Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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精霊とエルフ

 

 

 

「聖域に全てが―――か。その全て(・・)の中にお前も入ってるのかよ? ……兄弟」

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての準備を終え、屋敷から聖域へと出発したスバルたち。

少々準備期間を要したが、滞りなく聖域へと向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出発時に変わった事と言えば、驚いた事にペトラが屋敷のメイドとして就職を果たした、と言う所だろうか。

スバルもまだ高校生。更に若い12歳のペトラが就職して立派に働ける大人………、少々複雑だったが、可愛らしい妹分だ。末永い目で見守ろう、と結論が出た。

 

 

屋敷はフレデリカに加えてペトラが居る。問題ないだろう。

ベアトリスだって寂しくない筈だ。

 

 

 

「(曰く付きの亜人族……その受け入れ先が、聖域か……)」

 

 

聖域の特性を聞かされたのを思い出し、スバルは乱暴に頭をかく。

種族として、人間と亜人との間に溝が存在するのは最早定番。ファンタジー世界のお約束だと言える。

それはスバル自身も解っている。解っているが、どうしても譲れないし認めないし、憎悪を漲らせてしまう結果につながるのだ。

 

 

何せ、亜人蔑視――――その最たるものがハーフエルフへの根深い敵愾心だから。

 

 

心情は理解できる面はあるものの、その犯しても居ない業を背負い、ただ只管に前を向いて頑張り続けてきたエミリアの姿を知ってる。知ってるからこそ、こればかりはどうしても譲れない。

例え世界に背く事になってもだ。

 

 

ただ、それをするにはどうしても力が居る。世界を纏めるに足る絶対的な力があれば……と何度も思った。

そして、それを可能にするほどの力と人徳、人格を持つ最高峰に位置するのがツカサだと思った。

なんの含みもなく裏もなく、真っ白な状態で、強大な力を携えても尚、驕らず胡坐をかかず、自分の大切な人の為にその力を使う。

大切な人の為なら命も惜しくない。

 

そんな男でありたいと思った。大切な人―――愛する人の為ならば、と。

 

外の風景をじっと見つめているエミリアを見て、猶更―――。

 

 

「どうしましたか? スバル君」

「うん? ああ、何でもないよ。ちょっと聖域の事を考えてただけだ。……そういや、歴史の本で亜人戦争ってのもあったよな? 歌とかもリリアナから聞かされてたし」

 

 

そんな時、不意に傍にいたレムから声をかけられた。

流石に亜人差別だとか直接的な事は言わず、歴史の勉強~的なフリをして戦争話題にすり替えたのだ。

 

 

「はい。亜人戦争は 凡そ100年前の事ですね」

「そんで今更だけど、あの【剣鬼恋歌】ってヴィルヘルムさんの異名に似てね? もしかしたらあの人の剣鬼の由来って―――」

「いえ、あれはヴィルヘルム様自身が由来となった物語ですよ」

「………へ? マジ?」

「はい。マジです」

 

 

事実―――あの剣鬼恋歌に歌われる主人公はヴィルヘルム本人。

剣聖と剣鬼の出会いから全てが彼自身の紡いだ物語なのだ。

 

まさに歴史に名を遺す人物。スバルの知人でもある筈なのに一致していないとか、あまりにも小人が過ぎる。

 

 

「ハッ。ヴィルヘルム様とアレだけのやり取りをして、先代剣聖を娶った事実をしって、会話を重ねて、これだけ物語と符号点が幾つもあると言うのに解ってなかったとか、情けないのを通り越して呆れるわねバルス。それが通常だとしても嘲笑ものよ。その点、ツカサは知っていたわ。加えて剣鬼の様に生涯を誓い、想う事が出来るのか、と自問自答をしていたわね。……まぁ、間違いなく出来るとラムは伝えたんだけどね。ツカサも思う所があったようよ」

「へーへー、悪ぅござんした姉様! ………ま、オレだって思うよ。兄弟が出来ない訳ねぇって。あの歌の主人公―――ヴィルヘルムさんにも全く負けてない戦果と結果を残してくれてるんだし」

 

 

ツカサが齎したモノ、ツカサが残したモノ、それらを考えたら決してあの歌の主人公に見劣りするとは思えないし、寧ろ上回ってるとさえ思う。

永き歳月をかけた時間や各人それぞれで違う愛に関連する事は一概には言えないかもしれないが、愛を向けられ、向けている本人が認めている以上、それ以上の評価の仕様が無いだろうが。

