Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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怠惰⑧

 

 

「ユリウス!」

「うっおぉぉっっっ!??」

 

 

虹が黒を払ったその衝撃がスバルの身体を揺らす。

いや、揺らすどころじゃない。少しでも気を抜けば吹っ飛ばされてしまいそうな勢いだった。

 

スバル自身も帯刀していた為、剣で堪える事が出来たのとクルルの加護……もとい、風を纏っていて多少なりとも防護壁になったのが幸いした。

 

 

 

全てを消滅させる勢いの極光……そう見えたが、どうやら終わらせた訳じゃないようだ。

 

 

スバルの目にさえ見えた、ツカサは勿論、ユリウスにも同じくわかっているだろう。

 

 

不可視の手、魔の手を両断する事は出来たが、ペテルギウス本体に届くまでに、身を躱された。束ねに束ねた手だったがゆえに、それを犠牲にし、回避していた。

犠牲と言っても、切っても生えてくる。ペテルギウス本体を倒さなければ何度も蘇ってくる仕様の様だ。

 

 

 

「全くお前ってヤツは!! どーせそんなデカいのカマすんなら、背後から盛大にやっとけってんだよ!」

 

 

 

 

 

アル・クラウゼリア。

 

六属性のマナを束ねた虹の極光。

まさに正義の味方、王道騎士様が使いそうな光の御業。スバルの中のイメージにドンピシャリな一撃だ。

ツカサの漆黒を纏った力、黒の剣技も凄まじく惚れ惚れすると言えるが、最高の騎士であり、エミリアと言う光を護る剣として、イメージに嵌るのはどうしてもこの虹の剣だ、と認めたくないがスバルは思ってしまう。

生憎、属性はどちらかと言えばスバル自身も黒(陰)なのだが。

 

 

「申し訳ない。背後から斬る、少々気が引けたのでね。ただ、正面からでも背後からであっても、あの妙な手で身体を覆っている以上、致命傷は見受けられないだろう」

「そうだとしても、ヴィルヘルムさんなら、ズバっとやっちゃってくれてたと思うんだけどなぁ、んで、お前はやっぱ想像通りだよ」

 

 

悪態をつくスバル。

だが、その悪態は単なる誤魔化し、()だ。

 

そしてペテルギウスはユリウスが言っている様に、あの手が障壁となり、本体を両断するまでには至らなかった様子。だが、その衝撃をも完全にいなす事など出来る訳がない。

吹き飛ばされて背後の元洞穴、その成れ果ての岩肌に衝突して転がっている。

 

 

「やはり、ツカサ。君は驚かない様だな。未来(さき)を視通す君の眼に、私の姿は映っていたのかい?」

「ああ、勿論。視えていた。……これだけは言わせて」

 

 

改めて、黒の剣を構えながら、ツカサは言った。

 

 

良かった(・・・・)よ」

 

 

ユリウスが合流する、と言う話は事前に上がっていた。

 

作戦上では、スバルの事もあり【指先】の殲滅後に、ペテルギウスを討つという手筈になっていたが、その凶悪性、魔女教の幹部と言う事もあって、当然 厳選しなければならないだろう。

 

不可視の手を見る事が出来るツカサ、そして同じくあの手を見る事が出来、本人の体質、魂の乗り移り先であり、魔女教の懐深くに容易に入り込む事が出来るスバル。

 

この2人がペテルギウスと対峙する事は安全・完全勝利への絶対条件だったから。

 

だからと言って、2人にすべてを任せて良し、とする訳にはいかずに名乗りを上げたのがユリウスだった。

 

 

「ああ、それは私も思う。君の隣で王国の為に、――――世界の為に、戦える事を私は光栄に、そして誇りに思う」

 

 

ユリウスは、虹の極光を剣に纏わせながら、ツカサのそれに応えた。

 

ツカサは良かったよ、とまるで心配の言葉を口にしたが、それは決してユリウスの事を侮ったり軽んじたりしている訳ではない。英雄と称される程の力を持つツカサ、その庇護下に置かなければ皆が心配だ、と聞こえる者もいるかもしれないが、それは決してない。

 

そもそも、心配など皆無なのだから。ここへユリウスが来る事に対し、疑いの余地はない。

 

 

「後もう少しでも、私がここに来るのが遅ければ―――すべて終わっていたのだろう?」

「………そう、かもしれないね。怠惰(アレ)を始末するのに、待ってられないって思ってた」

「ふっ。確かにそうだな。ならば、私はこう言おう。間に合って良かった(・・・・・・・・・)、と」

 

