Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

140 / 147
魔女の墓地

 

「どこのバルスか解らないけれど、道に迷った挙句にガーフに絡まれるとか、幸薄いも此処に極まったわね。英雄見習いだとか、目指すとかほざいた口は何処へいったのかしら? ああ、少しでも期待したラムが馬鹿だった、それだけの事ね」

「解らないっつっといて、何だよそれ。中途半端にするくれーなら最後までその設定貫けよ」

 

 

只今聖域内にある集落へ到着した所です。

鬼神の如きラムの御怒りをどうにかこうにか鎮めるのに躍起になっていたが、あの後大変だった。

大変、ってだけで済ませる訳にはいかない! と力説したい程だ。《ツノナシ》で武闘派じゃなくなった設定も一体何処へ行ったのか……。

愛ある力、と本人は言っていた様な気がするが、あんな地獄の鬼でさえも、どんな鬼でさえも裸足で逃げ出す様な鬼神を前に、何処に愛ある要素があるのか、と言いたくなる。

 

当然ながら、普通にやり取りできるようになった今でも、それは口に出して言わないが。けーーーーっして言わないが。大切な事なので2度思ったスバル。

 

 

そんなスバルの隣には、あれだけ殺意を漲らせ、何処かの波動に目覚めたか? と思える嫉妬の情炎を浮かべていた金髪の問題児が大地に額を擦りつけて許しを乞うている。

頭には幾つものタンコブが出来ていて、ギャグテイストでありながらも、地獄の苦痛だと言うモノ解ってスバルは身悶えた。本当の地獄めぐりをしてきた筈なのに、そのアドバンテージがさっぱり活かせないのはどういう訳だろうか。

 

 

「だから言ったでしょう? ガーフ。レムのいう事が信じられなかったのですか?」

「……すいぁぁぁ、せん、でしたァ………」

 

 

一応、名前もスバルは知った。

どうやら、フレデリカに【気をつけろ】と言われていたガーフィールと言う名の人物が、この男らしい。ただ、もう上下関係はハッキリしたと言うべきだろうか。レムは今でこそ優しく諭す様にガーフィールに言い聞かせてる様に見えるが、スバルを襲った事実を知った途端に、鬼が2人になったのはついさっきの出来事。

麗しき姉妹愛を以てすれば、この狂暴な牙を持つ殺意の波動をどうにかこうにか覚えたガーフィールなぞどうしようもない、と言う事だろう。

ただ嵐が去るのを待ち、許しを請う他ない。

 

 

「まぁ、ガーフも男の子。英雄と名の付く彼に挑みたくなる気持ちは分からなくも有りませんが、少々背伸びが過ぎましたね」

「レムさん! そこは解って上げちゃ駄目ですよ!? オレ、英雄目指すっつっても武闘派と違うから! どっちかってーと智将の方だから!」

「ふふっ、レムにとってはスバル君はもう英雄です。目指すまでも無く、英雄そのものだとレムは断言します。ですから、大丈夫なんですっ!」

「相変わらずなレムのスゲーーー高ぇ評価が、心の傷に染みてくるぅぅぅ! 根拠のない大丈夫は恐怖でしかないっっ! ……はぁぁ、レムとラムで飴と鞭って感じじゃねぇよなぁ……。ってか、ある意味世界で一番厳しくて甘くない、って感じだよ」

 

 

スバルに会えた事が何よりのレムにとっての正しく精神安定剤。

ラムと違い、ガーフィールに向かう怒涛の武力が多少なりとも和らいだのはある意味スバルのおかげだから。

だからと言ってラムを止めたりはしてない。当然だ。

 

 

「まぁ、それはそれとして今このタイミングで聞くのは正直空気読めねぇ所の騒ぎじゃねーけど、……お前って、ラムの事好きなの?」

「あァ?」

 

 

土下座姿勢だったガーフィールの頭が90度回りスバルの方を見た。

頭のタンコブの大きさからそれなりに変形しているのでは? と心配だったが(グロテスクな絵を見るって意味で)顔面は大丈夫そうだ。

 

 

「そりゃァ……良い女に雄は惹かれる。強くて優秀なら尚更惹かれる。ンなおかしい話じゃねェ」

 

 

牙を折られてしまったかの様に項垂れているガーフィール。

これは力で押さえつけられてる、と言う訳じゃないのだろう。

 

 

