Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
「お前の望むモノ、欲しがる答え、それは全て聖域にあるかしら」
「は?」
ベアトリスの焦点が定まっていない、或いは僅かにぼやけた輪郭の更に後ろ側に立ってる誰かを見ている様。
そんなベアトリスの視線に、スバルは思わず背後を振り返ってみたが、当然ながら誰もいない。扉が開く様な事になれば自分も気づく筈だし、そう易々とこの禁書庫に入れない事はスバル自身がよく知ってるから。
だが、気のせいだった、と片付ける訳にはいかない。確かに今一瞬
この感覚は、
後ろには誰もいない筈―――と、妙な安心感が芽生えたかと思えば、ベアトリスから突然の【答え】にまた別の意味で驚く。
「ロズワールの思惑、福音書の意味、魔女因子。……聖域には、それらを知る答えがあるのよ。欲しければ向かえばいい。半獣の娘、メイド姉妹、聖域への道には困る事は無いと言えるかしら」
「ちょ、ちょっとまて! いきなり急すぎるだろ!? あれだけもったいぶっておいて、いきなり答え教えるとか!?
魔女に魅入られている以外は、殆どただの一般人に過ぎないスバルでも気付けたのだ。ベアトリスが気付かなかったわけがない。それも、あれだけ渋っていた答えにたどりつく為の道を示したのも証拠だと言える。
「さぁ? ベティーは何も感じなかったのよ。オマエの気のせいじゃないのかしら?」
「嘘つけっ! つーか、お前が突然答えてくれるっつー状況証拠だけでも十分だろ! そもそも、聖域に行かなくたってお前が話してくれるだけで良いじゃねーか」
「…………そういう訳にはいかないかしらッ」
「ッ!??」
一際大きく開かれたベアトリスのあの瞳。
吸い込まれる様なその瞳を見て、思わずスバルは口を噤む。
「ベティーにはベティーの契約がある。話さない権利もある。これ以上の譲歩はしない。ベティーにも求めるもの、欲するもの、色々とあるかしら。これ以上オマエが踏み込むのは、それらを邪魔するも同義なのよ。……それを知って尚、お前は踏み込んでくると言うのかしら? ベティーの領域に」
いつもの怒りとはまた違う。
これまでのベアトリスとはまた違う。
それをスバルはその瞳に見た。
それは、魔女教撃退の時に話をしたベアトリスとも、前のループでツカサと共に会った時のベアトリスとも何かが違う気がした。
先ほど感じられた
でも――――。
「解ったらさっさと出ていくが良いかしら。―――もう、これ以上話す事は何もないのよ」
「ッ―――!! だ、だからちょっと待てよ! いきなり過ぎて……、って、お前またオレを強引に追い出すのか!?」
「こうでもしなければ、出て行かないオマエだから仕様が無いかしら。ここまで言っても尚、ベティーの領域に……●●に、オマエは―――――」
最後の方がよく聞き取れない。
何故なら、身体が宙に浮きベアトリスから離されているからだ。
これは、背後の書庫の扉から感じられる空間が超常的な力に捻じ曲げられる風圧。
先ほどの、第六感的な感覚で無いと知覚出来ない様なナニカとはまた違う物理的? な現象。
つまり、ベアトリスはこの場からスバルを追い出そうとしていると言う事だ。強制的な《扉渡り》とでもいうべきか。
「ベティーは全てを示した。後はオマエ次第。これ以上、甘えるのは止めにするかしら。――――あまりにも傲慢が過ぎると、腹が立つってものなのよ」
「ちっくしょっ! このっ! こちとら英雄見習いなだけの一般人だぞ!? こんなファンタジー世界でまだまだ通用しない……、くそっ! ちっとくらい教えてくれても――――ベア子っ!!」
何とか抗おうと藻掻きに藻掻くが、それでもその圧からは逃れられない。
そんなスバルに、嘲笑を向けるベアトリス。
「オマエも、もっともっと足掻いて足掻いて、
そんなベアトリスの瞳には一滴の涙があった。
そして、その瞳の中には自分が居ない様にも思えた。
ベアトリスは一体何を見ているのか、その瞳には誰を映し出しているのか、それがスバルには解らない。
だが、不思議とそれは、その流れる涙はスバルは安心出来た。
この種の涙は、そうまるでエミリアの様な――――。
……と、色々考えていたが、直ぐに考える事が出来なくなる。
