Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
でもまだ………(´;ω;`)ウゥゥ
怠惰怠惰怠惰ぁぁぁ(゜-゜)
2人の男が視界から遠ざかってゆく。
それを口に出したはずだ。口に出し、望んでいる様に伝えた筈だ。
新たに出来た友。……ひょっとしたら、悠久の時をにーちゃと慕うパックの様に、1番にはなれないかもしれないが、共にあれるかもしれない大精霊クルルを突き放してまで。
「――――――」
扉が開かれる。
そこを潜れば、もう入ってこれない。
この屋敷……いや、村から出ていくというのなら、もう二度と帰ってこない可能性だって大いにありうる。
不埒者だと一蹴したが、魔女教が齎してきたものが一体どれ程のことなのか、ベアトリスは知っているから。
もう―――二度と………。
「――――いか………」
ベアトリスは手を伸ばした。
その姿を、2人の男たちが見たのなら、きっと踵を返して戻ってくるに違いない。
声が届いたのなら、戻ってくるに違いない。
だが、ベアトリスはそこまで。それ以上先へは進まなかった。
「―――さよなら」
別れの言葉を告げる。
聞こえたとは思わないが、なんの因果か、あるいは単なる偶然なのか、その言葉を発した直後に空間は歪みを見せた。
それ即ち、もう2人は扉の先へと行ってしまったということ。
ベアトリスは2人がいなくなったら、禁書庫との繋がりを強制的に断つつもり……だったのだが、マナを練ることがなかなか出来ない。
頬に涙が伝う。
なぜこんなものが流れると言うのだろうか……?
望み通り、出て行った筈……なのに。
「―――お母様。ベティーはいったいいつまで………。おかあ、さま。おかあ、さま」
それはまるで縋るように。迷子になった幼子のように。
クルルを抱いていた腕の中には、再びいつもベアトリスが持っている分厚い本が収められている。
もう誰にも届くことのない世界から隔たった空間で、ベアトリスの悲痛な声が静かに響く。
彼女の本当の願い。
それを聞き入れる者は誰もいない。
叶えてくれるものもいない。
ただただ、腕に抱かれている黒い本に問いかける。
そして―――何も答えてくれることはなかった。
「どわぁぁぁぁぁ!!」
「っ、っと」
普通に歩いて扉から出た筈―――だったのだが、突如宙に投げ出されてしまった? ような感覚に見舞われる。
ペトラの家の扉から禁書庫へと入った筈。だから、出ていくとしたら、そのままペトラの家から出る筈なのだが……。
べしゃっ! とスバルは転倒。
ツカサは何とかキープ。
空間を超えることによる歪みか、感覚がおかしくなるのか、兎に角変な感じがした。
ロズワール邸とは勝手が違うと言う事なのだろうか。
「君にはたびたび驚かされるよ。スバル。突然光と共に出てきたは良いが、よもや地に飛び込むとは思いもしなかった」
「うっせーー! 好きでダイブしたわけじゃねーよ! 兄弟と比べてんのなら今はまだ修業期間中だ」
「そうか。……なら、私も似たようなもの、なのだろうね」
ふっ、と笑いながらユリウスはスバルの手を引っ張り上げた。
「ユリウス。ネクトで視ていてくれてると思うけど、オレのテンペストに変化はあったかな?」
「いいや。大丈夫だツカサ。まだ動きはない」
「了解。………」
いつもであれば、ツカサの方が先にスバルに手を差し出し……となりそうな場面なのだが、どこか心此処にあらずと言った様子だ。
その様子だけでもよくわかる。
「そろそろ、時間も迫ってるね。ラムたちにも再確認しておくよ。あ、スバル大丈夫?」
「ああ。また戻ってきたら、ベア子にドリルびょーんの刑にしてやろうぜ兄弟」
ツカサは、そうだね、と笑いながらこの場を離れていった。
「……上手くいかなかったのだね?」