「ここまで、強くなってる、ってェなれば、尚更だろォ? 一体、この短期間でラムにナニがあったッてんだァ」

「そりゃお前。愛する男の為に女が強く~~っつぅ、普通なら逆パターンがラムに対して起きたってだけだろ」

「がァ…………」

 

 

ガーフィールが意気消沈しているのは、紛れもなくラムは自分に気が無い事をまざまざと見せつけられた他にならない。純粋な力比べをしたのかもしれないが、それでも失恋を重ねたうえでの勝負ともなれば、100%な自分を出せる訳も無い。……ある意味、スバルにも解る気がするから。

 

 

「だからと言った筈ですガーフ。姉様は挙式を控えています。……帰ってくれば、ツカサ君とは晴れて夫婦となり、レムにとって義兄様となるのですから」

「グガッッ!!?」

「気が早いわよレム。決定事項とはいえ、予定は立てられてないのだから」

「ギャワァッッッ!??」

 

 

失恋を重ねて、男は成長をしていくと言うモノだ。

今は憐れに映るが、今後とも精進せよ、ガーフィール……とスバルは思った。

 

それはそれとして、集落の奥へと一行は進む為に、竜車へと乗り込むのだった。

 

 

 

 

「ちょっと!! みなさん僕の存在、綺麗さっぱり忘れちゃってませんかねぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜車の中で、半死半生気味だったガーフィールとレムから粗方こちら側の情報は聞けた。

エミリアも無事目を覚まして更に一安心だ。

 

 

「…………」

「エミリアたん、大丈夫?」

「え! だ、大丈夫大丈夫。ちょっと、落ち着かない感じはするけど、大丈夫です」

 

 

目立った外傷も無く、意識もクリアで問題ない、と本人は言っているが、明かにそわそわしているのが目立つ。

少なくとも、聖域の中に入る前のエミリアとは全然違うのがスバルの中で引っかかった。でも、本人が大丈夫と言うので、明かな不調のサインでもなければ過剰に反応しない様にしよう、とスバルは思う。

 

 

「(うーむ。エミリアたんも心配だけど、こっちも(・・・・)なぁ……。つか、あの口ってぜってーフレデリカの……)」

 

 

ガーフィールとフレデリカの関係性もスバルの中では何となく察しがついた。身体の一部分を見れば一目瞭然。……なぜかガーフィールは解ってない様子だったが。

 

でも、それはそれとして、ある程度復活したガーフィールは勢いよく立ち上がるとラムをビシッと指さしながら吼えた。

 

 

「おいラム! テメェが異常にムカついてッんのは、こっちの野郎とツカサッつぅ兄ちゃんをオレが間違えたッ、ってだけで間違えちゃァいねェよなァ!? 【儲け話の陰にデリデリデあり】じゃねェよなァ!?」

「まーたオレとお前の間じゃ、言語翻訳バグってるよ。それ慣用句か? 一体どういう意味なんだよ」

「良い話には裏がある、と言う意味ですよスバル君」

「翻訳さんきゅー、レム」

 

 

スバルの疑問には当然答える者はレムだけだった。

本当にありがたい。

 

そしてラムは【ハッ】と鼻を1つ鳴らせた後にレムに続く形で言った。

 

 

「当然よ。ラムのツカサは唯一無二。一体どこのバルスと間違える様子があると言うの。ツカサを腰抜け、呼ばわりした事……。その罵倒も、バルスに向けられたと言う意味で解釈し直すと誓ったから、まぁ良いわ。………これでも解らないのならその頭の中に叩き込んであげましょうか? ―——物理的に」

 

 

最後のラムの言葉にゾクリ、としたのは気のせい等ではないだろう。

スゲー釈然としない腰抜け発言はとりあえず置いといて、物凄く寒気がした。

 

物理的に、それも頭の中に~~と言うのはつまり、脳みそに直接叩き込むと言う事だろうか。

物理的に叩き込むと言う事なのだから拳で頭の中にイン? 

