Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
作者「……はい、そのとおりでございますm(_ _)m」
ラムちー姉様覚醒!!
ラム回最高!!!♡♡♡♡♡♡♡
と、言うわけで長らく放置しててごめんなさいですm(_ _)m
ゴメンサイ!!(゜o゜(☆○=(-_- )゙オソイワ!!
ガーフィールと言い争う声を置き去りにして、スバルは走った。
聖域にある家屋の廊下など、ロズワール邸に比べれば大した広さではない。にもかかわらず、目的の部屋までの距離がやけに遠く感じる。まだ本調子ではない身体が悲鳴を上げ、足が縺れそうになるたびに壁へ手をつき、それでも止まらない。
パックが出てこない。
エミリアが泣いていた。
今、エミリアは第一の試練から救い出された後も心身ともに衰弱してしまっている。部屋に閉じこもっている。
それだけ聞けば、スバルは走らない理由など一つもなかった。
ラムの様に、とまでは言えないし言えるほど自惚れてなどいない。ただ、根っこは同じ気持ちだから。大切な人のために。
「(そうだとしても、何やってんだよ、俺は……! なんでもっと頭回せなかった!!)」
目を覚まして真っ先に向かった先で、帰ってきた兄弟とラムのとんでもない光景を見せつけられた。あれはあれで衝撃的だったし、ツカサの帰還が嬉しくないはずもない。死んだなんて一度たりとも認めるつもりはなかったが、それでも実際に生きている姿を見た瞬間、胸の奥に居座っていた鉛のようなものが消えたのも事実だ。
だからこそ、少しだけ浮かれていた。
だが、スバルには向かわなければならない場所がある。
英雄見習いだとか、兄弟だとか、それよりもっと前から決めていたことがある。
ナツキ・スバルはエミリアの一の騎士になる。
その隣に立つ。
まだ正式に何かを認められたわけでもない。それでも、自分自身にだけは嘘を吐きたくなかった。
やがて目的の扉が見えた。
その前まで来て、スバルは勢いのまま伸ばしかけた手を――止めた。
「…………」
つい先ほどまでなら、勢いよく扉を開けていたかもしれない。
けれど、今はできなかった。
扉一枚。その向こう側にいる少女が、どんな気持ちでいるのかを考えれば、勝手に踏み込んでいいとは思えない。
スバルは一度大きく息を吸い、軽く拳を握ってから扉を叩いた。
「エミリア、いるか? 俺だ。スバルだ」
返事はない。
聞こえなかったのか。それとも、聞こえていて返せないのか。
もう一度叩こうとして――、
『……スバル?』
小さな声がした。
聞き慣れた声なのに、ひどく弱々しい。
一緒に聖域へ赴こうとした道中とはまるで別人だった。
胸を締め付けられながらも、スバルは努めて普段通りの声を作った。
「おう。天下無敵には程遠いけど、不死鳥みてぇにしぶといナツキ・スバルだ。────入ってもいいか?」
少し間があった。
『……うん』
許可を得て、ゆっくり扉を開く。
その中は薄暗かった。
窓から差し込む光はある。それなのに、部屋そのものが沈んでいるように感じる。
エミリアは寝台の端に座っていた。
銀色の髪は少し乱れ、普段なら白く透き通るような頬にも疲労の色が濃い。目元は赤い。泣いたのだろう。それでもスバルが入ってくると、彼女はいつものように笑おうとした。
「スバル、もう大丈夫なの?」
「いやそれ、こっちの台詞なんですけど。エミリアたんの方こそ」
「私は……大丈夫よ」
即答だった。
だからこそ、スバルは何も言えなくなった。
大丈夫ではない。
そんなものは見ればわかる。
なのにエミリアは、笑おうとしている。
「ちょっと、びっくりしただけ。試練で色々見せられて……少し疲れちゃっただけだから。少し休めば、また行けると思う」
「…………」
「みんな、待ってるもの。アーラム村のみんなもいるし、聖域の人たちだって困ってる。私がやらなくちゃいけないことなんでしょう? だったら――」
「エミリア」
スバルはエミリアの言葉を遮る。
強く言ったつもりはなかった。
それでもエミリアは肩を小さく震わせ、口を閉ざした。
スバルは寝台から少し離れた場所にあった椅子を引き寄せる。真正面ではなく、少し横。逃げ道を塞ぐような場所には座らない。
「実は俺さ。俺も試練、受けたんだ」
「……うん」
「だから、あれが楽勝なんて口が裂けても言えねえ。人によっちゃ鼻で笑えるような過去なのかもしれねえけど、本人にとっちゃ違う。忘れたいことも、見たくねえことも、全部引っ張り出して目の前に並べられる」
