Re:ゼロから苦しむ異世界生活   作:リゼロ良し

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強欲の願い

 

 

 

「そぉだねーぇ」

 

ロズワールはゆっくりと身体を起こすとラムの顔を、ラムの瞳を真っ直ぐに見据えた。

そして、己の懐に目配せをすると、一瞬だけ間をおいて。

 

 

「『みつけた』。このただ一言だけだったよーぉ。……無論、その真意も凡そ検討はついている。そして今、ラム達(・・・)と再会した事で更に確信が深まり、間違いないと断言も出来る。―――強欲(彼女)が求めてやまなかったのは、狂おしい程に、死して尚、その魂は自身の権能《強欲》のままに欲し求めたのは、()の事だったと言う事。―――少々、いや、かぁーなり血涙を絞る想いだけどねーぇ」

 

 

何処か憎悪にも似たものを、その瞳に感じられた。

それも仕方がない事なのだ。ロズワールの妄執を考えれば、ラムも理解できる。そして、ラム自身もまた、ロズワールが思って止まない存在を、自分自身の想い人に当てはめて考えてみれば、尚解ると言うものだ。血涙どころの話じゃ済まない気がする。

 

 

「(ロズワール様の心情を冷静に分析できる所を見ると……、ラムはしっかりと吹っ切れている、と自覚も出来るわ。……確認するまでも無く、解っていた事だけれど)」

 

 

以前までのラムなら情炎の猛りをその胸に宿し、呪縛(・・)から救うと決意を新たに持つ場面だったかもしれないが、それでもラムの中のゆるぎない不動の頂点が変わった今、そう言った感情は持ちえない様になっていると改めて認識する。

 

少々複雑に思うかもしれない―――と頭のどこかでは思っていたのだけど、そう言う気配も無い。

ラムにとって、ロズワールと言う人物は————

 

 

「時に、ラム」

「はっ」

 

 

ロズワールは、その思い……世界に厄災を齎せた感情の1つをその瞳に宿したまま、ラムを見据えながら聞く。

 

 

「彼の情報。まだ、得られてないのかーぁな?」

「……申し訳ありません、ロズワール様。ラムの存在に賭けて追いかけている所ではありますが……。ロズワール様を蔑ろにする行為でもあり、心苦しく……」

「いーぃや いーぃや、これはわたーぁしの命令でもあるからねーぇ。言った筈だよラム。彼の事を第一として考える事を、と」

「しかし、書の記述が変わった今は………」

「それを踏まえても、だ。複雑だとは言え、彼女(・・)()の繋がりは思った以上に根深く、想像以上に強固となる可能性が極めて高い。彼女の願いが彼だった……。この結果があるからこそ、私は叡智の書(アレ)を用いなくとも、彼女に………先生(・・)に会えるかもしれない、とも思ったりしているのだよ」

 

 

ロズワールは少しだけ穏やかな表情をする。

でも、それも一瞬の事だ。一瞬でまた眼つきが変わる。目は吊り上がり、それはまるで怒りを顕にしているかの様になった。

 

ロズワールが、ロズワール自身がこれまで辿ってきた道筋を思えば仕方なしとも言える。

 

今ここで平和的に目的を遂行できる道があったとして、その道を選ぶ等出来るものなのか。血塗られた道、呪われた道を突き通してきた。

この世の苦しみは、究極的には自分でなんとかするしかない。そう自身に言い聞かせ……その信念を胸に、願いを実現させる為に多くのものを犠牲にし続けてきた。なのにも関わらず、人外の出現。新たなる世界の英雄の出現によって……ただそれだけで全てが叶う様になると言うのなら、これまでしてきた事は何だったのか。

 

 

「ふはっ」

「…………」

 

 

だからこそ、ロズワールは笑う。

だからこそ、ロズワールは思う。

 

今、思考の中に確かにある道。

でもそんな道は存在しえない。

口には出さないが、そもそもこの考え自体が間違いであると、一瞥し笑う。そして思う。

 

 

「書の記述に則り、私は私の道を征く。……私が突き進むべき道、それは変わっていないのだから。例え、何を犠牲にしようと、何が立ちはだかろうと、変わる事はない」

「………!」

 

 

ラムはロズワールの決意の言葉を聞いて一瞬だけ眉を寄せた。

新たなる記述が発生した事は知っていた。妄執し続けるロズワールが変わったあの瞬間を、忘れる筈がない。

でも、あくまで追記されただけで、これまでの道筋は何ら変わったなかったのだ、とラムはこの時初めて知ったのだ。

 

