Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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番外編デス!
しれーっと目標にしてた100話到達記念(笑)

ぶっちゃけ、リゼロエイプリルフールネタの1つ、胡蝶之夢デスが(笑)





番外編
夢幻之未来


 

日の光が天窓から降り注ぎ、温かな世界をより大らかに彩ってくれている。

この陽光に包まれ、身を委ねればどれ程幸せな事だろうか……と、儚き夢に思い馳せる間もなく、羽ペンを走らせ続けている男が1人。

 

一体いつから起きていたのだろう?

いや、或いは夜型の勤務……夜勤明けだとでもいうべきだろうか?

 

もう、それを考えるのも億劫であり、面倒になってきた今日この頃。

 

 

「おはようございますっ! ツカサ様っ!」

 

 

元気一番、それこそ太陽の様な笑顔と共には言ってきたのは、専属メイドの1人でもあるペトラ。虚ろな目をしていた自分自身に活を入れてくれる存在……とでも言えば良いだろう。僅かに落ちかけていた脳が活性化。今まさに、脳が震えている状態だ。……いやいや、震えるのではなく、フル回転させる事にしよう。

 

 

「おはよう、ペトラ。今日も元気で何より……」

「はいっ! ……って」

 

 

元気よく挨拶を返したは良いが、離れていてもよく解るツカサの状態。

目の当たりにして、ぎょっとしたペトラは。

 

 

「わわわっ、ツカサ様だいじょうぶですか!? 何だかお顔が真っ青ですよっ!?」

 

 

一目散に駆け寄った。

 

シャキッ! としたのは間違いないが、だからと言って表情まであっという間に治せてしまう程の器用さも無ければ、ペトラ万能説でもない。

気持ち的には大丈夫なのだが、ペトラにしっかりと堕ちかけてた顔を見られてしまった様なので、心配をかけてしまった様だ。

 

一目散に……パタパタ、と愛らしく駆け寄ってくるペトラ。

 

心配です、凄く。そう言っているのが良く解る。聞くまでも無い。

だから、ペトラが言葉を発するよりも早く、傍に来て届く間合いに入った所で、素早く頭を撫でてあげた。

 

 

「大丈夫大丈夫。昨日はちょっとだけ、本当にちょっとだけ忙しかっただけだから。ヴォラキアから帰って直行して……、あ、でも道中で魔獣騒動もあって、………大兎がまた出たって目撃情報の真偽もラインハルトと一緒に……、貧民街(スラム)改善案での現場確認と、検証と、あとそれと、これと、あれと………」

 

 

指をおりおり数えていく仕事(ワ~ク)

机上(デスク)だけでは終わらない。事件は現場で起きている。それが津波の様に怒涛に押し寄せてくるパターンもたまにはあるのだ。とっても大変な悪夢(お仕事)

 

ただ、王国民の身の安全は大丈夫か? と言う問に関しては問題ない。

実際に、危険性の高いのは大兎案件だけだが、今の所は大丈夫だ。戮兎(キリングラビッツ)と見間違えたとの事。

個体での強さを鑑みれば、圧倒的な数の暴力でモノを言わせる大兎単体よりもよっぽど脅威だが、我らがラインハルトとツカサが居れば何ら問題なし。そこら辺の害虫駆除程度で終わる。

だから、骨身を削って働いてくれてるツカサには感謝、である。

 

………だからと言って休みが必要じゃない訳が無い。

 

生憎、ツカサの場合はラインハルトの様な超人ではないから。

段々考えるのが億劫になったので、考える事すら放棄してしまったのが、今の現状である。

 

 

「つ、ツカサさまっ! 本当にだいじょーぶですか!?」

「あ、ああ。うんうん。大丈夫大丈夫。朝から元気なペトラを見れて、元気、分けて貰えたよ。ありがとう」

 

 

ぽん、ぽん、と二度程軽く頭を触り……そして本題に入る。

 

 

「私に、もっと他に何か出来たら……」

 

 

と、思案中のペトラ。

これは好都合だ、とツカサは意地悪く笑いながら告げる。

 

 

「うん。バッチリな仕事があるよ。えっと、たぶん、ほぼ間違いなく。絶対中の絶対に今スバル寝てると思うんだけど、ペトラ起こしに行ってくれる? 仕事も大量にあるからさ」

「あ、はい。それは勿論」

「うん。あ、でも起きて直ぐ来て、って訳じゃないから。うん。半刻くらいはスバルとゆっくりした後で、この手紙をスバルに渡して欲しい。あ、ちゃんと時間はしっかり守ってね? し~~っかり、スバルと一緒にゆっくりする事。最近、甘える事だって出来てなかったんだし?」

「ふぇっ!? そ、それは………その………」

「はい、決定。これは指示……と言うより、オレからの命令って事で」

 

 

スバルと甘える………と言う言葉を聞いて、顔が真っ赤に染まるペトラ。

その姿を見て、軽く安心するのはツカサだ。ペトラには、割と心配ばかりかけているから、申し訳なると言うものだ。

なので、ツカサは笑顔で親指を立てた。

ペトラは、まだ戸惑っている様だった。

命令って何だっけ? と頭の中でグルグル回りながら……兎に角 命令ともなれば、完璧に遂行しなくてはならない。

 

 

「そ、その! 行ってまいりますっ!」

 

