Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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おそ~~くなりました……大変デス


英雄の行方

 

 

 

 

―――屋敷への帰途についた竜車内は、重苦しい空気だけが支配していた。

 

 

 

 

「―――――――」

 

 

 

 

 

大型の竜車は、クルシュから報酬として贈られた内の1台だ。

パトラッシュ、ランバートに続いて竜車1台プラス。

当然ながら、クルシュはこれじゃまるで足りない、と言っていたが、受け取るべき本人が不在である以上、ナツキ・スバルの報酬として受け取るまでに留める事としたのだ。

 

だが、スバルの活躍の事を考えると、それでも無欲が過ぎる、と諫められたのは言うまでもない。

 

兎にも角にも、重苦しい空気の車内に居るのは、スバルとエミリア、そしてラムとフレデリカだ。

元々、ラムは自分から話をして、盛り上げる様な性質ではなく、淡々と主の傍らに居て、熟すべき仕事を熟すだけ、と言うのが主流。

 

これまでの陽気さ、明るさは半減以下となっていて、その原因が一体何なのかも当然言うまでもない。

フレデリカも最初こそは気を使い、それなりに古なじみの由もあって会話をしていたが、それも長くは続かない。可愛げのない後輩、と言っていた様に元々仲良しこよしと言った訳では無かったのも少なからず影響があるだろう。

そんな中でも甲斐甲斐しく勤めてくれているフレデリカが居なければ、この場の重々しさは、倍増しだったかもしれない――――と思うとスバルは苦笑いをする。

 

 

「……これは、ガキどもが別の竜車に乗ったのも失敗だったかもな……、いや それは安直な考え、か」

 

 

と、口ずさむ。

王都に戻る際の竜車内では子供たちで賑わっていた。

エミリアと一緒に帰還する事もあり、王選などの話もあって聞かれたくない事もあるだろう、と言う配慮から、村人たちが配慮してくれたものだ。

 

だが――――子供たちが乗っていたからと言って、結局万事解決といかない、寧ろ更に悪くなる可能性もあったので、一概には言えない。

 

 

やはり、そこでも絡んでくるのが、我らが英雄・ツカサの存在だ。

 

 

元々ロズワール邸の下男として仕えていたスバルと違い、ツカサは村を拠点としていた。

ラムと相応の仲になりつつあった後は、徐々にロズワール邸で過ごす時間も多くなってはいたのだが、スバルよりは付き合いが長くなっている。

 

スバルの目玉と言えば、朝のらじーお体操。

大声上げてヴィクトリー! と村人の皆と爽やかな汗を流す朝の運動。

でも、その場にはツカサも居るので、やっぱりアーラム村の人達との付き合いはスバルよりツカサの方が優勢、である。

 

 

そんなツカサが居なくなったのだ――――。

 

 

子供たちは目に見えて消沈していたのは目に見えて解るし、何より物分かりが良いペトラが特に気落ちしていたという事も、拍車をかけた。

 

ツカサは暫く留守にするだけだ、と。またきっと会える、と。大人たちは言っていたのだが……、それを簡単に信じる子供たちは誰一人としていなかった。

当然だ。大人たちでさえ信じられない、信じたくない。討伐隊の皆に聞いて回った者もいる。

子供たちには聞かす事が出来ない事実……、魔女教大罪司教相手に、単身立ち向かい……そして消息不明となったのだ。それは、地形を、大地をも変える程の戦いだったらしい。

 

決して長いとは言えない付き合いだったが、村人は皆ツカサの事を知っている。その強さを知っている。優しさだって温かさだって知っている。だからこそ……深い深い悲しみに包まれていた。それを子供たちが感じ取れない訳がない

 

いわば悪循環となってしまっているのだ。

 

 

「――――そろそろ、もうこの重苦しい空気を、沈黙を変えましょうよ。と言うか、もう僕が耐えらそうにありません」

「いや、さらっと入ってきて突然何言いだすんだよ。ってか、お前いたんだ?」

「いたよ!! いるに決まってるじゃないですか!! 僕がそもそも、なんのためにナツキさんに協力したり、魔女教に振り回されたりしたと思ってんですか!?」

「兄弟との盃交わす為?」

「言ってる意味わかんないです。何ですかソレ?」

「んじゃ、趣味とか?」

「余計意味不明ですよ! 命がいくつあっても足りない趣味ですねぇ!?」

 

