Re:ゼロから苦しむ異世界生活 作:リゼロ良し
ロズワールの部屋で交わされた話など知る由もなく、ツカサは静かな寝息を立てていた。
聖域の一室。急遽あてがわれた寝台へ横たえられた青年の髪は、以前までの赤みがかった茶色とは違い、今は淡い銀白色に染まっている。顔色は決して良いとは言えないが、呼吸は規則正しく、苦痛に眉を顰める様子もなかった。
ただ、眠っているだけのようにもみえる。
寝台のすぐ傍に腰掛けているのがレム。そして、少し離れた壁際。
腕を組み、壁へ背を預けながら、先ほどから何度目になるかわからない視線を寝台へ向けているのはガーフィールである。
「「…………」」
沈黙が続く。
レムは時折ツカサの様子を確かめながら、濡らした布で額を拭う。その手つきは慣れたもので、呼吸や体温に異常がないことを確かめ、問題ないと確認すると、再び静かに椅子へ腰を下ろした。
自身の治癒魔法が効果があれば良いのだが、と不甲斐なさに顔を顰める所を見ると、レムもまた、ツカサの帰還を心待ちにしている一人だと言えるだろう。
最愛の姉、ラムの愛する人であり、いずれは義兄になる人なのだから。
「「…………」」
沈黙は続く。
もっとも、レムは別に気まずさなど感じていない。姉から任された以上、ツカサが目覚めるまで傍にいるつもりだったし、そのためなら何時間黙っていようが苦にはならない。
問題があるとすれば――先ほどから、明らかに何か言いたそうにしているガーフィールの方だろう。時折、眠っているツカサとレムへ視線が往復する所を見ても。
「ガーフ」
「……あァ?」
「何か、レムに聞きたいことがあるんですか?」
「ねェよ」
ガーフィールはレムの問に対して即答で返す。
あまりにも早い否定に、レムは一度だけ瞬きをする。
「そうですか」
「おォ」
「「…………」」
そして再び沈黙。
レムはツカサへ向き直った。
「…………」
「…………チッ」
やがて、壁際から小さな舌打ちが聞こえた。
レムは振り返らない。
「なんですか?」
「なんでもねェ」
「そうですか」
「…………おォ」
レムの視線はツカサに固定されたまま、緩やかに時だけが過ぎていく。その時だ。
「…………おい」
「はい。どうしました?」
今度こそ振り返れば、ガーフィールは腕を組んだまま、いかにも不機嫌そうに眉間へ皺を寄せていた。ただし、その鋭い視線はレムではなく、寝台で眠るツカサへ向いている。
「……コイツァ、何モンなんだ?」
「ツカサ君です。姉様の想い人にして、姉様の英雄の」
「あァ!? そっちは散々ッ聞かされてンよ! 『聞いた端から爛れるペロミオ』じゃねェが、もう耳にこびりついてらァ!」
最早耳ダコだ! と言わんばかりにガーフィールは怒鳴る。
怒鳴られたレムは、僅かに首を傾げた。
「では、それ以上にツカサ君の何を聞きたいんですか?」
「だァから……!」
言いかけて、ガーフィールが口籠もる。
その視線がまた、ツカサへ向かった。歯がガチガチ、と鳴る。
ガーフィールとて、何も知らないわけではない。
ラムに幾度となく聞かされている。外の世界の事は知らないことが多いというのに、このツカサに対してはそれなりに聞いている。
突如としてルグニカ王国へ現れた、ラムの英雄(翻訳:得体の知れない存在)。
王国から勲章を授けられ、近衛騎士団とも親交を持ち、最優の騎士ユリウスとの模擬戦で圧倒。
更に、かの《剣聖》ラインハルトにさえ勝利したとされる男。
《剣鬼》ヴィルヘルムから敬意を向けられ、果てには四百年もの長きに渡って世界を苦しめ続けてきた《三大魔獣》その一角たる《白鯨》を討ち滅ぼした英雄。
そして何より――。
ガーフィール自身が、その力の一端を目の当たりにしている。