「ああ。だめだったよ。どっちが強情なんだっつーの、って感じでよ。兄弟……、ツカサの方はまぁ、結構気にしてると思うけど、まぁその辺は大丈夫だって思って良い。オレみてーに引きづったりしねーからよ」
「そこは疑ってはいないさ。無論、彼の背は守らせてもらうがね」
「け―――っ! オレだって修業明けにゃ、現代知識駆使したチートプレイしてやっからな!」
軽口で誤魔化しているが、スバルも相応に気にしている。当然だ。
だが、大人であろうとした事と、ツカサの事も考えているから、いつもな軽口男っぷり、空気読めない発言男っぷりを発揮するに至ったわけだ。
スバルもそうだが、どちらかといえばツカサの方。
ベアトリスを連れていけなかったのは、これで2度目になる。
最初は、ラムを――――ラムをあの絶望の袋小路の場面から連れ帰った場面。
ラムばかり意識してしまって、忘れがちになりそうな気もするが、あの場にはベアトリスもいたのだ。
ラムも一緒に連れていく時に、複数の
ベアトリスは 何も言わなかった。過去に戻るような力を示唆しだした時、唖然とはしていたが、口を一切挟む事はなかったのだが、ただただ悲痛な表情をしていた。
今回のそれと何ら変わらない。
「うーむ、やっぱり駄目だったんだね」
「パックか」
ひょっこりとユリウスの後ろから現れたパック。
ひげを触りながら、土まみれになってしまってるスバルを見て……少し疑問。
「あれ? 手酷くベティーに追い払われた、って感じじゃないね。ほんとにただ転んだだけ? なんで?」
スバルにグサッッ! と突き刺さる一言を、この見た目愛玩動物は、言ってのけた。確かにすっころんだだけだ。恰好は最高に悪い。
流石は、癇癪で世界を滅ぼす様な化け猫だ。腹黒い。
「あーあー、ユリウスに次いでお前もかよ、パック! ったく、兄弟くれーじゃねぇか。情けかけてくれてんのは」
「……まぁ、彼は優しい。優しすぎる所あるし? 今もベティーの為に心じゃ泣いてくれてるのがわかるしね」
「……オレも同じ気持ちだ、ってだけ言っとく。……クソ、契約、契約か。一体何処の誰が、あんな小さな女の子を縛りつけてるってんだ」
ヤキいれてやる、と憤慨するスバルだったが。
「結構実力つけて実行しないと、超あっさり返り討ちに合うだけだよ、ってだけ言っとくね? 契約についてやその他諸々、僕から話す事は出来ないし、ベティーの件については、ここまでにするよ」
「わーーってるよ。……契約ってもんは、パックやベア子。お前らみてーな、すげー精霊を縛る程重いもんだって、実感してっからよ。……最近のオレが聞きたくない単語ランキング1位になっちまってるけどな」
この2人の不思議な男の子たちは、本気で心配をしてくれているのがパックにはわかる。
片方は、相応の力を持ち合わせているからこそ、出来る事、と理由付けすることが出来そうだが、もう片方は吹けば飛んでいくような弱者だ。自分の身すら守るのも難しそうな一般人が、戦場に赴いて、他に気に掛けるなんて、そうそう出来る事じゃない。
勿論、巨大な力を持つもう片方の男の影に隠れて……であれば、出来なくもないと思うが、そういう気配はもう見えない。
修業、と本人がいうように強くあろう、強くあろうとしているのがわかるから。
そうしないと――――救えない事がわかっているから。
そんな不思議な男たちだからこそ、パックもある程度は歩み寄るのだ。
「大丈夫だよ。ベティーが禁書庫に残るのはさ。悪い案じゃない。知らずにベティーの【扉渡り】を破れるとは思えないし、屋敷の中なら自衛の手段だってある。残るって決めたベティーを信じてあげて」
「あいつに何度ぶっ飛ばされてるって思ってんだ。今更力量を疑っちゃいねーよ。……ただ、オレは連れ出したかった。あんな悲しそうな顔をする女の子をほっておけなかった。駄目かよ」