 

大袈裟に唾を飛ばしているのはオットー。

御者台から顔をのぞかせたオットーは、此度も予定通り、予定調和。魔女教に取っ捕まっており、それを鉄の牙が保護してくれたのだ。

 

 

【オットーの事、よろしく頼むよスバル】

 

 

ツカサにも、念押しで言われていた事だ。鉄の牙が助け出した以上、時間的な要因も含めて、間違いなく今回も助け出せる……と99.9%は想っていたが、オットーは生粋の悪運所持者。

万が一、万が一、0.1%でも――――と考えてしまうのは仕方がない。

 

だからこそ、最後までツカサは彼を頼むとスバルに言った。

 

少々妬ける話ではあるが、かの英雄が初めてこの世界に降り立った時。

この世界での初めての友達がオットーなのだ。

スバルにとっては形こそ男女と違う面はあるものの、スバルが初めて出会ったエミリアの様なモノ。

※リンガ売りのおっちゃん? 三バカとんちんかん? 知らんなぁ。

 

 

何よりツカサに頼られたのだ。応えなければ男じゃない―――と奮起した切っ掛けでもある。

 

それに、今回の英雄喪失の大事件。オットーもかなりの衝撃と深い悲しみをその頭と身体と心に刻まれていた筈なのだ。

助け出された時、必ず助けるとツカサに言われて――――と言う文言をオットーの耳にも入れたから余計に。

 

そんな中でも大袈裟にでも明るく振舞おうとしたオットーを無碍にする事は出来ず、かといって、スバル自身がしなければならない事だった、と言う考えも捨てきれないので、オットーを揶揄う事にしたのである。

 

なので、意地悪く笑いかけながら続けた。

 

 

「ま、そりゃ冗談って事にしといて―――解ってるって。お前の目的の半分はロズワールとの話し合いと積み荷の買い取りだ。もう半分はいつ達成できるか解らんし、こっちとしても最善の努力はするつもりだが、暫くお預けって事にしといてくれ。だから、腹空かせた犬みたいな顔してんなよ」

「誰が腹空かせた仔犬ですか!? と言うか、ロズワール氏との件、ほんと頼みますよ。お願いします! ほんとのほんとに僕の人生が懸ってるんですから! 尚、後者に関しては僕は一切心配してません。寧ろ、僕の幸先の悪さの方が心配です!」

「自虐ネタにしてはぜーんぜん笑えねぇなぁ? こっからの商談も破断に終わったりして――――」

「不吉な事言わんでくださいよ!! ここはツカサさんの事は心配いらないっ! って言った僕にその理由は!? って聞く場面でしょ!」

 

 

オットーの抗議の声に、【ハッ】と小さく鼻を鳴らすのはラムだ。

ラムは意図して空気を重くした訳ではないし、エミリアもいる手前、そんな不遜な対応を取ってしまえば、ロズワール邸のメイドとしても失格の分類に入る。

 

でも、それでも周囲の空気にさえ気付けなかったのは、やはりラムの髪留め(カチューシャ)にある羽の存在。

青みがかかった鮮やかな緑、青緑それは時折瞬く様に、ほんの僅かだが光っている様に見える。

 

不思議な事に、他者よりも早くに視覚的に見えてないラムがその瞬きに気付く。

ラムが持っているから、ラムの傍にあるからか、その僅かな輝きに反応出来るのは、見ている側じゃなくラム自身。

そして、今は【ツカサ】の名を聞いて 竜車の中の会話に加わった? 形である。

 

 

「ああ! 今鼻で笑いましたねっ!?」

「ハッ。何言ってるか解らないわ」

「いや、また笑った! 絶対解ってるでしょ! ソレ!」

 

 

ここぞとばかりに、オットーはラムにも噛みつく。

寧ろ、コレが本当の目的だった……かもしれない。

信じて疑ってないとはいえ、片時も離れない、一番傍から離れたくないのはラムの筈だから。

 

 