明らかに五体満足とは言い難い様子。だがそれでもガーフィールは我慢できず襲い掛かった。英雄なのだからこれでやられたとしても、何の言い訳にならないだろ、と。聖域最強の盾である自分こそが上だと絶対的な自信を携えて。
だが、即座に吹き飛ばされた。
幽鬼のように力なく揺らめいていた様な男だった筈なのに、正しく人あらざる動きで吹き飛ばされてしまった。
だが、それだけならばまだいい。
強い奴がいて、そのくらいの芸当、驚くほどのことでは無い。それだけの話なら、腹は立っても話は単純だった。一度吹き飛ばされただけで、折れるような軟な盾じゃないからだ。
だが、ガーフィールに
彼が最も気に食わなかったのはその先だ。
あれだけの力を持ちながら、ツカサはガーフィールに対して殺気の欠片も無かった。明らかに敵視して、殺気を全開に放ち、不意打ちをかまそうとしたのに。
更に吹き飛ばされた先ですら、致命傷にならないよう加減されていた。大地に激突したとしても何ら問題ないのに、丁寧に優しく。
挙げ句、意識を失う直前――あの男は自分へ、ラムを、皆を託した。
自分を襲った相手へ。
まるで、それでも信じられるとでもいうように。
それがどうにも、胸の奥へ引っ掛かっている。
「……俺様ァよォ、聞いてンだよ。コイツが随分と大層な野郎だって話ァ。ラムに、それにレム、お前からも」
「はい。ツカサ君は凄い人ですよ」
「だァから、それだ。何しやがったら、外じゃそこまで名前が売れンだ」
ようやく出てきた本音に、レムは瞬きを何度かしたあと、納得したように頷いた。
「なるほど。ガーフは、ツカサ君のことがもっと詳しく知りたいんですね」
「ちげェ!」
「違うんですか?」
「俺様ァ、ただ! ラムのやつがあそこまで入れ込んでる野郎が、どんな奴なのか知らねェままなのが気に食わねェだけだ! それに、あんな力ァ見せられて何も気にならねェ方がおかしいだろォが!」
「なるほど。つまりツカサ君のことがもっと詳しく知りたいんですね」
「てめェ、人の話聞いてンのかァ!? 分かってて言ッてッだろ、レムァ!!」
怒鳴るガーフィールに、レムはクスクスと小さく笑った。
少なくとも、先ほどまでとは違う。
初めて会ったときのガーフィールがツカサへ向けていたものは、明確な敵意と警戒心だった。それが今は、随分と別のものへ変わっている。
本人がそれを認めるかどうかは、また別の話だが。
「はいはい、わかりましたよガーフ。ん……では、どこからお話ししましょうか」
「最初っからだ」
「最初から?」
「おォ。どうせ聞くなら全部だ。俺様ァ半端なのァ好かねェ」
「全部となると、長くなりますよ?」
「構わねェよ。どのみち、コイツァすぐにァ起きそうにねェんだろ」
ガーフィールが顎で寝台を示す。
レムもツカサへ目を向け、僅かに表情を和らげた。すぐには起きない。つまり、起きることを前提にしていること、ガーフィールもそう感じてくれてる事が嬉しく思うから。
「そうですね。ではレムの知る全て――本当に最初から」
それは、レム自身も直接見た出来事ではない。
後に本人や周囲から聞いた、ツカサという青年がこの世界へ現れた日の話。スバルやラムからも聞かされたこと。
「ツカサ君が最初にこの国へ現れたとき、白鯨に遭遇したそうです」
「…………あァ?」
いきなりトップスピードな勢いで始まる話に、早速ガーフィールの眉が動いた。
「ですから、白鯨です」
「そりゃ聞こえてンだよ。俺様が聞いてンのァ、なんでンなもんが最初に出てくンだって話だァ。段階ッてモンがあんだろ?」
「いいえ。レムは嘘を言ってませんよ。本当に最初だからです。ツカサ君がこの世界に来て、最初に遭遇した大きな事件が、白鯨だったそうですから。空を泳ぐ白鯨にたいそう驚かれたそうです」
「…………」