それはつまり、よく昔から言われる脳みそは豆腐より柔らかい。そこにラムの一撃が物理的に入るともなれば――――。

 

 

「怖ぇぇよ!!!」

 

 

想像してしまったスバルは思わず叫んだ。

どう見ても潰れたトマトが可愛いくらいになってしまうグロ画像を想像してしまったからだ。飛び出る脳漿が簡単に想像できたのも最悪だ。

 

肉やら骨やらで守られている以上、血が噴き出すのはアリとしても、贓物の露出は控えめな筈なのに、モロ想像してしまったから。

 

 

「(怖がるスバル君、可愛い……)」

 

 

グロ画像を想像して怯えるスバルをカワイイと言うレム。いつも通りの平常運転である。

 

そんなスバルの叫びにはレム以外は気にしない。

エミリアでさえ、やっぱり自分の事で精一杯な様で特に気にならない様だった。……と言うよりある程度はいつも通りだから。

 

当の本人、ガーフィールはにやりと笑いながらラムを見る。

 

 

「じゃァ、そいつァつまり、その男が聖域(ここ)ォ来た時にィ。……挑んでも問題ねェ訳だ!?」

「ええ。好きにするが良いわ」

 

 

 

ラムがサラッと返答してあげている。

当の本人抜きで。

 

 

「そりゃ幾らなんでも兄弟が可哀想じゃね?」

「ハッ。ラムの約束を破っているのよ? 負け猫の相手するくらい何でもない話よ」

「負け猫って……」

 

 

ツカサに会える。

まだ死んでいない。

その確信があって、速攻でラムはこの手の軽口を言える様になった。喜ばしくも有り、ツカサに同情してしまう自分も居て……それでいて、ちょっとくらいは自分も叩いても良いんじゃ? と思ったりもしてる。

心配かけやがって、と家族がげん骨を落とす様に。

 

 

「っしゃあァっ!! 俄然ヤル気がでッたぜェェっ!! 英雄と拳交えれるんだァ。喜ばねェヤツァ男じゃねェよ」

 

 

歯をガチガチと鳴らせながら感極まる顔をするガーフィール。

ほんのついさっきまで、失恋した男の様な顔をしてた気がしたのが嘘のようだ。また新しいおもちゃを買って貰えた子供のよう。

 

 

「ハッ。負け猫ガーフが何秒立ってられるか、見モノね」

「【レイドはいつでも真っ向勝負】ってなァ!! 小細工抜きでやってやんよォ!! どっちが強ェェ雄か、決めてやるぜェ!!」

 

 

「はぁ……、何か好意がラムから兄弟に向いてねぇ? アイツ……」

「それはあるかもしれませんね。姉様からツカサ君の事を詳しく聞いたのですから、ガーフなら当然、ともレムは思ってしまいます」

「なーる……。まぁ、解らんでもないか。腕に覚えがあるモンならそんなスゲー逸話? みたいなの聞かされちゃあなぁ……」

 

 

あからさまな恋敵としてみていたガーフィール。

姿の輪郭さえ見えない相手をかみ砕く! 勢いだったのだが、ラムからツカサの事を見下ろされながら聞かされて――――次第にガーフィールの反応が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―——国に傅かれ、剣聖を認めさせ、剣鬼を魅了し、永きに渡り世界を苦しめ続けた三大魔獣の一角を堕とした英雄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの、英雄譚くらいでしか聞かない、書物に記される様な男が居ると言うのだから。

他でもない、ラムの口からそんな男の存在を聞かされたとなったら、ガーフィールは信じるしかない。ラムが嘘をつく理由も無いし、ラムが心底ほれ込むとしたら、それくらい強い雄で無いと有りえないから。

 

 

 

「また、僕を完全に無視して盛り上がってますよねぇッ!! このやられ損な僕を労う言葉くらいくれても良いじゃないですか!! この怒りは一体何処にやれば良いですかねぇ!?」

「うるッせェな、三下ァ! 一世一代のケンカァ決まったんだ、黙ってろやァ!」

「黙ってられませんよ!! って言うか、あなたも原因の1つなんですからね!!」

 

 

オットーが気軽にガーフィールに話しかける事が出来るくらいには、殺伐とした雰囲気は去った、と言って良い。

 

 

「あー、悪い。いたんだな? オットー」

「いますよチクショウ!! 僕の奮闘もまるっきり無視しちゃってくれて!」

「あーあー、うるせェうるせェ。小せェ事気にすんじゃねェよ。謝っただろォが」

「はぁ!? 謝ったっていつですか? まさか、さっきの土下座ですか? アレは全面的にラムさんに対してでしょうが! それとも【悪ィ、ボンクラ。早とちりだった】ってヤツですか!? あれは謝罪じゃなく更なる罵倒ですよねぇ!?」

 

 

