Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
明けましておめでとうですm(__)m
今年もよろしくです(*- -)(*_ _)ペコリ
聖域の周囲、墓所の周囲は例外なく深緑の森。
陽の光が無ければ、そこはもう一寸先が見えない程深く広い闇が広がっていると言っても良い。――――だと言うのに、これは一体どういう事だろうか?
地竜の鳴き声がした。
それは何処かへと向かって居場所が解ってなかったランバートのモノだと言う事は直ぐにラムは解った。
だからこそ鳴き声がした時、反射的にラムはそちら側を見たんだ。
木々の間から、深い闇の中から確かに見えるランバートの姿。
何故、こうもハッキリとその姿が見て取れるのか、普通なら違和感に思う事だろう。
篝火の類も一切ない森の中でランバートの姿を視認する事が出来た異常性に注視する筈だった。でも、それ以上にラムは心を奪われた。目を離す事が出来なかった。
ランバートだと何故解ったのか、その理由はハッキリしている。
その姿が見えていたからだ。
なら、何故闇に等しい場所で、ハッキリとその姿を見る事が出来たのか?
その答えは目の前に広がっている。
まるで、ランバートが居る場所だけが日が照り付けているかの様に。ランバートが居る場所が白く光を放っていたからだ。
その光の根源から———ラムは目を離せない。
身体も硬直してしまったかの様に動かす事が出来ない。
ランバートの背に乗せられた
「―――ツカサ」
不意に声が出た。
それは考えて言葉を発した訳じゃなかった。
極々自然に、当たり前の様に口から出てきたんだ。
愛しい人の名を———。
「ァァ!?」
そして、森の異変にいち早く気付く事が出来る聖域の番人ガーフィールもラムに続いて反応を見せる。
全く臭わない、あのランバートと言う地竜の匂いはハッキリと解っていると言うのに、その背に運ばれてくる存在が正しく異質そのものだった。存在感が極めて薄い———とでもいうのか、匂いそのものが感じられない。だからこそ、警戒心を露にし、今にも飛び掛かろうと身構えた時にラムの声がハッキリと耳に届いたのだ。
アレが、あの存在がラムの言う英雄。
国を傅かせ、当代の剣聖を認めさせ、剣鬼を魅了し、三大魔獣の一角を堕としたラムの英雄ツカサ。
「……『考えるよりガングリオン!!』ってなぁ!!?」
一足飛び足で、ガーフィールは駆け出した。
目の前に最強の英雄が居るのだ。でも、それは自分と戦ってないからこそ。
自分こそが最強である、と強烈に自負しているガーフィールは持てる力の全てをぶつけん勢いでまるで矢の様に駆ける。
「ガァァッァァ!!!」
あの時のスバルとはまた違う。近づけば近づく程解ってくる。
ラムが嘘を言うなんて事は考えなかった、考えもしない事だったが、それでも恋敵であると言う認識が強過ぎて信じられなかった。信じる事が出来なかったが、もう直ぐ目の前にして、そのスケールのデカさに本能が怖気づきそうになる。
だが、ガーフィールは止まらない。
喉元に喰らいつく勢いで迫る。
彼が好む慣用句で言えば《崖を背負うミデンに逃げ場なし》。
ここに来て後戻りは出来ない。結果ラムに叱咤されようと、ラムの逆鱗に触れようとも——— 一匹の雄として、止まれなかった。
「フルッッ!!!」
ガーフィールの狼藉に気付いたランバートが臨戦態勢に入る。
ラムよりも———……とは言わないが、同等に近い程に主の帰還を待ち続けてきたんだ。漸くその背に迎える事が出来たんだ。
だからこそ許さない、と主を護る気構えで迎え撃とうとしたのだが……。
「!」
ぽん、ぽん
二度、首筋を叩かれるこの感触。
もう懐かしささえ覚えるこの感覚。
ランバートは臨戦態勢を整えていたのにも関わらず、もう迫ってきているのにも関わらず、固まってしまった。
そしていつの間にか自身の背から降りている彼が視界の中に入る。
矢の様に、弾丸の様に迫るガーフィールの前に立っている。
『―――黄。……違う』
「!!?」
それはガーフィールの頭の中に直接響いてくる様な声だ。
澄んでいて、何処までも透き通る様に響く声はいきなり響いてきたと言うのに不思議と嫌な感じはしない。敵意の欠片も感じられないのだ。寧ろ、敵意を剥き出しに迫っていると言うのにも関わらず、まるで意に介さない感じ。
普段のガーフィールであれば、舐められていると憤慨の1つや2つしていてもおかしくないのだが、如何とも形容しがたい感情が起こり自分でも解らなかった。
だからと言って攻撃をする手を止める———と言う訳にはいかない。振り上げた拳を引っ込めるなんて格好悪い事をガーフィールがする訳がない。
そのまま振りあげた拳を目の前の
「うッ———おッッ!?」
そしてこの時、思いもしない事が起きた。
止められる、弾かれる、躱される、幾つかのパターンを想定していたガーフィールだったのだが、そのどれにも当てはまらない現象が起きた。
突然襲ってくる浮遊感。それはまるで地面から突然竜巻でも発生したかの様だ。
「なんッッだ、こりゃッぁ!?」
地に足をつけてこそ本領を発揮する事が出来るガーフィール。
強引に地から足を離されてしまえばどうしようもない。
轟ッ!!