ガーフィールの眉間の皺が深くなった。
その後、レムは事のあらましを掻い摘んで説明する。
ツカサは突如として、この世界へやってきた。
陰属性の魔法か、それに類する何かによって転移させられた可能性が高いものの、実際のところは本人にもわからないとのこと。
とにかく、何の前触れもなくこの世界へ放り出されたのだという。
因みにそれがレムが聞かされたもので、本心部分はラムとツカサの二人しか知らなかったりする。
そして、よりにもよって落ちた先が、白鯨に追われていた一台の竜車の上だった。
御者を務めていたのはオットー。共にこの聖域へやってきた青年だとレムは補足したが、その情報はガーフィールの耳にはほとんど残らなかった。
問題は、その次だ。
この世界へ来たばかりのツカサは、当然ながら白鯨の存在など知らなかった。
空を泳ぐ巨大な白い鯨を見て驚き、何故そんなものに追われているのかもわからない。白鯨が四百年もの間世界を脅かしてきた《三大魔獣》の一角であることも、歴代の討伐隊を幾度となく壊滅させてきた怪物であることも、何一つ知らない。
ただ、死に物狂いで竜車を操るオットーの様子から、一つだけ理解した。
――アレは、危険なものであり、脅威なのだと。
そして何より、その時点では自らの力がこの世界でも使えるのか、それすら確信を持てていなかったらしい。記憶がないものの、本能的な部分で判明していて、酷使できたとのこと。
だからツカサは、白鯨に追われる竜車の上で、自分の力が使えるのかを確かめた。
だが、それが目の前の怪物に通じるかまではわからない。
それでも――ツカサは戦うことを選んだ。
「…………待て」
そこで、それまで黙って説明を聞いていたガーフィールが口を挟んだ。
「はい?」
「つまりコイツァそのとき、なーんも分からず。白鯨が何なのかさえも知らなかったンだよなァ?」
「はい。知らなかったそうですよ」
「自分の力が使えッかも、わかってなかった」
「はい」
「その力が当然白鯨に通じるかも、わからねェ」
「はい」
ガーフィールは眠るツカサを見た。
そして数秒後、目を見開きツカサの方を指差して言った。
「馬ッ鹿じゃァねェのか、コイツ」
「そうかもしれませんね。でも、白鯨に追われている最中、それも竜車の上です。選択肢がなかった、とも取れますよ、ガーフ」
レムはそんなガーフィールを見ながら、僅かに表情を和らげた。
「でも――どんな状況であろうと、困っている人がいたから、放っておけない。それがツカサ君で、姉様が愛する人だとレムは思いますよ」
「…………」
「ツカサ君は、そういう人ですから」
面白くなさそうに顔を背けるガーフィール。
ラムが心底惚れる相手なのだ相応なモノを持ってても不思議じゃない、いや、持ってない方がおかしい、とは思っているのだが面白くないのも事実なのだ。
それからも、レムの話は続いた。
王都で出会ったナツキ・スバルとツカサの二人が協力して助けたのがエミリア。
ガーフィールにとって、いずれも既に顔を知っている相手だった。特にスバルについては、何かと騒がしく、力がない非力、だが口ばかり達者な三下。そんな男とツカサが知り合いだという話にも、さほど興味は湧かなかった。
その後も話は続く。
王都での騒動を経て、ロズワール邸へ。そして、屋敷とアーラム村を襲った危機。レムの説明を聞きながら、ガーフィールは時折質問を挟み、時には感心し、時には呆れた。
ただ、その頃からだった。
レムの話に、ある人物の名前が頻繁に登場するようになったのは。
それは当然ながらスバル。
最初こそ、ツカサと行動を共にした人物の一人として紹介されていたはずだった。そもそもガーフィールが聞きたかったのはツカサの事だから、ツカサ中心になるのは必然。