如何にある程度雰囲気は良くなったとはいえ、圧倒的強者である立ち位置は変わらないのに、ここまでの態度。流石はオットーと言うべきか。肝が据わってる。

 

 

「オットー……幸薄い、って兄弟にも言われただろ? あまり無茶な事すんな。オレと約束だ」

「喧しいですよ!! それはそれとしても、本当に大変だったんですからね! 竜車が光ってエミリア様が倒れて、ラムさんも居なくなった! ナツキさん、どうしましょう!? と振り返れば、ナツキさんもいない! いったい僕がどれだけ途方に暮れてたと思うんですか!! これ、実はさっきのラムさんの説教の前に話したかったんですよ、ほんとは!!」

 

 

ラムの凄まじい怒りを前にして、それでも割り込めるだけの胆力はオットーには無いらしく……、と言うより、オットーも結構ラムと付き合いが長くなってきたので、ある程度の空気の読み方は学習しているのだ。

 

 

「ハッ。ガーフじゃないけど、小さい男ね。器が知れるわ。知ってたけれど」

「うっっ、本当に大変だったんですってば!! ってか知ってたって何気にヒドイッ!」

「でもま、エミリア様をしっかり護ってみせた所だけは評価しなくは無いわ。バルスと違って」

「え!」

 

 

ちょっと甘い顔、と言うか甘い言葉を向ければころっと反応が変わるオットー。

 

 

自分と違って、と言われた所がやや不本意だが、ここで乗っておいた方がうるさくない、と判断したスバルはラムに同調した。

 

 

「そりゃそうだ。オレはいないわ、ラムもいないわ、オットーしかいない、って状態でエミリアが無事だった。ファインプレイどころの話じゃねぇ。助かった。ほんと感謝してる」

 

 

スバルの追撃。

いつもなら、ラムから再び毒舌の1つや2つ、飛ぶ所なのだが意図を理解しているのだろう。違う意味で空気を読み、ラムは黙っていた。

なので益々オットーは騙され? て、目をウルウルさせながら呟く。

 

 

「お、おおぉ……、ここまで感謝をされようとは思いませんでした……。今までが長かった。物凄く長かったですから……。はい……」

「ちょれェなァ、オイ……」

 

 

ガーフィールの茶々は入ったが、付き合いの長さが違う。

オットーはそのまま偽りの感謝(笑)……とまではいかないが、気持ちがこもった感謝(疑)を受けて感極まった様子で、再びパトラッシュとランバートの方を向くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レム。ロズワール様の容体は?」

「はい姉様。……痛々しい御姿に成られてますが、出来うる事は全て行いました」

「そう。………」

 

 

暫く走ってる間に、ラムとレムの話題はロズワールのものになった。

ここでスバルも声をかける。

 

 

「なになに!? ロズッち怪我でもしちゃってんの? 初耳なんだけど!?」

「はっはっ! 今にもくたばりそうッな感じで笑えるぜェ!」

「いや、全然笑えねぇよ!! ロズっちは、兄弟に次ぐエミリアたん陣営最強クラスの魔導士なんだからよ!」

 

 

ロズワールの実力に関してはスバルも知っている。

王国筆頭とも言われているのだから、色んな意味で有名なのだ。

 

 

「あー、あの野郎については心配するだけ無駄ッだ。オレとレムが付いてやッてる、死なねぇだろうな」

「いや、何残念そうに言ってんだよ。ってもういいや。ロズっちに直接聞けば済む。………色々と聞きたい事山ほどあるしな」

 

 

重症患者であれば、ある程度は穏便にとも思いたいが、事が事だ。……正直遠慮は余りするつもりは無い。

 

 

「色々気取ってるヤツだからなァ。《聖域》なんて呼び方しやがるしよォ……。ここァ、そんなお綺麗な言葉の似あう場所じゃねェ。【強欲の魔女】の墓場って呼び方の方が正しいだろうがよォ」

「――――強欲の魔女!?」

 

 

何処か遠く―――何故だろう? 聞き覚えのある様な無い様な単語……と思ったがそれよりも大袈裟に反応したのはオットーだ。

 

 

「あ、あ、あ、あのっ……まさか、本当に、ここは【強欲の魔女】と関係が……?」

「ちょい待て待て。オットー先に反応してんじゃねぇよ。オレだって色々反応したいのに出鼻くじかれちゃったじゃねぇかよ。なになに? 嫉妬の魔女以外に魔女が他にも居るって事なのか?」