 

そして、ペトラだって立派な女の子。……好きな人、特別に好きな人と一緒に居る時間も必要だろう。

スバルの周りには、沢山女性が居るから。

 

 

「――――ひとの事、言えないんだけどね」

 

 

書類の山の極々一部を整理整頓しつつ、ぼやくツカサ。

ちょっと前までは、考えられない様な事が起きている。

 

考えられない所じゃない。摩訶不思議、世の神秘、言葉では言い表す事が出来ない様な事態に見舞われていると言っても決して過言では無いだろう。

 

 

そんな時だった。

ペトラが出て言って数十秒後、再び扉を叩く音が聞こえてきたのは。

 

 

「どうぞ。あいてますよ」

「―――失礼する」

 

 

軽く声をかけると、間を置かずに返事、そして扉が開いた。

顔を見ずに、声だけで解る。……相当不機嫌、ご機嫌斜めだと言う事が。一発で知らしめてくれると言って良い。

凛とした声色こそ相変わらずだが、僅かに怒気を加えるとこうまで威圧感が倍増しになるのか、と戦慄ものだ。

 

そして、その戦慄を感じながら、その人物を見た瞬間から、何故不機嫌なのか理解する。

いや、思い出す―――と言った方が正しい。

 

 

「……ごめんなさい。昨日中にクルシュさんの所には行く予定だったんだけど、思いの他時間がかかって……」

「…………」

 

 

じろり、と鋭い視線を向けられる。

嘘偽りを一切許さない、と言った類の視線だ。

実際、クルシュ―――彼女の前では、嘘偽りは不可能だと言って良いので、端から無駄な努力となり得るから、早々に降伏宣言をした方が早いのである。

 

 

「ツカサ。卿が私との約束を違える等と滅多にある事ではない。余程の事があったのだろう。……だから、謝る様な事はしないでくれ」

「………あれ? 怒って、ない?」

「? 卿には怒っている様に見えるのか? 私は心配をしていただけだが」

 

 

どうやら、早とちりだった様子。

 

 

「(私は可愛げのない女だからな。卿を取り巻く他の婦女とは明確に違う。剣を振るう事以外積極的でなかった事をこうも悔やむ事になろうとは)」

 

少し表情が歪むクルシュ。

彼女は怒ってない。眉間に皺が寄っていても怒ってない。射貫く様な鋭い眼光を向けられていたも怒っていない。

………彼女の表情から、それらを見分けるのは相応のスキルが必要である、必要になる、とこの時、ツカサは実感をしていた。

 

 

「……それにやはり、ラムが羨ましくなるな」

「あ、いや……」

 

 

あたふた、としているツカサを見ると、突然しおらしくなるクルシュ。

彼女には似合わない、そぐわない顔だ。

 

 

「卿は、……ツカサは、ラムであれば、直ぐに考えを読む事など容易いだろう? これまでにも幾度と見てきたのでな。………成る程。私はまだまだ足元にも及んでいないらしい」

「…………」

 

 

ここにはいない桃色の鬼、ラム。

以前クルシュにハッキリと告げていた事があった。

 

言葉は少ない。ただただ【1番】と言う言葉。

公平ではあっても、その中に確かに存在する1番と言う立場は揺るがないし、揺るぎない、と。

 

この時、クルシュは勿論受けて立つ構えであり、遣り甲斐の有る、追いかけがいのある事柄だと頷いた。

心と言う匙加減の難しい、明確な結果が出るとも言えない曖昧な感情に忌諱する優劣だ。

その様なものに、優劣をつける事自体が烏滸がましく、……そう言った感情を一手に集中させている男にとっても、それは望んではいない事くらい解る。

 

だが、今まさに明確に、確かに、自身がそう感じてしまったとするなら、多少は気落ちもする。

 

 

「! ―――なんのつもりだ」

「…………」

 

 

視線を下に落とし、ツカサの姿をその視界が捕らえていないのを確認すると同時に、即座に間合いを詰めた。そして、そのクルシュの身体を腕に抱き、胸に抱き寄せた。

 

心地良い感覚であり、感触だ。いつまでもこのままで居たい―――と淡い夢を思い浮かべそうになるが、それでもそれを堪能するのは今の自分には、許せそうもない。

 

 

 

「クルシュさん。オレの心を読んで欲しい」

「……………」

 

 

ツカサの懇願に、耳を傾けない……なんて事をクルシュがするワケが無い。

そして、風詠みをするまでも無い。

 

腕に抱かれて、胸の中に導かれて、ここまでされて、ここまでして貰って……察する事が出来ない程鈍感ではないつもりだ。

だが―――。

 

 

「……私が見る事が出来るのはまだまだ限られている。心の機微、表層は見れたとしても、その内までは見透かすのは容易ではない。無いからこそ、ラムの事を羨んでしまう。情けない事にな。………だから、すまない。卿の口から、聞かせて欲しい」

「…………」

 

 

クルシュの言葉を聞き、ゆっくりと、ツカサは身体を離した。

密着していては、心地良くてもその顔を見る事が叶わないから。

その頬に手を添えて、ツカサは続ける。

 

 