 

 

「ふふっ。早くツカサも戻ってこないとだね。こんなに楽しそうにしてる輪の中に入れないのはすごーく残念だし、後からツカサが聞いたら辛くなるし、悔しがるだろうな、って思うの」

「そりゃそーでしょー、エミリアたん。オレだって兄弟からエミリアたんのレアシーン見逃した~的なの何個も聞いてて、唇を噛み締めて悶えていたんだよぉ」

「れあしぃん? ちょっと何言ってるか分かんないかな」

 

 

いつも通り、朗らかな会話を続けるのだが……エミリアの様子は何処となく暗い。

その理由は明らかだ。

 

 

「パックのヤツ、やっぱ顔出さなかった? エミリアたん」

「……うん。今日も、出発準備期間中も、何度も声はかけてるし、契約の繋がりは感じるんだけど……、こんなに長く顔を魅せないことって滅多にないからすごーく心配」

 

 

ここ数日で起きた異変の1つにパックの存在がある。

エミリアの契約精霊であり親代わりを自称する子猫の姿を一切見かけてないのだ。クルルが居なくなったからと言って、パックまでいなくなる必要は無いのに。

 

 

「ほんとはパックとも聖域の事も相談したかったんだけどね」

「うーん。パックの分の戦力ダウンってかなり痛いからなぁ……。オレがパックの分までヤル!! なんて殊勲な事 今の見習いなオレじゃ口が裂けてもいえねぇし」

「大丈夫ですスバル君! スバル君が出来ない分は、このレムが身を粉にして頑張ります!」

「レム~~、その心意気はマジ鬼がかってる……ほんと感謝してもしきれねぇよ」

「えへへ。褒めてくれても構いませんよ?」

「いっくらでも褒めるぜ! 褒めちぎってやるぜっ!!」

「っっ~~~~~~、れ、レムは幸せです! スバル君ッ!!」

 

 

頭を差し出されて、幻想? の尻尾や耳まで見えてきて、本当に可愛らしい女の子だ……とスバルは思いつつ、思いっきり頭を撫でた。

 

もう1つの最愛、妹が幸せそうなのは良いが、スバルがそうなのはイラつく、と言う事でラムが一声。

 

 

「肉壁しか取り柄が無いのだから、出来ない分、その小賢しい頭をフルに活用する事ね。バルスにはそれしかないわ。肉壁しか取り柄が無いのだから」

「二回肉壁言うな! 実際肉壁になってヤバくなったら嫌なのラムも一緒の筈だろっ!??」

 

 

まさに《飴と鞭》な感じ。

エミリアとレムの甘やかしや癒しがあるからこそ割合が獲れている、と言うモノだ。ソレほどまでにラムは辛辣。いちいちごもっともだから寄りきつい。……いい具合に尻を叩かれてる、と思う事にしている面もあるが。

 

 

「ふふふふっ。私もすごーく皆の事頼りにしてるから。でも、私だって頑張れるからね。パックが一緒じゃなくても微精霊の子達だっているし、私もスバルの事守ってあげられるから」

「うぅぅ……、エミリアたんマジ天使~なのに、英雄見習い、目指せ兄弟、を心情としてる身としてはやっぱり堪えるモノがあるよぉ………。で、でもそのセリフオレが言えるようになる、言えるようにするから待っててね! 勿論、レムもだぞ!」

「わかった。すごーく期待して待ってる」

「流石はスバル君です! レムは感服致しました!」

 

 

嬉しい反面、やっぱり強くなりたい欲求が高まってくのを感じてスバルは思わず頭を垂れた。

その後は すぐに、いつも通りラムの【ハッ!】が聞こえて毒舌トークを聞いて終わり、である。

 

 

 

 

 

 

「そういや、フレデリカはガーフィールに気をつけろ、って言ってたけど、ラムやレムは問題ないって言ってたよな? 実際どうすりゃ良い訳? 警戒? 安心??」

 

 

契約で話が出来ないフレデリカが唯一スバルは警戒した方が良いと言うのがガーフィールと言う名前だ。

 

 

