Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
暑すぎるぅぅぅぅ………
ごめんなさーい……
( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)
いつまでも開かない扉を前に、ベアトリスはただただ本を捲り続けていた。
只管待ち続けて今日……幾星霜を、悠久の刻を生き続けるベアトリスは、ここ数日間程待ち焦がれた日はない、と自覚をしていた。
いつもであれば、常に本に視線を送り続けている筈なのに、時折扉の方へと向けてしまう。向けまいとしてもどうしても向けてしまう。
あの喧しい騒々しい痛々しい、不躾で……言葉にするのもバカバカしくなる男が、あろうことか魔女教と相対する旨を自身に伝え、出て行った時からずっと。
無論、ベアトリスの本命はその男……スバルではない。
――― 一欠片だけ付いてきた。
スバルの後ろに居た存在に対してだ。
スバル自身も気づいてなかった様だが、ひょっとしたら彼がスバルに付けて行ったのかもしれない。
その存在は、ベアトリスにとって、無意識に視線を動かし、想いを馳せる程。
もう、一体いつだったか……、忘れてしまう感覚が芽生える。
そう―――
そんな時だ。
不意に扉が開く。
ついに待ち焦がれた瞬間か、と思ったが、違った様だ。
扉がほんの少し空いただけで、その存在を感じ取れたから。
「よぉ、久しぶりだなベア子」
歯を見せ、手を上げて声をかけてくるスバル。
いつも、いつでもどこでも呆れる程陽気を装うその顔は、正直見るに値しない。
「―――屋敷が騒がしいかと思っていたら、戻ってきていたのかしら」
ベアトリスが用事がある相手がいるとすれば、それはスバルじゃない。
スバルの
生憎、今回は本当に誰もいないようだが。
ただただ、呆れ果てる程の顔がそこに居るだけだ。
「お前が戻っていると言う事は、にーちゃも戻ってきてる筈なのよ。あの娘とメイド妹、それに余計な虫もついているのを感じるのが気になるかしら。唯一のマシな男がいないのが、心底同情するのよ(―――クルルとあの男はまだ戻ってきてない。……………)」
「そりゃ、オレの目標の兄弟だ。常に先に行ってる。……オレは後ろから追いかけるだけだ。そんで、パックはエネルギー充電中なのかまだ顔を出してこねぇ。エミリアたんの次いでみたいに扱うのは気に入らねぇな。最後はオットーだが、まぁ別に良いや。無視無視。……虫だけに」
「やかましいのよ」
つまらない軽口も憎々しいが健在のようだ。魔女教相手と一戦交えて、それなりにすり減ってくれば良いモノを……、このスバルと言う男は死んでも治らないのだろう、とベアトリスは判断する。
それはある意味正解なのだが……。
そうこうしている内に、スバルはゆっくりと禁書庫内を歩き、ベアトリスに近づく。
「それにしてもけっこう顔を合わせんのも久々だよな。前回はペテルギウス、魔女教をヤルって話以来だから、1週間くらいか? いや、10日?」
「まだそんなもんなのかしら。ベティーからしたら、この部屋の中で過ごしている内は、外の時間の経過の大小はあんまり興味ないのよ」
「よぉよぉ、そんなツンケンしてっと可愛い顔がやっぱ台無しだぜ? ドレスが泥んこになるまでアソビ倒す、って約束は健在なんだからな」
「そんな約束、した覚えないかしら。なんなら、今すぐにお前のよく滑る口から血を吐かせて、泥の代わりに血の色に染めてやってもいいのよ?」
どうやら大分ご立腹の様だ。無論、ベアトリスは大体こんな感じだと言う事はスバルにも解っているが、それでも何となくだがいつもより機嫌が悪いのが解る。
この澄ました顔をどうにか壊してやろう、笑顔のそれに変えてやろう、と想い行動をしてみても良いが生憎役者不足だ。情けない話だが。
「お前が戻ったということはここしばらくの騒ぎは収まったとみていいかしら」
「ああ。……バッチリだ。だから、お前の事心配して屋敷を探し回ってたエミリアたんとかレムにもちゃんと謝っとけよ」
「ベティーが? 謝る? 誰にどうしてそんな必要があるのか理解に苦しむかしら」
「ったく、つまんねぇ意地ッパリだなおい。あんまりお前が強情なら、オレの方から関係者のみんなに代理で謝っといてやるよ。感涙して鼻水ずびび、感謝感激! って」