 

ツカサの魔女教に対する憤怒は、底知れぬモノがある。

魔女教に対しては、憤怒よりも怖れの方がどちらかと言えばこの世界には大きいだろう。それほどまでに、世界に被害を、厄災を齎してきたのだから。

 

そして、ユリウスはツカサの未来視の力の一端を経験した事で、ツカサの憤怒の根幹を知れた気がした。

 

未来を旅すると言っても良い権能。

 

恐らく魔女教が齎した破滅(・・・・・)を視たという事なのだろう。

それがもしも、彼に近しい者たちであれば? このメイザース領の村を、エミリア陣営を亡き者にしていたとすれば?

 

 

彼の変貌と言って良いその姿勢、その辻褄が合う。

 

 

 

 

 

「おうコラ!」

 

 

ここで、忘れられてないか? とスバルが2人に愚痴を零し始めた。

 

 

「そりゃ、オレだって乞うご期待っつっても、イキナリボス相手に出来るって思ってる程バカなつもりはねーけどなー。オレだっているんだぞ、ユリウス! 忘れてねーか?」

「? おかしな事を聞くものだねスバル。君程特徴的な男の事を、忘れるなどと、私には出来る自信がないよ」

「よーし、それ絶対褒めてねぇな!?」

 

 

ユリウスは、スバルの方を見た。

奇しくも、あの時刃を向け合った者同士が、3人共が同じ方向を見て、刃を構えている。

 

ユリウスは薄く、笑みを零した。

 

 

「いや、こう言い換えよう。私は君を信じている。―――心より」

「!」

 

 

ユリウスの心の内、それが見えたかの様だった。

スバルも、その言葉が本心からくるのか、或いは虚言を言っているのか、それくらいは理解できるつもりだ。

 

 

「私は、君と言う男を侮り、ひどく打ちのめした男だ。あの行いに私なりの理由と意義があったと今も誓って言えるが、それは君には関係のない独善的なものに過ぎない。―――おそらくは、君は理由を彼から聞いているかもしれないが、私はそれを肯定したつもりもないし、するつもりもない」

 

 

ユリウスはそういうと、今度はツカサを見た。

 

 

「だが、それでも私は私自身の心に従い、君を信じるに足ると、値すると決めた。この道を形作ってきた君に、敬意を込めて」

 

 

それは、決してツカサの隣にいるからだ、ツカサを信じられるから、そのついでにスバルも、と言っている訳ではない。

信用に足る者の友人だから、信じられるといった安易なモノではないという事を、ユリウスは暗に言っている様だった。

 

ツカサも薄く笑い、そして小さく頷いた。

 

 

ユリウスはつづけてスバルに問う。

 

 

「君はどうだろうか。この死地と言っても過言ではない場において、私を信じられるのだろうか」

 

 

王選の場で、スバルはこれ以上ない醜態を晒した。

信じていると言われた男を、唯一無二だと言って良い男を嫉妬(・・)から裏切り。

愛している同じく唯一無二の女に悲しい顔をさせた。

 

あの練兵場では、そんな自分への戒め、償い、そんな気持ちが頭のどこかにはあったかもしれない。

だがそれでも、小さな力でも、小さな自尊心(プライド)でも、男が面と向かい合い、戦うと決めたのなら、足りない力でも一矢報いる気概を持っていたつもりだ。

 

 

だが、一矢報いるどころか、汚名を塗り重ねる形になり、完膚なきまでに打ちのめされ、打ち砕かされた。

 

 

後々に、ツカサの口からあの日の真実。

 

ユリウスの口からきいた訳ではない、ツカサの中の想像上での事もあるかもしれないが、それでも真をついている。

あの日、近衛騎士団の中でも過激な思想を持つ者がいたらしく、侮辱したスバルに報復に打って出る、と言う声も上がっていたそうだ。

 

そこで、ユリウスは強引であったとしても、己の経歴に傷をつけたとしても、公の場にてスバルを打ちのめし、言うなら全体の鬱憤を晴らす事にしたらしい。

かなり乱暴に聞こえるが、突然斬られてしまう辻斬り等にあえば、その時点で死んでしまい、ツカサ自身にも多大なるダメージが……と考えれば、ユリウスが止めてくれたと言っても過言ではない。

 

 