「ここまで色々と進退かけても、友達を信じて、自分も信じて頑張ってる僕にひどいですよ、ラムさん!」

「随分と損な性分をしていると評価するわ。一体何を仕事にしているのかは、ラムは知らないけど、商人にはきっと向いていないわね」

「また、解った上で言ってますよねぇ、それも!」

 

 

ここで少々出遅れたスバルが再び参戦。

揃ってオットーをいじりにかかる。

 

 

「まぁまぁ、ラムもきっと悪気は……うん。悪意しかねぇよ。だから落ち着けって」

「悪意しかないのに、落ち着けってどういう事ですかねっ!??」

「―――まぁ、それはそれと、オットー。お前にはすこ~しばかり言いづらいんだが」

「な、なんですか……?」

 

 

ツカサ関連に関しては当然ながら、ここにいる誰もが何も疑ってない。

だが、オットーにとっては他にもある。ツカサを心配していないからこそ、もう半分が重要になってくる。

ロズワールとの話し合い、積み荷の買い取りと専属契約(ツカサ御付き商人)。

でも、相手があのロズワールだともなれば……、元々不幸属性MAX。スバルと良い勝負するくらいはMAXなオットー。

何をどうやっても、手玉に取られて遊ばれる姿しか想像できないし、見えない。

ツカサ専売特許の未来視? が出来る様になった気分だ。

 

 

「何とか力を貸してやりたいのはやまやまなんだが……、やっぱ、本人には言えねぇよ。勝算薄々なんて」

「ハッキリ言っちゃってくれてますよねぇ!? 隠す気なんてない、寧ろこっちも悪意満載なんですが!?」

 

 

オットーの言う通り、一切隠す気がないスバルのモノ言い。

性質が悪い事に、ここは単なるいじりではなく、ロズワールとの商談が望み薄である事を暗に言っている事くらい解る。

その辺りはマジで死活問題だ。

心配していないとはいえ、ツカサがいない現在、橋渡しをしてくれそうな人選は限られている。

 

頭を抱えながらチラリ、と見たラムの顔は無そのもの。軽くまた【ハッ】と笑ってあしらわれたので、期待値なんて0.1もない。

 

そんな突然始まったラムを含めた3人の大喜利に、エミリアは大きな瞳を丸くさせていた。

その横のフレデリカは、一先ず安心した様でほっと胸を撫でおろすだけに留めている。

 

 

「私、知らなかった。3人ともすご――く、仲良しなのね。びっくりしちゃった」

「仲良しなんてとんでもありません、エミリア様。この2人は、バルスはロズワール様の使えない使用人。だからラムの下僕。オットーは、勝算も幸も薄い、ただの通りすがりの商人。エミリア様のお考えとはほど遠い関係性です」

「ぅおいっ!?」

「ひどいっっ!!」

 

 

再び始まるは大喜利。

エミリアはただただ笑う。

 

 

「姉様の答えじゃわかんなかっただろうけど、エミリアたん、こいつにとっての俺は ただの命の恩人ってだけだよ」

「否定できないから釈然としないっ!」

「頼まれたのは~、間違いないけどぉ~~? 実際の所は、大恩人な筈なんだよね~~」

「解ってますよ! なんなんですか、その小憎たらしい言い方っ!」

 

 

魔女教に捕まり、生贄寸前だったオットーの救出。

ツカサの力を、スバルの死に戻りを知る由もないオットーだから、スバルが一番救出に貢献した、と言う形となっている……と解っている。釈然としないようだが。

 

直接的な救出ミッションは、【鉄の牙】のメンバーで、ミミやらリカードやらなのだが、そこは忘れたふりをする。

 

 

何はともあれ。もう竜車内の空気は大丈夫だ。

ラムも、あの羽に注視し過ぎていた、と口には出さないモノの、解っている事だろう。フレデリカともまた絡みだしているところを見ても。

 

 

「そして、その事に感謝しつつ、取り合えずお前とはいったん、お別れのお時間です」

「あ、ちょっと! そうやって直ぐに僕を邪魔者扱いして――――」

 

 

連絡口の戸を閉めて、スバルはオットーの叫びを途中で遮る。

暫く、ほんの暫くの間だけは、オットーは何やら連絡口の向こう側で喚いていた様だが、直ぐには止まった。

まるで、役目はここまで―――と言わんばかりに。

 