彼を探しつつ、かの強欲を満たす事が出来れば……それだけで辿り着ける—————。そんな安易な考えはもう二度と持たないとも決めた。

 

全ては、本懐を遂げる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――い」

 

 

そう、全ては決まっている。

ただ、重要なのは何時、どのタイミングで、かだ。現在の状態で真っ向勝負して遂げられる程生易しい物じゃない。

……角が無い自分自身を今日程嘆きたくなった日は無い。

 

 

「お———、ラ———」

 

 

手札が、手駒がどうしても足りない。スバルを犠牲にすればイケル! と言うのなら喜んでそうするが、それでは本末転倒になってしまう。絶対に会う為に、その彼を殺すかもしれない事なんて、絶対にしない。させない。もう、あんな姿を見たくない。それはラム自身が心の底から思っている事だから。

 

 

「ぅおおおい!! いつまでも無視すんな! 幾ら俺でもこうも無視され続けると傷つくんだ———あべしぃっっ!!」

 

 

スバルの顔面がラムの面前に突然? 現れたので反射的にラムはスバルの頬をビンタ。

予備動作無し(ノーモーション)のビンタだったので、武道の心得の無いスバルに避ける術なし。何だかんだと修羅場をくぐってきている様だが、まだまだ体術は赤子も同然。成す術も無く、無様に転がった。

 

 

「むさ苦しい顔を近づけないで。不快よ。気色悪い」

「お前が無視するからでしょーーが!! 気色悪いって、そこまで言うかよヒデェ!?」

 

 

考えに耽っていたラムの様子はスバルから見ても解っていた。何時も自信満々なラムにしては何処となく…………。

だから、半ば強引に殴られるのも解ったうえで、スバルは話しかけたのだ。

 

確かに間違いなく戻ってくる。

疑った事は無いし、疑う余地だってない。

 

でも、戻ってくるそれまでに………ラムに何かあると言うのなら、力になりたい優先事項の上位に位置している。替わりになるなんてあり得ないし、ラムが怒髪天を突くだろう事も解っているんだけれど、こればかりは譲れない。自己満足かもしれないけれぼ、譲れないんだ。

 

 

「時にバルス」

「お、おう?」

 

 

色々考えていた矢先、ラムから先に声をかけてきた。いつもなら、ハッ! で終わらせるだけだったのに。

 

 

「遺跡の中に入った件についてよ。身体には何の異常もないの?」

「あー、それか。……うん、全く問題なし。それについちゃ転移の事話した時から嘘ってねぇよ。―――正直、ロズワールの姿見て肝冷やしたケド」

「ハッ。ロズワール様と同系列だとでも思っているのかしら? しょぼくさいゲートだったから無事だった、それだけの事よ。まぁ、良かったわね、とだけ言っておくわ。しょぼくさくて」

「しょぼいって2回言うな!! ……まぁ、事実は事実だ! なーんも言い返せねぇよちくしょー! 英雄見習って日々精進だよ!!」

 

 

身もふたもないとはまさにこの事。

でも、それはそれとして……改めて先ほどの転移について考察を開始する。

 

 

「正直、俺だったから良かったものの……、転移した先にあった遺跡が《試練》の為の場所ってのは反則だよ。資格の無い人間だったら入った時点で最悪な目にあう。……完全に初見殺しじゃねぇか。致死性の高ぇヒデェ罠だなオイ」

「ロズワール様の傷を見れば一目瞭然。バルスが万が一、人並のゲートに恵まれて居れば今こうして悠長に立ってる事さえ出来ないわ。……エミリア様も、何も知らずに入っていたらどうなっていたことか。バルス。貴方も気を付けなさい。……その命、安くはないのだから」

「!」

 

 

ラムの口から安くない、と聞かされて少々面食らった。

もしかしたら……、先ほどの想いがラムに以心伝心……レムとラムが使用できると言う共感覚が如く、伝わりラムに気持ちが届いたのだろうか……、と思案した瞬間、ラムが吐き捨てる様に言った。

 

 

「バルスが死ねば、ツカサが苦しむのだからバルスの命は安く無いわ。……ツカサが苦しむそれも精神的じゃなくて物理的。処分もできない。やっぱり、はた迷惑ここに極まってるわね。存在意義があるの?」