訳が解らないまま、ガーフィールは上空の彼方へと吹き飛ばされてしまった。
夜空の星が、月が光を放ち幻想的……とも言える世界。翼を持たない普通の人間であれば立ち入る事敵わない領域にガーフィールは飛ばされてしまったのだ。
それは……思わず魅了されてしまいそうになる光景だった。
そして、それ以上に感じる感覚。
何故だか解らない。
ガーフィールは元来負けず嫌いな筈だった。一瞬で吹き飛ばされてしまった事に対する憤慨、負けん気、怒気、あらゆる野生の気が出てこないのだ。
聖域を護る最強の盾を自称し、研鑽を積上げ続け、誰が相手だろうと負けない。どんな相手であってもその喉元に噛み付く気概を常に持ち続けた。それは現世の英雄が一柱相手であっても変わらない筈なのに……不思議と心地よかった。
『……でも、この黄……似てる』
地上までの距離は相当ある。
対処しなければ大怪我では済まないだろう、とある程度落下し始めた時に受け身をしようとしたガーフィールだったが、突如また風に囲まれた。
吹き飛ばされた時のソレとはまた違う。
『………似てる。匂いがする。……ちがう。いや、じゃない』
ふわりとガーフィールの身体が宙を浮き……何事も無かったかの様に地に降り立った。
とんでもない力が働いている筈なのに、深緑の森は全く被害を被ってないのも異常だった。
夜の静けささえ感じられる。
何事も無かったかの様に。
『…………』
「ッ、ああッ!? 手前ェ、なんだッってんだ!?」
丁重に扱われた。
怪我をしない様に、優しく扱われた。
いつもならば不快感MAXで噛み付こうとする筈……なのに、気が向かわない。
何とかガーフィールは声を荒げるが、もう迫って来ないのを解っているかの様に目の前の男は踵を返す。
それを合図に、ランバートが駆け寄ってきた。
頭を下げ、頬をその身体に擦りつける。
それは心から敬愛しているのが解る地竜の所作だった。
「――――――ジャマよ。ガーフ」
「ラ———ぐえっっ!??」
『…………!』
いつの間にか、ガーフィールの背後に現れていたのはラム。
いきなりの攻撃、行動にラムの怒りは沸点を突破し、怒号の嵐を、制裁を与えよう! と鬼の力を練り上げてるつもり……だったが、
ただ、ガーフィールが傍に居るのは頂けない、と手に集約させた風のマナ……我が身にまだ残っている彼の力を込めた
流石のガーフィールも力の入ってなかった状態でソレを受けてしまえばどうしようもない。
吹き飛ばされて離れた場所の大木に思いっきり身体を打ち付けてしまった。
「……チっ」
頑丈な身体なので、あの程度でどうこうなる訳ではない。でも悪態の1つや2つ言おうと思っていたのだが口から出てこない。……ラムの雰囲気に、そしてあの男に何も言う事が出来なかったのだ。
「………ツカサ」
『―――淡い、赤』
感慨極まる、とはまさにこの事なのだろうか。
頬に伝う雫が、熱く熱くなる身体が、細胞の全てが、魂が叫んでいるかの様に感じた。
間違いなく、この白い存在は彼―――ラムの英雄ツカサだ。
魂がそう叫んでいるから。
手の届く場所に、ツカサが居る。
ラムは一切躊躇う事なくその身体を抱きしめた。
途端に心の中の何かが決壊した。止めどなく溢れ出る涙。会えない時もずっと想い続けた彼が目の前に居る。触れる。……ゼロが言っていた様に身体がバラバラになんかなってない。
声にならないラムは、ただただ無言で涙を流し、ツカサの胸の中で、彼以外の他の誰にも悟られない様に小さく嗚咽を漏らすのだった。