「未熟だろうと、何だろうと、この道(・・・)を進むって決めた。オレ自身が自分で選んで決めた事なんだ。その道筋で、至らない事をクルシュさんに、感じさせてしまったんだとしたら、それはオレの責任(せい)。ラムだって、クルシュさんだって、皆悪くない。だから全部、オレにぶつけて欲しい。……それをオレの我儘だと思って、聞いて欲しい」

「………私がツカサが悪いと思った事など」

 

 

常日頃の働き。

世界に齎せてくれた福音。

ありとあらゆる情景がクルシュの中に流れ、溢れ出てきた。

 

溢れんばかりの想いも。

 

 

「……卿のそれは、我儘と言えるのか?」

 

 

想いを胸に抱いて、クルシュはツカサの手を取った。

頬に添えられ、己の体温とツカサの体温が合わさり、更に赤く熱くなったその手を。

 

 

「ツカサの我儘なら、私は何でも聞いてやりたい。そして、その代わりに私の我儘も聞いてもらおう」

「―――ん」

 

 

クルシュが求めているもの、我儘と称しているもの、言われるまでも無く即座に理解すると同時に、行動に移した。

言葉よりも雄弁あり、伝わる想いも甚大。

 

 

重なる唇。

そして、遠慮がちだった舌が、軈て快楽に身をゆだねる事を決めたかの様に、伸びてきて愛しい男の口内を自分色に彩る。

 

息をする事も忘れて、互いに欲する。肉欲に溺れても良い。この瞬間ならば、と。

 

半刻の時を生んだのは、この時の為だったのか……、とクルシュは蕩けた視界の中で理解する。

会話を盗聴していた訳ではないが、ペトラとツカサのやり取りは外にまで聞こえていた。

 

 

半刻程、ゆっくりした後に手紙を渡せ、とツカサは指示をしている。

それを見たナツキ・スバルの行動は手に取る様に理解出来る。

 

 

僅かに開いた時を存分に堪能しよう。

この甘美を心行くまで。

 

たった半刻に過ぎない時間ではあるが、多忙極まるツカサのスケジュールに少しでも枠を作って貰った事には感謝しかない。

確かに、先日の仕事後にはひと声かける様に約束を交わしてはいたが、アレは不可抗力も良い所で、ツカサに責は無いとクルシュは解っている。

 

だから、だからこそ―――ほんの僅かな逢引の刻を心行くまで。

 

 

 

 

 

「(………別の男をほんの一瞬でも考えてしまったのは、私の落ち度だな)」

 

 

 

 

 

得られる切っ掛け、それをほんの少し考えた過程で、出てきた別の男、スバルの事を頭に過らせた事に後悔するのは、凡そ半刻を過ぎた後。夢の様な世界から目を覚ました後の事。

 

クルシュは自分自身を戒める様に苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に十数分後。

 

しっかりと見形を整え、部屋のメイキングも済み、珈琲を手に優雅な一時を過ごしていた時だ。

 

 

「だぁぁぁぁ!! お、オレが悪かったぁぁぁ! た、たのむ! 亡命するなんて言わないでくれぇぇっっ!! 兄弟! みすてないでーーー!」

 

 

バンッ!! と勢いよく扉が開かれ、それと同時に宙を跳び、ダイビング式の土下座をする男が居た。

そう、勿論ナツキスバルである。

 

 

ペトラはしっかりと言いつけ通りにしてくれた。

半刻以上は必ず時間をかけてスバルと一緒にいて、時間を見計らって渡された手紙をちゃんとスバルに手渡した。

 

夢見心地、気持ちよさそうに横になってたスバルが、だらしない体勢のまま手紙を見るや否や、顔を真っ青にしていき、ベッドから跳び起きたのは言うまでもない。

 

 

 

【業務改善求ム。多忙、山積ミ、忙殺、目回ル。―――改善兆、視エヌ場合、亡命辞サズ】

 

 

 

短い文がデカデカと書かれており、真っ青を通り越して真っ黒になる所だ。

ツカサの存在は最早世界中に知れ渡っており、亡命するとなれば、一大ムーブメント。

各国が挙って押しかけるは、諸手を上げるわ、何なら縄で縛ってでも連れて行く過激派も出かねない。

 

更に言えば、ツカサが居なければルグニカに居る意味無し! と言わんばかりに、あれよあれよと流れて行って、ルグニカが傾く事待ったなし。

 

 

手紙を見て、しっかり身支度を整えて、ペトラに感謝して――――ツカサの所にまで来れた所要時間、新記録達成である。

 

 

 

 

「亡命?」

 

 

聞き捨てならない単語を耳に入れた瞬間、反射的にツカサを見たクルシュ。

眼が合うと、ツカサは苦笑いをして頷き、片目を閉じて見せた。

 

それだけで、それだけの仕草で言わんとする事を理解出来る。ほんの少し前まで、羨む気持ちを持っていた筈なのに、今は穏やかだ。

交わるだけで、こうも変わるのか、とクルシュは仄かに笑った。

 

 

「だが、ノックも無く、部屋に飛び込んでくるなどと、関心出来ないぞ、ナツキスバル。卿も表舞台に身を置く立場。普段の行動、礼節を重んじる様に、とマイクロトフからも常日頃言われている筈だった、と記憶しているが?」

「そりゃもう、常日頃スパルタ式で…………ぁ」

 

 