 

 

「はぁ……、全く」

 

 

 

世話が焼ける……とオットーは一息ついた。

傍には、ランバートとパトラッシュが控えている。自身の竜車を引いてくれていた地竜には申し訳ない気分でもあるが、この二頭相手なら許してくれるだろう。

もう既に相手がいて、自分等眼中に無いのだから。

でも、1人いない。欠けてしまっている。

 

 

「早く、早く帰ってきてくださいよ、ツカサさん。ナツキさんだけじゃ、きっと駄目です。駄目なんです。……ラムさんを御する事が出来るのは、唯一無二、貴方だけなんですから」

 

 

オットーは空を見上げながらつぶやいた。

背後で何やらクシャミをした様な気がしたが―――――気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょい真面目に話します。気まずい空気を読んで黙るとか、超俺らしくない。こんなもん続けてたら、兄弟に愛想つかれるどころか、横っ面殴られる」

「……そうね、私もスバルに賛成です。黙っちゃうのは確かにスバルらしくないもん。いつも元気で無茶ばっかりして、誰かの気持ちなんて関係ないぐらい騒がしい子だもん。……ね? ラム」

「はい、エミリア様」

 

 

一番気を遣わなければならない者、と言えば半身を、自分の半分を失ったと言って良い程の悲しみに暮れていたラムに対してだろう。

だが、そのラムがいつも通りに戻ろうとしている、表面上に限りかもしれないが、それでも戻ろうとしているのにも関わらず、他がダンマリと言う訳にはいかない。

 

 

「そこに無能の二文字を、付け加えてください」

「やっぱ来ますよね! 相変わらず安定辛辣毒舌姉様」

 

 

スバルを揶揄って遊ぶ所もいつも通りの調子だ。きっと戻ってる。

 

 

「ツカサが戻ってきたら、すごーーく、お説教しないといけないね。皆に心配かけた分、そのお礼として、何かお願いごと、聞いてもらうんだから」

「おっ、エミリアたんのそれ賛成! 結構楽しみだったりするよ」

 

 

エミリアの言葉に同意しながら手を上げるスバル。

 

 

「あっ、でもでもでも、エミリアたんLOVEなのは俺だけだからね! そこんとこは兄弟にも渡さないからね!」

「はいはい。解ってます」

「わ、解ってくれちゃった!? 嬉しいケドちょっぴり照れる……」

「スバルがツカサを目指してるのは十分知ってるし、色々と負けたくない気持ち、私にも解るから」

「………そ、そーいうトコじゃないんだけど」

 

 

エミリアの事が好きだ、と告白はしっかりできた。

相思相愛を改めての確認だったら凄く嬉しい天にも昇る想い―――――なのだが、エミリアの認識はちょっぴりズレていて、意気消沈するスバル。

当然、ラムは【ハッ】と鼻を鳴らす。

 

 

「身の程を弁えないとはこの事ね。バルスはエミリア様の小間使いも良いトコ……、いいえ、小間もこなせてないわね。無駄遣いよ」

「無駄遣いって、最早違う意味になってんじゃねーか!」

 

 

 

ラムの調子もきっと元通りだ。

だからこそ、エミリアは意を決した。

人を気遣うなんて、正直苦手であるとエミリア自身は勿論、他の皆も大体は解っている。

だけど、エミリア自身もハッキリと聞いておきたい事があるのだ。

 

 

「うん。……ええっと、ラム。もうそろそろ、教えて欲しい、かな」

「――――――」

 

 

スバルを弄っていたラムの挙動がピタリと止まった。

 

 

「また、説明をしてくれる、って言ってた事……」

 

 

その内容。

当然ツカサの事だ。

ラムがラムでいられる理由にも繋がる事。

 

英雄を失った、とエミリア自身にも聞かされた当初の事を思えば……。

 

 

 

 

「ツカサの事、教えてくれる?」

「仰せのままに」

 

 

 

 

ラムだけの胸の内にしまっていた真実。

ラムがラムでいられる最大の理由を今話すのだった。

 

 

 

英雄(ツカサ)の行方についてを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し遡ろう。

 

リーファウス街道があり得ない地形へと変化していたが、迂回して何とか王都へと向かっている一行。

 