「ダメ、とは言わないけど、我を通すのなら、わがままを通すのなら、相応の力が必要だよ。……ツカサだって連れ出す事はしなかった。つまり、足りなかったって認めたって事でしょ? 君が目指してる頂にいる彼が引き下がっても尚、君はわがままを通そうとする? まだまだ半人前以下なのに?」
「――――大精霊様」
容赦のないパックの発言に、こわばりを見せるスバルを見て、これまで黙っていたユリウスだったが、口を挟んだ。自身が以前スバルに突き付けた現実ではある……が、前に進もうと足掻き、前進をし、認め始めている男を少しでも……と。
そんなユリウスの事を、パックはわかっていたのだろうか、その長い尻尾を抱きしめてスバルに告げる。
「ごめんね。別に意地悪をしたいわけじゃないんだ。君たちには感謝してる。ベティーの事もだけど、リアの事も。ホントだよ」
「大精霊様のお言葉は確かに辛辣ではある。……だが、真理だ。受け止め、前に進むしかないだろう。今、君が兄弟と呼び、目標と定めている男の様に」
スバルは顔を上げた。
ほんの少しだけ、下を向いている間に、もうツカサは次にできる事を、しなければならない事を実行しているのだ。
無力を理解して、それでも進んでいるのだ。
ならば、止まってなどいられない。
「そろそろ、だったよな? 合流すんのは」
「ああ。まだ、かの風には変化はないがそろそろ……む」
テンペストに反応があったのだろう。ユリウスは顔を顰める。
そして、それは離れた位置にいたラムやツカサも同じ。
少し速足で、ラムとレム、そしてツカサは戻ってきた。
「捉えたわ。森に入る一団を確認。……あの間者もね」
「うん。オレも視えたし、感じた」
もう、後ろを向いている暇はない。
ここから先は、ミスをするわけにはいかないから。
「あとで、ベア子にはお仕置き悪戯100連発だ。計画を実行に移そう。行商人たちと合流して、村のみんなを避難させる。エミリアに聞かせるシナリオは話した通りだパック。よろしく頼んだ」
「ん。大丈夫。オレは悪戯なんかするつもり無いけど。皆は勿論、村にも屋敷にも手は出させない。封殺して、
あの優しいツカサが、凶悪な表情を作る。それに戦慄を覚える――――者はもう誰もいない。
魔女教に対して、並々ならぬ憎悪を持つ事をもう知っているからだ。
「ベアトリス様にいたずらするだなんて、とんだ変態野郎ね、バルス」
「ぅおい! いい感じで意気込んだんだから、水ささねーでくれよ、姉様! つーか、オレはロリコンじゃねーからな!」
「大丈夫です! スバル君は素敵です!」
「レムの無条件ベタ褒め、突き刺さる心に優しくて、嬉しいのは嬉しいが、ちょっち恥ずい!!」
「ふふ」
盛大な抗議を入れたスバルだったが、いい具合に力が抜けたのも事実だ。
無論、ツカサも例外ではない。ベアトリスの事魔女教の事、余計な力が入ってしまっていたから。
だが、今はもう皆柔らかい表情だ。
「よっしゃ! パック! エミリアはこの小一時間、外の事は気づいていない。それは間違いないんだよな?」
「うん。それは大丈夫だよ。ぐっすり……ではないけど寝てるから。心労の方が心配だったから、ボクがちょっと多めにマナを吸って寝かせておいたんだ。それにほら。ひょっとしたらスバルが氷漬けになってたり、連中に串刺しにされてたり、細切れにされてたりして、それをリアが見つけたら、ショック受けちゃうかもでしょ? それは可哀想だから。―――リアが」
「おめーまでブラックジョークすんのやめれ!」
少々小言が長い気もしなくもないが、許容範囲ではある。
「フェリスやヴィルヘルム様、鉄の牙の皆、そして村人たちも心の準備はできている。あとは、君の始める号令を待つだけだ。……無論、私も同じだ」
力強くうなずかれ、スバルは村の中央へと目を向けた。
皆も同じくスバルに視線を向ける。
沢山の命を背負っているのだ。例え兄弟……ツカサが一緒であったとしても、掛かる重圧はとてつもない。
だが、それでも譲れないものはある。