マイクロトフからの教育と言う名の説教。

日々、耳タコの様に聞いているスバルなので、更に聞くとなると耳が痛くなる思いなのだが……、ここで漸く気付く。

この部屋にはクルシュとツカサの2人切りだったと言う事。

2人ならば、貴重な2人きりな世界なのであれば、そう……妄想全開な場面が繰り広げられている展開な筈で……。

 

 

「ッッ!?? く、クルシュさんっ!? や、やっべ、オレまさかの出歯亀ッッ!?? 覗いて喜ぶ趣味は無ぇつもりだし!?」

「でばが? ……その意味は良く解らないけど、今は大丈夫だよ。……後ほんの少しでも早かったら、クルシュさんに切り捨てられてたかもしれないけど。冗談抜きで」

「ヒェッ!?」

 

 

覗きの趣味は無い!! と力説するは良いが、スバルはツカサの言葉を聞いて戦慄。

何せ、クルシュの百人一太刀をこの身に受けるのを想像してしまったからだ。

だからこそ思わず姿勢を正しつつ、土下座先をクルシュにも変更し、只管謝り倒すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――クルシュは退室。

スバルとツカサのマンツーマン指導? である。

 

 

「あのさ? 一応オレは裏方で言うなら影から王国(ルグニカ)を支える立場な訳で。何で表で頑張るって事になったスバルの後始末。色々仕出かした後始末に、こう何日も駆り出されなきゃいけないのかな? って昨今スゲー思ってて。だから、戒めも込めて、印鑑まで窘めて手紙にした訳です。署名の数々とか用意しようかな、って思ったけど時間の都合上、やらなかった」

「うわっ、メチャクチャ凝ってた!?? あ、いや……お、仰る通りであります。オレの不徳の致すところで……」

「色々とお怒りなのは、オレ以外にも多数いる事も忘れないでね? スケジュールが大いにズレちゃって。唯一喜んだのはラインハルトくらいだから。………まぁ、クルシュさんはさっきのやり取りである程度は晴れたと思うけど」

「うひぃっ!?」

 

 

怒らせたら怖いランキング上位を間違いなく独占しているであろう面々を想像すればするほど、悪寒が止まらないとはまさにこの事だ。

 

 

「取り合えず、今日の公務をバッチリ終わらせてからね。今日の陽日中には終わらせてよ」

「あ、いや……今日ってさ。ラムが居なくて……」

「それは当然。だってラムは先日からちゃんと時間空けとく様にって、凄く釘さされてたから。それに、親子の交流を妨げたりしないよね? スバル」

「……勿論デス」

 

 

どこかの邪精霊みたいな口調になったスバルだった。

でも、現実逃避するのにはまだまだ早い。

 

ドサッ、ドササッ! と更に書類の山が顕わになったからだ。

ぱっと見、霊峰は――――ゆうに5は超える。

 

 

「コレ、陽日中で!?? マジっっ!??」

「マジもマジ。頑張れ。あ、レムに頼るのは止めてあげてよ。断らないとは思うけどさ」

「身重なレムに、んな事させれる訳ねーでしょ! 男の風上にもおけんわ! そりゃ」

 

 

絶望しきった顔でも、意地と言うものがある。

レムは、スバルが言う様に現在身重……第一子妊娠中なので、仕事はお休みを(ほぼ強制的に)取らせている。

レムがついていないから、スバルのパフォーマンスが落ちたのは当然なのだが……そのしわ寄せが現在ツカサに絶賛向いていて、昨今大変だった、と言うのが真相だ。

 

 

まぁ、誰でも想像が出来そうなものなのだが。

 

 

「あ、大兎の件だけ伝えて置くよ。復活した、って言うのは完全にデマだった。兎違い」

「……そりゃ、不幸中の幸いだよ。また、あの群れを相手にするとか、考えたくねー。ベア子もあん時みたく万全じゃねーし」

「偏に、スバルのマナ量が少ないのが原因だけどね。修行頑張ってみる?」

「この殺人的スケジュール間で修行とか!? 何処のサイヤ人だよ! 無理だよ!」

 

 

スバルはブーブー文句を言いつつも――――自分が蒔いた種でもあるし、何時までもツカサにおんぶにだっこであって良い訳じゃない。

 

漸く、漸く追いつく事が出来たかもしれないのに。

 

 

【はっ! どの口が】

 

 

……かもしれない。気のせいかもしれない。妄想かもしれない……が、兎に角背を並べ、表と裏で国を運営するまでに至っているのだから、あまり情けない姿は見せられない。

 

 

「可愛い嫁たちに、これ以上情けねー真似は御免、ってな」

「スバルが考案した写真技術を、今の土下座のトコで撮らせてあるけど、後で皆に見せようか?」

「YA・ME・TE!」

 

 

仕事の量は考えない事にした。

兎に角兎に角数を熟す。

 

スバルは勢いのままに、霊峰に突入して回収、そして自室へと引っ込んでいった。

 

 

【ドナドナド~~ナド~~ナ~~………♪】

 

 

と、聞き覚えがある様な無いような哀愁漂う鼻歌交じりで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ばぁんっ!!

