Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
目が覚めた時の印象は、その感触は……最悪に近い。
ゴツゴツと固いモノが頬に当たる。どうやら、柔らかいベッドの中ではない事は確かだ。
「ぁ……、ここ、は? ……あれ? ……んん??」
最悪な寝心地は兎も角として、それ以上に正直不快にさせるモノがあった。
まるで心にぽっかりと穴が開いたかの様な、記憶を司る脳の海馬が欠けた様な……何かがあったのは確かなのに、その根幹が思い出せない。
【ボクも似たようなもの、なんだよ?】
そして、何故だか解らないが、頭に変な声が響いた気がしたのも嫌な気分になる。
今の今まで一緒に有った声の様な気がするのだが……、どういう訳だか解らない。
取り合えずまぁ、それはそれとして、思い出せないのなら仕方ない、とスバルは立ち上がり、頬についた土ぼこりを手で払い、暗がりの中を進み続けた。
取り合えず、で置いとける程にその妙な声は無視できると判断したのだ。それより現状の確認の方が圧倒的に優先順位が高いから。
この場所、見たところどうやら古い遺跡の跡———その中に入って10m付近と言った所だろう。
真っ暗な闇……と言う訳でなく光が差し込んでいるのは本当に心強いと感じた。外に間違いなく出れるのだから。脱出には困らない
「とにかく、外だ。外に出ねぇと……。エミリアやラム、それにレムとだって合流しねぇと……」
長時間あの最悪な環境下で寝てたとでもいうのだろうか? 身体はバキバキで頭は重たい。
それでも何とか前に進む。
今、必要なのは外にある【聖域】へと向かう事だ。そこに皆が居る筈だから。
全ての答えが待ってる筈—————だから。
「くそっ……、なんか蚊帳の外って感じがして妙に嫌な気分だ。……これまでは全部知った上で行動出来てたつもり、なんだけどなぁ……。オレの死に戻りは使う訳にはいかねーし」
とことんツカサと言う絶大な信頼と親愛(笑)を向けられる相手に依存体質だったんだな、と笑うスバル。エミリアの騎士になると意気込んだはいいものの、こうもあの力が、あの存在が心細くなってしまうのは情けない。孤独は、何よりもきつく、何よりも苦しい毒と成りうるから。
真なる意味でその孤独を最初に埋めてくれたのが、ツカサだったから。……そして秘密を共有出来ているラムも候補に挙がるが、そんな事言った日には大変な目に遭いそうだから絶対に口には出さない。
そんな時、だった。
遺跡から外に出て、太陽光を一身に浴び、一息つこうとしたその時———。
「――—よォ。そんなッとこから堂々と、いい度胸してんじゃァねェか、テメェ」
「あ……?」
不意打ち、とまでは言うまい。その存在は真正面からやってきているのだから。
あまりにも注意散漫だったのは自分自身の落ち度だから。
「いッくら、テメェが信用されようがなァ、俺様にとっちゃァ関係ねェ話なんだからよォ!!」
「……はい?」
まるで今にも噛みつきそうな雰囲気を纏い……いや、実際にトゲトゲしいその牙が顔面の中で一番目立っているから、真面目に噛みつかれて、かみ砕かれそうな勢いだ。
差かだった短い金髪は、某地球外星人とでもいうのか? 額には目立つ白い傷跡が生々しく、その男の凶暴さ、獰猛さを表している気がしてならない。
猫背に丸めた背丈は、決して大きいとは言えず、何なら自分より遥かに小さな上背ではある……が、他者に侮らせないほどの濃密な気配が、殺気が前進から垂れ流している様だ。
「おうおう、ビビってんじゃねェぞ、余所者!! てめーは運が無かった。それだけの事、ッだからよォ!! 此処にゃ、オレ以外の誰も居ねェんッだッからよぉ!!」
「いや、ちょっと待て。話は聞く。でも頭ン中が追い付いてない。一先ずどういう事か説明を―――」
「ハッ!! そいつァ無理な話だァッ! 【考えるよりガングリオン】って事だからよォ!」
「がんぐ、? あん?」
応酬に混じら得た謎の慣用句————よりも何よりも、どうにも好戦的な気がしてならない。向きだした牙、それに構えた両手はまるで猛獣の爪を出そうとでもいうのか? でも、アレで一振りされたら、自分がどうなってしまうのか……木の葉の様に吹き飛ぶ姿が容易に想像できる。
こっちの方がでけぇぞ! と言いたい所だが、まだまだ英雄見習いのLv1である身とするならば、こういう話聞かない系統のタイマン、野生丸出しな相手と事を構えるのは難しいを通り越して鬼難易度だ。
ユリウスとの模擬戦(と言う名のリンチ)よりも難易度が高いのではないだろうか?