ベアトリスに対するわがままは通らなかったが、ここからは必ず通す。
「始めるとしようぜ。……希望の悪巧みってやつを実行するために。――――作戦
エミリアを送り出し、憂いを消し、気持ちよく魔女教を殲滅するために。そのお膳立てをここから始めよう。
パックがいう通り、彼女の今朝の瞼は異様に重かった。
単純に寝不足気味だから……という理由もあるだろうが。
エミリアは差し込む日の光が瞼に当たり、微かに感じる痛みを体で受けなければ、きっと目覚める事もなかっただろう、と実感しつつ、目を覚ました。
「もう、朝……なんだ」
何度か瞬きをする。まだ夢現な気持ちではあるが、やらなければならない事が多い。
王選が開始され、ここから始めるのだと意気込んだは良いが問題があまりにも多い。
自身がハーフエルフだという事もあるが、その他には、突然クルシュ陣営との同盟の親書を受け取った事も拍車をかける。
なぜクルシュがと思ったが、すべてそこに書かれていたのだ。
◇ エリオール大森林の魔鉱石の分譲
◇ 英雄ツカサとの懇意
話し合いも何もする間もなくすっかり纏まってしまっている事に蚊帳の外のような疎外感を感じるが……そうもいっていられない。
書状の中には、巷で話題に上がっている盗賊団の名も刻まれていたからだ。
民を脅かす存在であり、共にとらえなければならない敵である。
そのために自衛、出来うることをと忠告を受け取っている。
その盗賊団の残忍さは王都でも有名で、集落全滅、女子供問わずにといった事例も報告されているので、アーラム村の皆も標的になりかねない。
だからこそ、フレデリカと共に見回りを増やし、アーラム村にも避難経路として屋敷へ向かってほしい旨を伝えたのだが……、そこでも―――――。
「わかってたつもりだったけど……、ほんとに、つもりなだけ、だったんだ私」
認識阻害のローブはここにはない。忘れてきてしまった。
あれは一着しかないから。
いや、それは単なる言い訳だ。
王選が始まった今、身分を偽ってこのメイザース領に留まる事はない。
隠れて、明かさず、その期間は終わった。始まった瞬間に終わった。決意の証として、あのローブを置き去りにしたのだ。
だが、結果は―――村人から拒絶をされてしまった。
ローブをしていた時は、楽しくお話をしていた人たち。
ローブだけじゃない。………スバルやツカサと共にいれば、本当に心から安らげて………。
「だめ。そんな弱気でどうするの、私。……スバルだって、ツカサだって、頑張ってる筈だもの。それに、ツカサに言われたように……スバルと、しっかりお話するためにも、頑張るって決めたんだから」
躓いてはいられない、と強く握りしめた。
拒絶された。村の総意だと言われた。心に深く傷を残したのは事実。
それから目を背ける事なんかできない。
でも、あゆみを止めるわけにもいかない。
「リア。朝から眉間に皺が寄ってるよ? やる気満々! なのは良い事かもだけど、それじゃ、かわいい顔が台無しになっちゃう」
そんなときだ。
ふいに声をかけられた。その相手は当然パック。
「おはよう、パック。今日は早いのね」
「おはよーリア。早寝早起きを心がけようと思ってね?」
「?」
朝の何気ない会話だった……が、長年共にあり、父と娘と言う程の信頼関係を持つ2人だ。
ほんの些細な違いだったとしても、エミリアは勘づく事が出来る。
「――――何かあったの?」
「んー、ばれちゃった? それは嘘。本当はリアの事が心配だったから。最近じゃいろいろとあったし。村での事だって大変だったでしょ?」
微妙に歯切れが悪い、と思ったパックだったが、エミリアは村での拒絶の事を思い返し、パックへの疑念はすぐに消えた。
心労と寝不足。クルシュ陣営との突然の同盟にも当然驚いたが、やはりすべてを占めるのはその内容と村人の事だ。
恐怖と否定、残酷な言葉こそなかったが、見えない刃となってエミリアを刻んだのだから。