「結構懐かしいセリフだなオイ! まあ、その通りなんですけど! 兎に角、戻ってくる兄弟に知らず知らずの内に追い討ちかけねーようにするさ。いつもいつまでも、作戦《命は大事に》だ」

 

 

スバルは解っている。

ラムに言われるまでもない事だ。

 

『死ぬなよ、絶対死ぬなよ』

 

あの鬼気迫るツカサの姿を思い返して……より思う。

血反吐を吐き、血に伏している彼の姿を見て、なお思う。

自分は絶対に死ぬべきではない、と胸に刻む。

 

ただ———例外は存在している。

 

ツカサも、それは了承してくれている事柄だ。

それは当然、助ける為。ツカサが居ない今、人外の力を、魔女の力を有するのは自分だけ。絶望の袋小路に迷い込んだら、唯一打破できるのは自分だけ。

誰かを犠牲にして、前に進むくらいなら………と。

 

 

 

これ、盛大な前ふりじゃね? と不穏な気配を感じてしまう自分も居るが、それは一先ず置いておこう。

 

 

 

「姉様、スバル君。お待たせしました」

 

レムが、ロズワールの介抱を終えて戻ってきた。

ガーフィールは一緒では無いようだ。

 

 

「おう。レム、お疲れさん。……まあ、この3人だけの方が都合が良い、か。ガーフィールもエミリアたんも居ねぇ状況の方が好ましい。ガーフィールにゃ、あの口元の事もあって話したくねぇし、エミリアにはそもそもあんまり心配かけたくねぇ。試練にだけ集中して貰いたい」

「美少女2人に挟まれてご満悦ねバルス。穢らわしい」

「どんなスバル君でも素敵ですよ」

 

 

ラムとレムのアメとムチ? を何時も通り合間に挟みつつ、スバルは続けた。

 

 

「お前らも思うか? 今回の件……フレデリカが仕組んだんだ、って」

 

 

スバルの表情は険しいの一言。

フレデリカとは、確かにまだ知り合ってまだ日は浅いかも知れないが、それでも先輩後輩、侍女下男とそれなりにコミュニケーションを取ってきたつもりだった。

大変だったけど、楽しかった事だってある。寧ろそっちの方が多い。

なのにも関わらず、フレデリカを疑わなければならないのが、もどかしい。

 

付き合いの長さを鑑みれば、ラムやレムだって胸中穏やかじゃない筈………と、思っていたのだが。

 

 

「確かに、スバル君の言う通り状況を考えてみれば……フレデリカの可能性が仕掛けたとみるのが自然ですね」

「ええ、レムの言う通り。状況証拠はフレデリカが何かを企んでいた事を示してるわね」

「流石姉様は聡明です!」

 

 

葛藤の『か』の字さえない様だ。あっさりハッキリ言いきってしまっていたのだから。

 

 

「つまり、スバル君の咄嗟の判断で、エミリア様は危機を脱しましたのです。やっぱりスバル君は素敵です!」

「ええ。そこだけは認めてあげなくもないわ。バルスよ尊い………割りと尊い犠牲のおかげね」

「ラム、そこ言い直さなくて良いから。それにレム? あーんな怪しさMaxで光ってる石見たら、俺じゃなくても反応すると思うよ? 褒めすぎ褒めすぎ。褒めて伸ばす~ってのもヒジョーに魅力的だけど、その優しさが染みるんだ……」

 

 

スバルはツカサの代わりにはならないと解っていても、その背を追いかけると決めている。だからこそレムに甘えるわけにはいかないのだ。

 

でも、レムはレムで肯定はしてくれても、その実、そこまで甘やかせてくれると言う訳じゃないのもスバルはよく知っている。

 

この世界でラムに次いで自分に厳しく、甘くない。

それでいて自分を好いていてくれる、愛してくれる。それがレムだから。

 

 

そんなスバルの想いもレムに伝わってたようで、ただただ眩しい笑顔を向けてくれた。

ラムからは嘲笑を常にいただいているが。

 

 

「ハッ。変な妄想に浸る前に他にする事があるわよ」

「変な妄想とかしてねーよ。……んで、他にする事とは? 姉様」

「当然、今後の方針。そして注意事項もある。……フレデリカの関与もそうだけど、まずは聖域について、ね」

 

 