 

 

 

 

「いやいやいやいや、地形変えるとか。それ前に聞いたまんま。パックとロズっちの魔法合戦レベルじゃねーかよ」

「えーーっと……、パックの時とはすこーし違うと思う。魔法で作った氷はある程度の時間が経てば消えちゃうから、パックが使った魔法は、地形を凹ましちゃったけど、新しく作る~なんて事は出来ないと思うな――――」

「…………だよねぇ」

 

 

ロズワールとパックの魔法合戦。

その事件の詳細は省くが、エリオール大森林の地図を描き直さなければならない程には荒れに荒れた。強大な魔法、マナとマナのぶつかり合いによる余波で、大地は削れ、森林は吹き飛び、凡そ大戦争でも起こったのか? と思われる様な有様ではあったが、事リーファウス街道の惨状のそれはまた違う。

 

何せ新たな創生だったから。とても立派な山々が形成されていて、迂回するのに大変だった。

それに峡谷? まで出来ていて、底が見えず、クレーターの様に大穴が開いているかと思えば、その残骸が周囲に一切ない。まるで、大地丸ごと球体状に消しちゃったイメージだ。

 

荒れ果てた大地とは全然違う。違う大地を運んできた、と言う方がしっくりくる。

そんな無茶苦茶をやって見せたであろう男は、スバルにしても、エミリアにしても1人しか知らない。

 

 

「んっん~~、でも妙だな。兄弟なら、元に戻してそうだけど……、少なくとも、アーラム村を囲んでたヤツは綺麗さっぱり元通りに戻してたし? 皆の仕事にも影響があるから~って」

「あ、それ私も思った。きっとツカサもへこたれちゃったんだと思う。すごーく危ない犯罪集団と戦ったんでしょ?」

「へこたれた、って今日日聞かねぇな……って、それは置いといて。まぁ、そうだね。―――過去一ヤベェ連中と戦ったんだと思うよ」

 

 

魔女教に関してはエミリアにはまだ話をしていない。

あまり、連中とエミリアを近づけたくない、と言うのは今回のループでも同じだったからだ。

 

だから、作戦通り凶悪な犯罪集団が襲ってきて、その1部隊がメイザース領に、もう過半数以上が王都側へと進行していたのを食い止めて~と言う流れにしている。

便宜上、ツカサは白鯨との一戦で消耗し過ぎたから王都帰還組に入った……と言う事にしているがエミリアにはそれは告げていないから、ツカサが戦った、と言っても矛盾は生まれないだろう。

 

ここまでの規模で戦えるのであれば、帰還組に入る必要ないじゃん、って思ってしまうから。

 

 

「とまぁ、でも身内が地形変えちゃいました~~、なんて事がバレたら非難轟々……、兄弟にはしーーっかり詫びって貰わないとだね、エミリアたん」

「んー、でも皆の為に頑張ってくれたんだよ? 責めるのはすごーく可哀想」

「じょーだんだって。兄弟には感謝こそすれ、責めるなんてありえねーし、そんな資格はまだ俺持ってないよ、って言いたいよ」

 

 

散々助けられた。

孤独から救ってくれたのに加えて、全てを終えて戻ってくる事が出来たのも、間違いなくツカサがいてくれたからだ。

 

エミリアの突然の死から再びループが始まった。

 

立ちはだかるのは魔女教……【怠惰】【強欲】【暴食】。

それに加えて、世界の厄災であり三大魔獣が一角【白鯨】。

 

一国の軍事力を要する―――どころの騒ぎじゃない。これまでの被害の規模を考えたら、全世界が手と手を取り合って一丸となって戦わなければ退ける事が出来ない相手、と言ったって良い。

 

そんな絶望の袋小路だ、って言って良い。死にゲーの糞ゲー、メーカークレーム物であり、修正をさっさと入れろよ、と何度だって通告して良い程の極悪難易度。

 

それを乗り越える事が出来たのは。

誰一人欠けずに、乗り越える事が出来たのは、間違いなくツカサのおかげだから。

 

 

「――――まぁ、こーいう事考えてっと、フラグがたっちまうから、そこはオットーを生贄に捧げて乗り切るか!」

「何だか凄く不吉な事言われた気がするんですが――――!?」

「あれ? 居たの??」

「いますよ! いるに決まってるじゃないですか!」

 