 

 

世界を恐怖のどん底に陥れた恐怖の象徴。

文字の勉強の際、絵本に幾つも描かれていた恐怖の象徴。

それが嫉妬の魔女……と言う事はスバルも知っている。と言うより、恐怖は確かに恐怖だが、クルル(と言う名のナニカ)に説得されて大人しくなった魔女だから、ある意味ではペテルギウスの様な連中の方が怖いと思っている節がある。

 

 

「……やっぱ、嫌な予感ってヤツだよ。兄弟が【強欲】と【暴食】をぶっ飛ばした、って話を聞いてたけど、魔女もそうなのかよ。7人の魔女と7人の大罪司教か。―――――――わ~~ん! 兄弟ぃぃぃぃ!! オレの元に帰ってきてくれぇぇ~~!!」

「情けないわね。耳障りよ。ラムのツカサが穢れるわ。死になさいバルス」

「ヒデェ!! ちょびっと現実逃避したかっただけじゃん! ……そこまで悲痛ってわけでもねーよ」

 

 

色々と色んな意味で盛り上がった所にオットーが入ってくる。

 

 

「改めて考えてみるとツカサさんってやはり物凄い……。実質大罪司教の3人の撃退に関与。おまけに成功って……」

「内1人は討伐完了だけどな。因みにトドメはオレ!」

「僕も傍にいましたし、知ってますよ。それも【怠惰】を。……歴史的快挙である事間違いなしなのですが、ナツキさん見てたらなんかわかんなくなっちゃいます。………って、それよりも【嫉妬】以外の魔女が上がるって事の重要性をまず理解してください」

 

 

オットーの説明に対して、それを繋ぐようにエミリアが口を開いた。

魔女と言う名については、無関係ではないから。

 

 

「すごーく昔。400年前のことだけど、その頃【嫉妬の魔女】以外にも6人の魔女がいたらしいの。でもそれは皆【嫉妬の魔女】にやっつぇられて……」

 

 

随分可愛らしい言葉遣いだ。

でも内情はそんなカワイイものではない。

 

 

「喰われたってことらしいぜ。実際。【嫉妬の魔女】にやられた他の魔女の記録はほッとんど残っちゃァいねェ。ッけど、ここが例外の1つッてわけだァ」

「なるほど。んで、他の魔女の名がマズイって理由は?」

「……あまり話題にしたくはないのですが、魔女教徒の習性なんですよ。ご存じの通り、彼らは【嫉妬の魔女】を信奉してやまないわけですが……、それ以外の魔女は存在すら認めない、許さない。その名を聞いただけでもとんでもなく過激に暴れ回る訳でして……。南にあるヴォラキア帝国はそれが原因で都市を堕とされた、となってます……」

 

 

それは聞いたことがある。

そう、【強欲】がその都市を……帝国の英雄と共に打ち滅ぼしたのだと。ユリウス達から伝え聞いた話であり、ツカサ本人からも聞いた。

 

あの英雄が、逃げの一手。それしか考えない様にしたのは、【強欲】が居るからだと。

【暴食】も十分ヤバい存在。白鯨を知っている以上、無視できる様な相手じゃないのだが、それでも何よりも【強欲】が問題だと。

 

オットーからも細かな説明を聞く。

何でも嫉妬以外の魔女縁の《ミーティア》が出たとかで無かったとか、真偽不明だがそんな類の噂が広がり―――――目をつけられたと。

 

 

「たったそれだけの代償が大都市の滅亡なんです。以来禁句になったとしても不思議ではないでしょう?」

「その厄災を、ラムの英雄はたった1人で退けたのよ。感謝に頭を垂れ、平伏しなさい」

「うん。怠惰の終演に勝るとも劣らないメチャクチャ凄い事でこれも歴史的快挙だって言って良いんですが……、なんでラムさんがそんな胸を張るんです?」

「当然よ。ラムのツカサだもの」

 

 

誇らしいのは当然だ。

自分が何かした訳ではないが、それでもちょっとでも一助と成れたのなら、好ましい事極まれり。

でも、ラム――――そんなに胸を張っても自分のソレ(・・)は、妹のレムと違って―――――

 

 

 

と、邪な事をスバルが考えた途端。

 

 

ガ、ガン!

 

 

と小気味良い、メロディ~を奏でる一撃を、スバルとガーフィールに与えるのだった。

 

……何故ガーフも?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。