ラムはそう前置きをすると、鋭い視線でスバルを見据えた。

その後、レムに向き直り、レムが頷き返したのを確認するとスバルに半歩寄り添ってラムは声を潜めて言った。

 

 

「この場所の解放――それをここの住人の全員が賛同、賛成しているわけではないわ」

「―――っ! そりゃ、一体どういう……?」

「リューズ様やガーフに隠したエルフの件にしかり、フレデリカの行動もそうだけれど、聖域の解放はリューズ様筆頭に、ガーフの様な強権派が言い張って主導しているだけ。中には、この場所に留まる、結界に籠る事を選ぶのもいるのよ」

「ますます解らねぇ。この中に籠ってどうするんだよ。どうなるんだよ」

 

 

ラムの忠告に、眉を寄せる。

ラムの考えとレムの考えは同じようで、軽く頭を下げるレムは、修正する様子も更なる進言をする様子も見せない。驚く様子も一切ない。

この聖域と関わりがより深い2人だからこそ、解る事なのだろう。

 

でも、この聖域で暮らす以上……、いや、ガーフィールの説明通りであるなら、全員が混血……《混じり》の筈。だからこそ結界の影響を受ける彼らは外に出る事が出来ない。

 

 

「それが目的……。いや、それで良いのよ。残りたいものにとって、外との交流は最低限である今が理想的と言う事なの。それをあえて破ろうなんて、されても迷惑……そういうこと」

「……………フレデリカが、そういう連中に協力してる可能性もある、って事か?」

「可能性、と言うのなら否定は決して出来ない。現状、あるだけの情報でそう推測するだけよ。バルスは情に流されやすい性質。………それが全て悪いとは言わないけど、悪手である可能性も高くなると言う事は肝に命じなさい。レムの手を煩わせないで」

「姉様。レムは大丈夫です。スバル君が進む道を、レムはその隣で一緒に進む。それだけですから」

「はぁ……。レムも厄介なのに懐いたものね。時には頬を張ってでも、矯正しなきゃいけない時もあるのよ。……鬼の力全開にしてでも」

 

 

考え込んでいたスバルだったが、最後の最後で余計な一言を言われて慌てて考えを切って両手でブンブンと手を振って答える。

 

 

「鬼の力で張られたら、首の骨が逝っちまうよ!! 命を大事に、なんだ! 大丈夫だ。やれるだけの事はやるし、最善を尽くす。………それに、俺の死に戻り(ちから)は、兄弟にとってのリスクがデカすぎるし、そもそも、こんな俺の事を好いてくれてるレムの前で、そんな手段取りたくねぇ。その気持ちは分かるつもりだ。兄弟がラムを救った時と同じで」

「………………」

 

 

例え、無くなる世界であったとしても……、例え、無かった事にされる世界であったとしても。

実際に起きた世界、実際にあった世界である事には変わりない。

それを魂に刻み、己の道を進み、皆を救い続けてきた英雄の背を見てきたからこそ、スバルも解るのだ。

 

 

「英雄見習いが。言うじゃない」

「流石スバル君です」

 

 

レムは当然として、この時ばかりは珍しくラムもほんの少しだけ感心をする素振りを見せた。

 

 

「それと気になっていたのだけど、その手に巻かれてる白いハンカチは? 随分と古臭いおまじないをしているわね」

「ああ、これか? これはペトラがしてくれたモノだ」

「ええ、知ってるわ。まだ幼い子を誑かすバルス。救い難いわね」

「なんでだよ! ………って、そうだ。ペトラだ。今思えばペトラはフレデリカと一緒に居る。メイド見習いなんだ当然一緒に居る。だから、心配になってきた」

 

 

話の流れ上、全く関係の無いスバルの白いハンカチの件だが、ラムが拾ってくれたおかげで、新たなる問題点も浮き彫りになってきた。

もしも、仮に、フレデリカが悪意ある立場ならば、ペトラの身柄は十分人質になりえる。善意で協力を申し出てくれたペトラに何かあっては申し訳が立たない所じゃない。

一応、屋敷にはベアトリスも居るのだが……ベアトリスがペトラを助ける! なんて光景、想像がつかない。禁書庫で只管籠ってる姿しか頭に浮かばないから。

 

 