「全く問題ないわ。問題視する意味も不明よ。ただの負け猫ガーフだから」

「姉様がいらっしゃれば大丈夫です。スバル君」

「また他人頼り……って、負け、ねこ? ガーフィールって猫なの?」

 

 

ふっしゃー! と爪立てて襲ってくる? 風貌が一瞬頭を過る。

だが、猫は猫でもヤバい系の猫を知ってるので、猫だと聞いても安心は出来ないが。

 

 

「まぁ、バルス程度ならそれこそ一瞬で襤褸雑巾にされるでしょうね」

「それ全然安心できないヤツ!!」

「恨まれてる可能性も捨てきれないわ」

「会った事もないヤツにか??」

「恨みを買ってるのはツカサの方よ」

「なんでここで兄弟が恨まれるのっ!?」

 

 

揶揄われているのか、真面目なのか、判断に困る話ではあるが、少なくともスバルの中で、ガーフ基、ガーフィールは要注意人物(猫?)だと認識を改めるのだった。

 

 

そしてエミリアは、スバルたちのやり取りを見て、口元に手を当てて笑っていた―――が、時折表情が陰る。

 

 

そして、それはとある場所に到達した時から顕著に表れ始めた。

 

 

「森に入ったわ。―――そろそろね」

 

 

ラムの一言からだ。

殺風景だった道筋が、深緑の森へと姿を変える。

 

この森深くに存在する聖域。特殊な結界で守られている聖域。いよいよ、その領域内へと足を踏み入れたのだ。

 

 

「…………」

「エミリアたん、ひょっとして緊張してたりする?」

「ッ―――! すごい、なんでわかったの?」

 

 

エミリアの様子は逐一観察していたスバルは直ぐに気付く。

でも、これはスバルじゃなかったとしても……。

 

 

「キミのことなら何でもわかる、って言いたいとこだけど、今のは誰でもわかるよ。なぁ? 2人とも」

「はい。スバル君は素敵ですから」

「バルスに花を持たせてあげるつもりだったのだけど、あまりにも遅いから甲斐性が無さすぎて呆れそうになったわ。ギリギリ及第点を挙げたくなくもないわ」

「よーし、レム甘々、ラム辛辣! ってな訳で、皆解ってるよーエミリアたん。……皆がついてる。だから安心して~ってくらいしか言えないのが何だかなぁ」

 

 

エミリアの力になりたい! と常日頃思ってはいるが、やっぱり力不足はどんな場面でも思ってしまう。仕方がない事なのだが、日々精進だ。

 

 

「ううん。心配させてごめんなさい。もうすぐ聖域に……亜人族だけの村につくって思うと、ちょっと……」

「ああ……、そっか。こっちこそごめん。そこまで頭が回ってなかった」

「ハッ。情けない」

「申し訳ありませんでした!!」

 

 

エミリアの緊張の原因……、考えてみれば明らかだ。

フレデリカの説明でもラムやレムからの説明でもあった。聖域とは単なる亜人族の集落ではなく、【訳アリの亜人族】が暮らす場所なのだ。

 

 

「エミリアと同じ境遇の………」

 

 

最後まで言いきる事は無かったが、それでも可能性が無い訳じゃない。十分あり得る話なのだから。

 

 

「……私、自分以外のハーフエルフには合った事ないの。あんまり、そんなこと考えた事なかったけど、でも――――……」

 

 

聖域にはもしかしたら……? と思うのだ。

それを確かめるには、やはり聖域に行くしかない。

 

 

「でも、レムやラムは知ってるんだし? ここで答え大発表~とかは?」

「……申し訳ありませんスバル君。エミリア様」

「契約よ。フレデリカ同様、妄りに聖域について口外する事は出来ないの。理解しきれないのかしら?」

「理解したよ! とりま、言ってみただけだよ!! あーもう、臨機応変って存在しても良いと思うんだけどな!」

 

 

そんな時だ。

 

 

「―――は!? え、エミリア!?」

「え? あ……これって……!?」

 

 

 

突然、車内に異変が発生した。

異変の起点は外でもないエミリア自身。レムもラムもスバルと話をしていたから気付くのが遅れた。対面式で座っていたスバルだからこそいち早く気付く事が出来た。

 

彼女の胸元、その内側から突然青い光が膨れ上がって、エミリアの服でその光を抑えておく事が出来る訳もなく、一瞬で青く染め上げた。

 