確かに感謝だ。感謝。

 

 

 

だが――――。

 

 

 

「結果を見れば、感謝しかねぇってオレも思ってる。……けどな、オレはお前が大嫌いだ」

「ああ、それは知っているとも」

「ふふっ」

 

 

 

スバルの言葉に、思わず含み笑いをするツカサ。ユリウスも解っていると言わんばかりに頷いていた。

 

 

「なんか典雅な感じの雰囲気がイラつく。隣合わせで戦う姿とか、兄弟と一緒に戦う今の姿とか、滅茶苦茶雰囲気マッチしてて余計にイラつく。喋り方も胡散臭ぇ事極まれりだ。お前とラムくらいだぜ、明らかに兄弟と並べてオレを遥か下、地獄の底まで見下ろしてる感満載な上に面と向かって言ってくるのはよ」

 

 

幾ら命の恩人だと言っても……わかっていた。

スバルは最初からユリウスの事が嫌いだった。

 

 

だが、これはボタンの掛け違いかもしれない。

 

 

ユリウスだけじゃない。

本来ならば、ツカサ自身にもこの手の感情は向けられていたかもしれないのだ。

 

強大な力を持ち、それを誇示する事もせず、スマートに解決し、英雄的な活躍を見せる。

これだけでも嫉妬心を向ける所満載な相手だ。

 

そんなツカサをここまで信じる、唯一無二の存在となった理由は、その人格よりも当然、死に戻りの共有だ。この世界で唯一、孤独ではない事を確認させてくれる初めての相手だったから。

 

死を繰り返し、見えない傷を負い、皆自分を置いていくんだ、と思っていた中で、血だらけになりながら、ツカサと言う男がやってきた。

 

自分のせいだ、と思い自分自身を責めた事もあったが、それ以上にツカサには申し訳ないが嬉しい気持ちの方が強かった。

異世界に来て、その中でさえ孤独だったのだから。

 

 

解る。だからこそ解る。

ツカサもユリウスもスバルにとっては同じ(・・)なんだ。

 

 

「それにあんときゃ、手足折られて、頭割られて、永久歯までこそがれた。そりゃ、この世の地獄を味わった分、トラウマレベルNo.1は既に更新されたかもしれねーけど、普通に現在絶賛トラウマレベルNo.2だぞ。手加減って言葉知らねぇのかてめぇ」

「言っておくが、あれでもだいぶ手を抜いていたよ。それに、あの苦痛が2番目なのか。となれば、1番が知りたくなるね」

「1番に関しちゃ黙秘だ永遠に。アレ上回るなんざあり得ねぇ―――つーか、ちょっと待て。アレで手加減か? あんだけ襤褸雑巾にしてくれたってのに??」

 

 

スバルの中の1番。

《死の無限体感》byスバル命名

 

あの苦痛に関しては、今後生涯、一生、永遠に、……アレを超える苦痛は無いと思える。

確かに、以前ツカサが表現した通り。身体をバラバラにされながらも死ねない。苦痛だけが永遠に続いてる。時間の概念がそもそもどうなってるのかわからない分、永遠に続く感半端ない。

更に言えば、クルルが途中で引き戻してくれたから、アレで最後まで行ってたら発狂・廃人になって、今もこの異世界のどっかでベッドに縛り付けられているだろう。

 

 

その件は兎も角、ユリウスの手加減発言にスバルは目を見開いた。

 

 

「うん、手加減だね、スバル。今のユリウスの一撃見ればわかるんじゃない?」

 

 

冷静に戦況を見据えつつ、ツカサが補足を入れる。

ペテルギウスは起き上がってくる気配はまだない。悠長に会話できるのも、このメンバーだから、この2人がいるからだ、と改めて実感しつつ……。

 

 

「それもそーーでしたね!! あんなキラッキラなピカッピカな一撃食らったら、消し飛んじゃってるよな! 手加減、確かに手加減だな! 理解できたと思ったら、スゲー腹も立ってきた。最高に嫌なヤツだって」

 

 

力もないくせに自称騎士を名乗った自分。

見合う力があるのにも関わらず、精神面から騎士を背負うのを断ったツカサ。

 

 

それだけでも、十分過ぎる程の恥ずかしさだ。

 

 

加えて、ユリウスから無力さ無知さ無謀さ、色々教わった。

恥を晒した。

 

騎士としての在り方をユリウスは示した。

 

 