ところが、話が進むにつれて、スバルが何をした、スバルがどう考えた、スバルがどれほど頑張ったと、どうにも説明の方向がおかしくなってきたのである。
それでもガーフィールは、ひとまず黙って聞いていたが、話題が再び白鯨討伐へ移った途端、レムの説明は一段と熱を帯び始めたのである。
「……おい、レム」
「はい?」
「さっきから、三下ばっか出てきてねェか?」
「三下ではありません。スバル君です。殴りますよ?」
「随分物騒だなァ! そもそも名前の話ァしてねェんだよ!」
レムの拳もなかなか痛いのはガーフィールも分かってる。更に言えばレムがくればラムも確実にくるので、藪蛇と言うものだ。
「ですが、仕方ありませんよ。白鯨討伐のお話をするなら、スバル君のことは外せませんから」
「あの三下が白鯨相手に何したってンだよ」
「スバル君です。次は予告無く殴ります」
「わァったっつってンだろォが!」
早くも苛立たしげに牙を剥くガーフィールとは対照的に、レムはどこか嬉しそうだった。
白鯨討伐。
それはツカサの名を王国中へ知らしめることになった偉業の一つであり、ガーフィールも詳しく聞きたかった話の一つだ。
だが、いざレムの口から語られ始めた内容は、ガーフィールが想像していたものとは少々違っていた。
ツカサが、ルグニカ王国 王戦候補者クルシュ陣営・アナスタシア陣営と協力し、白鯨と戦った。
それはいい。
《剣鬼》ヴィルヘルムを始めとする討伐隊と共に、あの《三大魔獣》の一角へ挑み、尋常ならざる力を振るった。
それもいい。
ガーフィールが聞きたかったのは、まさしくそういう話だ。ラムがあそこまで入れ込んでいる英雄の足跡。英雄譚。ラムにそこまで言わせるものなのか、とガーフィールは気になっているからだ。
実際のところは、ガーフィール自身がラムを出汁にしているが、ツカサ自身に深く興味を抱くようになった、と言うのは伏せておこう。ガーフィールが認めるわけもないからだ。
そしてその討伐隊が結成されるまでの経緯へ話が及んだ途端、当然のように出てくる。
スバル、スバル、スバル、スバル……
白鯨が現れる場所と時を知り、その情報を武器にクルシュ・カルステンとの交渉へ臨んだのがスバル。
アナスタシア・ホーシンの力まで借り受け、討伐へ必要な戦力を集めることに成功したのもスバル。
そして、そうして集った者たちと共に、神出鬼没な厄災、あの白鯨の出現場所と時刻を暴き出し、リーファウス平原へ赴き、白鯨を討ち取るため戦ったのも――。
「スバル君です」
「…………」
また出た。
ガーフィールの片眉が跳ね上がる。
「スバル君、本当に凄かったんですよ。寸分違わずに、出現場所を割り出し、あれほど恐ろしい白鯨を前にしても諦めず、皆さんを鼓舞して、白鯨の能力にも気付いて――」
「……レム」
「はい?」
「コイツの話ァどこいった?」
「していますよ?」
「してねェだろォが!」
思わず飛んだ怒声にも、レムは不思議そうに首を傾げる。
その反応が余計に腹立たしい。
「さっきから三下が何した、三下がどうしたって、そればっかじゃねェか!」
と、言うと同時に、レムの拳が二度ほど、ガーフィールの左右の頬に直撃した。
――それから、しばし時間が進み。
「スバル君は、レムの英雄ですから」
何事もなかったかのように話を再開したレムの前で、ガーフィールは左右の頬を赤く腫らし、見るからに不機嫌そうな顔で壁へ背を預けていた。
どうやら先ほどの二発で、一つだけ学んだことがあるらしい。
「……けどよォ。あのにーちゃんが、レムの英雄? ンな力ァつけッとは思えねェけどなァ」
ガーフィールは、スバルの事を三下、とは言わなかった。
学習(体罰的指導)の成果は絶大である。
「ガーフ」