「捏造するんじゃないのよ! 涙なんて、もう長い事流しちゃいないかしら!」
挑発的な軽口、ベアトリスの文句。またこうして言葉が交わせている事に感慨が生まれると言うモノだ。
ただ、唯一違うのは……こんな2人のやり取りの間に割って入ってくれて、フォローをして場を整えてくれる
居なかったら、スバルが折れるまで延々と続く羽目になるやり取り。
少しだけ、ほんの少しだけスバルの中の決意が揺らいでしまう。
また、あのバカバカしくも楽しいひと時の再来を望み、甘えてしまう。
本当に苦しいのは……、一番心を砕き、どうにか立ち上がった
スバルは両頬を軽く叩き、そして左右に首を振ると。
「まぁ、ちょっとした脚色は目ぇ潰れよ。生憎評論家も不在だ。監督はオレ。決定権もオレ」
「なら、ヤられる前に殺るとするかしら?」
「物騒だな、おい! それはそうと、たまには大声だして好きなだけ喚くのも悪くないもんだぜ? 足掻くって行為はオレも嫌いじゃねぇし」
「流石、空回りして、倒れて、女の膝の上で喚いていた男の言葉ともなると、含蓄があるってものなのよ」
「それは忘れてくれませんかね!? あっ! 間違っても兄弟にいうんじゃねぇぞ!!」
「さぁ? クルルは聞いていた様な気がしないでもないのよ」
「うぎーーーー!!」
気合が漲ってたのは良い事だ。
協力者も増えて、敵の正体も掴みかけ、明かな光明も当然見えていた。
だが、精神が肉体を凌駕する様な漫画的展開にするのには、自分自身のステータスの高さ、levelを甘く見ていた。
身体から、脳からのブレーキ命令を無視して動き回った結果が、あの黒歴史。
エミリアの膝の感触は役得と言えなくもないが、あれだけ大見えを切ったうえでの、あの介抱……幾らスバルでもプライドと言うものがあるから、妄りに広められては叶わない。
「そもそも、あのメイド姉が知ってる以上、あの男に伝わらない訳がないかしら。ご愁傷様なのよ」
「……ですよね!! ああ、兄弟の優しさの上にオレはいかされてるんだ、って今更ながら実感したよ、こんちくしょーー! 今後こうご期待、だよ! 兎も角、兎も角だ! お互い無事でよかったな、ベア子! 今はそこで合意って事にしとこう!」
「合意もなにも、お前が勝手に話しだしただけかしら。いつだって勝手に」
「そうだな。いつもオレの勝手だ。お前と話す時は大概そうだった。そんでも、独断専行ってわけでもないんだぜ? 色々オレだって相談してるし。パックだって賛同してくれた。屋敷の鬼ごっことか、雪まつりの時とかも」
とりとめのない話を始めるスバルに、ベアトリスがその双眸を細める。彼女の視線に射抜かれながら、それを感じながらもスバルは身振り手振り、共通の思い出を語った。
何度も繰り返して、自分や兄弟、ラムやレムしか知らない情報も多少はあるから注意が必要になるが、それでもベアトリス相手だったら、多少の粗相は見逃してくれる。
「―――魔獣騒ぎの時もそうだな。あんときは呪いの事でお前には世話になった。村の皆も、お前には幾ら感謝してもし足りない程だぜ」
「やめるのよ」
「とは言っても? 結局は兄弟の独壇場! にオレがちゃっかり潜り込んで、がぶがぶやられた分も、何とかナツキスバル囮大作戦で何とかクリアして、あぁ、アレもアレで大変だったな―――」
ここで、乾いた音が炸裂し、スバルの早口が強制的に中断された。
ベアトリスは先ほどまで見ていた本を乱暴に閉じて、その音を以てスバルを黙らせたのだ。
「とっとと本題に入るかしら。―――この弱虫」
「…………あぁ、そうだな」
罵る言葉に反論はない。
それは彼女の見解が正しい。
ついさっきも甘えそうになったのだ。ベアトリスを目の前に、今は居ない男の事を想い馳せ、縋ろうとしたのだ。
これが弱虫でなければ一体なんのか。
本題に入る前の軽口。それをベアトリスはとっくの昔に見抜いている。
「まずベア子……。お前は、お前とロズワールは、どのくらい今回の事を知ってたんだ?」
勇気がいる問いだった。
それはツカサの件にも通じる。
ナニカと接した時に明かされた秘密。
それはラムにしか理解が出来ない内容だったとのことだ。
ラム自身にしか知らないし、ラム自身が真に明かさない、としている。
ただ、それにはロズワールが関わっていると言う事だけは理解した。そして何よりロズワールの思惑を、自分は知らなければならない。