「大丈夫ですよ、スバル君」

「……っ、え?」

「そうよ、レムの言う通り。安心なさい。フレデリカが屋敷の新入りに悪さを働くなんてことはありえない。そこまで外道に堕ちる筈もないわ。あの子の事は心配無用よ」

「………レムもラムも、フレデリカの事信じてるの? 信じてないの? どっちなん?」

 

 

フレデリカが怪しい。

それは満場一致であり、レムもラムも同意した。状況証拠だけではあるが、と付け加えていたが、それでも確定していた。

でも、ペトラは大丈夫だと言う。スバルにとって、ペトラは大丈夫だ、と言う2人の意見に対して嬉しく思うけれども、その真意が気になる所でもあるのだ。

 

 

「長い付き合いですから。全てを知る訳ではありませんし、思惑を知ってる訳でもありませんが、ロズワール様の領民でもある、ペトラに危害を加えようとするなんてあり得ません。姉様の言う通り」

「……フレデリカがフレデリカである事。それは疑っていない。それだけの事よ」

 

 

レムとラムはそう言うと、今度は聖堂の奥に居るであろうエミリアの方を向いてスバルに言い聞かせるように言った。

 

 

「ただ、バルスに言える事は気をつけろ、の一言ね。聖域の解放反対派の連中にとって、一番確実な方法はエミリア様に危害を加える事。……誰が敵か解らないのだから、常に気を張りなさい。もう甘えは止めて、独り立ちを期待するわ」

「甘え、に関しちゃ俺も同感だ。ヌルゲー感はとっくの昔に払拭されてるし、英雄見習いLv1だとしても、心構えくらいはいっちょ前に持てる。―――でも、ガーフィールやリューズさんにも内緒にするってのは、穿ちすぎな気もするぞ?」

「警戒する事に越したことはない、それだけの事よ。あの2人と関わる誰かはしている可能性もある。秘密を知っている人間は少ない程良い。少なくとも、全てを終えるまでは」

 

 

ラムの忠告にスバルはぐうの音も出なかった。

その通りだ。

やり直しはもう聞かない鬼畜ゲーだと思って立ち回る。それを常に意識する。

それに、ラムやレムがこちら側の立ち位置である事は大きな有利性(アドヴァンテージ)である事を喜ぶべきだろう。

少なくとも、腹芸無しに心の底からついてくれているのは解るから。ラムは変則的ではあるが間違いなくこちら側。

これは向こう側は知りようがない事実。ロズワールの侍女であるラムやレムが完全にこちら側(ラムはツカサ側!!!)だなんて現状で最高クラスのカードだと言って良い。

 

 

 

「夜には改めてロズワール様が時間を作ってくださるそうよ。感謝しておきなさい、バルス」

「……まぁ、あの傷見れば文句の1つもでねーよ。つっても、それをも計算ずくなのがロズワールだ、って疑いたくなるけどな」

「スバル君。流石にそれは………」

「ええ。それこそ穿ち過ぎと言うものよ。ロズワール様の様子を見たのはガーフとレム。ガーフ……アレに、レムの目を搔い潜って更にロズワール様と思考を合わせる様な頭とその隠形がある様に見えるの?」

 

 

ラムはガーフィールをとことん見下している。

それは今までのやり取りで解っていたし、改めてこの会話で実感できる。可哀想だ。

 

 

「自分に惚れてる男にスゲー辛辣ですね、ラムちー姉様。まぁ、手が塞がった状態じゃ仕方ねぇ、ってもんだけど」

「ええ。ラムに惚れるのは仕方がないわ。世の摂理と言うモノなのだから。それを噛み締めて、諦めると言うのが当然なのだけれど、アレは理解が追い付いていない。無駄だと言うのにね」

「…………」

 

 

何だか、ガーフィールの味方になってあげたい! と言う気もしなくもない。あまりにも辛辣過ぎる。……勿論、実際にそんな事はしないが、兎に角同情心は送ろうと思う。

ドンマイ、と。

 

 

「でも、今のガーフはツカサ君に対して夢中になってますよね」

「ええ。それも間違いない事。……どうしても、背伸びをしたい年頃なのよ。これも無駄な足掻き、になるのだけど」

「……兄弟も可哀想に…………、状況がよく解らんのに、こっちに来たら突然ギザ歯にガジガジされるとか………」

 

 