「【聖域】の最強は、この俺だァ。それをアイツに証明するッ為にも、逝ってもらうぜェ兄ちゃんよォ!! せいぜい、不運を恨めや、【右へ左へ流れるバゾマゾ】みてェになれッ!!」
「いや、待てよ待て!! マジで待て! ちゃんと話をしてから―――」
「【めくってもめくってもカルランの青い肌】一切聞かねぇッ!!
制止の言葉は一切聞かず、何をそんなに怒っているのかもわからず。気が付いたら男はもうすでに懐にまで入ってきていた。
凄まじい速さ、この俺じゃなきゃ見逃してるね。とこじゃれた噛ませ犬発言の1つや2つ、残してやりたかったのだが、もう遅い。
襟首掴まれて思いっきり吹き飛ばされたからだ。
「おっっ、あ―――――っっ!」
信じられない程の怪力だった。小柄なその体躯の何処にそんな力が―――と思いたいが、あの白鯨戦を体感している身としては、この程度で驚いてはいられないだろう。何せ可愛らしいミミ、ティビー、ヘータローらの戦闘を見ているのだから。あの3人と眼前の男を比べたら更に半分くらいに小さい。
野生と言うのはかくも恐ろしい存在なのか……と、悠長に考えていた間に。
「だ、ふ―――――――!!」
「おおおお! パトラッシュちゃん、凄すぎます! ナイスタイミングっ!!」
いつの間にか来ていた竜車。そこにはオットーの姿もあり。
視界が反転しているが、しっかりと耳は聞こえるし、パトラッシュの、愛地竜の声だって聞こえてくる。
見事な竜さばきなオットー……と言うよりは、聞く感じパトラッシュの
「おっと、オットー、なんでここに?」
「パトラッシュちゃんと僕に助けられた後の第一声がそれですか! 兎も角た、大変だったんですよ!! ナツキさんは消えちゃうし、ラムさんもなぜかあの後に消えちゃうし! エミリアさんは―――」
最後まで言い切る前に、パトラッシュが走り始めた。
咆哮と共に、引いていた竜車を外し、あの男に飛び掛かる。
「成る程なァ! 痺れる判断だァ! いい地竜、いやいい女だぜ、てめェ。他じゃ飽き足らず、てめェみてェな女抱き込んでる姿みてッと、より
パトラッシュの捨て身の攻撃。
それは突き出された男の左腕を捕らえるにとどまる。
どうにか食らい付こうと藻掻くが、膂力はあの男の方が遥かに上か。腕力に物を言わせて。
「痛ェ目には遭わせねェ! ちーっとばかり寝とけや!」
そのまま有りえない背筋力で地竜を大地から放り投げてしまった。
「パトラッシュを……なげた」
「えええ!?」
大きなパトラッシュがうめき声を上げながら、放り出される。流石に経験した事が無い事だろう。
白鯨戦で、ツカサのテンペストで巻き上げられた事はあるが、あれは最後の最後までアフターケアまでしてくれてたし、傍らに居たツカサの愛地竜、ランバートも居たから大丈夫だったのだが……。それは兎も角とんでも光景を目の前にした2人は流石に言葉を失う。
「なさッけねぇよなァ、よォ大将。いい女ァ前に出させて、挙げ句テメェ自身は三下の横で震えてる、ってかァ!?」
「だ、誰が三下ですかッ! 舐めないでくださいよ! 僕はこれでも行商人の端くれ! ツカサさんと一緒に旅も経験し、最悪な暴漢に対しての対応を直ぐ横で見てました!! これまでの経験が、全て僕の糧になってるんですッッ!!」
オットーはへっぴり腰ながらも、闘志をほんのちょっぴり宿した眼を向けた。
そう、曲がりなりにもオットーはツカサと共に旅をした間柄。
スバル自身も聞きかじった程度ではあるが、実はツカサとの旅、つまりツカサがこの世界に降りて間もなく、白鯨を追い払った後に魔女教とも出くわしていたりする。
当然、ツカサが撃退した訳だ。オットーは特に役に立ったわけじゃないのはご愛敬。
でも経験が糧になるのは当然ある話だから、まさか秘められた力が覚醒する時だったりするのか!? って、思っていたんだけど……。
「行きますよ!! スーウェン家流暴漢撃退術———だふんっっ!!」
「るっせェよ、このド素人。見てくれみてりャァ大体わかんッだよ! あのイイ女に免じて半殺しですませッたらァ。寝てろ」