扉に吸い込まれ、完全に宙に浮き、投げ出されて締め出されてしまったから。
更に言えば……。
「――だぁ!!」
「ぎゃーー!!」
扉渡りの先、その扉が通じる先にいた人影に思いっきり当たってしまったから。
弾かれた勢いは相応なもので、スバルは盛大に後ろにひっくり返り、可哀想かな不運にも貰い事故を受けた人物はスバルの下敷きに。
「な、何故 僕が出てきたばかりのトイレからナツキさんが………っ」
それも、怪奇な事にトイレの個室から出てきたばかり、出入り口は1つしかなく、誰も居なかった筈の場所から飛び出してきたスバルに、下敷きになりながらも驚愕するのは不運と隣り合わせ、オットーだ。
「いててて………。ったく、何で良い顔してんのか意味不明だっつーの! 泣いてる癖にこれまで以上に生気に満ちてたじゃねーか! なんだ、この悔しい気持ち」
「って、いったいいつまで僕のこと尻に敷いてるつもりですか!? 早くどいてくれませんかねえ!?」
オットーの上で色々と思う所があったスバルは、考え事を再開。勿論、オットーのこと、オットーへの謝罪……ではなくベアトリスについてだ。
最初こそは、普段のベアトリスと同じだった。
魔女教が迫る中、それでも外へと出ない、スバル自身とツカサ、何よりパックの勧めがあっても頑なに契約を口にし出てこなかったあの何処か寂しそうな顔と同じ様に感じた。
だが、さっきのは違う。
「なんだっつんだよ。何か変な……ん? 何か? ………ナ・ニ・カ?」
ここで、鈍感総理? なスバルも漸く気付く事になる。
それが本当なのかどうかは不明だ。今の自分では知覚出来ない存在なのだし、何よりツカサ、そしてあのモフモフ2号でもある緑色の精霊も見当たらない現状で、
でも、それでもなぜか納得が出来て、更に安堵感にも包まれる。
「――ったく、無力なオレの方を助けてくれ、っつんだよ。……いや、それは駄目か。絶望は知ってる。その底だって見たつもりだ。……でもまだ、足掻ける。まだまだ足掻ける。……兄弟に追いつくには、ただ我武者羅に前に進むしかねーんだ。だろ? 英雄見習い」
「って、だからいつまで僕の上で!?? いい加減耽ってないで現実もどってきてくださいよナツキさん!!」
尻の下でグリグリされてるオットー。
可哀想なオットー。
最終的には、確信犯なスバルだったが、流石にキレそうだったのでやめてあげる事にするのだった。
「つうわけで、だ。これから聖域へGOだ! OK?」
「ごお、も、おうけい、もわかんねぇ!! 早くどいてくださいっ!!」
漸くスバルの尻から解放されたオットーは、身嗜みを整えつつ苦言を呈する。
「実際のとこ、なんでナツキさんがトイレから転がり出てきたんですか。やめてくださいよ、トイレに隠し扉とか隠し通路があるみたいな怖いこと言い出すの」
「ばーか、そんなんじゃねぇよ。ただ、お前と連れションしたいな、ってオレの気持ちが引き起こした一欠片の奇跡だよ」
「全く答えになってないし、答えになってない答えが何よりも怖いんですけど!?」
「あ~~、オットーの場合はアレだな。兄弟と一緒に連れションが一番だったっけか? えっぐい趣味だよなぁ……。兄弟狙っちゃった日にゃ、桃色な姉様が何するかわかんねーぞ? 幾ら兄弟でも、トイレ時くらいは無防備だと思うし?」
「変な事言わないでくださいよ! 風評被害が起きそうで怖い!! 僕は男色家じゃないです!! ノーマルです! アブノーマルじゃないです!!」
「兄弟と男同士で絡み合う……、やー 兄弟もフェリスに迫る勢いで可愛い所もあったし? 案外オットーと気が合ってるのもひょっとして………」
「だーかーら! ツカサさんにも失礼じゃないですか!! 違いますっ!!」
ホモ疑惑、ゲイ疑惑で遊んでるスバル。
オットーも顔を真っ赤にさせながら怒ってるので、傍から見たら冗談なのか本気なのか………。
そんな時だ。
「ぶっっ!!」
「うげっっ!!」
何処からともなくやってきた銀加工のトレーが2人の側頭部に直撃。
リズミカルに衝突音を奏でている様だが、間違いなく痛いだろう。
「ツカサはラムのモノよ。馬鹿な会話にツカサを入れないで」
「ひえええっ!? ら、ラムさん落ち着いて! 僕100%被害者ですよ!?」