 

 

 

本日2度目。

スバルが霊峰の全てを回収し、退出した後勢いよく、それも乱暴に扉が開かれた。

こんな真似をしてくるのは1人しかいない。と言うか、スバルに関しては今回が特別と言う事もあって、実質乱暴に入ってくるのは1人しかいない。

 

 

「―――さぁ、妾と楽しむぞ、ツカサよ!」

「ただいま、忙殺中です……」

「不敬じゃ。優先順位をはき違える出ない」

 

 

ぽんぽんぽ~~ん! と、書類たちが宙を舞う。

 

流石に散らかす訳にはいかないので、咄嗟に風の魔法、テンペスト簡易版を発動させて、書類の束をかき集めて、暴君の傍に置かない様にポジショニングした。

 

 

「くくっ、相も変わらず器用なものよのぅ。惚れ惚れするとはこの事か」

「来てくれるのは嬉しいし、褒めてくれるのだってオレは嬉しいよ。だからかな、もひとつ我儘言うとしたら、アポイントは事前に取ってくれると更に嬉しい」

「妾が暇を持て余すのは気分次第でいつになるか知れん。ツカサが嬉しいと申すのなら、多少なりとも考えなくは無いが、如何せん不可能に近い」

「……プリシラさんに不可能って言葉があるんだ。初めて聞いた」

 

 

あはは、と笑うツカサ。

そう、やってきたのは真っ赤なドレスと、隠す事のない豊満な胸を携えた美女プリシラである。

新たに異国より取り寄せたと言う扇子を振りかざし、傍若無人を振舞うが、これもいつもの事なのだ。

 

もう、楽しんでいる節がある。

 

 

「来てくれるのが解ってたら、相応の準備が出来るし、持て余す時間も少なくて済むからね。……なんせ、最近は兎に角忙しくて」

「あの凡愚に全てをやらせておけばよかろう? 役に立たんと言うなら、アルをそこに挿げ替えるが」

「や、それはヤメテ。と言うか絶対嫌がる。スバルも、今ではしっかり表の顔として触れ回ってるし、周知もされてるから、それが突然甲冑の男に変わったとなれば、国が揺らぐ」

 

 

羽ペンを仕舞い、苦笑いをしながらプリシラと相対した。

 

 

「アレが表の顔か。ツカサも趣味が悪い。あの様な雅さの欠片も無い男を王座へと下し、その覇道、王道を歩ませるとは。―――この妾をも下し、簒奪したというのに、情けなくもなる。今すぐにでも四等分にしたくもなる」

「それされたら、オレも一緒に死んじゃうかもしれないから、ヤメテ」

 

 

真紅の瞳が愉快そうに揺れる。

言葉こそ乱暴極まっていて殺伐としているかに見えるが、プリシラと言う女性と接していると、彼女の本質と言うものが解ってくるものだ。

 

天才的な山勘が、加護によって培われている様で、彼女は彼女でその加護に胡坐をかく訳でもなく、自身の足で己の覇道を歩んでいるのだ。直ぐ傍で見ているからこそ、彼女のそう言った一面をしっかり目に焼き付ける事適ったとも言えるが。

 

 

「ああ、あの凡愚の不始末を妾が持ってきてやった事を思い出した」

 

 

何やら、胸の谷間に指を入れた。

目のやり場に困る振舞だが、何とか堪えて不始末とやらを確認するツカサ。

 

 

「あ、それは新技術だ、って言ってた……」

「うむ。らいたー、と、ぺんらいと、じゃ。持ち運べる大きさの火付け器とラグマイトを軽く凌駕する灯り」

 

 

少しイラつきながら口端を歪めると、まずはライターの先、火が出る口を見せていった。

 

 

「技術開発班からのモノを一部苦すねておいたが、火の調節に不具合があったのか、特大の火球が出おったわ」

「!!」

 

 

ツカサは思わず立ち上がって、プリシラの頬を触りながら。

 

 

「火!? 大丈夫だった!? 火傷とかッ!?」

 

 

慌てるツカサとは実に対照的に、少し呆れ半分なプリシラは手に持った扇子で軽く頭を小突き。

 

 

「妾を愚弄するでない。多少の不備で妾に何か起こる筈が無かろう。この世の全てが妾の都合よく出来ておる、と言う認識は多少改まった所で、妾の力は健在じゃ」

「そ、そっか。それはそうだよね。……良かった」

 

 

そう言うと、胸を張って、ツカサを見た。

扇子でアゴ先を上げると、その真紅の眼でしっかりとツカサの黒い瞳を見据える。

 

 

「都合が良い風に、運んだの。……こうやって、久方ぶりに、その様な面を拝む事が出来たのじゃから。愛いヤツじゃのぉ、全く」

「むぎゅっ!?」

 

 

そう言うとプリシラは、その豊満な胸で、ドレスに収まりきらん勢いの弾力あり、且つ数多の男を虜にすると言って良い胸で、ツカサの顔を埋める。

 

 

「ぺんらいと、とやらは、何やら光が安定せん。点滅を繰り返し、断続的にそれを見続けたが故に、発作を起こした者も多数でたとの事じゃ。……まぁ、大事には至らなんだ。安心せよ」

「むぎゅっ、むぐっ」

 

 

夢見心地とはこの事かもしれないが、あまりの長時間はヤバイ。窒息する。

 

……まぁ、ツカサは器用な魔法使いでもあるから、普通に大丈夫なのだが、それは平時であればの話。

 

 

 