「大丈夫。もとからわかってたこと、だもん。だから私は、信頼して貰えるように。安心だって思ってもらえる様に。―――もっともっと頑張るんだけなんだから」
「ん―――、わかっててもさ? ほら、例えば転ぶってわかってても転んだら血が出ちゃうし、小さな傷でも積み重なっていけば痛くなっていくんだよ、リア。結果はわかってても、それを実際に味わう事とは別だってボクは思うな。頑張るっていうのも良い事だけど、リアの身体が第一だよ」
カラ元気で、強引に無理やりに、と無理しているのがよくわかる。
「でも、それでも私が頑張るしかない、って思うの。皆に強制するなんて、したくないけど、安全を考えたらそれも……。……パックはわかる? 頑張る以外に、どうしたら良いのか。……その、なにを、どう頑張ればいいのかとか……。皆にも安心で、幸せで…………」
頑張る、という言葉は使っていても具体性がない事はエミリアも理解しているようだ。
ただただ、頑張るという言葉を免罪符に、無茶をし続ける事がわかる。
だからこそ、ここ数日は大変だった。傍にいるパックだからこそ、よくわかる。
「ん―――。ボクがいえるのは、やっぱりリアの好きなようにすればいいんじゃないかな、って事かな。リアが無理して、無茶して、体壊しちゃうのなら、その前にぜーーったい止めるけど、したいことは、リア自身が決めて。それで、ボクはリアが何をしようとずっと味方だから。リアの邪魔する相手はボクの敵。それだけかな」
誰よりも心強い味方の言葉ではある……が、現状を打破することを望むエミリアにとって慰めにはならなかった。予想していたし、具体的な事を、提案をしてくれたら……と甘えたくもなってしまう。
パックの事はよくわかっている。
自分自身のみで完結し、完成してしまっている。
だから、エミリアが望む事、自分以外の安寧、それはすべて二の次になってしまっているのだ。
「取り合えずさ。どうするにしても、あの村の事はほっておけないんだろうし、まずは金髪の子の報告を待つ事だと思うよ。今朝、村に向かってるって聞いてるし」
「え? フレデリカが? あの子もずっと休んでないはずなのに!」
「ふふ。あの子は、他の青髪の子や桃色髪の子の先輩だからね? 二人がいないときはより張り切っちゃうんだって。それに自分の事は自分で管理できるだろうし、大丈夫だよ」
パックの冷静なフレデリカの評価を受けて、自分よりはるかに出来るんだろう……と思わず自己嫌悪になってしまう。
幾ら寝不足とは言ってもフレデリカは起きて村へ行っていて……方や自分は寝過ごしている。自己管理ができてない、と言われてるのと同義だ。
しっかりしないといけない、とやっぱり思う。
「……パックだけだったら、私もっともっと落ち込んじゃってるって思う。でもね」
エミリアは、落ち込む度に、思い出すようにしてきた。
今もおそらく頑張っている2人の事だ。
「パック以外に、私の味方なんだって。ハーフエルフだってわかってても、私の味方だって。頼って欲しいし、助けてほしいって言ってくれた人がいるもん。―――スバルからは、直接聞けてないけど。私、まだまだ頑張れるんだから」
「むむ~~~、おとーさんとしては、複雑な心境なんだよね~。ウチの娘。もっとこう、わる~~い、感じの男の子に簡単に騙されたりしない?」
「そんな事、ありません!」
エミリアはむくれたが、それでも先ほどの表情よりは良い。
そうパックは思い直した後、……作戦開始。
「―――おっと、リア。屋敷に誰か戻ってきたよ」
「フレデリカ。村のこと、聞いておかないと」
頑張る、と両拳を握りしめて、エミリアは手早く着替えて部屋を後にする。
普段は、エミリアの身嗜みにうるさいパックなのだが、ここ数日間は細かい指定はしてない。気遣わせている……とエミリアは思っていたりするが、今日に限っては微妙に違う。