勢いが良かったのは、威勢が良かったのはほんの一瞬。
いつの間にか、間合いを完全に殺され、接近され、オットーは何をする事も無く額を指で弾かれた。
「ぎゃあっ!!」
傍目から見て完全にデコピン。
デコピンでヒトが飛ぶなんて、何処のバトル漫画だ! とツッコミたい気分ではあるが、そうも悠長にしてられない。
パトラッシュ、オットー、……次は自分の番だから。
「ぐっ――――!」
スバルは竜車の中を見た。
ほんの少しではあるが、オットーの話は頭に入ってる。
この竜車の中にはラムがおらず、エミリアただ1人になってしまっていると言う事。そしてそのエミリアは眠っている無防備状態。
そしてラムが消えてしまったのは正直想定外だ。
あの妙な石の光のせいで転送されてしまったのは自分だけだと思っていたのだが、その余波なのか、或いは別の理由なのか……、ラムまで消えているとは思わなかった。
完全武闘派なレムとは違う、とラムは言っていたが、事ツカサ関連で齎せるラムの愛あるパワーはレムに引けを取らない、とスバルは思っている。
ここで全滅するとなれば、ラムは文字通り怒り狂うだろう。……スバル自身がやられでもすれば、その代償がツカサの方へと向かってしまうのだから。
ここで諦めるつもりは無い。
竜車の中で眠っているエミリアを護らなければならないから。
「おうおう! イイ女に加えて三下までやられて、んで、テメェは前にも出れねェ。そんなもんかァ!? あ? 【剣聖レイドは竜を前に剣を抜いて笑う】って気概でくりゃぁちったァ感心の1つや2つ、向けてやッてたが、テメーは何だ? 腰抜けか?」
「……あああ? いい加減にしろ! オレ目ェ覚ましたばっかで何もかんもいきなり過ぎんだ! キャパオーバーだ! 頭ン中が追い付いてねーだけだ! ちっとは話聞けや!!」
「なーに、情けねェ事言ってやがッんだ。とんだ英雄サマだぜ。【ミルキスに退路なし】ッて状況でまだ対話だァ!? レムのヤツ、この腰抜けの何が英雄だ。誰が何の英雄だッってんだよぉ! こんな腰抜けの何処が英雄だってんだァッ!?」
ドンッ!! と地面に対して怒りを漲らせて足で踏み抜いた。
冗談でも比喩でもなく、地震が起きた気がした。
絶望的な状況なのだが、光明が見え、1つの誤解が解けそうな気がしなくもないが……如何せん相手が聞く耳持たずじゃ意味はない。
「テメェがどんな魂胆で、一体どんな力ァ使ってラム捕まえたか知んねェが。テメェはそんな器じゃねェ。いっぺん死んで出直して来いやァ、
超武闘派より完全なる頭脳派なスバルに、某英雄と比べられては困る。
何故この男がこれ程までに怒りを顕にするのかも何となく読めた。
この男から【レムの英雄】と言う単語を言葉を聞いて、マジで自分の事を狙ってる!? と脳裏に過ったが、その直ぐ後の人名を出してくれて直ぐに誤解であると解った。
何だか身近に、物凄く身近に居る
そう、【嫉妬】と言う名の炎が感じられる。
紛れもなく、この男が求めていて、この男の源となっているのは――――。
「ギャオオオオッッ!!」
「ぬおおっっ!?」
突如、乱入してきたのはパトラッシュ――――ではなく、もう一頭の地竜。
男の横っ腹目掛けて勢いのある頭突きをかました。
それと同時に、その地竜に跨るもう1つの影が動く。
「エル・テンペスト」
「どっっわぁぁ!」
「ぎゃあああ!」
そう、この男が求めているのは青い鬼に対してではなく、もう1人の赤い……桃色の鬼の方。
「弁明の余地なし、ね」
突如乱入してきた地竜、そして吹き荒れる暴風は、目の前の男は勿論スバルも容赦なく巻き込む。
「一体、
粗方吹き飛ばした後、まさに鬼の形相で見下ろしてきた。
まるで空気が歪んでいるかの様な……、まるで一段階怒りで変身したかの様な凄まじい怒りがそこに内包されており、まさに怒髪天を衝くとはこの事だろうか……。
いつものスバルなら、軽口の1つや2つ飛ばしてやるのも吝かではないが、もう限界———と言う訳で、成されるがままに荒れ狂う暴風に身を任せるのだった。