自分の場合は、少し違った。
苦しかった。胸を抉られた。それでも、あの過去と向き合うための答えを、スバルはすでにこの世界でもらっていた。
レムから。
ツカサから。
そしてエミリアからも。
だから進めた。
「俺はたまたま、先に答えをもらってた。それだけだ。だからクリアできた俺が偉くて、できなかったエミリアたんが駄目とか、そんなアホみてぇな話じゃねえよ」
「でも……」
「でも、じゃない」
「……もう。スバルのくせに」
「おう。スバルのくせに生意気だろ?」
少しだけ。
本当に少しだけ、エミリアの口元が緩んだ。
それを見て、スバルも笑う。なにも無理矢理立たせる必要なんてない。
疲れて立てないなら座っていればいい。
隣に誰かがいればいい。
自分が立ち上がれなかったとき、そうしてくれた人たちがいたように。
しばらく静かな時間が流れた。
先に口を開いたのは、エミリアだった。
「私ね……ずっとちゃんとしなくちゃって思ってたの」
「……うん」
「王都から戻ってきてから、ずっと色んなことがあったでしょう? 魔女教が来て、村のみんなが危ない目に遭って……それで、ツカサまで」
そこで声が詰まった。
スバルは口を挟まない。
「ツカサ、言ってくれたの。私の陣営だからとか、王選候補だからとか、それだけじゃなくて……友達だからって」
エミリアの手が、膝の上で強く握られる。
「私のためにも戦ってくれた。みんなのために戦って……帰ってこなくなった。だから私、ちゃんとしなくちゃって思ったの。ツカサがあそこまで頑張ってくれたのに、私が泣いてばっかりじゃ駄目だって。みんなが不安にならないように、私がもっとしっかりしなくちゃって」
「エミリア……」
「そしたら、次はパックともお話ができなくなった。でも、それも……大丈夫だって思おうとした」
その一言に、スバルの表情が変わった。
「待ってくれ。パックと話せなくなったって、いつからだ?」
「……少し前から。呼んでも、返事をしてくれないの」
エミリアは胸元へ手を添える。そこにいるはずの存在を確かめるように。結晶石は瞬いている様に見えるが、そこにパックがいるのかどうかは、スバルにはわからない。
「眠ってるだけかもしれないって思った。何か理由があるんだって。パックが何も言わずにいなくなるわけないって……わかってるの。わかってる、つもりなの」
声が震えた。
「でも、呼んでも返事がないの」
ぽたり、と。
膝の上に雫が落ちた。
「ツカサがいなくなって……パックまで返事をしてくれなくなって。でも、私がしっかりしなきゃって思って。それで試練に入ったら……見たくないものがいっぱい出てきて……」
もう笑えていなかった。
「私、頑張ろうって思ったのに」
「うん」
「ちゃんとしようって、思ってたのに……」
「うん」
「全然、できなかった……」
それ以上、スバルは何も言わなかった。
大丈夫だとも。
頑張ったとも。
泣くなとも。
気の利いたセリフが出なかった。
ただ、そこにいる。エミリアが泣いている間、逃げずに隣にいる。
それでいいのだと思った。
やがて嗚咽が小さくなった頃、スバルはぽつりと呟いた。
「なぁ、エミリア」
「…………?」
「一個、すげえニュースがある」
赤くなった目が、こちらを見る。
「すげえ……ニュース?」
「ああ。たぶん今のエミリアにとっちゃ、世界一ぐらいすげえニュースだ」
「……なに、それ」
スバルは笑った。
今度は、無理に作った笑顔ではない。心の底から嬉しくて仕方がない、そんな笑顔だった。
「聞いて驚け! 我らが兄弟が帰ってきたぞ!」
エミリアが瞬きをした。
一度。
二度。
意味がわからないように首を傾げる。
「……われらが、きょうだい?」
「ああ。俺の兄弟。――ツカサだよ」
時間が止まった。
そんな錯覚を覚えるほど、エミリアは動かなかった。
「…………え?」
「ツカサだ。……帰ってきてくれた」
もう一度。
今度は一言一言、噛み締めるように伝える。スバルの瞳には光るものがあったのを、エミリアははっきりと見た。
「兄弟は生きてる。ちゃんとここにいる。今は眠ってて、まだ目ぇ覚ましてねえけど……生きてるよ。俺、この目で見た。無用な心配だったんだよな! やっぱり!!」
「……ほん、と?」
「ああ」
「本当に……ツカサなの? だいじょうぶ、なの?」
「ああ」
「似てる人とか……スバルが間違えたとかじゃなくて?」
「俺が兄弟の顔を間違えるかよ。ドジっ娘属性はエミリアたんだけで十分!! ……それにラムが間違えるわけねえだろ」
その名前が決定打だった。