死地へと誘ったのは、あの男である可能性が極めて高いのだから。
つまり、この問いに対してベアトリスの答え次第では、これまでと同じように話せなくなる事だってあり得る。
「――――――」
スバルの問いに対して、ベアトリスは沈黙した。
今の今まで、本題に入れ、と言わんばかりの態度だった彼女が、突如重く口を閉ざす。
「……ベアトリス」
返事はない。その事実が何を意味するのか……、考えうる中でも最悪の答えがスバルの頭の中に過る。
でも、それと同時に思うのはベアトリスになんと言って欲しいのか、だ。それも自分の中では答えが見出せてない。
ラムのいう試練。そして今回の騒動の黒幕ともいえるかもしれない立ち位置に居るロズワール。
……全てを聞き、受け入れる為に、エミリアやレムたちにすら、挨拶してくる、と言う名目でベアトリスと2人きりになったのだから。
「仮に……お前はベティーになんて答えて欲しいのよ」
「か、仮の話なんかしてねぇよ! それに、オレがなんて言って欲しいかも今は関係ない。オレが欲しいのはイエスかノーか、若しくはもっと突っ込んだ答えかだ!」
予想外の答えに思わずスバルは声を荒げる。……だが、ベアトリスはそんなスバルの様子を前にしても意に返さない。冷ややかな姿勢と表情のままだ。
「意気込まれたところ悪いケド、ベティーには何の事だかわからないかしら。ベティーはお前の教師じゃないのよ。なんでも丁寧に教えてやると思ったら大間違いかしら」
「ぐ――――っ、誤魔化すな! ロズワールの考えを聞かされてる一番可能性が高く、一番信頼してるのが、お前だってそう言ってるヤツがいるんだ!! ……アイツが信頼してるのは、ベアトリスともう1人、ラムだけだ。でも、アイツの手からラムは離れた。ラム自身がそれを望み、ロズワール自身もそれを許容してる。……つまり、お前しかいないんだよ。オレもお前の態度を見てたら同感だ、って思う」
「………あの半獣の娘か、メイド姉に聞いたのかしら。………確かに、見立て通りと言ってやるかしら。ほんの少しだけ。―――でも、ベティーとロズワールとの繋がりに、今回の事は関係ないのよ。ベティーは何も知らないかしら」
今回はきっぱりベアトリスは否定した。
だが、だからと言って疑念が晴れる訳じゃない。
「でもお前は1人で屋敷に残った。何の得策もない、この屋敷に。……おまけに、外じゃ、魔女教の連中が暴れてたんだ。大罪司教が3人も。それでも聞かされてない、で押し通すつもりか?」
「自分の身ぐらい自分で守れる。だからベティーはここに残ったのよ。ロズワールは無関係かしら。……ただ、アレが何も考えてなかったとはベティーも思わないのよ」
世界に災いを、厄災をまき散らし、それだけの力を有する魔女教大罪司教の話をして、存在されている内の半数以上が集ってる事実を突きつけても、ベアトリスの表情は崩れない。
あの人外連中を前にしても、身を守れると言いきってるところを見ると、やはりベアトリス自身もかなりの強者だと言って良いのかもしれない。
だが、それでも―――あの英雄が己が存在を、全存在を賭けて、愛する人を守る為に、大切な人達を守る為に戦って漸く退けた相手なのには変わりない。
それも、この世界にまだ日も浅い自分達でさえ解ると言うのに、あのロズワールが対策らしい対策をしていないなんて考え難い。
レムやラム、フレデリカ、エミリア、そしてベアトリス。危険にさらされているのにも関わらず、誰もが口にする答えを有していない。
「オレもお前も、周りの連中もみんな、ロズワールを買いかぶり過ぎてるだけなのか? あの魔女教を相手に無策な筈がないって。……あの連中の脅威は嫌って程………、そう、そうだ!」
ここでスバルはある事を思い出し、徐に懐を弄る。
まさに天啓と言って良いタイミングで思い返す事が出来た。それに従い、ベアトリスにみせたかった代物を差し出す。
「ベアトリス。これを見てくれ」
―――それは、表紙と中身を血で汚した黒い装丁の本。
前回は、ツカサが倒し、今回は自分が倒した男からの戦利品。
戦利品と言えば聞こえが良いかもしれないが、曰くつきの本。最悪の一冊だ。内容は奇妙な術式の影響で読む事が出来ない様で、所有者の資格が無ければ無用の産物だと思える。
もう今更だが、前回のループで、ツカサとしっかり議論しておいた方が良かった、と思える。皆は解らなくても、あの超常的な存在であれば読み解く事が可能だと思えたからだ。