 

ナイスなタイミングで連絡口がガラっ、と開いた。

盛大に文句と唾を飛ばすのはオットー。

 

居ない訳がない。何なら、今回の魔女教討伐戦においてもかなりのファインプレイをした者の内の一人だから。

 

細かな詳細は省くが、結論から言えば、オットーのおかげでエミリア爆死と言う最悪の未来を防ぐ事が出来たのだ。

 

エミリアを脱出させる様に選んだ竜車に小規模な村であれば余裕で吹き飛ばす事が出来る【火の魔石】が組み込まれていたらしい。

それは、魔女教間者であったケティの竜車に仕掛けられていたらしく、これはツカサは勿論、スバルにも想定外の出来事だ。

何せ、道連れ爆発したのは本人に刻まれていた術式によるものだと思っていたし、竜車事氷漬けの粉微塵にしてしまったので、その拍子に火の魔石も綺麗な結晶へと変わってしまっているから解りようがない。

 

先に脱出したエミリアに追いつく為に、オットーの力を借りたのだ。

オットーが持つ加護、【言霊の加護】により最短にして最速でエミリアに追いつく経路を割り出し、強引極まりないルートで追いつく事が出来たのだ。

 

その際に、無用な働き者が最後の勝負を仕掛けてきたが――――それも省く。

 

 

「俺の最高の活躍の場を省くってどーいうこった!?」

「一体何にキレてるのかわかりませんよ! この野郎!! あーーーもうっ、ちゃんと約束守ってくださいよ、ナツキさん。僕の人生が懸ってるんですから!」

「その辺は大丈夫だって、それこそ何べんも言ってるだろ?」

「…………」

「ほれほれ、兄弟がオトモダチの事、見捨てるって思う? そんな薄情?」

「――――それは、まぁ。確かに。思いませんね」

「俺と全く違う反応にムカッときた。やっぱ、止めてもらおうかな、止めようかな。全身全霊で」

「なんでそんな事で全身全霊だすんだよっ! 僕頑張ったでしょっ!??」

 

 

唐突に始まったオットーとスバルのじゃれ合いには、エミリアは思わず大笑い……仕掛けたが、直ぐにやめる。

疲れて眠ってる子供たちがうるさそうに、声を上げていたからだ。

 

 

「2人とも。――――しぃ~、しないと駄目でしょ?」

「「ハイ……」」

 

 

アーラム村の子供たちも全員無事。

最初の方こそペトラが起きていたが、今では子供たちに混ざって寝落ち中である。

そんな寝ている子達の前で騒ぐなど言語道断、だ。

 

いそいそ、とスバルも定位置に戻り、オットーも視線を前へと向き直した途端に再び声を上げた。

 

 

「あ、見えてきましたよ!」

 

 

そう、長旅もここまでだ。

随分、本当に随分長く旅をした気分になる。

 

無事に、王都ルグニカへと到着する事が出来た。

 

 

「どんだけ遠回りしたか、解らねぇよなぁ……兄弟」

 

 

どさっ、とだらしなく竜車内の幌を見上げるスバルはそう不意に呟く。

 

まだまだ、やらなければならない事は多いかもしれないが、ここを一先ずゴールとしよう――――。

 

 

晴れやかで、清々しい気分のままに、もう目と鼻の先にあるルグニカへと向かう。

 

 

 

 

あのルグニカがゴールの筈だった。

まだまだ仕事は沢山あるとは解っていたが、それでも一件落着の筈だった。

 

この慌ただしい王都を前に、尋常ではない事態が起きている、と気づくのには時間は掛からなかった。

 

当初は白鯨を討伐した事に対して、王国が沸いていたと思い、ある程度の力を貸せた身とすれば、少しばかり鼻を高くしても良いのではないか、と思っていたのだが、そんなお祭り騒ぎと言う訳ではない。

 

 

 

――――命と引き換えに。

 

 

 

その言葉が、スバルの耳に届くのは、エミリアの耳に届くのも、時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都へと戻り、一先ずはカルステン家へとスバルたちは向かう。

カルステン家においても、非常に慌ただしい様子だった。

 