エミリアの瞳から、大粒の涙が溢れた。
「……よかった」
一粒。
「よかった……」
二粒。
そして、止まらなくなった。
「よかったぁ……っ」
両手で顔を覆う。
今度の涙は、先ほどまでのものとは違う。
スバルは黙って、その涙を見守った。
ツカサが消えたあの日から、エミリアもずっと抱えていたのだ。
自分のためだったのではないか。
自分たちのためだったのではないか。
友達だと言ってくれた人が、自分たちを守るために消えてしまった。
その重さを。
「ラムも、きっと、よろこんでる、よね……」
顔を覆ったまま、エミリアが言った。
「ああ、もちろんだ! ラムちーの愛情表現は今や俺たちを通り越してぶっちぎりでNo.1だな」
スバルは頷く。
それから、ほんの少しだけ苦笑した。
「ま、会わせてやりてえんだけど……今はエミリアたんもしっかり休むの優先すること!」
「え、でも――」
「兄弟は逃げねえし。何より、ラムと一緒にさせてあげたい、だろ?」
スバルの言葉に、エミリアは確かに、と頷いた。
「帰ってきたんだ。ここにいる。だから今度は、俺たちが慌てて追いかける必要なんかねえ」
「…………」
「それに今行っても、ラムが兄弟にくっついて離れねえからな。下手すりゃ面会時間三秒で追い出されるぞ」
「……ふふふ。ラムもすごーく、悲しんだんだから、当然よね」
「ああ。そりゃもう、猫みてぇにスリスリと――」
そこまで言って、先ほどの光景が脳裏に蘇った。
頬を赤らめ、同じ布団に潜り込み、ツカサの胸元へ顔を埋めるラム。
「…………」
「スバル?」
「いーや。エミリアたんにはまだ早い世界だった」
「もう、私を子供扱いしないで。すごーく、心外!」
「や、そういう問題じゃなくてですね? 刺激が強過ぎるといいますか、なんと言いますか……」
思わず声を張る。
ラムとツカサのベッドシーンに加えて、それを目の前で見せつけられるガーフィール。さっきはNTRだのBSSだの好き勝手に弄ったものの、冷静に考えれば中々に酷い仕打ちだ。散々な目に遭わされた相手とはいえ、さすがのスバルも今ばかりは同情を禁じ得なかった。
エミリアが何やら身悶えてるスバルをみて、きょとんとして――少しだけ笑った。
そして、その笑顔を見て、スバルは胸を撫で下ろす。
まだ大丈夫、全部元通りなんかじゃない。
パックは返事をしない。
第一の試練も終わっていない。
ツカサだって帰ってきただけで、まだ目覚めていない。
何一つ、完全には解決していない。
それでも。
一つだけ、確かに良いことがあった。それを喜んだって、罰は当たらないだろう。
「……ねえ、スバル、正直に答えてね」
「ん?」
「ツカサ、本当に大丈夫なの?」
その問いに、スバルは一瞬だけ黙った。
嘘を吐くことはできない。
「わかんねえ」
だから、正直に答えた。
「帰ってきたのは嘘じゃねぇし、生きてるのも本当だ。……ただ、眠ってる。呼んでも起きねえ。髪の色も変わってる。正直、何が起きたのか俺には全然わかんねえ」
エミリアの顔に不安が戻る。
その前に、スバルは続けた。
「でも、何度も言うけど、兄弟は生きてる」
真っ直ぐに。
「心臓も動いてる。温かい。ラムもレムも傍にいる。だから、今はそれでいいんじゃねえかな」
「……うん」
「兄弟が起きるまでに、俺たちがやれることやっとこうぜ! 起きた時、『出番なかったじゃん!』って言わせてみたい!」
「私たちが……」
「ああ、そうだ。俺たちで」
スバルは立ち上がる。
そして――エミリアへ手を差し出すことはしなかった。
今すぐ立て、とは言わない。
「だから今日はゆっくり休もうぜ、エミリアたん」
「でも、試練が――」
「明日でもいい。明後日でもいい。何なら、どうすりゃいいのか俺も一緒に考える」
「でも、みんなが……」
「だからってエミリアたんが無茶して無理して倒れていい理由にはならねえよ?」
エミリアが息を呑んだ。
「俺、そういうのはマジで嫌なんだ。……たくさん、見てきた」
誰かを助けるために、自分を壊す。
誰かが泣くのを見たくないから、自分が代わりに傷つく。
そして、それで全部が丸く収まると思ってしまう。
そんな男を、スバルは知っている。
「自分一人ぐらいって思うなよ。エミリアが傷つきゃ、悲しむ奴がいる。俺も悲しい。レムだってラムだって、村のみんなだってそうだ。兄弟が起きたとき、エミリアがボロボロになってたら……あいつ、絶対また無茶するぞ」
「……うん、確かに。しそう……」
「だろ?」
二人で苦笑した。
だからこそ。