「くっくっく。……あの凡愚も凡愚なりに立ち回っとるようじゃが、今国の重要な役目につき、それを果たして居るのはツカサ、貴様じゃ。こうやって悩殺し、結果傾国の美姫―――と呼ばれるのも良い気はするが、安心せよ。妾は気まぐれじゃ。愛いたい時に愛い、貴様を隅々まで味わいつくすだけじゃ。―――精も根も尽き果ててもらおうぞ。今度こそ(・・・・)な」

「ぷはっ! あ、ぅ…… お、お手柔らかに………」

 

 

スケジュールを考えれば……、いや、この時ばかりは考えない。

プリシラの手が伸びてくる、再びあの魔性な豊満な胸が迫ってくる。柔肌の全てが迫ってくる。

男の、オスの本能と言うものを直接揺さぶりかけてくる。

 

 

そして、ツカサはこの道を決めている。決めたのだから、決して逸らす事もせず、抗おうとも当然しない。

蹂躙しようものなら、全力で受けて立つ構えだ。

 

 

その後―――再び引き分け(・・・・・・)となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ、幾らツカサ君でも疲れるんやな。顔に出とるで?」

「うん。そりゃ、ラインハルトの様に超人って訳にはいかないよ」

「いやぁ、ウチから見ればどこからどう見ても、超人なんやけどなぁ。……でもまぁ、人間らしさも垣間見て、安心出来る気もするけどね」

 

 

ニコニコと笑いながら対面ソファに座っているのはアナスタシアだ。

ホーシン商会のトップとして、裏方役のツカサと会談中、である。

 

 

 

「今日の業務、ナツキ君も頑張っとるんやろ?」

「! 知ってたんですか」

「そらもう。ここに来る前に立ち寄ったけんね。一心不乱ってのは、今のあの子にピッタリかもしれんね。それが良い方向に進むかどうかは……まぁ、ギャンブルと同じや」

「まさか、アナスタシアさんからギャンブルって言葉を聞くとは。保険を常に残して、裏もとって。常に勝ち筋を見て必勝。運を天に~なんて、らしくないって思いますよ」

 

 

あはは、と笑うツカサを見ながらアナスタシアは微笑むと。

 

 

「そら、商才だけで全部手に入るんなら、言うつもりは無いで? やっぱ、どんだけ欲しくても手に入らんもん、ってのはあるんやし、ウチは今回でそれを悟ったんや。国、それにツカサ君、とかな?」

 

 

ぴんっ、と額を軽く押して微笑む。

 

 

「囲っとる娘たちと一緒になるんも悪くないか~、って思ったけど」

 

 

軽く鼻先に指を添えて、ツカサの眼を見ながら微笑み、それを絶やさぬ様に言う。

 

 

「ウチ、独占欲強いんや。――結ばれたら、ず~~っと、ずっとずっと、一緒に居とぉなる。そんで、ツカサ君はそれにきっと答えてくれるやろ? 他の娘らに対してもそう。何事も最後は自分の身体。金で買えんもんの1つ。大切にせなあかん。だから、こうやって遠巻きに付き合う道をウチは選んだんや。今にツカサ君よりええ男が現れるやもしれんからなぁ」

「あ、あははは……。凄く光栄ですよ。……ありがとうございます。アナスタシアさん」

「…………、まぁ、ツカサ君よりええ男なんて、それこそ届かへん領域やろうけどね」

 

 

不意打ち気味に、短く優しく、ツカサの唇とアナスタシアの唇が合わさった。

 

 

「ちょっとしたご褒美くらいは頂こうかな? 投資の件の結果報告。……事前払いって事で」

「ッ……ッと言う事は、良かったって事で良いんですよね?」

「勿論や。ウチがこの世で二番目に大事なツカサ君から預かったこの世で一番大事なお金で失敗なんかできへんよ? その辺は信じてな」

「疑った事無いです。日々、常々、アナスタシアさんから教わってますから」

「ふふ。なら、ウチも教えて欲しいなぁ」

「え?」

 

 

アナスタシアは、そっと、手を首に回して、鼻先を自らの鼻先に当てて。

 

 

「ツカサ君の弱い所、とか?」

 

 

妖艶に微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっりゃああ!!」

「はぁ」

 

 

ちょっとした小休憩。

外の空気でも吸おうと、長い廊下を歩き、バルコニーへとやって来て、深呼吸をしていた矢先の事。

 

気合一発、掛け声と共に飛び掛かってきた不審者があり。

まさか場内に不審者の侵入を許すなど、近衛兵たちは一体何をしているのだろう? 王国騎士団の練度を疑う訳ではないが。

 

 

等と、一瞬考えた。ほんの一瞬。0.1秒にも満たない時間だ。

 

 

「へへっ! 兄ちゃん久しぶりだな!」

「久しぶり、フェルト。挨拶代わりにケリ入れようとするなんて。実に過激な振舞を教えているんだね。アストレア家では」

 

 

誰がやってきたのか解るから。

誰がそんな事をするのかも解るから。

 

自由奔放、誰にも縛られず、風の様にかける少女、フェルトだ。

生憎、剣聖ラインハルトに捕まってしまった訳ではあるが。

 

 