ツカサを兄弟と呼び、その隣に恥じぬ男になりたい。

肩を並べて立ち、最愛の人達を守りたい。胸に秘め、乞うご期待……と言い続けている。

 

 

この世界で、隣に立てるだけの力を持つ。スバル自身が求めてやまない《騎士》の姿が、ユリウス・ユークリウスと言う男の姿なのだ。

 

 

 

「―――オレはお前が大嫌いだよ、《最優》の騎士。だからこそ(・・・・・)、オレもお前を信じる」

 

 

 

スバルはまっすぐにユリウスの目を見た。

己の持つ剣……、まだまだこの2人に到底届かないであろう弱々しい剣を握りしめながら。

 

 

 

「お前がすげぇ騎士だってことを、オレの恥が知ってるからな」

 

 

 

スバルの答え。

その答えに、まるでユリウスの周囲に揺蕩っている準精霊たちが連動したかの様に輝きを増してきた。

 

 

 

 

「オレもスバルとユリウス、2人を信じてる。スバルに便乗した、ってなっちゃうかもだけど、―――信じて疑ってないよ」

 

 

 

スバルの言葉には、スバルには、不思議と吸い寄せられる。

ツカサもそうだった。

ラムは色々と切って捨ててるが、恐らくラム自身も言葉と裏腹に、スバルの事を認めているだろう、とツカサは思う。彼には人を引き寄せる何かがある、と。

 

だからこそ、自分も含めて彼の周りには沢山の人が集まり、結果大きな大きな輪となる。

 

それが繋がる事を求め、それを失う事を何よりも恐れたツカサが見るスバルと言う人間の姿だ。

 

 

 

「ならば、私も全霊で、信頼(それ)に応えなければなるまい」

 

 

 

ユリウスは天に剣を掲げた。

精霊たちが、更に強く激しく瞬きを見せる。

 

 

 

「っしゃ。3人の心は1つって訳で、サクっと決めますか? どーせ、岩下でピンピンしてるだろうしな」

 

 

 

剣を前面に向けて、スバルは吼えた。

 

 

すると、それが合図だったかの様に、瓦礫が宙へと爆散する。

ペテルギウスを覆っていた瓦礫は、粉微塵へと姿を変え、宙に漂っていた。

 

 

 

「わざわざ、こちらの決意表明に気を使って待ってくれるなんて、思いもしなかったよ」

「――――そろそろ、茶番も終わりそうだと思いましてネ」

 

 

 

どうやら、吹き飛ばされて気を失う――――などとはならず、やり取りを地の下で傍観……沈黙を守り続けていた様だ。

わざわざ土中に埋もれた状態で待つ。狂人ならではの発想と行動だろうか。

 

漆黒の魔手を無数に生み出し続けるペテルギウス。

それは、先ほどユリウスに斬られた時よりも遥かに多い数だ。

 

 

「そういえば、アナタ……。このワタシに逃がさない、逃げられない、と。たった3人。この場にいるのはたった3人……デス」

その話(・・・)に戻るのか。開戦って感じに吼えてたと思うんだが」

 

 

ツカサの嘲笑にボギンッ!首を90度折り曲げ、イヤな音を響かし、指を捥ぐ勢いで噛みつき、血涙を流し、頭を掻きむしる事で応えるペテルギウス。

会話など元より成立していない相手だから仕方がない。

 

 

「それも精霊、精霊、精霊、精霊術士!! 何処までも、本当に、何処までも!!」

 

 

忌々しそうに視線を向けてくるペテルギウス。

その照準に合わさったのが、ツカサとユリウス。

厳密にはツカサは少々勝手が違うかもしれないが、ペテルギウスの目から見れば、精霊クルルの姿を見てきた者からすれば、ツカサも立派な精霊術士。

ユリウスと言う新たな精霊術士が加わった事で改めて、その血走った顔と視線を向けられてしまう。

実に不快極まりない事に見舞われる。

 

 

 

「ワタシの道、ワタシの愛、ワタシの勤勉さを阻もうなどと烏滸がましいのにも程があるのデス!! 我が前に道はたった1つ! アナタ方を下し、残る者どもを八つ裂きにし! 試練を遂行する! それしか無いのデス!!」

 

 

向けられた殺意は、この場の者達だけに留まる事はなく、漆黒の手の数だけ膨れ上がっていく。

 

 

 

