飯だよ、スぺ! そんなしょんぼりしてないで昔みたいにいっぱい食べて元気だしな!」
「ありがとう……、でもやっぱり多いや。」
昔みたいにたくさん食べることはしなくなった。
キャンディがいなくなった時、受け入れられなかったのか、体が覚えていたのか、寮にいるはずなのに彼女の分まで夕飯を作ってしまって、それを無理やりスぺが全部食べてたことを思いだす。
姉の分まで無理やり食べるように、それからスぺの過食は始まった。
その時の癖でまた、作りすぎてしまった。
今はもう、私の半分くらいで食べるのをやめてしまう。
「どうしたら、いいんだろうねぇ……。」
「ん、なんか言ったの。お母ちゃん?」
「ううん、何でもないよ。ほらさっさと食べちゃいな! 余りはまた明日の朝と昼にすればいいんだし、ね。」
「うん、いただきます。」
昔みたいな、にぎやかな食卓が懐かしいよ。
なぁ、スぺ。本当にあなたにとって走るのは楽しかったのかい?