「何ッだよレム。俺様ァ言ってねェだろ!? 今ァ三下って言ってねェぞ!」
レムの眉が僅かに動いただけで、ガーフィールは反射的に両頬を庇った。そんな姿を見て、レムは小さく息を吐く。
「別に殴りませんよ」
「その前置きで拳握ンのやめろや!」
「ガーフが失礼なことを言うからです。そもそも、スバル君の凄いところは腕力ではありません」
「そりゃ見りゃわかる」
「…………」
「待て! 今のァ悪口じゃねェだろォが!」
慌てて予防線を張るガーフィールを余所に、レムは胸の前で両手を合わせる。
そして、少しだけ誇らしそうに。
「スバル君は、やる時には必ずやってくれる人です。どれだけ難しい状況でも諦めません。自分にできることを考えて、何度失敗しても立ち上がって、最後には皆さんを――」
「……おい」
「それにスバル君は頭もいいんですよ。白鯨の時だってそうですし、魔女教との戦いでも――」
「レム」
ガーフィールは頭を抱えた。
知りたいのはそこではないのだ。
「はい?」
「また始まってンぞ」
「何がですか?」
「三し――にーちゃん話ッだ。コイツの話ァどこいッたんだ?」
危なかった。
ガーフィールは寸前で踏み止まった。
その判断が正しかったことは、いつの間にか握られていたレムの拳がゆっくりと開かれたことからも明らかだ。
ひょっとしたら次は武器を取り出してくるかもしれないのだ。流石のガーフィールも如何に最強の盾と言えども、痛いものは痛い。嫌なものは嫌なのだ。それが味方から飛んでくる攻撃ならば尚更。
「とにかくです。スバル君は今も英雄として研鑽を積んでいる途中なんです。これからもきっと、レムの中にたくさんの英雄譚を刻んで――」
『――だーー、仕方ねーだろ! レムが期待してくれてんのは! 俺はただ頑張るだけだ!!』
『ハッ。バルスが刻むのは敗北の数だけ、違うかしら?』
不意に。
扉の向こうから聞き覚えのある声が割り込んだ。
レムの表情が、ぱっと明るくなる。
「スバル君! 姉様!」
ゆっくりと開かれる扉の先に、スバルとラムがいたいた。
「レム。兄弟の看病、ありがとな――っとと、まーだ起きねえか。美女少女姉妹侍らせて、羨ましいぜー」
「ハッ」
ラムはただ鼻で笑うだけだった。言わずとも伝わるというもの。スバルとツカサとではものが違うのだ、と。
スバルは眠るツカサを確認して僅かに安堵すると、何やら不服そうに胸を張った。
「つーか、俺を舐めてもらっちゃ困るぜ? そりゃ腕っ節じゃ兄弟には到底敵わねぇコールド負けだけどよ、何事も適材適所ってやつだ。武力担当は兄弟! そして俺は頭脳担当! エミリア陣営が誇る智将ナツキ・スバル様とは、この俺のことよ!」
「ハッ」
「何回も鼻で笑うなよ姉様!? 俺だって頑張るンだから!!」
一切の間を置かず背後から飛んできた嘲笑に、スバルが勢いよく振り返る。
ラムは冷め切った赤い瞳で、得意げに胸を張る少年を見上げていた。
「ラムからのありがたい忠告よバルス」
真剣な面持ちになるラムをみて、スバルは身構えて、生唾をごくり、と飲み込むが……。
「──知将を名乗る前に、まず知性を身につけなさい、バルス」
「前提条件から否定された!?」
ただの罵倒だった。いつも通りの。
「安心なさい。バルスにも頭は付いているわ」
「お、おう……?」
「首から上の飾りとして。囮としては一級品。そこはラムも保証するわ」
「用途がねぇし嬉しくねぇ!!」
ラムとスバルのやり取りに、レムがクスクスと笑う。
ガーフィールは赤く腫れた両頬を擦りながら、目の前で騒ぐ男を胡乱な目で見つめた。
これが、大罪司教を討ち取った男。
レムが、英雄と呼ぶ男。
「やっぱただの三下じゃねェか」
「なんでだよ!?」
そして――ツカサは、未だ静かな寝息を立てていた。