そういったほの些細な差異に関しては、さしのエミリアも気づく事は出来ない。
「あ、ボクはちょっとベティーの顔を見てくるよ。何かあったら呼んでね?」
「えっと、うん。わかった。ベアトリスによろしくね」
廊下を出てすぐに、パックはベアトリスの元へ行く、と言い残して別れた。
先ほどのやり取り―――エミリアが知る由もない事ではあるが、二人とやり取りをしたベアトリス。パックがそれをお願いした立場でもあるので、あとフォローは入れておかないといけないだろう。
自然に分かれる事が出来たので、色々と好都合でもある。
「……ベアトリスとも、戻ってから一度も会えてないな。やっぱり、2人を王都に置いてきた事、怒ってるのかな。それにクルルも一緒、だし」
ベアトリスは、エミリアの目から見れば2人のどちらとも仲が良かった。
とりわけ、精霊クルルとの仲の良さは、一目見れば明らかで、あそこまでベアトリスがはしゃぎまわるのは、パックと共にあれる時だけだったから、エミリア自身もうれしく思っていたりした。
そんな2人と1匹を置いて行ってしまった事が、許せないのかな……、そう思うようになってしまったのである。
だが、今はそれどころじゃない。
一息つく為にも、ベアトリスと話をする為にも、頑張るしかない。
そう思い直し、エミリアはフレデリカの元へと向かう。
「―――エミリア様。おはようございます」
ホールにエミリアがつくと、直ぐにフレデリカの顔が見えた。
優雅にお辞儀をし、いつ見ても立ち振る舞い見事なフレデリカ。
今日もフレデリカの姿からは、疲労の色は一切見受けられない。
こういうところが自分と違うんだ……と自己嫌悪と学ばなければならない、と言う意欲を同時に合わせ持ち、頭の中でぐるぐる考え込んでいた為、エミリアはすぐ隣の人物に気づくのが遅れてしまった
「エミリア様、お客様がお見えになっています」
「えっ」
フレデリカの方へと歩いていく際も、ずっと考え事をしていた。
そのせいで、言われるまで気づけなかった。
「エミリア様、突然の訪問をお許しください」
一段とたくましい体格をした老齢の男が立っている事に。
場面は変わり―――森の中。
「ラム。絶対無理しないでね」
「大丈夫よ。ツカサもラムと一緒に居た方が、色々と燃え上がるでしょう?」
「あ、あははは。……うん。そうだね。まずは害虫駆除からやろうか」
ツカサのテンペストとラムの千里眼。
合わさったこの警戒網を潜り抜けるのは、最早魔女であってもできはしない、とラムは思う。
事実、魔女教が動いたのがわかったからだ。
1人はあの洞窟から飛び出してきて。
もう1人は、森の中で待機していて。
行商人に扮したあの男が動く様子はまだ見せないが、事前に配置するつもりなのだろう。
更にもう1人、1人……ガサガサ、とまさに害虫の様に群がってきている。
スバルに聞いた話だが、こういう不快感を持つ害虫の名をGと言うらしい。
Gは決して好きになれない、消滅させるべきものだ、とツカサは改めて思った。
そんな害虫が複数人揃い、アーラム村を目指しているのが解る。
作戦遂行の障害にならない為にも、ここで求められるのは気付かれずに殲滅。
静かに忍び寄り、その命を絶つ。
本来なら、ラムは聖域避難組と共に行動を―――だった筈だが、大規模な戦いにならない小競り合いなら大丈夫だ、と自己申告をした。
当然、フェリスは難色を示し、無論ツカサも同様だったが、ラムが押し切った形である。
「ラムには指一本触れさせないよ」
「大丈夫よ。ラムも触るつもりはないわ。ラムに触るのも、ラムに触れて良いのも、もう塞がっているもの」
足りないマナは、クルルを介した新たなるマナで代用する。
極小のマナだけで、相手の急所、首の頸動脈を裂く。
離れた位置ではユリウス達が始末する。
静かに、一言の悲鳴さえ上げさせず、ただただ、その命を奪っていく。