『あえた。あえた。あわい、あかに』
そして、それは彼も同じ。
会いたくて、逢いたくて……狂おしい程愛しい存在を前にしてラムの身体を抱きしめ返した。
何故叶ったのかは解らないし、ラムの事を淡い赤と思う様に、記憶が定まっていないようだが、それでも良い。全て満たされる思いでいっぱいだった。
「『あいしてる』」
違いに愛を囁き合い、接吻と抱擁を交わした。
あの時の様な、絶望に沈む死の味はしない。
だが————。
「!!! 姉様!!」
ラムは気付けなかった。
他の面子も一体何事が起きたのか解らない、寧ろ時間が止まったと言っても良いくらいに固まってしまっていたが、唯一気付けた、声を出す事が出来たレムが声を上げた。いや荒げた。
レムの声に反応したラムは改めてツカサを見る。
白い光が、徐々に失われて行ってるのが解る。
その身体が透き通り、身体と言う密度が失われて行ってる。
つまり、消失しようとしているのが解る。
「ツカサッッ!!?」
再び抱き寄せたが、それでも変わる事はない。
まだ実体はある。だから触れる事は出来る。
でも、着実に、確実に、その身体から発せられていた光は失われ続け、身体そのものも消えようとしている。
でも、彼の表情は穏やかだった。
『漸く……会えた。……愛しい、ひと、に』
全てが満たされた様なそんな顔だった。
あの時とはまた違う恐怖がラムを襲う。
あの時は死を覚悟し、死を以てラムを、皆を助けると決意をした顔だった。生きた証だと。失う事が耐えられない、と。共に生きる事を、最後まで一緒に在る事を諦めた顔だった。
でも今は違う。これはそう———まるで、思い残す事はもう何もない———と言わんばかりの顔だ。
「ラムを置いて逝かせない!! また、またラムに苦しめと言うのッ!?」
ラムはツカサの身体を抱き寄せる。強く強く抱きしめる。
どういう理屈かは解らないが、この消滅を止められるのはツカサ本人でしか出来ない事だと、本能的に理解したから。
だから声を上げ続けた。
『あいしてる、あいしてる……。あ、あ、ど、こ……? あい、し………』
「私もよ! ツカサ!! しっかり、しっかりしなさい!!」
ツカサの声が小さくなりつつある。
ラムはそれを感じ更に声を上げ、力の限り抱きしめた。
離してしまえば、またいなくなってしまう、と本能的に察したからだ。
そしてラムとツカサの元へ、レムたちも駆けつけた。
レムやオットー、そして試練を見届ける為に来た人達も皆が声を上げようとしたその時だ。
【!!?】
どう形容すれば良いのだろうか?
墓所の中から……
それは何処までも暗い。闇よりも尚暗いナニカは意図も容易くツカサの白の光を呑み込んでゆく。
そして、墓所の中へと引き摺り込んでいった。
「いかせない!!」
ラムは引きずり込まれていくツカサに向かって駆け出す。
試練の資格はラムには与えられていない。……あの魔女が資格を与えないと言った以上、この墓所の中に入ったらどうなるか……火を見るよりも明らかだろう。
あのロズワールの痛々しい姿をラムも見ているのだから。
でも、一切関係ない。意に介さない。
漸く逢えた。
漸く抱きしめる事が出来た。
もう2度と離したくない。
また離すくらいなら、墓所の中だろうと―――行先が地獄だろうと、共に逝く。
そしてラムとツカサは、墓所の中へと引きずり込まれていくのだった。