無論、スバルはある意味2度目の帰還な上に、前回は当主を失う事態となったカルステン家も見ているので、ある程度の耐性は出来ている……と思っていたのだが、それは淡く、儚く、泡沫に、散り征くだけだった。

 

王都から嫌でも聞こえてくる声には決して耳を貸さなかった。

そんな訳がない、と。あり得ない、と。カルステン家で――――クルシュにしっかりと問いただす、と。

 

絶対に、そこにはいる筈だから。

皆が無事なのであれば、絶対に居る筈だから。

 

 

 

 

「――――――すまない」

 

 

 

 

 

だが、そこで会ったのは、これまでにない程に、視た事がない程憔悴しているクルシュの姿。

それでも皆を導く為に、奮闘をしているのは解るが、それでも憔悴しきっているのは目に見えて解る程だった。

 

フェリスが付きっ切りで傍に居るとはいえ、心の治癒までは出来ない。

 

或いは、自分達だからこそ―――、身内だからこそ、その姿を晒す事が出来たのかもしれない。

 

 

「い、いや、待ってくれよクルシュさん。冗談にしても性質が悪すぎるぜ、全然笑えねぇよ」

 

 

英雄喪失。

スバルの頭の中で何度も何度も流れる言葉。

消しても、消しても、消しても、消しても、纏わりついてくる。

 

死に戻りをする際に、際限なく無限に感じる程囁かれるあの闇の愛撫に匹敵する程のモノだった。

 

 

 

「………すまない。事実、なんだ」

「―――――――」

「そん……、な」

 

 

 

スバルの時間が止まった。

エミリアの時間は止まりこそはしない。カタカタと身体を震わせているから、止まる事はない。

 

まるで、走馬灯の様に、エミリアの脳裏には描かれ続けていた。

 

 

 

【胸を張って言えますよ。色々と勉強して、色々知ったけれど、俺は何の含みもなく言えます。俺は、俺たちはエミリアさんの味方なんだって】

 

 

 

何度も何度も言われた言葉だった。

上辺などではない。心からの好意であり、信用であり、信頼だった。そんな事は初めてだった。

初めて出会った男の子たちは、皆優しかった。ハーフエルフなんて関係ない。エミリアと言う個人を見てくれた。接してくれた。心から楽しかったし、あの日々は生涯にわたって忘れる事は出来ない大切な宝物だった。

 

 

【スバルだって同じ……断言する。でも、それ以上は言えない、かな? そういう約束だから】

 

 

スバルの事も言っていた。

それは、あの時の事を言っているのだと、今のエミリアでも解る。

 

 

 

――――好きだ、大好きだ、超好きだ。

――――良い所、1000だって、2000だって言える。

――――そうやって、俺の特別扱いをしたい。

 

 

 

 

――――エミリアが好きだから、俺は君の力になりたいんだ。

 

 

 

スバル自身の口からでしか、伝えてあげられないものだ。

約束を交わすまでもない。想いは、気持ちは間接では駄目。直接伝えなければならないから。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

エミリアの傍らに居る大精霊パックも、この時ばかりは神妙な顔つきをして崩さなかった。

エミリアの心を救ってくれてありがとう、と言葉を交わしたのはつい数日前の事だ。

 

そして、今は魔女教相手に立ち回り、結果エミリアを救ってくれた事は理解している。

エミリアの心に深い傷を残してしまった状況と齎してくれた現状を天秤にかけると……、エミリアの事しか見ていないパックでさえ、心が揺れる。

 

 

 

――――娘を残して、何で逝くんだ。

 

 

 

人知れず、歯を食いしばっていた。

 

 

「ラム……、ラムはっ!?」

 

 

そんな時だ。エミリアの口から、桃色のメイドの名が告げられたのは。

 

ここまで戻ってきて、アーラム村の皆は見かける事が出来たが、ラムは見ていない。

何処にもいない。

 

そのエミリアの問いに、再びクルシュは表情を暗くさせる。

クルシュにそんな顔をさせてしまい、力になる事が出来ない自分に腹立たしさを覚えつつあるフェリスは、エミリアの傍へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ラムは」

「クルシュ様。私が案内致します」

「………あぁ、フェリス。頼んだ」

 

 

 

 

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