ただ、愉快犯故に、手を貸してくれる……なんて希望的観測に過ぎないかもしれないが、聞いておけばよかった、と今更ながら後悔もしている。
「ベアトリス。お前ならこの本の事で何か解るんじゃない――――」
「福音……、書?」
ここでベアトリスは初めて表情を変えた。焦燥感にはやり、早口になるスバルの言葉を止めるのには申し分ない威力が込められている。
「どうして、よりによってお前がその本を……」
「これは奪い取った戦利品だ。オレと兄弟……、いや、今回はオレが奪った。複数きてた魔女教連中の内の一角。その首謀者からな」
「……その持ち主は?」
「死んだよ。車輪に噛まれて。……オレが殺したんだ」
か細いベアトリスの問いかけに、スバルはその事実から目を逸らさずに断言する。
今の今まで、これまでは力がない故に、頭を使う事だけを注視してきた。
だが、いつも前線で戦ってくれていたツカサの事を思えば、この事実を受け止める事くらいなんでもない。人を殺めた事実は、例え、相手がどれ程の存在であったとしても、拭いきれない。
兄弟が、ツカサがこの気持ちを胸に戦い続けてきたのだから、当然自分もこの程度はしなければならない。
……とはいっても、ペテルギウス・ロマネコンティは厳密に言えば人ではなく、他人の肉体に寄生し、意のままに操る精霊―――邪精霊だ。
だから、まだマシなのかもしれないが、それでも人の形をし、喋る事も出来るから同じだとカウントしている。
あれの命を奪った。引導を渡した。
そうしなければならない、大切な人を守る為に、大切な兄弟との約束を果たす為に。自分だけでもやり遂げて見せる、本懐を遂げた。
そこに後悔が一切なかったか? と問われれば嘘かもしれない。だからこそ、自分が出来るのはあの男を覚えておく事だけだ。どれ程気持ち悪く、憎悪し、殺意を滾らせた相手であったとしても、初めて殺す意思を以て殺めた存在を忘れないでおく。
「――――……お前も、ベティーをおいていったのかしら、ジュース……」
「……? 誰だって?」
「別に、なんでもないのよ。それより、お前が大罪司教の一角、《怠惰》を殺したなら、魔女因子はどうなったかしら? それも複数の大罪司教が来た、と言うのなら他は今どうなってるのかしら?」
「……魔女、因子?」
ベアトリスの言葉に今度はスバルの方が無理解を示す。
厳密に言えば、後半部分は答える事は出来る。ただ、前半部分だけが自分に最も当てはまってるから、より強く頭の中に食い込んできたのだ。後半部分はツカサが命を賭けて撃退した事だけしか知らされていない。あまり口にしたくない事でもあるから、と言う理由もあるが。
「……ッ。まぁそうも言ってられねぇ、か。……他の大罪司教、《強欲》と《暴食》は、兄弟が撃退した。命を賭けて、あの兄弟が連中をぶっ飛ばしたって話だ。生死は不明。死体は見つかってねぇ。……だから、生き延びてる可能性が高いらしい」
余り言いたくない事ではある。
でも、自分の気持ちだけを優先する訳にはいかない。ベアトリスにはしっかりと聞かせる必要はあるだろう。
「それで次だ。前半部分。何も知らないヤツに突然専門用語で説明するなよ。魔女因子って何なんだ? 殺したら魔女因子? アイツらが降りつけてる香水みたいなのが漂ってくるってのか?」
「…………知らない? 本当に知らない? 3つの大罪を前にして、最低限の知識もない? だとしたら、お前は何の為に怠惰を殺したというのよ。それにロズワールは一体何を……」
「かかる火の粉を振り払っただけだ。兄弟に至っちゃ、迫る脅威をぶっ飛ばしてくれた! あんな連中が来るって解ってりゃ色々対策しててもおかしくねぇってのに、ロズワールは何してんだよ! って話だ! いや、ロズワールのヤツは【聖域】ってトコから帰ってきてねぇ! レムが言うには動けない状態だって言ってたが、それだけだ。アイツが一体何考えてるのかオレの方が聞きてぇぐらいだ!」
噛みあってるとは言えない会話にしびれを切らしてスバルは叫ぶ。
途端に、ベアトリスの表情が変わった。
いや、焦点がぼやけた、と言って良いだろうか。
まるで正面に自分がいると言うのに、自分を見ていないような。
――――まるで、自分の後ろに何かが………。
『もう、時期に―――――だよ。ベティ』