「ほんとだよな! 今日も色々言われたんだぜ? 兄ちゃんの前でくらい一服させてくれよ」

「ラインハルトの前で我儘言えば良くない?」

「あの石頭が、聞いてくれる訳ねーだろ、兄ちゃん! 解ってていってねーか!?」

「ははは。まぁ、ね。ラインハルトとはついこの間、久しぶりに一緒に同行してもらったし、色々聞かされてるよ」

 

 

フェルトの家での立ち振る舞い。

難儀極まる淑女としての立ち振る舞い。

 

身内ネタで言えばスバルにも似通った所があるので、ツカサも他人事とは思えない様子。

 

 

「おお、あん時はほんっと助かったぜ、兄ちゃん。久しぶりにロム爺と水入らずだったしよ! ……まぁ、貧民街の方にも行ってみたかったんだが、メッチャ止められて」

「そりゃ……ね。でも、改革も順調だし、そう遠くない日に達成出来たら良い……って思ってるケドね、中々難儀で」

「そりゃ、貴族連中の意識改革? とやらが一番めんどくせーだろーよ。頭ん中なんざ、簡単に変えられてたまるかってんだ」

「うーむ。そう言われると、凄く複雑。少し変えるだけで、良い風が吹くって思うのに」

「まっ、他ならぬ兄ちゃんの言葉なら、上っ面くらいなら効果あっかもな? 年中無休で手綱握っててやれよ」

 

 

けらけら、と腹を抱えて、無茶を言いながら笑うフェルト。

ただ、上っ面だけ、と言うのは悲しくなる。

 

 

「それなりに頑張ってきたつもり……なんだけど、上っ面だけかぁ……」

「あーーー、兄ちゃんが色々やってくれてんのは、あたしにだって解るんだぜ? そりゃスゲーし、スゲー感謝もしてる。……でもやっぱ、それは兄ちゃんに集まるもんで、今までまるっきり下に見てた奴らに対して視線を変えて話せ、なんてやっぱ無理があるってもんだ。両方にとってもな」

「……時間はやっぱかかる、か」

「おうよ! ……でも、兄ちゃんなら―――って、思うあたしもいるんだよ。良い王様になって全部変えてくれって。あっちの兄ちゃんより、よっぽどやるんじゃね? って」

「うん。スバルの役までオレがする、ってなったら倒れる自信ある。ここで脱落だね」

「ええ! そりゃ困る! あーもう、あっちの兄ちゃんももうちっと頑張ってくれりゃなぁ」

 

 

あっちの兄ちゃん、と言うのは当然スバルの事だ。

波長も合うし、気もあう。嫌いって訳じゃ当然無い。

 

だが、如何せん比べる相手が……と思ってしまうフェルトである。

 

 

「スバルは頑張ってるよ。でも、満足して貰っちゃ困るから、それなりに刺激は与えてるケドね」

「……うっは。一瞬ぞくっ! ってなった。兄ちゃんの刺激ってヤツ、相当キツイんだろうな」

「そうでもないよ? 全部放り出して、亡命でもするよ? って言ったくらいで」

「そうでもあるわ!!! そんなの起きたらあの兄ちゃんどころか、国中大騒ぎだろ!!」

 

 

 

その後も、暫く談笑は続く。

軈て、ラインハルトが音もなくやって来て―――途中で抜け出した? と言うフェルトを連れて、これまた音もなく去っていくのだった。(何故かフェルトの声まで消えてる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日のスケジュールも殺人的だ。

 

 

時間を取るのも一苦労……どころの話ではない。

世の中スケジュール通りに行く方が珍しい、と言う気構えで居る方が丁度良い、と思う位あれよあれよ、と色々とやってくるから。

 

スバルに、あの霊峰を全て譲渡してなければ、今頃は―――と背筋が寒くなるが、どうにか終える事は出来た。

 

 

当のスバルは、時間指定はしたものの、まだまだ終わる気配もなく、エミリアが手伝いにいっているらしい。

時折、小休憩を取る傍ら、レムに会いにいったりもしている様だ。

 

愛する人達が傍にいるなら、スバルもきっと大丈夫だろう……、と儚げな表情……如何とも形容し難い表情をしながら、ツカサは気持ちを切り替える。

 

 

時刻は、冥日9時―――より少し前。

 

 

約束時刻より早い。

当然の心掛けだ。

 

 

軽く、扉をノックすると直ぐに【開いてるわ】と言う返事が返ってくる。

静かに、ゆっくりと扉をツカサは開けた。

 

開かれた先の光景を見て―――ほっと一息を入れる。

当初はかなり衝撃が走り、かなり動揺し、かなりの修羅場となった一夫多妻の案。複数の妻。

それを受け入れた。

 

内政と同じ位、誰にでも愛情を分け隔てなく注ぐ事を意識して、全力を尽くしてきたつもりだ。

 

高貴な血筋の男性が妻を沢山娶り、確実に血を残すのは自然な事。極めて普通な事……と、結構洗脳? に近しい事をされた様な記憶が残ってるとか残ってないとか……。

 

それは兎も角、それでもこの場所へと帰ってきた時は特別な感じがするのは否定できない。

分け隔てなく、と頭では思っていても……。

 

 

勿論、そのことはツカサ以外の皆が知っている。知っていて許容している。

いや、違う。我もが続く、と言わんばかりに水面下で競っていると言っても良いかもしれない。表ざたには殆どなってないが。

 