「休むのも仕事だ。今のエミリアに必要なのは、もう一回墓所に突っ込むことじゃねえ。飯食って、水飲んで、寝る。そんで起きてから考える。英雄見習いナツキ・スバルからのありがたーい助言だ」
「うん。……ん? 英雄……見習い?」
「あ。そこ拾う?」
そう言えば、エミリアには言ってなかったかな? とスバルは今更ながら羞恥心が生まれてくる。
「だって、前はそんなこと言ってなかった様……」
「色々あったんだよ。色々」
「ふふっ……変なスバル」
小さな笑い声。
今度こそ、無理に作ったものではなかった。
スバルは満足そうに頷く。
だが、そこで表情を少しだけ引き締めた。
パックが出てこない理由。
考えてもわからない。情報が少なすぎる。
ただ、ここは聖域、魔女の墓場、……墓所。
強欲の魔女の試練。
この聖域の結界。
そして、重傷を負っていたロズワール。
わからないことが多すぎる。
以前なら、わからないまま走り出したかもしれない。
でも今は違う。
力がないなら、頭を使う。
知らないなら、知っている奴から聞き出す。それが自分の戦い方だ。
「エミリア」
「なに?」
「俺、ちょっとロズワールんとこ行ってくる」
その名を聞き、エミリアの表情にも僅かな緊張が戻る。
「ロズワールのところに?」
「ああ。聞きてえことが山ほどあるからな」
スバルは指を一本ずつ立てる。
「聖域。結界。墓所。試練。それと――パックのこと」
「パックの……?」
「呼んでも出てこないってのが、どうにも引っかかる。パックがエミリアを放ったらかして昼寝決め込むような奴なら、とっくの昔にエミリアたんは過労で倒れてる、だろ?」
「それって、褒めてるの? すごーく複雑」
「めちゃくちゃ褒めてる! パックがいない分をエミリアたんが健気に頑張る構図! めちゃ目に浮かぶ!」
胸を張って言い切る。
そして、少なくとも、スバルの知るパックはそういう存在だ。
エミリアのためならば、世界すら敵に回す。
そんな存在が、彼女がこれほど追い詰められているのに応えない。何もないとは思えなかった。
「だから調べる。エミリアたんは休む。役割分担だ」
「……ダメ、私も行く」
予想していた言葉だった。
スバルは反射的に止めようとして――やめた。
エミリアは俯いていない。
まだ目元は赤い。
だが、顔色だけは先ほどよりも良くなっているように思える。病は気から、見事にエミリアは体現したのかもしれない。良いニュース1つで、ここまで。正直スバルは妬いてしまうが、口には出さない。
その紫紺の瞳は真っ直ぐスバルを見て、離さなかった。
「私のことだもの。聖域のことも、試練のことも、パックのことも。全部スバルに任せて、私は寝てるだけなんて……嫌」
「…………」
「今すぐ試練に戻るのは、やめる。ちゃんと休む。無理もしない。約束する。でも、知ることまでやめたくない」
それは意地ではない。
少なくともスバルには、そう思えた。
折れたままなのではない。
震えながらでも、自分の足で立とうとしている。
だから――。
「んんん、……わかったわかった。降参」
スバルは両手を上げて笑った。
今度こそ手を差し出した。
「んじゃ、一緒に行こうぜ」
「うん」
エミリアがその手を取る。
立ち上がった身体が僅かに揺れ、スバルは咄嗟に支えた。
「ほら! やっぱまだフラフラじゃねえか!」
「ち、違うの。ずっと座ってたから……!」
「はいはい。そういうことにしときますよ〜〜。一の騎士になる、って決めた以上、颯爽と抱きかかえれるくらいにはならないとだな! 騎士兼英雄見習いだし!」
「もうっ。スバル!」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
いつもの二人に戻ったような気がした。
それで十分だ。
全部を一度に取り戻す必要なんてない。
一歩ずつ、英雄見習いは、それでいい。
エミリアだって、きっと同じだ。
「んじゃ、ぜーんぶ終わらせたら、エミリアたんの側で添い寝してあげるからね〜! ラムみたいに」
「もー! 私、子供じゃないんだからね! すごーく不満!」
「………ま、まあ、子供じゃないからこそ、なところはあるんだけどねえ〜……」
「ん???」
勢いで恥ずかしい事を言うスバルと、添い寝したい気持ちに齟齬があるのを分かってないまだまだお子様なエミリア。
そして二人は部屋を出る。
知らなければならないことがある。
確かめなければならないことがある。
何より――この聖域には、あまりにも不可解なことが多すぎた。
その答えを持っているであろう男の元へ。
二人は並んで歩き始めた。