「逃がさない!? それはこちらのセリフ!! 誰一人逃がすつもりは無いのデス!! 我が勤勉さを前に、跪き、慄き、平伏すが良いのデス!!」

 

 

 

 

この空をも埋め尽くす勢いの手。

明確な殺意を以て、迫ってきた。

 

 

 

「あぁ、ァァァアアア、怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰ァァァァ―――――!!」

 

 

 

押し寄せる魔手。

空を覆う程の魔手のその総数は数えきれない。20、30,いや100は超えるか。

まるで津波のように世界を覆いつくしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怠惰と言うより馬鹿。それが似合う」

「ああ、同感だ」

「つーか、……オレ以下?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな絶望的、とも言える世界の中において、今にも潰されそうな場面だというのに、呆れ果てた声を出す。

 

 

「テンペスト」

 

 

魔手と同じ漆黒、荒れ狂う暴風が、竜巻が迸る。

迫る魔手を寄せ付けぬ様に黒き風の防壁で阻む。

 

 

「アル・クラリスタ」

 

 

ツカサのテンペストの合間合間を縫うように、針の穴を通すかの様にやってきた魔手を、極光の剣が待ち受ける。

瞬く間に、魔手は霧散し、暴虐を起こすなどと出来る訳がない。

 

 

「オラァァ!!」

 

 

ちゃっかり、残った最後の1本。

それ目掛けてスバルも剣を振るった。

 

テンペストを纏わせた剣。制御が出来るギリギリのラインは、例の魔獣騒動の際に実験済み。ラムの3割程度にも満たないテンペストだが、それでも魔手を跳ね飛ばすくらいは出来る。

 

 

この程度だと、例え魔手が1000集まった所で、3人には届かないだろう。

 

 

「―――――は?」

「いや、今更何を驚くんだ……? お前のその手の優位性は、相手に見えない事だろ? 見えてる時点で、ただの動きの鈍い攻撃手段ってだけでしかない。それとも数に物いわせれば何とかなるって浅はかな考えでも持ってたのか?」

 

 

津波の如き攻撃を防ぎ、涼しい顔をしている面々に、ペテルギウスは唖然とするほかない。

 

そう、相手に見えている時点で己の権能の優位性、絶対的優位性とでも言って良いソレが無くなってしまっているのだ。

そして、見えていたとしても、素早い攻撃だったらまだ効果はあったかもしれないが、あまりにも遅い。

 

 

「我が六属性を束ねた刃で斬れる事は最初に実証済み、にも関わらず、数だけの攻撃手段とは。底が知れるというものだな、大罪司教」

 

 

そう。

そもそもな話、ユリウスの最初の攻撃の時も、あの虹の極光は魔手を吹き飛ばし、消失させている。

 

 

「オレでも、も~ちょっと別な手段考えるぞ。まぁ、オレがお前の立場だったら絶対に逃げ一択だけどな。そっちの方が、ちょっとは生きられる」

 

 

頭に指を向けて、ぐるぐると円を描くのはスバルだ。

所謂くるくるぱ~~! と小ばかにした仕草なのだが、それが通じるかどうかは不明である。

 

 

 

「違う!! アナタ、アナタデス!!」

 

 

 

ペテルギウスは、ユリウスの方を指さして、血泡を吹かせながら叫んだ。

 

 

「見えていない筈デス。見えざる手が、みえ、見える筈が、見える訳が!! 我が恩寵が、我が愛の導が、ワタシ以外に、こうも、こうも、こうもこうもこうもこうもこうもこうもこうもこうもこうもォォォォォォ!!」

 

 

 

つまりは、最初のユリウスの振り下ろし、それは見えざる手、魔手を狙ったのではなく、ペテルギウス自身を狙った一撃。その結果斬れた。それだけの事だと判断していた様だ。

つまり、ペテルギウスから離れた所に伸ばした無数の手は見えない筈だと踏んでいた。

ツカサのテンペストで阻まれたのも当然驚いたが、合間を縫って切り込んだ手で、握りつぶそうとしたのだが、それを斬られた。正確に、ピンポイントに、間違いなく見て振り切った。

 

 

それが、ペテルギウスにとってすれば、ありえない光景だったのだ。

 

 

「いまだに気付けてない改めて馬鹿なお前に対して、冥土の土産を送ろうか」

 

 

ツカサが一歩前に出て、ペテルギウスに告げた。

 

 

 

 

「お前のその手。―――今はもう、誰にでも見える(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

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