「流石は姉様。いつの間に。兄弟の話題がでりゃ、次元でも超越するってか……」
オットーは懸命に弁明。スバルはスバルで笑っていた。
彼にとっての懸念事項であるベアトリスの件。……力になれてないのは少々寂しいかもしれないが、それでも好転してるのは間違いないので、ある意味肩の荷の1つが降りた気分。
だからこそ、笑うのだ。
「はっ。取り合えず、エミリア様とレムに言いつけておきましょう。バルスが男色の毛がある件について」
「ちょっっ!! じょ、冗談だって、解るだろっ!?? つか、そんな噂流したら、ラムだってダメージヤベー事になるだろ!?」
「ラムの愛はその程度で褪せる事なんて無いのよ。ただ、不快な芽は潰すに限るわね」
「やべぇ!? どう転んでも潰される未来しか見えねぇよ!? どーしよオットー!? オレら大変だ!」
「大変だ! じゃねーです!! 何で僕ここまで巻き込まれてんですかねぇ!?」
白鯨から魔女教、この世の負の遺産に巻き込まれ続けたオットー。
仕方のない事である。
「仕方ないで済ませないでくださいよっ!!」
「はぁ……、取り合えずため息だけオットーの代わりに吐いとくわ……。幸運が逃げても良いように」
「って、僕の幸運逃がしてんじゃねぇですよ!!」
何処となく楽しそうにしているのはスバル。
一番不幸に見舞われているのはオットー。
ラムは、そんなスバルに思う所があるのか、そしてそれは自分にとっても益のある内容ではないのか、と直感し、取り合えずエミリアやレムへの暴露は保留とするのだった。
そうこうしているにエミリアやレム、フレデリカと合流。
「スバル、オットー君と一緒だったんだ。仲良しさんね」
「っ~~~! エミリアたん! 今のオレにはその言葉めっちゃ刺さる! ヤバいくらい刺さるから勘弁して。オットーとの関係は油で繋がってるだけ。兄弟戻ってきたら即バイバイだから邪推しないでよねっ!」
「って、なんなんですか! その最後の素直になれないで悪態ついちゃうみたいな無駄縁起! つーか、ナツキさんがポイしたとしても、ツカサさんが僕を見捨てるなんて全くこれっぽっちも思ってませんからねっ!!」
「……やっぱ、お前も兄弟狙ってんじゃねぇ?」
「違いますよ!! ああ、ラムさん
スバルのツンデレ―ションにオットーが反応し、軈てツカサにまで飛び火。更にそんなツカサの純潔? はラムのモノだと言わんばかりに凶悪な鬼のオーラを凶器に込めてスタンバイ。即命乞いをするオットー図の完成である。
「スバルってば、やっぱりすごーく意地っ張りになるのよね。色々あったユリウスの仲直りしたぐらいなのに」
「意地を通してこその男の子、みたいな古い感性もちだからねー。あー、後ユリウスと仲直りしたか? っていわれりゃ、素直にうなずけませんよ? いっくら助けてもらったからって、色々割られたの根に持ってるんで、ふぉーえばー」
「はいはい」
確かにユリウスとは共闘したし、数多のルート全部で役に立つ男! な評価。(スゲー上から目線)
だからと言って、頭を木刀で滅多打ち……より、エミリアの手の甲にキスが何よりも許せぬ! と言う訳でやっぱり邪険に扱ってるのである。
「それで、スバル。ベアトリスとはちゃんとお話しできたの?」
「ああ。出来た。オレ自身がちゃんと話せてれば胸張れるんだが、なんつーか………他人の成果横取りすんのって、結構クルもんがあって……。これがオットーとかのなら全然OKなんだが」
「またシレっと僕を巻き込む。もう知りませんからね!」
オットーネタを未だ続けるスバル。
ぷいっ、と顔を背けるオットー。そしてレムが入れてくれたお茶を寂しそうに喉に通して一服。
可愛い仕草、と見えなくもないが。
「(オットー様とスバルくん、とても仲良しです。……何でしょう? レムの中でモヤモヤが………)」
ラムに言われた訳ではないし、共感覚も使ってないが、レムもどことなく思う所があるのだろう。
でも、だからと言ってレムの中での1番が色あせる訳はない。
一挙一動のスバルを見逃さず、穏やかに笑みを零し続ける。
「それにしても、やはりスバル様は凄いですわね。ベアトリス様の禁書庫に立ち入る事が出来る、と言うのは」
「なんだよ、フレデリカ姉様。疑ってたのか?」