 

「お疲れ様、ツカサ」

「うん。……ただいま。ラム」

 

 

最初に結ばれた人が、ラムだったから。

この事実だけは、もう変えられない。

時間を遡り、戦い続けてきた身であるツカサであっても、もうそれは変えられない。……変えるつもりもない。

 

 

「ルドラは……よく眠ってるみたい、だね」

「ええ。今し方ね。また大泣きして大変だったわ。……ほんと、そこだけはラムに全く似なかったわね」

 

 

生まれてから直ぐに妹を助け、神童と呼ばれていたラムの幼少期。

とんでもない記憶力は、当時の事を鮮明に覚えているのだ。

泣く事なくただ気善と振舞い、そして妹の為に力を振るう。そんな赤子がラムだ。

 

 

「……あはは。それは誰にも真似できないと思うよ。ラムだけ唯一無二だ」

 

 

ツカサも勿論それは知っていて、知っているからこそ苦笑いをする。

ルドラは生まれてきた時も大泣きする。気が付いた父と母を探しているのか、オシメか、大泣きをしているからてんやわんやだ。専属のメイドがそれなりにフォローをしてくれるが、それでも四苦八苦。

 

親を知らないツカサは、自分自身が父親になれるのかどうか不安で仕方が無かったが、愛おしい子を、ルドラを見ると。……ここに生きた証である我が子を見ると、命賭してでも守り抜くと言う新たな力が湧いて出てくると言うものだ。

 

 

ルドラを起こさぬ様に、ラムの傍らに座る。

 

 

「ほんと、大変だったわね。ツカサはもうツカサ1人のものじゃないのだから。気をつけなさい。……ラムやルドラに心配を掛けさせないで」

「うん。ありがとう。……大丈夫だ。ラムとルドラが居る限り、オレはなんだって出来る。……無敵で、最強だって思える」

「ふふ」

 

 

ラムは両手を広げた。

 

 

「ルドラが独占していたラムの胸は、今開いてるわ」

 

 

そう言うのとほぼ同時にツカサはラムに抱き着いた。

丁寧に優しく、包み込む様に。

 

 

「なかなか一緒に居られなくてごめん。………ラムこそ、ラムの身体はラムだけのものじゃないんだから、気を付けて。ラムたちに何かあったら、それこそオレは心労で倒れてしまいそうだよ」

「大袈裟ね。ラムは大丈夫よ。勿論、ルドラも。……それに」

 

 

ラムは腹部を摩った。

もう1人―――新たな命が芽吹き、ラムの中にいるのだ。

 

愛おしそうに一撫でし、ツカサもそのラムの手に自身の手を添えた。

 

 

「ラムが手を貸せない現状、正直もどかしくはあるわ。ツカサは大丈夫でも、お荷物がいるから」

「手を貸せないんじゃなくて、貸させない(・・・・・)だからね? ラムが強いのはオレが一番よく知ってるし、大丈夫だって言うのも解るけど。それでも駄目。これはオレの我儘だから、終わったら、オレを怒って良いよ」

「……ツカサの我儘なら、誰もが聞いて上げたくなるのは当然の事よ。……このラムでさえ、ね。だから怒る理由が無いわ」

「ありがとう。だから、ラムは暫く休む事。………ふふ。ロズワールさんの所の時とは大違い、だね」

 

 

昔の事を思い出して思わず吹いてしまうのはツカサだ。

眠っているルドラを起こさない様に配慮はしたが。

 

 

「あの時は、レムやオレにまで色々任せる事が多くてさ」

「ラムはラムで楽をする為に、死力を尽くしたと言って良いわ」

「うんうん。いつもブレない前向き思考。……そんなラムが大好きです」

 

 

そっと口づけを交わした。

ラムの弱い所を、ツカサは知っている。

 

ラムは不意打ちに弱い。まさかのタイミングでラムを求めたら……顔がいつも以上に赤くなる。

そして、それはツカサも同じだから。赤くなったツカサを見て更に色を濃くさせるのだ。

 

 

「「―――ん」」

 

 

暫く見つめ合い、長く長くそれぞれが唇を求め合う。

舌を絡ませ合い、互いの口内を己の色で染め上げる。

 

 

長い長い時を経て―――2人は唇を離した。

名残惜しそうに、2人の間には半透明の糸で繋がっている様だが。

 

 

「これ以上は駄目、ね。もっともっと愛し合いたくなってしまうもの。……フェリスにも止められてるし」

 

 

ラムの中では自制した結果の様だった。

そんなラムを見てツカサも朗らかに笑った。

 

 

「でも、離れたくない」

「……ラムも同じよ」

 

 

 

 

互いに絡み合いながら、ベッドの中へと潜り込む。

激しく愛し合いたい衝動が、幾分かラムの中で暴走して、それが額のツノとなってしまった場面が幾つかあったが、しっかりとツカサが自制した。

無論、ツカサ自身も男なのだから、自制したとしても反応する所はあるが、それをラムが見逃す筈もなく―――。

 

 

 

色々と自制しつつも、相応に熱く燃え上がる夜が部屋の中で繰り広げられるのだった。

 

 

 




起こりえるかもしれない未来―――デス!(((o(*゚▽゚*)o)))

まぁ、先はワカリマセンが(゜-゜)

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