例え小規模だとしても、万が一にでも散って村人や自分達に被害がないように、少数精鋭で殲滅していった。
「―――――ん。エミリアさん、かな」
「ええ。バルスがちゃんと騙して連れてきた様ね」
あらかた殲滅し、森で動く者はもういない状態にした後、再びテンペスト・千里眼を発動させる。
作戦通り、エミリアは屋敷から出てきたようだ。フレデリカ、ヴィルヘルム、そしてローブを身に纏ったスバルも一緒。
「一度戻ろう。ラム、お疲れ様」
「ええ。……この程度なら、この後もツカサについて行っても問題ないわ。まったく」
「……ごめん。いや、お願い。お願い、だから……」
「……ふふ。冗談よ。だから、そんな悲しそうな顔しないで。ラムは離れたくないけど、ツカサのそんな顔を見たいわけでもないから。……心配をしてくれているのは嬉しい」
ラムの言葉にほっと胸を撫でおろす。
「心臓に悪いよ。スバルじゃないけど、悪趣味な冗談はやめてくれると嬉しい」
ツカサは苦笑いをしながら、ラムにそう告げるのだった。
「ユリウス、フェリス。ネクトでもう既にわかってると思うけど、誰もいないから、一度村に戻ろう」
「ほいほーい。やー、ツカサきゅんってば、素早く殺っちゃって、その後の死体処理までバッチリじゃん? ほんとどっかの国の暗殺者だったりする? って思っちゃうよ」
近づいて、氷漬けにして砕く。もしくはラムの様に鋭利な風の刃で命を両断する。色々な手段を取ってきたが、フェリスがいうのはその後だ。
ジ・アースを利用して簡単な地形操作をし、エクスプロージョンで火を起こして燃やして土中に埋めた。痕跡を限りなく残さないやり方だ。
これなら、万が一 警戒を解いた時にここを通った魔女教の連中がいても、気づく事はないだろう。
「さすがにそれは人聞き悪いよ………。一応、ルグニカの偉い人から、勲章みたいなの、受け取ってる身分なんだけど……」
「勲章みたいなの、じゃにゃくて、勲章にゃの。文句なしのこの国でいっちばんすっごいやつ。フェリちゃんも欲し~~。クルシュ様がほめてくれるにゃ~~」
「ならば、団長のいう通りに従い、騎士として武勲を積み重ねていくしかないだろうな。フェリス」
「にゃにゃ! それはちょっと~~―――――……」
ユリウスのいう事も最もなのだが……、フェリスには何やら色々あったのだろう。
フェリスの様子を見ていたらわかるというものだ。
だが、ツカサは特に突っ込む事はしなかった。
「フェリスの意見はともかく、私もツカサを見てまだまだ学ぶべき事が多い、と思える。日々精進だ」
「光栄だよ。本当」
――――そして、エミリア達が村に到着した後少し遅れて、ツカサ達も戻った。
因みに、スバルはエミリアに帰ってきた事を明かす予定はない、としてる為、自ずとツカサ自身もエミリアとの再会は後回しにしている。
連鎖的にレムとラムも同様なので、エミリアはこの場に4人が戻ってきている事は知らない。
そんなエミリアが今、困惑しているようだ。
また、スバルが何かしたのか? と思えたがどうやらそういうわけでも無さそう。
いや、困惑している、と言うよりは驚いている、と言うのが正しかった。
「―――よろしくお願いします、お姉ちゃん」
エミリアの前には、村の子供たちがいる。
どうやら、今 竜車に乗るように促されている様だ。
子供たちと共に。
「………なるほど。小賢しくも、少しは考えている様ね、バルス」
その意図を一番最初に理解したのはラムだった。
「あ……、そういう事か」
少々遅れてツカサも納得。
「やっぱりスバルは良い男だ。ね? ラム」
「ラムにはツカサがいるもの。バルスなんて眼中に無いわ」
「………それは、嬉しいんだケド、流石にスバルが、ね」
可哀想……と思うツカサだったが、ラムは意見を曲げない事もわかるので、最後まで言い切るのではなく、ただただ苦笑いをするのだった。