「いえ、この屋敷にきてまだ日は浅いですが、何度も目撃しておりますので、今更疑う様な事はしませんわ。暫くお暇を頂いていたとはいえ、わたくしは旦那様の下で働いて10年以上。その間にベアトリス様とお会いした回数を思えば、致し方なし、と思ってくだされば幸いです」
「あ~~、そういわれりゃそーかもなぁ。ベア子の部屋当てゲーム、即制する事が出来るのってぶっちゃけ、オレか兄弟、そんでパックとクルルの4人(内2匹)くらいだし」
フレデリカは、暫く口元を抑えながら含み笑いをすると、スバルの方を向き直した。
「ですが、最早スバル様であれば何も驚かない、と言うのが私の中での結論でもありますのよ。あのエミリア様がスバル様がどれだけ頼りになるか、それはもう以前とは比べ物にならない程聞かされております。言葉を尽くしていただきましたので、私も期待をしております」
「へ?」
「ちょっ、フレデリカ!?」
思いがけないフレデリカの発言にスバルの困惑、そしてエミリアの狼狽が重なる。
「レムがヤキモチを妬いてしまうのも無理はありませんわね」
「別に妬いてませんよフレデリカ。レムは愛を頂けるのであれば、第2夫人でも構わないので、妬く理由が1つもありません」
「………成る程、虚勢の類、と言う訳でもなさそうですわね。この短期間にここまでの殿方。私はスバル様以外では、ツカサ様くらいしか思い浮かびませんわ」
「ハッ。ツカサとバルスを一緒くたにしてほしく無いわね。フレデリカの浅はかな底が知れると言うものよ」
「ふふっ。そうかもしれませんわ」
鬼姉妹を魅了、ハーフエルフも魅了。そして自分も信頼に値すると思っている。
片方は最早掛け値なしに王国の英雄だ。見劣りするものの、スバルも最も大きい候補であるカルステン家、ホーシン協会から信頼を得ている。
異国より訪れたまさに異端者ともいえる2人。その成果の上げ方が凄まじい。
期待しない方が有りえない、と言うのがフレデリカの意見。
「えっと、違うの。確かに待ってる間フレデリカにスバルの事沢山話したけど、大袈裟で……」
「いえ、僕も一緒に聞いてましたけど。正直ナツキさんも隅に置けないなぁ、と。てっきり、自分だけ女っ気なしで膝抱えてると思ってたんですが」
「オットー君までっ!」
シレっとオットーまで参加。
これまで揶揄われ続けてきたのでちょっとした意趣返しのつもりだったんだが……。
「なんでオレはその場でその話を聞けなかったんだ………」
スバルはスバルでエミリアからのお言葉が聞けなかった事にショックを受けて、オットーどころではなく不発。【聞いてねーし!】とオットーは肩を落とすのだった。
「スバルの前でなんて話せません! 恥ずかしい……。もう、フレデリカ! 皆揃ってベアトリスとの事も取り合えず終わったんだから、話を先に進めましょう!?」
「あら、以前は誤魔化されてくださいましたのに。少々可愛げがなくなりましたわね。レムと言い、ラムと言い。……少々寂しくもありますわ」
「ふーれーでーりーかっ!」
フレデリカは寂しい、と言いつつも笑っている。
エミリアの癇癪も続く。それらが可愛くて仕方ない。
「ハッ。ラムは十分可愛いと何度言わせれば理解するのかしら? それともフレデリカは世界が危機に陥っても構わないと?」
「うわっ! スゲー切り返し方!?」
「そうですよ、フレデリカ。姉様は素敵でこれ以上ないくらい可愛いので、それは間違いだと思います!」
「――――ふふふっ」
幾ら可愛いとはいっても、いつまでたっても話が先に進まないのは駄目だ、と言う訳で後ろ髪惹かれる思いを抱きつつ、スバルが声をかける。
「それで今後の事だけど、やっぱ当初の予定通り聖域に向かうのが良い」
「うん。勿論。村の人達と約束もしたし、ロズワールと話をしたい事が沢山ある。だから、聖域に向かいます、って話をフレデリカとしてたの。レムとラムが居るから場所は大丈夫だし、でもフレデリカは……」
「ええ。私は共に向かう事は出来ません。……申し訳ありませんが、御屋敷の留守を任せてもらう、と言う立位置が好まれますわ」
「うん。それは私も納得してる。だからスバルにお願いが……」
スバルにお願い、と言う言葉を聞いてスバルはハッ! と身体を揺らせた。