 

「石が、光って……!? スバル! 皆!」

「聞いてないわよ。フレデリカ……」

「これは一体!?」

「ちょいまて、まじで嫌な予感しかしない! エミリア、借りるぞ!」

 

 

激しく光る青い輝石。

スバルにとって、この光景は初めてじゃないし、何ならトラウマの1つとして数えられるものだ。

赤く光輝く魔石。それは今まさに爆発寸前で―――――どうにかこうにか、白鯨の首なし死骸、その体内に放り込む事で九死に一生を得たあの場面がどうしても浮かぶ。

 

 

「スバル君!?」

「大丈夫だレム! 一応、近づくな! 何もなけりゃ、後で拾ってくる。だから、今は外に――――ッ!? エミリア!?」

 

 

次にスバルが見た光景……それは崩れ落ちるエミリアの姿と言う最悪の光景。

ラムやレムが傍に居るとはいえ、見たくない光景に咄嗟に手を伸ばす。伸ばして、伸ばして伸ばして――――どうしても届かない。

叫んで叫んで叫んで――――それでも…遠い。

 

一瞬にも満たない時の狭間。

 

 

 

 

そして気付けば、知らない場所にいた。

 

 

 

 

 

「どこだよ、ここ。……って、んなお約束いってる場合か!? エミリア!! レム! ラム! オットー!! どこだよ!!」

 

 

 

いたはずの竜車の車内じゃない。全く見覚えの無い降りた覚えもない、気づけば森の中。

転移させられたのは自覚出来た。

 

 

「頬、つねっても痛い。夢とかの類じゃねぇ……。兄弟ん時みたいに仮想空間に入る、って感覚でもねぇ。これは現実だ。……だとすれば、ベアトリスの扉渡りみてぇな空間転移。……それもこの手の中の輝石がトリガーか」

 

 

混乱極まってるが頭は働く。

あの青い輝石が発光した事でこの状態になった。だからそれ以外考えられない。

 

 

「ちぃ……、エミリア倒れてたんだぞ。2人が見ていてくれてるとはいえ、安心できねぇ……!」

 

 

原因が解らない。

あの輝石が原因だと思うが、エミリアが倒れて自分達が大丈夫だった、と言う理由も解らない。

解らない事が重ねて起こると、人はパニックを起こすと言うモノだが、生憎スバルの精神力は常人の域をはるかに超えている。

 

 

「一先ず、大急ぎで戻らねぇとな。犬ッコロみてーなヤツがいねぇとも限らねぇし」

 

 

地獄を見てきたスバル。焦り、安心できず不安……であったとしても、パニックを起こして何もかも手につかない、なんて事にはならない。

自分が出来る最善を選ぶ事くらいは出来る。

 

勿論―――不安は尽きない。

エミリアやレムラムの事もそう、そして何より……

 

 

「フレデリカ……一体何したんだ? あの輝石のせい? 何か関係あるのか? ……あぁぁもう! 今考えても答えでねぇ! 取り合えず、合流だ! せめて森を抜けて――――ぁ?」

 

 

 

自分1人の無力さは嫌って程解ってる。

こんな所で死に戻りを発生させたとしたら、下手をすればループに嵌る危険だってある。

慎重に、それでいて確実に皆と合流を―――と足を踏み出したその時だった。

 

人影と目があったのは。

 

そして、何よりも驚愕する。

 

 

 

人影は1つ。だが、特筆すべきはもう1つある存在。

鬱蒼と茂る深緑の森の中で最も目立っていて、尚且つ同化しているともいえる矛盾。

あの緑玉の輝き、紅玉の輝き、忘れる訳がない。

 

 

 

 

――――クルル………!?