スバルのそれに対してもラムは鼻で笑う。

遅れてくるのが悪い、と。

ガーフィールに対して辛辣かもしれないが、ラムはツカサに対しても結構キツイ。

それ程までに、心配をかけているのだから、甘んじて受けるべき。愛が深い故に、とスバルはツカサに関しては同情する事は無いのだった。

何処かで、クシャミの1つや2つでも、してくれている事を祈って……。

 

 

 

 

「―――そろそろ、日が沈みます」

 

 

 

暫く話し込んでいて……レムが空を見上げながらそう呟いた。

聖堂の外は、夕焼け色から夜色に染まっているのが視て解る。

ロズワールが時間を作ってくれると言うが、それは試練を終えた後の話だ。

 

エミリアの事を信じている。でも、それと同じくらい……或いはそれ以上に心配にもなる。

 

 

夜が怖い———と思うのは、この世界に来てから何度目の事だろうか……。でも、それは抗う事が出来ない時間の流れだ。

 

《聖域》の解放のために、《試練》によって人を試す夜が———始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やれやれ。ほんと、聖域(ここ)に来て、扱いが雑過ぎる様な気がしてならないのですが」

「くぁー……」

「そう思いますよね? パトラッシュちゃん。僕、こう見えて物凄く頑張ってるつもりなんですけど。……絶対忘れられてますよ。空腹がヒドイ………。まぁ、パトラッシュちゃんやランバートちゃんが傍に居てくれるから、大分気は休まってますケド……、それにしてもナツキさん、恨みますよ……」

 

 

オットーは、苦虫を噛み潰した様な目をしながら恨み節を呟く。

地竜2頭、商人1人。この組み合わせで、狂暴な男が居る上に、《強欲》を冠する地に野宿をしていると言う事実が思いの他心労を引き起こす。

これで、しっかりとガードをしてくれると言うのなら、これで、ツカサと言う唯一無二の親友が傍に居てくれると言うのなら、どんなリゾート地よりも良いと言って良い気分になる所ではあるが…………想い人は傍におらず。

 

 

「ラムさんの気持ち、今なら凄く解る気がしますよ………。それは、ランバートちゃんにも言える事なんですけどね…………」

「――――――」

 

 

パトラッシュと違い、ランバートは寡黙だ。でも、言霊の加護を介さなくとも、オットーはその気持ちが解る。

かの英雄の愛竜だ。信頼し、親愛し、敬愛していると言って良い誇り高い地竜。

主であるツカサの帰りを、そして主の願いを今この場においても護り続けている。

 

オットーを、友達を護ってあげてくれ、と。

 

 

「………早く戻ってきてくださいよ。あまり長くし過ぎると、あなたの願いがランバートちゃんや、ラムさんにとっての呪縛になっちゃいますよ。ツカサさん」

 

 

ラムが傍に居たら盛大に毒舌吐かれるか叩かれるかするかもだが、言わずにはいられなかった。

でも、その代わりここにはランバートが居る。

 

 

「フルルッ!!」

「わ、わーわー、ゴメンなさい!! そうですよね。呪縛~なんかじゃないですよね。思わず言っちゃいましたが、ぼくだって信じて疑わないですよ」

 

 

ランバートが地を蹴って威嚇する様にすると、オットーは慌てて弁明をした。

呪縛となるのは、主が帰ってこないからこそだ。それに縛られ、軈ては呪となってしまう。主の帰りを、永遠に待ち続ける呪縛。……そんなもの、会ってたまるか、なのである。

 

 

「……ナツキさんと言い、ツカサさんと言い、ここまで地竜に好かれる人、初めて見ましたよ。まぁ、レムさんの様に実力で屈服させると言うの中々居ないですが。……はぁ、お腹、空いたなぁ……このまま夜になってもこっちに来なかったら、無理矢理にでも言ってやりますからね! 言霊の加護、舐めないでくださいよ!」

 

 

オットーが気を新たに持ったその時だった。

 

 

「!」

 

 

ランバートが、不意に頭を上げ、聖域の森を見据える。

まだ、夕刻ではあるが、陽光の当たらない深緑の森の中はもう暗い状態に変わりない。ただただ、一点を見据えて腰も上げた。

 

 

「ん? どうかしましたか? ランバートちゃん」

「―――――フルッ」

「え、ちょっと待ってて、って……ど、どこ行くんですか!? 変に動き回ったらガーフィールさんが怖いですよ!!?」

 

 

オットーの静止も聞かず、ランバートは、パトラッシュにオットーの事を頼む、と言伝をして、そのまま森の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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