「ちょい待った! ひょっとして屋敷に待機! とか? だとしたらタンマだ! マジ、そこは話し合おう! 確かに体調は万全とはいえねぇけど、オレも行かないといけないんだ! 戦うばっかが人生じゃないし、向かう位なら絶対大丈夫――――な筈だから! だって、オレってば、兄弟にも頭脳担当って言われてたんだぜ? 語弊があるって言っとかないとラムから叱責貰うから一応付け足しとくけど! つまり何が言いたいかって言うと、必要な事なんだ! 勿論、エミリアたんと離れたくないってのもある! だから―――」
「ちょっとまってスバル。すごーく勘違いしてる。置いて行くわけないじゃない」
「置いてけぼりはいやだいやだいやだいやだい――――……ん? 今なんて? なんてったの?」
ベアトリスとの事もある。直感的ではあるが、聖域に全てがある―――と言う言葉の中には、今求めているモノ、ツカサとの件も何かある、と思ってる。
ならば、自分が行かなければならない。絶対にだ。
ツカサが居ない今、時を遡る事が出来るのは自分だけだ。必ず必要になってくる筈だから―――とかいろいろと頭の中で渦巻いていたが、エミリアの言葉とその触れられた手に全て吹き飛ばされてしまった。
「だから、一緒にきてっていったの。……まだ私は不安だから。レムやラムにはほんと、すごーく申し訳ないけど、スバルにいてもらいたい、から……」
「わかりますエミリア様。スバル君は素敵ですから」
「わかりませんエミリア様。バルスは無能ですから」
久しぶりの姉妹のシンクロ……にはならず。
「ヒデェな! 姉さま! とうとうエミリアたんを、未来の王様の候補を真っ向から否定しちゃったよ!?」
「まぁ、肉壁くらいにはなると言えるわね。無論、
「……気を付けます。サー」
この中で数少ないスバルと何よりツカサの禁忌を知る者であるからこその辛辣な一言。
今ここにはいないツカサに対して更なる追い打ちは許さない、と釘を打った形である。
「そして、ここで漸く僕が大いに役立つんです」
「そこのお前。なに脈絡もない突拍子な事言いやがるんだ? 痴呆発症したか?」
「それ、ナツキさんだけには絶対言われたくない事ですねぇ!? 聊か強引だったことは認めますが、聖域に向かう足については、僕を頼ってください、と言いたいんですよ!
そもそも、こんな大事な話を部外者の僕が聞いているんですよ? 最初に疑問に思わないといけない事でしょう?」
「ああ、そら考えてるよ」
スバルが、オットーの言い分に対して大きく首を縦に振った。
それが以外だったのか、オットーは逆に首を横に傾げる。
「部外者に聞かせて良い話じゃねぇのは明らか。この屋敷には地下牢ならぬ座敷牢があるって話だからな」
「そういう発想の転換は求めてないんですがねぇ!??」
聞かせても良い。捕えておくだけだから。それがスバルの答え。
魔女教にも捕まって散々な目にあったオットーにとって、あまりにもブラックが過ぎる。
「因みに、フレデリカ姉様もお墨付きだ。住み心地はヨシだってよ」
「ええ。保証しますわ」
「って、フレデリカさんも乗っからないでくださいよ!」
冗談だと解っていても? オットーはがっくりと肩を落とした。少々疲れたのだろう。ツッコミ、と言う役目も大変だから。
「こーら。2人ともそんな風にオットー君を除け者にしたら駄目でしょ? せっかく自分から協力したい、って言ってくれたのにひどいじゃない。オットー君がいてくれるのと、いないのじゃ、聖域に行くのだってきっとすごーく大変なのよ?」
「おぉ……! 聞きましたかナツキさん? これが本来あるべき対応ですよ!」
「ああ、久々にE・M・Pって声高らかに言えるぜ。E・M・P!」
「………やっぱり突拍子もない事を突然言い出すって面じゃ、ナツキさんの右に出る者はいないですよ。なんです? その言語」
スバル言語が理解できなかったオットー。エミリアの対応に感激しつつも、身体の力が抜けた感覚だった。何度目か解らないが。
「ま、確かに大所帯になりそうだ。オレとエミリアたん、レムとラム。こんだけ揃ってて、パトラッシュとランバートだけってのは、アイツらに負担がかかりそうだし、オットーの竜車も使わせてもらうって考えりゃ快適さも増すってか。………でもなぁ」
「でもな? なんです? 含みある言い方ですね。僕の善意が気に入りませんか?」