 

 

 

 

 

人影と共にあるのは、願って止まなかった存在が1人。

かの英雄が使役している大精霊。

幾度も助けてくれて、自分に同じ視線になれるよう英雄の苦しみも体感さやが……させてくれた存在。

 

求めてやまない存在の内のひとつ。

 

 

 

「お前ここにいたのかよ!? いやぁ、ベア子、マジナイス! マジで、愛してる! ベア子万歳!! 答えの全て(・・・・・)が此処にあったんだな!? おーい、クルル! オレだ! 解るかー!」

 

 

もう1人の人影の事よりも先に、あの緑と赤の輝きを纏う存在に声をかけ続けた。

 

そして少し近づいた所で、もう一人の存在のその特徴に気付けた。

 

 

「あれ? 一緒にいる子……、女の子の耳、長くない?」

 

 

そう、特徴の1つ耳が長い事。

幼気な少女の姿で、耳の先が尖っていて、通常の人間より長く思う。

エミリアと比べても明らかに。

 

 

「ひょっとして、エルフ?」

「―――――」

 

 

クルルの存在を見て、安堵感がとんでもなく出たのだろう。

全く無警戒に、それでいて堂々と間合いを詰め続けるスバル。

そのエルフを連想させられる風貌に興味を持ち、更に近づいたその時だ。

 

 

「は!? え? いや、ちょっと!!」

 

 

あの少女と精霊は、まるで幽鬼の様な動きで背を向けて突然走り出した。

あまりに想像してなかった展開にスバルは反応が遅れる。何より嬉しかった自体が突然一変した。

 

 

「クルル!? クルルだろっ!? ちょっと待てよ! いつでもモフモフして良いって約束忘れたのかよ!? どこいきやがる―――っ!!」

 

 

あの存在がクルルである。間違いない、と今も思ってる。

だから、ただ揶揄っているだけなのだろう、と思っていたのだが、考えとは裏腹にどんどん距離が出てきて、段々と病み上がりなスバルも息が上がり……。

 

 

「く、くっそっ……、こな、くそぉ!」

 

 

どうにか最後の力を―――と足を前に出し続けた。

逃げる背中を懸命に追い縋る事数分。もう背は完全に見失ってしまった代わりに、森を抜ける事が出来た。

 

 

「抜けた―――……? けど、なんだここ」

 

 

開けた先にあった空間に苦し気に顔を顰める。

しんどい中で走り続けたから、と言う意味もあるが、兎に角流れ出る汗を拭い、正面にある奇妙な建物に首を傾げた。

 

 

石材を積んでくみ上げられたそれは、ひどく原始的な建築様式―――と言わざるを得ない。

ファンタジーの世界だからとは言っても、ここまで原始的な遺跡は初めてだった。

外観の大部分は緑の蔦や苔に覆われていて、わずかに剥き出しの壁面は派手にひび割れている。

歴史を感じられる赴き、恐らくは数百年は下るまい。半分程が森に浸食されているところを見ても、人の手から離れて数百年、と言った感じだろうか。

 

 

「……墓場、って感じだ。一瞬ピラミッドっぽく思ったし……って、それよりも! くっそ! 最悪だ。見失った……。つーか、何で逃げるんだよ!? 逃げた先にアイツが居たりすんのか!? だったら、猶更追いかけて…… いや、ラムを連れてきた方が良いか? アイツの千里眼なら…… いや、でも無理させ過ぎても不味い。クルルが居ない状態で力使い過ぎたらどうなるか、火を見るよりも明らかだ……」

 

 

探し人、と言えば 現時点ではラムが最も最適な能力を持っている。

波長の合う存在と視界を共有する千里眼の能力。アレとツカサがテンペストが合わさった時の索敵能力のすさまじさはスバルも体感している。現時間軸に置いて知るのはスバルとラムだけになるが。

 

兎に角、誰かを探すとなると、どうしてもラムの能力が必要だろう。レムに心配をかける訳にもいかないが、それでもラムの本懐でもあるから、どうにか最適な行動を……と、スバルは見逃してしまった自身の不手際に対する失望を隠しつつ、考えを張り巡らせた。

 

 

確かに不手際だ。ラムから100を超える罵倒が飛んでも仕方ない。

でも、それでも良い。

手がかりほぼゼロ、ベアトリスの言葉、証言だけだったのだが、実際にこの目で見たのだ。

聞くだけでなく、見る事が出来た事実は、スバルに失望よりも興奮と高揚を齎したのだ。

 

 

 

 

 

「……周りに もうはいねぇ。ならこの遺跡に……だろ? 期待すんな、って言う方が無理だ。……行く。行ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

そして、この後……スバルは遺跡の闇の中に誘われ――――不機嫌な魔女と相対する事になるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――場面は 始まり(ゼロ)に戻る。

 

 

 

あの存在―――不機嫌な強欲の魔女。

エキドナと名乗る少女の元へ。

 

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