「悪ぃが顔の怖い果物屋以外の商人に無償の善意は期待しねぇって決めてんでな。善意以外担保になる商人の方が話はシンプルだ」
これまでスバルが関わってきた商人たちを思えば当然のこと。そこにふざける要素は皆無。
ラッセルやアナスタシアと言った国の中でも、外でもトップクラスの商人の手腕を見てきたのだから。怖い顔の商人こと、カドモンが別枠なのは小細工を弄する必要もないくらい単純だし、何より娘を助けた時の情の厚さを見ればそれだけで良い、アレが演技だとは思えない。演技だったとしたら、アレはアレでバケモノだ。
それは兎も角として、オットーはどちらかと言えばわかりやすいカドモンよりかもしれないが、商人傾向はどう見繕っても、ラッセルやアナスタシア寄りで間違いない。
「お前の魂胆は何となく読めてるよ。大方エミリアに協力的に接して、その後の後ろ盾、ロズワールの印象も良くしたいんだろ? 兄弟は長期出張中で今いないし、一番のパトロンを一時的にも失った形だこれに限る、って感じだぜ。つーか、元々油の買い取りよりもそっちメインだったし、100%間違いねぇだろ?」
「……いえ、あの、そこまで清々しく腹の底を暴露されると、ですね? 後ろめたくないつもりなのに、その……」
「え……オットーくん、そうなの?」
スバルの話が本当だと言うのはオットーの姿を見れば如何にエミリアでも解る。
でも、本人にしっかりと確認をしなければならないのも事実。
だから、真っ直ぐ本人の目を見て話を聞く姿勢で……。
「え、エミリア様の純粋で純真な目が痛い痛い痛い!! すみません! そんなところなんです!! 僕自身も成り上がって、ツカサさんを専属契約させて貰えるくらい上に行く、って誓ったんですっ! ここで躓く訳にはいかず!! でも、不利益な事は絶対しない、悪い事は起きない筈なんで、信じて許していただければと思いますっ!!」
あっさり敗北したオットーは自白。
スバルだけなら開き直りで強引に、と言うのも余裕だが流石にエミリアには無理だ。
「まあ、あれだ。あんまりオットーを責めてやらないでよ。本当に心から善意だけで出来るヤツって、超人的な力を持つ者だけだって相場で決まってるんだ。エミリアたんが知るヤツなら、兄弟は勿論、後はラインハルト、とかな。自分の行いに最後まで自分だけでもケリをつけれる。そんなのが出来るヤツなんて一握りだ。それ以外の凡人が何とか生き残るには小賢しくいきていくしかねぇ。…………エミリアたんも簡単にやってるけど、やっぱり結構やる側は難しいんだ」
「……ラインハルトやツカサの事はよく解る。何か問題があっても、あっさり解決しちゃうから。でも、私がしてる事については別。そんなに立派だなんて思ってないから。……スバルもそうなの?」
「オレがエミリアたんに尽くすのは100%下心だからね。不純も100%なら純粋になるってもんかな?」
相手によく思われたい、対人関係における行動は紐解けば原点はそれに尽きる。
……が、それが全てとは言わない。この短期間で見てきたから。例外的な立ち位置だったとしても、実際に見た以上全てだとは言えない。
つまりは、人間は簡単ではない、と言う事なのだ。
「だから、下心が見え見えのお前の好感度は実は高いぜ。安心しろよオットー」
「ナツキさんに言われると釈然としないんですが………」
「ハッ! ツカサを求めてもダメよ。ラムからの慰めで我慢なさい」
「ラムさんから慰めって言葉聞けるなんて思わなかったですよ!? それに僕ツカサさんって言いました?」
ここにいる面子は誰もがそうだ。簡単ではない。
簡単ではないからこそ、面白いともいえるが。
「あ~~、そんな顔してたわ」
「どんな顔ですか!?」
「バルスと同類顔」
「うぐっつっ!??」
「んな顔すんなよオットー!! つーか、ラムだって結構不純じゃねーか! 兄弟と子供作ろうって迫ってただろ? 不純異性交遊ってヤツじゃねーの!?」
「不純な訳がないじゃない。ラムが純粋にツカサを欲してるだけだもの。良い男には良い女が近づく。それだけの事よ」
「! つまり、オレもエミリアたんが近づいてきてくれたから,良い男って事に――――」
「まぁ、物事には例外と言うものは存在するわ」
「シレっとディスるのヤメロ! 傷つく!」
どこまでも楽しそうにしているのだから。